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日本の「社会インフラ」となったマンションに存在する様々な問題を調査・分析している当研究所。ここから情報や意見・考え方を社会に向けて発信し、 新たなマンションの価値創造に貢献します。

講演・セミナー

マンションが抱える課題や法改正の解説など未来のマンション管理に役立つセミナーを開催
人口減少で街と住宅はどうなる?  ~持続可能な都市と住宅の未来~

人口減少で街と住宅はどうなる?  ~持続可能な都市と住宅の未来~

9月25日(木)16:00~17:00日本は急激な人口減少が進み、2070年頃には8,700万人程度、さらに2120年頃には3,800万人程度までとなることが予測されています。3,800万人は、ちょうど明治維新の時代と同程度となります。東京圏を中心とした都市部への転入は続いており、人口減少地域では、空き家が社会問題化しています。特に、農村地域の人口減少度合いは著しく、農村地域の「消滅可能性」が高いとされてしまっています。一方、都市圏では、人口集中による住宅価格の上昇が見られ、分譲マンションの平均価格は、2015年には4,000万円台であったのが、2024年には8,000万円を超えました。本セミナーでは、都市の拡大を抑制し、日本の住宅と都市を持続可能にするために必要な方策を多面的に探っていきます。*講演の終了時間は前後する場合があります。*セミナーのアーカイブは、メルマガ会員さま限定で一定期間の配信を行う予定です。 資料配布やアーカイブに関する個別のお問い合わせにはお答えできません。

レポート

マンション管理に関する未発表データを分析し新しい視点から、マンションの価値を考えます
2025/07/30

マンション内における管理組合と自治会の役割分担

 マンションの管理組合と自治会の関係については、従来よりさまざまな場面で議論がされている。マンション標準管理規約のコメントなどでは、両者は別個の団体であり、別に運用されるべきであるとされている。しかし、比較的小規模なマンションでは、管理組合と自治会を別々の組織としてマンション内に存在させることは、区分所有者や居住者の時間的制約の中では難しく、管理組合が自治会的な機能を果たしているケースも少なくない。 一方、比較的規模の大きいマンションでは、管理組合と自治会の役割を区分し、マンション内に両方の組織を立ち上げているケースもある。今回は、後者の管理組合と自治会の両方を設立しているマンションについてレポートする。1. 管理組合と自治会の両方を設立しているマンションの特徴 当社の管理受託マンションにおいて、以下の方法により調査した結果、管理組合と自治会の両方を設立しているケースは17件あった(図1、2参照)。 調査対象:当社の管理受託マンション 調査方法:管理組合の総会議案書または議事録から「自治会」の存在が確認できる記述のあるマンションを抽出。管理組合側の資料に何ら記載のない自治会がある場合は含まれない。 では、いつ頃から管理組合とは別に自治会が設立されたのであろうか。自治会が設立された管理組合の「期」(管理組合が成立してからの経過年数)を調査すると、第1期が最も多い(図3参照)。 第1期に自治会を設立したマンションでは、分譲時に、事業主から「管理組合とは別に自治会を設立すること」、という主旨の重要事項説明がなされ、それに基づき自治会の設立総会を開催し設立している。このことから推察すると、マンション建設に際し、事業主が近隣住民との協議において、マンションの居住者のみで自治会を設立し、自治会連合会などに加入することを近隣住民との間で約束したものと想像される。 一方、一定の時間が経過した後に自治会を設立したケースでの設立の理由を調査した(表1参照)。 マンション内に自治会を設立する目的として、行政からの防災備品購入費用などの「補助金」を得ることが目的のひとつとなっていることが伺える(A、D、E)。 なお、平成27年総務省自治行政局住民制度課長通達「都市部をはじめとしたコミュニティの発展に向けて取り組むべき事項について(通知)」では、管理組合による活動を次のように肯定している。 「都市部では、地縁団体に限らず、マンションの管理組合をはじめとする多様な主体がコミュニティ活動を展開していることが特徴であり、自主防災組織として、これまで地縁団体が主なベースとして想定されてきたところであるが、多くの区分所有者が居住者として住むマンションにおいて自発的な防災活動を行う管理組合等も自主防災組織として位置づけることが有効であると考えられること」 この通達に照らして考えれば、自治会の設立がなくとも、管理組合に対して防災備品の購入費などの補助がされてもよいのではないかとも考えられるが、未だ各自治体の実情はそこまで及んでいないようである。2. 自治会費の徴収方法 管理組合の会計業務は、管理会社に委託して実施されているが、自治会を別に組織する場合、自治会の会計業務は管理委託契約に含まれていない。そのため自治会費の徴収は自治会が行うべきものとなる。 しかし、管理組合が代行徴収し、自治会に支払っているケースもある(図4参照)。管理組合の代行徴収には次のような問題点が存在する。①自治会費の徴収にかかる費用を管理組合が負担することになる②管理組合が徴収した自治会費が、自治会に入金されるまでの間にタイムラグがある 実は、このタイムラグの問題が最もトラブルになりやすい。例えば、次のようなケースだ。 ア.管理組合は居住者から3月分の自治会費を3月6日に徴収する イ.管理組合から3月10日に徴収済みの自治会費をまとめて自治会に振込む ウ.3月20日に自治会を退会したいという居住者が現れ、10日分の返金を請求する この場合、管理組合はすでに自治会に対して自治会費を支払い済みであり、返金するための原資がない。返金しようとするなら、管理費から支出するしかない。かつ、自治会から管理組合に資金を戻そうとしても自治会費は月額100円~300円程度と低額であることが多く、振込手数料の方が高額になることさえある。 自治会役員が集金しているケースでは、一定の期間に役員が集会室に常駐し、その日時に居住者が集会室を訪問して支払う等、さまざまな工夫をしているが、役員の負担は非常に大きいであろう。3. 自治会を設立したが、解散した事例 管理組合とは別に自治会を設立したものの、その後解散した事例も4例ある。それらの解散に至る経緯や解散理由は次のとおりである(表2参照)。 解散事例からは「防災活動は誰が実施するのか」が問題になっていることがわかる(J、K)。 確かに、管理組合の目的である「建物並びにその敷地及び附属施 設の管理」の範囲内で行われるコミュニティ形成はマンション標準管理規約でも管理組合の活動として認められている。自治会の活動が主に防災活動であるなら、1つにまとめる方法も検討するべきだろう。管理組合と自治会の役割分担をあらかじめ決めておくべきことを示している事例である。4. まとめ管理組合と自治会の組織の違いは次の通りである(表3参照)。 最も大きな違いは、管理組合はある意味強制加入であるが自治会は任意加入であること、管理組合は滞納管理費等に関して特定承継が可能であるが、自治会には資金面においてそのような法規定がないことであろう。管理組合の業務とするのか、自治会の業務とするのかは、両団体の特性を比較し「どちらが業務を行うことが適切か」を比較したうえで検討することが必要だろう。
マンション内における管理組合と自治会の役割分担
2025/07/01

公平な意思決定へ:原始規約における議決権の設定方法と実態

1. 議決権の設定方法 新築分譲マンションの最初に作られた管理規約を「原始規約」というが、これを作成するときに、最も気を遣うのが「議決権数」である。 原則として、議決権数は共用部分の共有持分と同一の割合である。多くのマンションの共有持分は、専有部分の専有面積割合としている。つまり、原則論でいえば、議決権数は4桁ほどの数字となる。 ここで、実際の総会の場面を考えてみよう。「賛成の皆さん、挙手してください」との議長の呼びかけに、ばらばらと挙手がされたとしよう。共有持分と議決権数が同じである場合は、挙手した人の部屋番号とその議決権数を突合して賛成者をカウントする必要が生じる。何桁もあるような議決権数を1戸ずつ足し算するのは非常に面倒だ。 こうした手間を少しでも軽減するために、均一な専有面積の住戸で、共有持分もまた均一であれば、「1住戸1議決権」とする。しかし、実際のマンションは均一な面積の住戸ばかりではない。こうした場合に、共有持分に応じて議決権数を変更することがある。のちに、「〇〇号室と比較して専有面積が大きいのに、議決権数が同じなのはおかしい!」という区分所有者間の不公平感が生じないようにするためである。 こうした共有持分以外の議決権数の設定を本レポートでは「議決権数の変則設定」と呼ぶことにする。なお、管理規約による議決権の変則設定は、区分所有法第38条において認められている。区分所有法を勉強した方ならよくご存じであろう「規約による別段の定め」である。 なお、マンション標準管理規約では、各戸の階数・方角(眺望、日照等)等の価値の違いに基づく「価値割合」で議決権を設定することも容認している。  では、具体的に考えてみよう。60㎡と120㎡の専有部分があり、専有面積に応じて共有持分があるとする。この場合の議決権はいくつに設定するのが適切だろうか。誰もが次のような設定とするだろう。 では、60㎡と90㎡の専有部分があり、専有面積に応じて共有持分が設定されているとする。この場合の議決権はいくつに設定するのが適切だろうか。 この場合には、60㎡の住戸の議決権数を「2」、90㎡の住戸の議決権数を「3」に設定する。「1住戸1議決権」という言葉が浸透しているせいか、最小数を「1」にすることにとらわれがちであるが、最小数は「1」とは限らないのである。 議決権数の種類が多くなっても、実際の総会の際には集計に時間がかかってしまう。「議決権数が1の人が〇名、2の人が〇名・・・」というように、議決権の種類ごとにカウントする必要があるからだ。管理組合の中でよく行われているのが、議決権の数ごとに着席する場所を分ける方法である。集計時間を少しでも減らすためには、議決権の数の種類は少ない方がよい。 以上のように、議決権の数を設定しようとするときは、次の二つの相反するポイントを考慮しながら最善の議決権数を考えることになる。 ①不公平感をできる限り少なくするために、議決権の数を増やす ②総会の際の議決権数のカウントをしやすくするために、議決権の数を減らす2. 実際の管理規約における議決権の定め 当社の管理受託マンションのうち、議決権の変則設定がされているマンション75件についてその実態を調査した。①議決権の最小数 議決権の最小数は次のとおりである(図1参照)。 「1」が78.67%と最も多いが、「0」も2.67%あった。議決権数が「0」であるとは、共有持分があるにもかかわらず、議決権がないものをいう。分譲駐車場や分譲トランクルームなど、専有面積が小さい専有部分において議決権数が「0」の設定がされている。 なお、マンションの建替えなどの際は、共有持分による議決権数で決議される。規約による議決権数が「0」の場合は、通常の総会などでは議決権が行使されてこなかったが、建替え決議の段階ではじめて議決権の行使がされることになる。通常の場合と決議の状況が異なるため、事前の賛成数の予測などの際にも注意が必要だ。②議決権の最大数 議決権の最大数は5未満が57.33%であるが、20以上の議決権数が設定されている専有部分もある(図2参照)。議決権数が大きくなると、総会における発言力が増す。共有持分にのみ着目して議決権数を設定すると、場合によっては少数の区分所有者の反対で特別決議が否決されることになりかねない。議決権の設定は、持分割合だけでなく全体のバランスを配慮する必要も生じる。③議決権数の最小値と最大値の幅 議決権数の最小値と最大値の開きはどのくらいあるのだろうか。前述のとおり、議決権の最小数は「1」とは限らない。あるマンションでは、「1」から「3」であろうし、あるマンションでは「3」から「8」であったりする。こうしたマンションごとの議決権数の差を比較するため、議決権数の最小値を「1」とした場合の議決権の最大値を算出した(図3参照)。 4未満までの開きが50%以上を占めるが、10以上開いているマンションも13.33%ある。こうした最小数と最大数の差が大きいのは、複合用途型などで住戸と店舗が混在している場合である。④変則設定で不公平感は解消しているのか 共有持分に応じて議決権を設定すれば、不公平感は解消する。しかし、全体のバランスからあえて共有持分とは異なる議決権数を調整している場合もある。そこで、共有持分「1」に対して議決権数はどのくらいになっているかを調査した(図4参照)。「1」より大きければ、実際の共有持分よりも議決権数が大きいことになる。 「1」より小さい場合は、24.0%であり、議決権を制限している例もみられる一方、議決権が実際の共有持分より大きい「2」以上の場合も9.33%ある。 これがマンションにおける「一票の格差」の実態である。国政選挙の際にいわれる一票の格差よりは小さいが、マンションにもその格差は存在することが分かる。3. さらに特殊な変則設定 共有持分に応じて議決権数を設定することのほか、別の基準を用いて議決権数を設定しているケースもある。それらの例を紹介しよう。 賃貸マンションなどを不動産会社が買い取り、分譲リノベーションマンションとして販売する場合、賃借人が退去するごとに販売することになる。この場合、長いと何年間も不動産会社が住戸を保有することになる。かつ、分譲当初は相当数を不動産会社が保有することになるため、総会は不動産会社が賛成しなければ何も承認されないことになってしまう。リノベーションマンションを購入しようとする人の中には、このことを危惧する人もいる。 こうしたことから、一部の不動産会社では、購入を検討する客に安心感を与えるため、多数の住戸を保有する場合の議決権を制限する例もある。4. 議決権の行使をしよう 議決権数の最大値、最小値、その幅など、原始規約の作り手が、苦心の末に設定した議決権数であっても、議決権の行使がされないことが問題となっている。総会の参加者が少ない、委任状や議決権行使書も提出されない、賛成者数が足りないなどの事態も発生している。マンションの管理規約を確認し、自分自身の議決権がいくつあるのか、マンション全体にどのくらいの影響があるのかをぜひ確認してほしい。もしかすると、大きな議決権を持つ人がマンションの意思を左右しているかもしれない。あなたが賛否を表明しないことで、マンションの将来が決まらずに他の区分所有者が困っているかもしれない。<記事紹介>区分所有法第45条 書面総会の実態 ~組合員全員の承諾や合意はできるのか~マンション標準管理規約の変遷~昭和57年版から最新令和6年版まで~
公平な意思決定へ:原始規約における議決権の設定方法と実態
2025/06/18

マンションにおけるアスベスト調査の実態

1. マンションとアスベスト 「アスベスト」と聞くと吹付アスベストを想像する人が多い。「吹付」という名の通りモコモコとした綿のような状態の建築材料である。耐火性、防音性などに優れ、かつては建築材料や工業材料として幅広く用いられた。アスベストの歴史は古く、紀元前の古代ローマでも用いられていたという。しかし、近年は、アスベストの危険性が世界的に認識され、日本でも解体現場などで働く作業員の健康被害が知られるようになり、1975年以降に数次の規制強化が行われ、2006年には、アスベストの含有量が0.1%以上の材料の製造や輸入、譲渡、提供、使用が禁止され(以下、「2006年禁止措置」とする。)、2012年には、2006年禁止措置で除外とされた例外的な品目も禁止となった(以下、「2012年禁止措置」とする)。参考1 アスベストは吹付アスベストのように「見てわかる」ような状態で存在しているものばかりではない。2006年禁止措置以前は、さまざまな建材等の中に混入され(言わば混じる形で)使用されていた。マンションの共用部分に限って言えば、鉄骨等の保温や外装、屋外のゴミ置き場の屋根などに使用されている例が数多く報告されている。2006年禁止措置以前に建築されたマンションにお住まいの方は、自宅の壁や床の中にアスベストが入っており、空気中に漂っているのではないかと不安になる人もいるかも知れない。こうした建材の中に存するアスベストは、日常生活を営んでいる間に飛散する可能性は低いとされるが、不安を感じる場合には、厚生労働省のサイト「アスベスト(石綿)に関するQ&A」などを確認の上、適切な専門家に相談されることをおすすめしたい。参考2参考1 厚生労働省 「石綿 総合情報ポータルサイト」https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/about/参考2 独立行政法人環境再生保全機構「アスベスト(石綿)による健康被害」→「昔住んでいた家に石綿が使用されていた可能性があり、病気にならないか不安です。https://www.erca.go.jp/asbestos/what/higai/q05.html厚生労働省 「アスベスト(石綿)情報 」→「 アスベスト(石綿)に関するQ&A」→「(13)わが家はアスベストの危険性があるか。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/topics/tp050729-1.html2. マンションにおけるアスベスト調査は2つ マンションにおけるアスベスト調査は2種類ある。 ひとつが、「特殊建築物定期調査」である。これは、建築基準法第12条に基づき、建物の屋上を含めた外周やエントランス部分、廊下などの共用部分が調査される。なお、特定建築物定期調査の対象となる建物は、安全上特に重要とされる映画館や病院などについては政令で一律に指定されてきたが、住居については、地域の実情に応じて特定行政庁が分譲マンションや高齢者住宅などを調査対象に指定してきた 。調査の実施対象となった分譲マンションでは、管理組合が保管する特殊建築物定期調査報告書を見れば、アスベストに関する調査結果を確認することができる(表1参照)。しかし、この調査は、建材の中に含有されているアスベスト調査までは実施せず、目視点検にて「見てわかる」吹付アスベストやアスベスト含有吹付ロックウールの調査がされているに留まる。 もうひとつが、大気汚染防止法に基づく「工事前アスベスト含有事前調査」である。 2022年4月1日から、建築物等の解体・改修工事を行う受注者は、当該工事における石綿含有建材の有無の事前調査結果を行い、その結果を都道府県等に報告することが義務付けられた。参考3参考3 環境省 石綿事前調査結果の報告についてhttps://www.env.go.jp/air/asbestos/post_87.html マンションでも、大規模修繕工事などではアスベストの事前調査を行い、その結果を工事会社に通知する必要がある。また、工事会社はその結果に基づき、定められた作業レベルに応じた対策を実施し、工事を行うことになる(表2参照)。 ただし、この調査もマンションのすべての部位において調査する訳ではない。工事に関係する部分を調査しているのみである。どの部位を調査したのかについては、報告書に記載がされている(表3参照)。含有位置と総評①試験の結果、計3検体のうち、内壁から採取し天井・上裏から採取したリシン、吹付タイル及び外壁磁器タイルの計3検体についてアスベストの含有が認められた。②アスベストが含有している建材は、天井・上裏から採取したリシン、内壁から採取した吹付タイル、及び外壁磁器タイルの下地材であることから、作業レベルは、レベル3であると判断できる。③以上より、天井・上裏塗装部分、内壁及び外壁タイルにおいて粉塵の発生する作業をともなう際にはアスベストを飛散させないための措置が必要となるため、工事会社へ本調査結果を開示すること。3. 当社管理受託マンションにおけるアスベスト調査の実態 2006年禁止措置が適用されていると考えられるか否かの割合は、次の通りである(図1参照)。なお、厳密に言えば、建築物の着工年月日が2006年9月1日以降であることが確認できる物件が2006年禁止措置にあたるとされるが、ここでは竣工年月日から概要を把握した。 2006年禁止措置以前のマンションは72.59%(2,882件)である。 次に、2006年禁止措置以前のマンションのうち、特殊建築物定期調査または、工事前アスベスト含有事前調査のいずれかを実施したマンションを調査した。調査の実施があるマンションは73.80%(2,127件)であった。また、調査の結果、アスベストを含む建築材料(図2において「該当建築材料」という)ありのマンションは17.24%(497件)であった(図2参照)。 工事前アスベスト含有事前調査の結果を受け、管理組合はどう対応しているのだろうか。「アスベストを含む建築材料あり」の497件のうち、「措置済み」または「措置予定あり」のマンションは1.41%(7件)に留まっている(図3参照)。490件のマンションでは、「措置予定なし」または「未定」となっている。 建築材料にアスベストが含まれていても、措置を講じる義務が直ちに生じる場合とそうでない場合がある。そうしたこともあってか、多くの管理組合では措置の実施に至っていないと考えられる。「措置済み」または「措置予定あり」のマンション7件は、2006年禁止措置以前のマンション2,882件を分母とすると僅か0.24%である。4. まとめ 工事前アスベスト含有事前調査が始まってからまだ日が浅く、多くの管理組合は大規模修繕工事の段階になってはじめてこの調査の存在を知る。吹付アスベストしかイメージにない区分所有者は、「アスベストあり」と聞いて不安を抱くこともあるだろう。 アスベスト調査の結果は、マンション標準管理委託契約書でも、管理会社が不動産仲介会社等から請求があった場合に、その内容を開示する項目に含まれている。参考4 管理会社から「アスベストあり」として不動産仲介会社に報告すると、「アスベストの詳細を教えてほしい」「なぜ措置しないのか」といった問い合わせが来ることもある。 措置するに越したことはないが、管理組合にとってみれば、その措置に係る費用は、長期修繕計画にも含まれておらず、言わば「寝耳に水」の話である。緊急性がなければ措置しないという判断になるのも致し方ないだろう。 区分所有者もマンション購入希望者も、漠然としたイメージでアスベストを捉えるのではなく、調査報告書などをよく確認しそのリスクを判断する必要がありそうだ。参考5参考4 国土交通省 宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する省令について(アスベスト調査、耐震診断に係る情報についての重要事項説明への追加)https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/01/010313_3_.html参考5 国土交通省 アスベスト対策Q&Ahttps://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/Q&A/
マンションにおけるアスベスト調査の実態

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(令和6年度 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究) 独居認知症高齢者等の地域での暮らしを安定化・永続化するための研究 「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」
2025/08/06

(令和6年度 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究) 独居認知症高齢者等の地域での暮らしを安定化・永続化するための研究 「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」

 2024年、マンションみらい価値研究所は、国立研究開発法人防災科学技術研究所に協力し、マンションの管理員に対するアンケート調査(以下「本調査」とする)を実施し、災害時の要配慮者の有無や災害時要配慮者名簿の有無などを明らかにした。また、本調査の結果に基づいた「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」を作成した。1.災害時に配慮を要する方の居住有無について(1)災害時に配慮を要する方は多様であり、以下はその例である。①高齢者(避難時の行動に配慮を要する場合)②高齢者(認知機能の衰えが見られ、配慮を要する場合)③肢体不自由の人(障害のある方)④目の不自由な人(障害のある方)⑤聴覚・音声言語障害のある人(障害のある方)⑥知的障害のある人(障害のある方)⑦内部障害のある人・難病患者・医療機器を使用中の人(障害のある方)⑧妊娠中の人(出産後からまもなく避難行動が困難な場合を含む)⑨乳幼児・児童⑩外国人で日本語に不慣れなど避難行動が困難な方⑪その他(2)災害時に配慮を要する方の有無を把握するため、下記のいずれかに該当する居住者の人数について管理員にアンケートを実施した。① 独居高齢者、高齢者のみでお住まいの方② 妊娠中の方、乳幼児の養育者、乳幼児・児童、外国人で日本語の理解が困難な方③ 知的障害がある方、精神疾患がある(と思われる)方、意思疎通が難しい方、認知症と思われる方④ 歩行機能に障害がある方、目の不自由な方、聴覚に障害がある方⑤ 要支援・要介護高齢者、訪問医療・看護・介護を受けている方、医療機器を利用している方、寝たきりの方アンケート結果は以下の通りとなった。 「独居高齢者・高齢者のみでお住まいの方」が「いる」と回答した割合は80%を超え、その他の要配慮者についても「いる」の回答が多い結果となった。このことから、多くの分譲マンションでは災害時に配慮を要する方が居住していると推測される。2. 要配慮者名簿について(1)要配慮者名簿の作成状況について、管理員にアンケートを実施した。 分譲マンションにおいて災害時要配慮者名簿を作成している割合は10.4%となった。災害時要配慮者名簿は、災害時に要配慮者への適切な対応を行うために必要となる。すでに約1割の分譲マンションで、要配慮者を考慮した取り組みが始まっていると考えられる。3. 「分譲マンションにおける要配慮者災害対応マニュアル」について 本調査結果をふまえ、災害時要配慮者への災害対応を促進するため、管理組合向けに「要配慮者災害対応マニュアル」を国立研究開発法人防災科学技術研究所が作成し、当社も協力した。本マニュアルでは、マンションの管理組合が災害対策の主な担い手となる前提のもと、管理組合としての進め方を詳細に説明。さらに、支援を行う人の負担やリスクにも配慮した内容となっている。>マニュアル研究名(厚生労働科学研究(認知症政策研究事業)(課題番号22GB1003))「独居認知症高齢者等の地域での暮らしを安定化・永続化するための研究」
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令和5年度マンション管理適正化・再生推進事業 (課題の解決に向けた事例の収集・分析等を行う事業)既存マンションにおける修繕積立金の増額に係る合意形成プロセスの実態 及び段階増額積立方式を採用した長期修繕計画上の資金計画の設定状況に関する分析
2025/05/07

令和5年度マンション管理適正化・再生推進事業 (課題の解決に向けた事例の収集・分析等を行う事業)既存マンションにおける修繕積立金の増額に係る合意形成プロセスの実態 及び段階増額積立方式を採用した長期修繕計画上の資金計画の設定状況に関する分析

趣旨・背景 全国のマンションストックにおいて「2つの老い」が進行するとともに、直近では建設コスト等の高騰から、将来必要となる修繕費用が上振れし、区分所有者にとっての経済的負担が従来以上に大きくなる可能性が出てきている。一方で、近年分譲されるマンションの多くが、管理開始当初から一定の期間ごとに修繕積立金の徴収額を引き上げる「段階増額積立方式」を採用しており、「段階増額積立方式」を採用した資金計画では、将来にわたって計画通りに徴収額が引き上げられることが前提となっている。しかし、修繕積立金の改定には総会決議が必要であり、修繕積立金を大幅に引き上げようとすると、総会では決議が得られず、計画通りに引き上げができないおそれもある。 こうした状況を受けて、国土交通省ではマンション管理計画認定制度の見直しに向けた検討を行い、2024年6月には「標準管理規約の見直し及び管理計画認定制度のあり方に関するワーキンググループとりまとめ」が公表された。その中で、現行の管理計画認定基準へ「段階増額積立方式における適切な引上げの考え方」を盛り込む方向が示されいる。 このように、管理計画認定制度のあり方の見直しが進む状況を踏まえ、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)とマンションみらい価値研究所は、国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業(課題の解決に向けた事例の収集・分析等を行う事業)」を通じて、 段階増額積立方式における修繕積立金の引き上げの実態や、管理組合における合意形成の状況を把握するための調査・分析を実施し、その結果を本論文としてとりまとめた。調査結果の概要(1)   既存マンションにおける修繕積立金の増額に係る合意形成プロセスの実態分析2018~2023年の5年間で、大和ライフネクストの管理受託物件(分析対象:3,629管理組合)の約6割で修繕積立金の徴収額が増額となった。従前の修繕積立金の設定水準が低い管理組合では、5年間における増額の変動幅が大きい傾向がみられ、管理組合として増額を許容できる状況であったことが推察される。経年化に従い、修繕積立金の設定水準が高くなる一方で、増額の変動幅が小さくなる傾向がみられ、増額が困難となりやすい状況がうかがえる。積立金の増額に対する総会決議が可決された事例では、可決以前の修繕積立金の設定水準が低く、必要な修繕費用の確保ができていなかった等の状況から、増額が許容されやすい状況であったと推察される。積立金の増額に対する総会決議が否決された事例全体でみると、総会での否決を経て実現した増額幅は、提案時に比べて1割程縮小している。(2)段階増額積立方式を採用した長期修繕計画上の資金計画の設定状況に関する分析大和ライフネクストが管理を受託する既存マンションで作成されている長期修繕計画上の資金計画上、最終年度の収支が黒字となっている事例は2割程度で、このうち段階増額積立方式を採用している割合は4割程度となっている。計画期間の最終年度の収支が黒字となっていない事例が一定程度存在するが、計画期間中に必要な修繕費用を精緻に予測することは困難である。実務上、資金計画の検討や管理組合への説明においては、最終年度の収支よりも、計画期間前半の設定が重視される傾向にある。また、定期的に計画見直しを継続することで、計画の精度を担保している。 修繕積立金の増額幅のみで修繕積立金の充足状況を判断することは困難であり、一般会計・収益事業会計からの繰り入れ状況も考慮する必要があると考えられる。 長期修繕計画・資金計画の概念が登場したのは1980年代前半であり、当時は長期修繕計画の内容は、具体的な工事費用が提示されず、修繕実施時期の見込みのみが示されていた。また、段階増額積立方式という概念もその後に民間事業者の取り組みから生まれてきたものである。管理計画認定基準において段階増額積立方式に基づく資金計画を確認する際には、資金計画を作成しないことが一般的であった当時から存在する高経年マンションへの配慮が必要と考えられる。
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