マンション管理組合も使える!国債の新常識とは?

2026年度より、管理組合が個人向け国債を購入できるようになる。多くの管理組合が積立金を定期預金か住宅金融支援機構のすまい・る債で運用している中、さらに金利の良い国債が購入できるようになる。日本中の管理組合の熱い視線が注がれている。
そこで今回は「そもそも国債とは何か?」から「管理組合が国債を購入するための注意点」などを、株式会社アルファ・ファイナンシャルプランナーズ 代表の田中 佑輝さんにお伺いした。聞き手は、マンションみらい価値研究所 所長の久保 依子。

そもそも国債とは何か
久保 先日、新聞報道で、管理組合も個人向け国債を購入できるようになると知りました。これはどのような理由からでしょうか?
田中 それは、国として安定的に国債を引き受けてくれる主体を増やしたいという意図が背景にあると考えられます。管理組合は多くの場合、預貯金や元本保証型の運用に限定して資産を管理しており、リスクの低い運用先として個人向け国債との親和性が高いと判断されたのでしょう。管理組合という大きな資金を保有する団体に注目が集まるのは自然な流れとも言えますね。
久保 そうですね。もう少し早く見つけてほしかったですね。田中さんのご指摘の通り、管理組合は今まで定期預金とマンションすまい・る債が主な運用先でしたから、国債という選択肢が増えるのはうれしいことです。では、具体的に国債とはどのような商品なのでしょうか。
田中 簡単に言うと国に対する借用証書(借金)のようなものです。国にお金を貸して、何年か後に返してもらう、その間に利息をもらうといったものです。今回、管理組合が購入できるようになる国債は『個人向け国債』と言われるものです。個人向け、とある通り、今までは個人しか購入できませんでした。3年固定金利、5年固定金利、10年変動金利の3種類が一般的です。
財務省 個人向け国債
https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/
久保 国の借金ということは、『国が破綻してしまう』とお金は返ってこないことになりますか?
田中 国家が財政的に困難に陥っても、即座にすべての国債の価値がゼロになるわけではありません。日本国債は円建てで、日本は独自に通貨発行権(日銀)を持つため、理論上は返済不能にはなりにくいとされます。あるとして、破綻(デフォルト)ではなく、インフレや再編(リスケジュール)、利払い延期などの形で「実質的な損失」が発生する可能性の方が高いです。
久保 日本が破綻する可能性はあるのでしょうか?ニュースでは借金大国と聞きますが。
田中 国が破綻することを『デフォルト』と言います。ニュースは見たことがありますよね。ギリシャやアルゼンチンなどがその例です。こうした国では、国債を外国人が多く購入していたことがリスクであったと言われています。一方、日本の国債はほとんどが国内の金融機関や日銀、個人によって保有されていて、円建てで発行されています。つまり、日本は自国通貨で借金をしているので、返済できなくなるというリスクは他国に比べてかなり小さいと考えられています。もちろん、『絶対に大丈夫』とは言い切れませんが、借金の多さだけを見てすぐに日本が破綻する、というわけではないのです。
久保 検索すると、日本の国債残高は1,129兆円とありました。想像を絶する借金額なので不安を感じていましたが、破綻しにくいと言われているのは心強いですね。ところで、国債は、毎月の募集金額が決まっています。管理組合が購入に押しかけて、例えば、国債を購入しに行ったのに『今月分は売り切れです』なんていうことがあり得るのでしょうか。
田中 それも考えにくいですね。個人向け国債の発行は、年間予算に基づいて時期を見ながら発行されていきます。例えば2025年6月度の発行額は3,346億円です。日本全国の管理組合の定期預金総額は3兆円とも8兆円とも言われていますが、仮に3兆円とした場合にその1割強の定期預金が一度に解約されて国債に流れ込むということは考えにくいと思います。そもそも、個人向け国債は『売り切れ御免』のような抽選販売ではなく、需要があれば基本的に制限なく購入できる仕組みです。ですので、『今月分は売り切れです』というようなことは、まず起こらないでしょう。
国債を購入するには
久保 銀行の窓口というのはいつも混んでいてちょっと敬遠していました。実は・・・。
実は、私は個人向け国債を購入したことがない。まったく何も知らずに田中さんにインタビューするのは恥ずかしいと思い、前日に予習のため自分で国債を購入しに行った。その時の様子を紹介しよう。
訪問したのは自宅近くの某都市銀行である。朝9時の開店前から長蛇の列。銀行のスタッフの方が列の整理をしながら「本日はどのようなご用件ですか?」と尋ね、多くの方が「預金の引き出しに来ました」と答えている。
ようやく私の番がきた。「国債を買いに来ました」と答える。すると「こちらへどうぞ」と別ブースに案内された。どうやら資産運用の人は別の窓口で対応するようだ。ブースに入るとにこやかな行員さんが「国債のほかにもいろいろ商品がございます」と保険や外貨建て預金などのパンフレットをずらりと並べる。「今日は国債を買いに・・・」と言い出せず、そのまま長いこと説明を聞くことになった。田中さんにこの話をしてみる。すると笑いながら銀行の事情を話してくれた。
田中 それは大変でしたね。今は銀行も保険などの商品を販売して手数料を稼ぐことがビジネスモデルとなっていますから、営業されるのは仕方ないでしょう。国債のように手数料が低い商品は、営業としてはあまり力が入りにくいんです。ですから、いろいろ勧められるのはある意味仕方のないことかもしれません
久保 (なるほどそういうことか)
田中 管理組合が国債を購入しようとする時は、銀行も定期預金以外には興味がないことを知っていますから、久保さんのようなことにはならないと思います。それに銀行でなくても証券会社や郵便局でも国債を販売していますよ。インターネットでも購入は可能です。
調査が不足していたようだ。
購入までのスケジュール確認は入念に調査を
田中 国債の特徴はお判りいただけたかと思います。では、私から反対に久保さんに質問です。管理組合の実務は久保さんからお答えいただいた方がいいかと思います。管理組合が長期に資産運用をする際に気を付けるべきことはありますか?
久保 その質問は私の出番ですね。まず、長期修繕計画と「にらめっこ」することが必要です。満期時期が大規模修繕工事の予定時期の前に来るように逆算して購入日を決める必要があります。また、管理規約をよく確認し必要な決議をしておきます。たいていの管理組合では国債を購入するには総会決議が必要になります。
田中 国債は、常に購入できるわけではありません。毎月、何日から何日まで購入できる、というスケジュールが決まっています。この点にも何か注意すべきことがありませんか。
久保 そうですね、総会の開催時期も販売スケジュールと合わせる必要が出てきます。せっかく総会で可決されたのに、購入が間に合わずに翌月の申し込みになり、金利が変わってしまった、などということが起きかねません。
田中 スケジューリングを失敗すると途中解約になりかねませんね。途中解約の場合、受領できるはずの利息2回分の解約違約金が発生します。もったいないですね。
管理組合の資産形成にひとこと
久保 田中さんから管理組合のみなさんに資産形成のためのアドバイスはありますか?
田中 もちろんです!特にお伝えしたいのは「インフレ率を考えていますか?」という点です。
例えば、ここに1千万円あったとしましょう。金利が1%、物価上昇率が2%だったとすると、実質的なお金の価値は毎年1%ずつ下がっているのです。多くの管理組合が、元本保証の商品だけで資金を管理していますが、定期預金だけに頼っていると、実質的な価値が年々減っていってしまいます。特に、毎年理事が交代し、意思決定に慎重になる管理組合では、“前例踏襲”になりがちですよね。でも実は、(今はまだ個人向け国債くらいしかできませんが)リスクを抑えながら長期で運用できるバランス型の投資信託などもあり、こうしたものを「理事会で方針を定めて、少額から始める」というやり方であれば、無理なく資産を守る工夫ができます。インフレを考えずにただ集金をしているだけでは、修繕費の高騰が起きたときに「みんなでたくさんお金を出す」ことしか選択肢がなくなってしまいますよね。

久保 確かに、インフレ率が理事会で話題になることはありません。消費税率の上昇や建築資材の高騰で修繕工事費は値上がりしていますが、それにあわせて積立金を値上げするという発想にはなっていないのが実情です。定期預金に預けていることは、むしろ実質的に積立金を減らしていることになりかねないということになりますね。
そうは言っても、理事会でみなさんを説得するのは難しいのではないでしょうか。「投資したせいで積立金が減ったら、あなたは責任を取ってくれるのか?」と言われたら困ると誰もが思いそうです。
田中 確かにその通りです。私も自宅のマンションで理事を経験したことがあるので、元本保証へのこだわりの強さは感じています。そのハードルを越えるのは『知識』です。『投資=怖い』という図式は知識がなければぬぐい切れません。マネーリテラシーを上げること、それが今の管理組合には必要だと思っています。
久保 ぜひ、マネーリテラシーを上げるための講座を開いていただけませんか。
話が弾んだ結果、マンションみらい価値研究所セミナーへの登壇が決定し、管理組合の資産形成についてさらに詳しくご講演いただくことになった。乞うご期待。

アルファ・ファイナンシャルプランナーズ
https://alphardic.com/about/

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。