管理会社・マンション管理士の仕事はAIに奪われるか

管理委託組合運営のヒント
管理会社・マンション管理士の仕事はAIに奪われるか

 AI技術の進歩が目覚ましい。中でもChatGPTはスマホ等でいつでも質問できる。ChatGPTが登場する前、AI関連商品と言えば高額で、業務に導入しようとすれば、何億円もの金額が提示されてびっくり仰天したものだ。昨今のディープラーニングの技術により、AIは格段に進歩し、個人が手軽に利用できるようになった。数年前とは隔世の感がある。
 AIが社会に浸透し、ビジネス雑誌では「AIによって失われる職業ランキング」といったような特集がされるようになっている。電車の中吊りに踊るこうした文字を見ては「マンション管理に関わる職種が掲載されているのではないか」と不安になり、こっそりページをめくってみたりしたものだ。あまりメジャーな業界ではないこともあってか、心配したような記載は見当たらない。しかし、ほっとしている場合ではない。管理組合の質問にAIが的確に回答できるようになれば、管理会社もマンション管理士も、これから仕事が減ってしまうかもしれない。
 そこで今、AIはどのくらいマンション管理に関する質問に回答できるのかを探ってみた。難易度を段階的に上げて、質問してみることにした。
 なお、AIは、日進月歩で進化を遂げている。このコラムが掲載される頃には、さらにパワーアップした回答がされているかもしれない。皆さんも検索してみてほしい。
 ※2025年7月1日 15時~16時頃検索

難易度★
修繕積立金の値上げをしたいのですが、反対の人が多いようです。どうすれば値上げを可決することができますか。

ChatGPT回答
 修繕積立金の値上げはマンションの将来の維持管理に不可欠ですが、住民にとっては負担増となるため、反対意見が出やすいのが現実です。値上げ案を可決させるには、「納得」と「信頼」を得るプロセスが鍵になります。以下のステップを検討してみてください。
① 根拠と将来像を「見える化」する
 長期修繕計画と積立金シミュレーションを提示
 → 現状の積立金では将来どの時点で資金が足りなくなるかを明示
 → 値上げしない場合に必要となる「一時金」の額とそのリスクも示す 

 インフレ・物価上昇の影響を説明
 → 建築資材・人件費の高騰により将来の修繕費が増加していることを資料で示す
  ※以下紙面の関係で回答を抜粋

② 小さなステップで「納得」を積み重ねる
③ コミュニケーションを丁寧に行う
④ 専門家の力を借りる
⑤ 議決のとり方にも工夫

 まずまずの専門家レベルである。管理組合向けのノウハウ本のような「正統派」の回答だ。では、もう少し難易度を上げてみよう。

難易度★★★
都市部から電車で1時間ほどかかるマンションです。築40年を経過しています。このマンションを高額で売れるようなマンションにするにはどうしたらよいですか。

ChatGPT回答
 築40年・都市部から電車で1時間──という条件でも、「高額で売れるマンション」に再生する道はあります。ただし、それには戦略的なバリューアップと合意形成の努力が不可欠です。以下のようなステップが考えられます。

目指す方向性(売れるマンションの共通点)
 資産価値が落ちにくい(維持・向上が見込める)
 共用部・外観に魅力がある
 管理が行き届いている
 コミュニティ・コンセプトがある
 将来像(再生のビジョン)がある

ステップ別アプローチ
 ステップ①|現状分析
  構造的な耐震・設備寿命の確認(※1981年以前なら耐震基準適合診断が重要)
  管理状況、修繕積立金の状態
  空室率・居住者の高齢化状況
  最寄駅からのアクセス、周辺の再開発予定の有無
  まずは「立地×建物×管理」の三点を評価します。
   ※以下回答を抜粋

ステップ②|バリューアップ施策
ステップ③|情報発信・ブランディング
ステップ④|長期戦略:建替え・敷地売却も視野に

成功事例の一部(参考)
 神奈川県の郊外団地が、団地丸ごとリノベーション+高齢者支援+地産地消カフェで地域ブランド化
 千葉県の築50年団地が、若者向けDIY賃貸型に再生し、転入超過

 この質問以降、「バルコニーでタバコを吸う人がいます。なんとかなりませんか」や「総会に誰も出てきません。どうしたらよいですか」など思いつく限りの質問を入力してみたが、どれも「即答」である。しかも、どれも模範解答である。このままではAIに仕事を奪われてしまう!そこで、こんな質問をしてみた。

難易度★★★
マンション管理会社やマンション管理士が回答できないようなマンション管理に関する質問にはどのようなものがありますか。

ChatGPT回答
 とても実務的で核心を突いたご質問です。
 マンション管理会社やマンション管理士が「回答できない」「回答すべきでない」マンション管理に関する質問には、以下のような種類があります。(以下抜粋)

1.【法律上の制限】によって答えてはいけない質問
 「この住民を訴えるべきか?」
 ▶ → 弁護士法第72条により、管理士や管理会社が「個別の法律解釈・権利義務の判断」をするのは違法です。

税務相談(税理士法に違反)
「建替え後の等価交換住戸の譲渡税はいくら?」
 ▶ → これは税理士しか答えてはいけない領域です。

金融商品の具体的な推奨(金融商品取引法)
「この定期預金に預けるべきか?」
 ▶ → 金融アドバイザー資格が必要で、管理会社も管理士もこの資格は持っていません。 

2.【職能の範囲外】で答えられない質問
 「このマンションは耐震性がありますか?」
 ▶ → 建築士・設備技術者の専門領域です。

 診断・測定・調査結果の断定
 「アスベストの検査結果はどう読むべき?」
 ▶ → 専門機関や測定事業者の仕事です。 

3.【責任の所在が不明瞭】な判断
 未来の予測や断定
 「いつ建て替えられますか?」
 ▶ → 社会情勢や住民意見に左右されるため、明確に答えられません。

 特定業者・人の推薦や批判
 「あの理事長は辞めさせるべきですか?」
 ▶ → 中立性が求められる立場であり、特定の人物や会社の評価はできません。 

管理士や管理会社にうまく質問するコツ
例:
「〇〇の制度では一般的にどうなっていますか?」
「他のマンションではどう対応していますか?」
「この件に関して専門家に相談すべき分野はどこですか?」

 なるほど、専門家の出番をAIが示してくれた。「他のマンションではどう対応していますか?」は従来より、管理会社が管理組合から最もよく聞かれる質問だ。リアルな体験談、リアルな経験、これらは身体を持たないAIには示すことができない。マンション管理の専門家の皆さん、これからは「経験」がカギである。


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久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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