令和5年度 マンション管理適正化・再生推進事業 (課題の解決に向けた事例の収集・分析等を行う事業)
発行元:マンションみらい価値研究所
テーマ:修繕積立金の改定や合意形成の状況について、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと共同研究を実施した
発行日:2025/04/01
公開日:2025/05/07

花輪 永子
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
久保 依子
大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所
田中 昌樹
大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所
趣旨・背景
全国のマンションストックにおいて「2つの老い」が進行するとともに、直近では建設コスト等の高騰から、将来必要となる修繕費用が上振れし、区分所有者にとっての経済的負担が従来以上に大きくなる可能性が出てきている。一方で、近年分譲されるマンションの多くが、管理開始当初から一定の期間ごとに修繕積立金の徴収額を引き上げる「段階増額積立方式」を採用しており、「段階増額積立方式」を採用した資金計画では、将来にわたって計画通りに徴収額が引き上げられることが前提となっている。しかし、修繕積立金の改定には総会決議が必要であり、修繕積立金を大幅に引き上げようとすると、総会では決議が得られず、計画通りに引き上げができないおそれもある。
こうした状況を受けて、国土交通省ではマンション管理計画認定制度の見直しに向けた検討を行い、2024年6月には「標準管理規約の見直し及び管理計画認定制度のあり方に関するワーキンググループとりまとめ」が公表された。その中で、現行の管理計画認定基準へ「段階増額積立方式における適切な引上げの考え方」を盛り込む方向が示されいる。
このように、管理計画認定制度のあり方の見直しが進む状況を踏まえ、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)とマンションみらい価値研究所は、国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業(課題の解決に向けた事例の収集・分析等を行う事業)」を通じて、 段階増額積立方式における修繕積立金の引き上げの実態や、管理組合における合意形成の状況を把握するための調査・分析を実施し、その結果を本論文としてとりまとめた。
調査結果の概要
(1) 既存マンションにおける修繕積立金の増額に係る合意形成プロセスの実態分析
- 2018~2023年の5年間で、大和ライフネクストの管理受託物件(分析対象:3,629管理組合)の約6割で修繕積立金の徴収額が増額となった。

- 従前の修繕積立金の設定水準が低い管理組合では、5年間における増額の変動幅が大きい傾向がみられ、管理組合として増額を許容できる状況であったことが推察される。
- 経年化に従い、修繕積立金の設定水準が高くなる一方で、増額の変動幅が小さくなる傾向がみられ、増額が困難となりやすい状況がうかがえる。
- 積立金の増額に対する総会決議が可決された事例では、可決以前の修繕積立金の設定水準が低く、必要な修繕費用の確保ができていなかった等の状況から、増額が許容されやすい状況であったと推察される。
- 積立金の増額に対する総会決議が否決された事例全体でみると、総会での否決を経て実現した増額幅は、提案時に比べて1割程縮小している。
(2)段階増額積立方式を採用した長期修繕計画上の資金計画の設定状況に関する分析
- 大和ライフネクストが管理を受託する既存マンションで作成されている長期修繕計画上の資金計画上、最終年度の収支が黒字となっている事例は2割程度で、このうち段階増額積立方式を採用している割合は4割程度となっている。
- 計画期間の最終年度の収支が黒字となっていない事例が一定程度存在するが、計画期間中に必要な修繕費用を精緻に予測することは困難である。実務上、資金計画の検討や管理組合への説明においては、最終年度の収支よりも、計画期間前半の設定が重視される傾向にある。また、定期的に計画見直しを継続することで、計画の精度を担保している。
- 修繕積立金の増額幅のみで修繕積立金の充足状況を判断することは困難であり、一般会計・収益事業会計からの繰り入れ状況も考慮する必要があると考えられる。
- 長期修繕計画・資金計画の概念が登場したのは1980年代前半であり、当時は長期修繕計画の内容は、具体的な工事費用が提示されず、修繕実施時期の見込みのみが示されていた。また、段階増額積立方式という概念もその後に民間事業者の取り組みから生まれてきたものである。
- 管理計画認定基準において段階増額積立方式に基づく資金計画を確認する際には、資金計画を作成しないことが一般的であった当時から存在する高経年マンションへの配慮が必要と考えられる。
執筆者
花輪 永子
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 政策研究事業本部 経済財政政策部 兼 まちづくり戦略室
執筆者
久保 依子
マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。
執筆者
田中 昌樹
マンションみらい価値研究所研究員。一般社団法人マンション管理業協会出向中。現在は、マンションみらい価値研究所にて、防災・減災に関する統計データの活用や居住者の高齢化や災害の激甚化などの社会的な課題について、調査研究や解決策の検討を行っている。