管理組合運営において普通決議なのか特別決議なのか、迷う場面は多い。例えば、電気自動車用EV充電器の設置に際して、駐車場の一部を充電ステーションに変更したいとしよう。これは共用部分の変更にあたるのか。あたるなら特別決議であるし、あたらないなら普通決議だ。考え方によって判断が異なる境界線上にある議案である。※
こうした問題は古くから数多く取り上げられてきた。
一方で、今まであまり取り上げられていないが、実際には決議の方法が二分されている例がある。それが修繕積立金の値上げ決議だ。
では、修繕積立金の値上げは普通決議(過半数の賛成)なのだろうか、特別決議(4分の3の賛成)なのだろうか。
マンション標準管理規約に基づいて考えるなら普通決議だろう。しかし、管理規約上、特別決議となっていて、実際の決議も特別決議で行っているマンションがある。そこで、当社の管理受託マンションにおいて積立金の改定をしたマンションのうち443棟を調査したところ、特別決議で改定をしているマンションが59棟(13.32%)あった。これはどうしてだろうか。
※EV充電器の設置は2024年度の標準管理規約改正時に普通決議と規定
1.管理費等の金額が特別決議となった経緯
平成9年以降のマンション標準管理規約(以下「標準規約」という)には、別表第3に共有持分、別表第5に議決権割合が住戸ごとの一覧表になって記載されている。一方で標準管理規約では、昭和57年版から令和3年の改正に至るまで管理費等の「額の記載」はない。
具体的には次のように規定されている。どこにも金額の欄がないことに注目してほしい。
マンション標準管理規約(2022年)
(管理費等)
第25条 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
一 管理費
二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
(議決権)
第46条 各組合員の議決権の割合は、別表第5に掲げるとおりとする。(以下略)
新築マンションを分譲する際は、売主である不動産会社と管理組合から管理を受託する予定の管理会社の間で協議がされ、原始規約が作成される。売主は管理に関する事項として、管理費や修繕積立金の額を区分所有者(予定者)に重要事項説明書や管理規約で伝えることになる。
しかし、標準管理規約を参考にして原始規約を作成しようとしても、そこに管理費や修繕積立金を記載する欄はない。何も書かないままでは、買主は一体いくらの管理費や修繕積立金を支払えばよいのかが分からない。
そこで、多くの売主が原始規約において、別表第3、もしくは別表第5に、持分や議決権のほかに管理費等の額を記載したのである。こうした事例はおおよそ20年前までに多く見られ、最近の管理規約からは少なくなっている。約20年前に分譲されたマンションにおいて、当時の売主別に6社にわたり調査したところ、管理規約に額の記載をしている例は4社あった。記載例は下記のとおりである。いずれも特別決議となる事例である。
事例A
第18条(管理費等)
各区分所有者は、敷地および共用部分等の管理に要する費用(以下「管理費等」という。)として次の費用を負担しなければならない。
(1)管理費
(2)修繕積立金
2 前項の管理費等の金額は別表第1に記載のとおりとする。
事例B
第25条(管理費等)
区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
(1)管理費
(2)修繕積立金
2 前項の管理費等の金額は別表第3記載のとおりとする。
3 管理費等の額は各区分所有者の共有持分に応じて算出し、使用頻度等その他の事情を一切勘案しない。
事例C
(管理費等)
第26条 団地建物所有者は、建物の敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
(1)管理費
(2)修繕積立金
2 管理費等の額については、別表第4に定める金額を負担する。
2.想定外の特別決議
「別表」と「別紙」では考え方が違う。別表は、本文の一部である。本文中に記載すると長くなるなどの理由がある場合に「別表第○の通り」として後段に記載する。その内容は本文と同等の扱いとなる。管理規約に「別表第3の通り」とあれば、別表第3は規約本文となる。
先にあげた事例の管理規約では、「管理費等」の条文において「別表〇」を引用している。つまり、別表を規約本文に取り込んでいることになり、管理費や修繕積立金の金額を改定しようとする場合は管理規約の改定に該当することになるため、特別決議が必要となってしまう。
新築マンションとして販売されたとき、いったいどれほどの売主がこのことを想定しただろうか。おそらくほとんどの売主はそこまで考えが及んでいなかったと考えられる。こうして、修繕積立金の改定は特別決議事項となるマンションが登場したのである。
(参考)マンション管理業協会
特別決議とするという見解のほか、普通決議でよいとする判例も掲載されている。
3.マンションの将来のために
修繕積立金の値上げができないマンションがある。修繕積立金が不足すると適切な修繕ができず、マンションの価値が下がる。誰しもがそう理解はしているものの、いざ総会の決議の場になると、日々の生活に直結する値上げについて合意形成を図るのは、なかなか難しい。
区分所有者の高齢化などにより管理組合の決議が困難になると予想される中、積立金の改定などは決議しやすい状況にしておいたほうがよいのではないだろうか。
今一度、管理規約を確認して、別表は別紙に移し換えるなど、将来に備えて改正できる条文は早いうちに改正しておくべきだと考える。