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2023/11/01
第12回 マンションみらい価値研究所セミナー 「これからのマンションの課題を考える〜熱海が教えてくれる未来のマンション管理〜」
続きを読む10月12日(木)、第12回となるセミナーが開催された。今回は株式会社マチモリ不動産、代表取締役の三好明氏をお迎えし「これからのマンションの課題を考える〜熱海が教えてくれる未来のマンション管理〜」と題してお届けする。 今回登壇いただく三好氏は、大和ライフネクストの元社員。在勤中に熱海の経済復興や空き家問題にボランティアとして携わったことをきっかけに、熱海が抱える問題をマンション管理者の視点で解決するべく取り組んできた。 「マンションみらい価値研究所」のサイト内では、『「1円でもNo」を経た熱海のマンションV字回復。 元マンション管理会社社員の活動に“マンションにおける問題解決へのヒント” を見る』(2023.9.14)のコラムに登場している。 その三好氏が登場する前に、同ウェブサイトで公開中のレポート「管理組合の相続人調査および相続財産管理人選任申立てについて(2022.3.20)」を執筆した研究員の大野が、レポートの内容に新たな説明を加えるかたちでカメラの前に立った。 大野は「当研究所ホームページで2022年3月時点に公開したものがあるが、2023年4月1日施行の民法改正により従来の『相続財産管理人』は『相続財産清算人』に名称が変更された。本日は『相続財産清算人』という名称で話を進める」という断りを入れて話をスタートした。 今回大野が解説するのは、区分所有者が亡くなった後、その住戸の相続が行われないことで困惑する管理組合の実例。 基本として、区分所有法には「特定承継人の責任」という条項があり、管理費等を支払えない、または支払わない区分所有者がいたとしても、所有権が移転した場合には、新しい区分所有者に滞納管理費等を請求できると定められている。これにより、競売の申立てによる落札、売買や贈与など、所有権が移転した場合には、管理組合の費用と労力をかけることなく、滞納されている管理費等を回収することができる。 しかし実際には、区分所有者が亡くなったあとにマンション住戸の相続が行われないケースなど、所有権の移転を待っているだけでは滞納された管理費等の回収ができず、管理組合が相続財産清算人の申し立てを行った事例が2018~2021年の期間に9つ(大和ライフネクスト㈱管理の4,000組合に対して実施した調査)あるという。 相続財産清算人選任の申し立てを行った管理組合の理由は大きく3つ。それは、①回収目途の立たない管理費・修繕積立金の滞納が膨れ上がり、いずれ管理費等の請求権の時効を迎えること、②消防用設備点検や雑排水管清掃などの、共用部分と一体として管理する設備機器のメンテナンスおよび取替ができないこと、③今後、区分所有者不在の住戸が増えてくと、総会の決議が困難になる可能性もあること、だという。 今回調査した事例では、1年より短く解決したものはなく、最長で解決までに3年7ヶ月ほどかかっている。そのため、管理組合の役員が輪番制の場合には、役員間において方針や情報の引き継ぎが重要だという研究調査結果であるとした。 後半では先述の三好氏が登壇し、熱海の現状と改善、そしてマンション管理の未来を解説していく。 熱海といえば昭和初期の新婚旅行のメッカでもあったように、早い段階から観光地化やリゾート開発化が進められた歴史を持つ。そのため、築40年以上の分譲マンションが多く所在し、日本全体に先駆けて管理問題、空き家問題が発生した地でもある。 当時、大和ライフネクストに在勤中だった三好氏は、熱海の“時代に遅れた”原状を目の当たりにし、居ても立ってもいられずボランティアとして毎週通ったという経緯を話した。その後退社を決め、自身も熱海に移住し現在に至っている。 シャッター商店街や稼働率の低い宿泊施設、また全国ワースト2位の空き家率など、もはや瀕死状態の熱海を再生することができれば、これから全国でも起きてくるであろう同様の問題にも対応できるのではないかと考えたという。 その体験と成功事例などを元に、所長の久保が5つの質問を投げかけている。1つ目は「お金がないマンション」はどのようにすべきなのか。2つ目は、前段で大野が発表した内容につながる「所有者不在のマンション」という課題はどうクリアしていくべきか。3つ目は「管理組合運営が停滞した場合」という難問。4つ目は「資産価値の向上による新規入居者の獲得」、5つ目は「経年劣化と賃貸化率」だ。 この中で三好氏が意見した内容が印象に残る。「全国のまちづくりでよくある失敗は、東京のシンクタンクなどコンサルに頼めば解決すると考え、自分たちは何もせずにいること。結局やるのは自分たちしかいない。まずは当事者としての意志があって、さらに周囲を巻き込むことが大事」。 さらに4つ目の課題である「資産価値の向上による新規入居者の獲得」については「見た目などはもちろん、それ以外にもペットの飼育を可能にすることや、民泊を可にするなど、マンションのルールの見直しを検討することが重要。その際は、まずはお金をかけずに取り組めるものを見定めて、急に大きく変えようとせず、徐々に規制緩和していくことがポイントになる。従来のように「住まいに人の生活をあわせる」のではなく「人の生活に住まいをあわせる」という考え方でマンションの自由度を高め、資産価値向上に成功している事例が熱海にはいくつもある。自分たちのマンションをどうしていくか、自分事として捉えて十分な議論をしてほしい」と語っている。
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2023/10/04
第11回 マンションみらい価値研究所セミナー 「老いの本質をとらえて、マンションライフを考える」
続きを読む9月14日(木)、第11回となるセミナーが開催された。今回はNPO法人「老いの工学研究所」理事長・一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事でコラムニストの川口雅裕氏をお招きし「老いの本質をとらえて、マンションライフを考える」と題してお届けした。 司会を務めた鈴木理文は冒頭で、「今、日本のマンション全体の2割近くが築40年以上。こういったマンションの『建物の老朽化』もさることながら、孤立死や認知症に伴うトラブルなどの『住民の高齢化』も問題になっている。『福祉は住宅に始まり住宅に終わる』という言葉があるくらい、住宅は人が生活する上ですべての基本となる」と前置き。これを踏まえ、研究員の田中昌樹が執筆したコラム「歳を取るとマンションに住んでいられない?」を元に見解を展開した。 田中の調査研究では、日本の国勢調査には分譲マンションの項目がないことを指摘し、分譲マンションの実態把握が曖昧であることを示唆。よって、行政の各施策においても戸建て住宅が前程となっているものが多いが、実際には分譲マンションと戸建て住宅で高齢社会における課題の違いがあるはずだと指摘。 その違いを明らかにするため、足立区が2017年と2020年に区内の全高齢者を対象とした悉皆調査のデータをベースに、分譲マンションや戸建て住宅といった住居形態ごとの違いや課題を追った。 特筆すべきは、「戸建て住宅、事業所併用住宅、アパート」の割合が高い地域では、近所の人への信頼感が高い傾向があり、「マンションや団地」の割合が高い地域では、近所の人への信頼感が低下する傾向が見られたという。総じて、分譲マンションは地域コミュニティや近隣との関わりが薄く、福祉などの支援が届きにくい社会的な構造があることが懸念されることを指摘した。 後半では、先述のゲスト・川口雅裕氏が登壇し田中との対談が行われた。川口氏は京都大学教育学部を卒業後、不動産デベロッパーに入社。その後独立し、現在約1万9千名に及ぶ会員を保有する「老いの工学研究所」にて日々研究・講演活動を行っている人物だ。 著書『年寄りは集まって住め』(幻冬舎ルネッサンス新書)の内容を中心に話題は進む。そもそもこの本を執筆するきっかけとなったのは、先の団体で活動する中で経験した“幸福な高齢期を送る人たち”との出会いであったという。ある方は若い頃に夢中になった絵画に熱中、ある方は音楽バンドを結成、またある方は学びのコミュニティとして「大阪自由大学」なる団体を結成し活動している、といった内容が紹介された。 しかしながら社会全体を見ていくと、都市化・核家族化による弊害として地域コミュニティが崩れ、特に高齢男性が取り残される事態が起こっていることを指摘。それは、定年退職後に所属団体から放り出されることも影響しているとし、退職後も社会とのつながりもつ意味でもどこかの団体に所属していくべきだとした。 さらに、長年妻に家事を任せきりで生活をしてきた高齢男性が妻に先立たれると、食事はおろか下着の在り処もわからないほどの困難に遭遇する場合があるとし、このことがより孤独感や不安感を大きくしているという。 一方で、高齢者の歩行速度からみる身体的な若返りという調査では、20年前の70年代前半と現代の80代前半がほぼ同じであることがわかった。 ここでひとつの結論としては、漫画『サザエさん』の家族構成や住まい方のように、一昔前の三世代同居における時代では、敬老の精神もあり高齢者が何もせずに暮らしていくことができたため、孤立化という問題は起こらなかったが、体力的な衰えを始めとする老け込みが進んだ。しかし現代は、買い物、料理、掃除、洗濯といったことも自分でしなければいけない時代であることから、体力面・外見面での維持・向上が見られているのだろうとした。 最後に、著書のタイトル『年寄りは集まって住め』の論点に立ち返る。高齢者に向けたアンケートでは「同世代との交流」を望んでいる人が圧倒的に多かった。その理由としては、世代が異なることで話題やライフスタイルの違いが浮き彫りになり、心からの満足が得られないからのようだ。つまり高齢者は高齢者同士だからこそわかり合えるものであり、同世代との交流を活発にしていくことが現代を豊かに生きていくポイントであるとし、さらに東京大学の研究からも、健康長寿の3要素のひとつに「交流」が挙げられているとして見解をまとめた。
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2023/09/07
第10回 マンションみらい価値研究所セミナー「住まい方ひとつで人間関係は変わる。〜マンションで暮らす「配慮が必要な方」への支援~」
続きを読む8月17日(木)、第10回となるセミナーが開催された。今回は静岡大学名誉教授 外山知徳先生、そして先月のセミナーでもご登壇いただいた不動産コンサルティングマスターの株式会社CAN代表取締役 加納幸典さんをお招きし「住まい方ひとつで人間関係は変わる。〜マンションで暮らす「配慮が必要な方」への支援~」と題してお届けする。 「8050(はちまるごーまる)問題」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、高齢化問題のひとつとして取り上げられ、80歳代となった親が引きこもり状態にある50歳代の子どもの世話をする、といった逆転の構図を表したものである。 こうした家庭のあり方は今後さらに深刻化が予想されることから、昨今ニュースとしても頻繁に取り上げられるようになった。このように多様化する親子関係が生み出すさまざまな社会問題を「住まい」の観点から研究されているのが、住居学の専門家で一級建築士の資格を持つ外山先生だ。 セミナーの中で先生は、過去に担当した登校拒否児童の例を挙げ「家の中に自分のテリトリーを形成できたことで、登校拒否が直った」ことを解説。これに対し「マンションみらい価値研究所」所長の久保依子が「親からの愛情が希薄だったのか?」という疑問を投げかけると、外山先生は「そんなことはなかった」と言う。 では、何が原因で登校拒否をするようになってしまったのかについて、外山先生は「家の中で自分の居場所を確保できなかったことが問題」だとした。居場所とは、自分用の部屋を提供することが必ずしも最善策ではないようで、「たとえば『ここはお父さん専用の場所』と座布団一枚を用意するのでもいい」と言う。それにすかさず反応する久保は「ええ、うちの夫がそうです(笑)」と笑いを誘った。つまり、その人物にとって心の安定が担保できる居場所づくりが重要だということだ。 先の登校拒否児童も、兄が就職して独立したことをきっかけに、兄が使っていた部屋に自分の机や寝具を置き、好きなアイドルのポスターを張り、部屋の在り方を変えたことにより、自身の居場所を確保することができ、心の安定を取り戻したようだ。 このことからも、子ども部屋を与えることが問題の予防策になるとは必ずしも言えないが、一方で与えないことで起こり得る問題もあると指摘。噛み砕くと、自分の部屋を与えられたとして自立に耐え得る成長を満たしていない子どももいるであろうし、親と離れた環境を提供することで抵抗心を抱く場合もあるという。 その反対に、自我が確立され思春期を迎えると、四六時中親と寝食を同じ空間で過ごすことにストレスを感じることもあるだろう。肝心なのは、子どもの成長過程を見守ることと、普段からのコミュニケーションであり、それらをふまえた上で住まいの空間分けなどを考えるべきなのだと語る。 この流れから、国民的マンガ『サザエさん』一家の住まい環境を事例に挙げ「成長したカツオを、いつまでも妹のワカメちゃんと同じ部屋に住まわせるわけにはいかないだろう」「その場合、ワカメちゃんにはどの間取りを提供すべきか」とし、「カツオには玄関脇の6畳間を提供したらいいのではないか」、その場合「ワカメちゃんは客間が相当か?」「タラちゃんは……」という具合に、国民的マンガの家族を例にとって考察するなど、より身近に考えさせられる一幕もあった。 こうした「テリトリー形成能力」を意識した家づくりを提案する外山先生とタッグを組み共同開発した住まい提供をした経験があるのが、当時はデベロッパーで勤務していた不動産業界活用コンサルタント・加納さん。 企画・開発当時は、デベロッパーと大学が共同研究をすること自体が珍しかったため、加納さんが所属する会社内で賛否あったようだが、既存顧客に配布する会報誌でこの話題を取り上げたところ、予想を越えた反響があったと振り返る。その共同研究の末、「絆プラン」という住まい方を開発し、実施に販売に至ったのもこうした背景があったからだと言う。 購入当初の家族構成や年齢による住まい方、そして経年後の住まい方に対し、フレキシブルに対応できるのがこの「絆プラン」であり、家族一人ひとりの快適な暮らしを「間取り」がサポートしていくというものだ。 また、セミナー後半では「バリアフリー」という言葉にも触れている。この解釈として認識の最前にあるのは「段差のない空間」であるだろうが、外山先生はここにも10のADL(日常生活動作/Activities of Daily Living)を高める住居のポイントがあるという。 こうした議論を受け、加納さんは今後のデベロッパーの取り組みとして「現状だけではなく、中長期目線で対応する姿勢が求められる」とコメントした。 今回使用したレポート:マンションで暮らす「配慮が必要な方」への支援のあり方(2023.8.3)
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2023/08/04
第9回 マンションみらい価値研究所セミナー 「分譲会社vs管理会社〜それぞれの論理と日本のマンションのこれから〜」
続きを読む7月13日(木)、第9回となるセミナーが開催された。今回は株式会社CANの代表取締役、加納幸典さんをお招きし「分譲会社vs管理会社〜それぞれの論理と日本のマンションのこれから〜」と題してお届けする。 「突然ですが、これ、何の写真かわかりますか?」──冒頭では当研究所所長の久保依子の研究データの発表が行われ、まずこの問いかけからスタート。映し出された写真は、とある分譲マンション内の「プレイロット」(マンション敷地内に設置された幼児向けの遊び場)であり、バネのついた5歳児用の遊具はもう誰も使用しておらず、砂場だったエリアは手入れが行き届かず草が生い茂った状態になっている。この写真を見せたのは、新築分譲時に設置されたものに対して、将来的な使用有無やメンテナンスの問題について考えるきっかけとするためだ。 さらに事例紹介は続き、環境のためにと竣工時に設計された屋上緑化も、植物の生育が進い、維持費用がかさむといった理由で数年後に撤去した事例などにも触れた。 つまり、マンションの分譲当初はデベロッパーが新婚期や小さな子を持つファミリーが入居することを想定した設計を行い、ターゲットにより魅力的に感じてもらえるような付加価値をつけて販売している。しかしながら、経年によりライフスタイルの変化や設備の劣化が進んでいくと、そうした設計を維持するかどうかについて都度判断が迫られていくものだ。「マンション内の公園・プレイロットにある遊具は現在どうなっているか(2020.8.26)」 “その判断をするのは誰か”という問いの答えは、当然ながら管理組合だ。講演の中で久保所長は「管理組合はいつまでもデベロッパーにおんぶにだっこではいられない」と強い口調で語りかけた。 これが「管理会社」を代表して発せられた意見である。続いて立場が変わり、後半では「デベロッパー」を代表する意見として、ゲストの株式会社CANの代表取締役、加納幸典さんが登壇。果たしてどんな思わぬ“業界裏話”が聞けるのだろうか。 「分譲会社の事業の構成上、売り切りたいという思考を優先してしまいがちな面があるのは否定できません」 とデベロッパー側の事業の仕組みについて語り、続けて「”分譲会社は夢を売る仕事”などといわれる面がある。」と、販売戦略の裏側を明かしてくれた。 見た目の豪華さを追求する共用部、有名な建築家の採用、ラグジュアリー感をプラスする住戸内の付帯設備、非日常感を演出するモデルルーム。こうしたイメージ戦略にかけるイニシャルコストは、販売価格に上乗せして回収することができる一方で、管理費等のランニングコストなどの長期的な目線は不足している面もあるかもしれないとも語られた。 これこそまさに、とにかく売ってしまいたいデベロッパーと、入居後から将来を見据えた管理をしたい管理会社の、「論理のギャップ」である。 さて、ここまでは「現在まで」の話。「これから」の話をすると、少子高齢化の加速や地代・建築費の高騰、さらには環境問題といったさまざまな要因に鑑み、デベロッパーは社会問題解決の使命を担う存在になるという。 つまり、これまでのようにイケイケドンドンと景気よく、豪華で非日常感溢れるマンションをスクラップ&ビルドしていくような時代ではなく、循環型・持続可能なシステムの在り方などが優先されるようになっていくだろうということだ。 「デベロッパーはデベロッパー」「管理会社は管理会社」と切り分け、それぞれの仕事に特化するこれまでのやり方にはすでに限界がきている。今後さらに重くのしかかってくる社会問題の解決に向けて、持続可能な住宅の在り方を追求するためにも、立場の垣根を超えて協働していくことが求められている。
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2023/07/06
第8回 マンションみらい価値研究所セミナー「マンションでの救急救命のポイントとは?大切な人の命をつなぐ心肺蘇生」
続きを読む6月15日(木)、第8回となるセミナーが開催された。今回は一般社団法人ファストエイドの代表理事、玄正 慎(げんしょう まこと)氏をお招きし「マンションでの救急救命のポイントとは?大切な人の命をつなぐ心肺蘇生」と題してお届けした。 ついさっきまで元気に活動していた大切な家族が、突然心臓発作を起こして倒れ、目の前で心停止に陥ってしまったら──助けなければならないのは“あなた”なのだ。 心停止は、救急隊の到着や医療機関への搬送を待つそのわずかな時間すらも無駄にできない、まさしく一刻の猶予も許さない応急手当を必要とする。裏を返せば、その時間に正しい心肺蘇生法を行えば、救える命が多いということでもある。 しかしながら、現在の日本では一般人の心肺蘇生に関するスキルが低いといえる。“その時”、知識や経験がないためにパニックになってしまっては、大切な家族の命が危ない。ゲスト講師の玄正氏によると、突然の心停止の約7割は自宅で発生しているというデータがあるという。そうした背景もあり、心肺蘇生に関する知識と技術をより手軽に学べるための活動を行っているのだと語る。 同セミナーで司会を務めた「マンションみらい価値研究所」の研究員である大野稚佳子が執筆し、2022.9.8に公開したレポート「管理組合におけるAED(自動体外式除細動器)の設置をめぐる議論(2022.9.8)」によると、当社管理の分譲マンションにおけるAED導入率はわずか21%。AED導入に関しては多くの管理組合で意見が割れており、「命はお金に換えられない」というのが賛成派の代表的な意見。一方反対派の意見としては「心肺停止が発生する確率」と「費用負担」を天秤にかけた際の費用対効果を指摘していることが、研究所の調査でわかったという。 そして、救命活動が大切なことはわかっていても、生身の人間の胸骨圧迫をし、AEDを使ってそこに電流を流すといった行為には誰しもが恐怖を感じる。それを万が一の時に滞りなくできるようにするためには当然ながら訓練が必要だが、その訓練自体もなかなかきっかけがなく行動に出られない、という人が多いだろう。 玄正氏はそうした認知バイアスを変えるための活動の一環として、消防署などの決められた施設に出向かずとも、自宅で手軽に心肺蘇生の訓練ができるようなキットを独自に開発・販売している。 さらにいえば、胸骨圧迫の訓練をもっと手軽にできる方法として、空にした状態のペットボトルを使うのが良いという。このとき、硬すぎると手のひらを胸骨まで沈めて圧迫するという感覚が得られず、柔らかすぎても練習にならないので、程よい硬さのペットボトルを使うのがポイントだそう。こうした見解は非常に興味深く、また身近なものでできるというのはありがたいアドバイスだ。 このような心肺蘇生に関する知識や技術を、私たち一人ひとりが身に付けることが最も重要であるとしながらも、「マンション」という共同生活をする環境だからこそできることがあるとも説く。 一人の人が心停止で横たわっている状態において、救命には少なくとも「胸骨圧迫をする人」「救急車を呼ぶ人」「AEDを持ってきて準備する人」が必要だ。戸建ての家では難しいケースも多いだろうが、マンションという集合住宅では近くに誰ががいることが多く、こうした協力を得ることも可能になる。 もちろんその協力体制が成立するのも、日頃の意識付けや訓練などが必要であることはいうまでもなく、だからこそ管理組合などの働きかけにより、救命活動に関する無関心の壁を取り外す努力が必要だと話した。 マンションという、人々が同じ建物を共有し生活する環境だからこその優位性を理解すると同時に、緊急時の対応について今一度管理組合で見直していくことが求められる。