「子どもたちの声は“騒音”か?」というニュースを耳にすることが増えている。あまり報道はされてはいないが、実はマンションにおいても、子どもたちの声が問題として取り上げられることがある。そのためかどうか──心なしか、最近子どもたちをマンションで見かけなくなったように思う。なんとなく気になって小学生の子どもを持つお母さんに尋ねると、「やはり」という答えが返ってきた。「少しでもうるさくなるとご近所から何を言われるかわからないから、マンションでは遊ばせないようにしている」という。つまり、子どもたちは「近隣とのしがらみ」の中で活動を制限され、「マンションでは楽しむ」ことができない環境になっているようだ。私は常々マンションという環境は可能性に溢れていると考えている。楽しむための「ルール」さえつくれば、楽しめる「環境」を創れるはずだと思う。では、具体的にどのようなことができるか──私のアイデアを紹介してみたい。ひとつ、参考にすべき事例がある。「キッザニア」だ。「キッザニア」は、子どもたちがあこがれの仕事にチャレンジできるという施設。さまざまな職業の制服に袖を通し、実際の仕事さながらに商品作りに取り組んだり、お金を使って売買したり、また利益を増やしたりと、社会の仕組みを学ぶことができる。この施設の素晴らしい点は、教育の観点で勉強を強いるのではなく「リアルな体験」に重点を置き、子どもたちをこころの底から楽しませていることだ。
その「キッザニア」での取り組み、実はそれをヒントに子どもたちに「リアルな体験」を提供しているマンションがある。「1日管理員体験」だ。マンションに住む子どもたちにとって、最も身近な働く社会人である管理員。職業体験の第一歩として、管理員と同じ制服を着て「お仕事」をしてもらう。例えば、すれ違う住人に挨拶をし、ゴミが落ちていれば拾い、マンションを巡回して異常がないかをチェックする。一見すると管理員と共にマンション内を巡っているだけのようだが、活動として取り組む以上、そこには子どもたちの興味を引く工夫がきちんと施されている。そのひとつが「水道水の残留塩素測定」。これは飲み水の安全を確かめる方法で、薬品を入れることにより変化するが、果たしてその色が飲み水として正常の範囲なのかどうかを確認する。子どもたちは色の変化に目を輝かせて見守る。さながら理科の実験をしているような光景であるが、子どもたちは「飲み水ってこうやって管理員さんがチェックしているんだね!」と管理員の仕事を知ることができる。ほかにも貯水槽や増圧ポンプといった施設も、子どもたちにとって普段は見ることのできない未知のもので、興味の対象である。「どうやって1階にある貯水槽のお水が7階の僕の部屋に届くの?」その疑問に単に答えるだけでなく、実際に設備を見たり、触れたりすることで理解をさらに深めるのである。マンションにある施設や設備も少し工夫をすれば、「リアルな体験」をできる施設になり得るのである。
マンションの持つ潜在能力はまだまだこんなものではない。昨今はマンションでもIT化が進められている。例えば、「AI(人工知能)管理員」である。管理員の代わりにタッチパネルを搭載した機器を設置するのだ。ただの機器ではない。「AI(人口知能)」を搭載することで、管理員がいなくてもお住まいの方の欲しい回答を推測し導いてくれるというから驚きだ。その他にも、「全自動お掃除ロボット」がある。清掃員の代わりにお掃除ロボットが清掃を行うというもの。作業が終われば、自ら充電スポットに帰ってくる。清掃をしたルートまでもパソコンで確認することができる。最近ではガラス清掃用のロボットまで誕生しており、近い将来マンションには清掃員は不要となる時代がくるかもしれない。「ドローン建物診断」は、危険な箇所などを人に代わって診断するための方法だ。例えば高所の診断ではゴンドラなどを使用しているがコストもかかる。そこで開発されたのが、サーモグラフィー(映し出した箇所の温度によって画像の色が変わるカメラ)を搭載したドローンが建物診断を行う。危険を回避し、従来の方法では確認できなかった箇所まで診断ができる。最後に紹介するのは「画像解析サービス」である。防犯カメラの映像を常時解析し、異常を検知するシステム。防犯カメラからの画像で人が見て異常を発見するというのではない。人手をかけずにAIが自動で検知する機能を備え、24時間監視を実現している。このように、マンションではIT化が進められている。どれも実用的なシステムであり、導入するマンションが増えている。先進技術がマンションという身近な環境で体感できるという「わくわく」を子どもたちの学びにつなげることができるのではないだろうか。
マンションでIT化が進められているが、小学校の教育でも一人に1台のパソコンが提供され、プログラミング教育などもされている。このIT化の波に乗らないわけにはいかない。取り組むのであれば、とことん楽しく学ぶべきだ。そして楽しみながら学校で学んだことを将来へどう活かすことができるのか示そうではないか!例えば、こんな取り組みはどうだろう。【お掃除ロボット×子どもプログラマーのプログラミング】お掃除ロボットは真っすぐ進む。しかし、マンションの廊下には障害物がある。このままでは止まってしまう。この時、どうすれば障害物を乗り越えることができるか?きっと子どもたちは枠に捉われない自由な発想で、大人では思いつかないような回避方法が提案されるだろう。また、こんなアイデアはどうだろう。子どもたちにとっては「遊び」の一環だが、マンションにとっては大切な仕事になる取り組みである。【ドローン建物診断×子どもパイロットがドローン操縦】子どもにとって、ドローンの操縦は「遊び」かもしれない。しかし、操縦するドローンにはサーモグラフィーが搭載されている。マンションの表面温度は何度か?マンション全体を調査せよ!いかがだろう?調査結果を一緒に分析するところまで行えば、子どもたちはマンションに興味津々になることは間違いないだろう。きっと改修工事が始まった時も、終わった後も「あのダメだったところは、どうやって修理したのだろう」と考えるはずだ。場合によってはドローン建物診断がきっかけで建築家といった職業を目指すようになるかもしれない。マンションで「楽しく学ぶ」ことは可能か──私の答えは「可能」である。戸建て住宅と違い、日ごろからさまざまな専門家が出入りしている特殊な環境であるマンション。その専門家とコラボレーションすれば、等身大の「リアルな体験」を積むことができるだろう。子どもたちだけではなく、大人たちも“一緒”に楽しみながら学んではどうだろうか?
管理業務主任者。独立系管理会社でのフロント担当業務や福祉施設での施設長などを経験。現在は、管理運営の見直しなどを検討している管理組合の相談窓口として課題の整理や解決に向けたコンサルティングを行う。
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