【世界のマンション ~南台湾編~】

今回は、台湾の南端、恒春鎮から佳楽水にかけての地域をレポートする。高雄国際空港からさらに車で南下すること2時間超、南シナ海に面した小さな町である。
なお、台湾のマンションについては以前、台北の事情をレポートしている。
【世界のマンション ~台湾編~】日本から近い国「台湾」マンション管理は全然違う?
台北は言わずと知れた大都会である。一方、今回取り上げる恒春鎮は自然豊かな沿岸部に位置しており、マンションの事情も台北とはずいぶんと異なる。
縦割りの区分所有建物
日本の区分所有建物は、「住戸ごと」や「横割り(フロア)ごと」である場合が多い。しかし、南台湾の区分所有建物は「縦割り」なのである。日本の「長屋方式」「テラスハウス方式」と言った方が分かりやすいだろうか。
図1は、黄色、白、緑に色分けされているが、隣戸と壁を共有しており、私の感覚では1棟の建物である。白色部分の区分所有者は白色部分のみを所有している。他の色の部分と廊下や階段はつながっておらず、お互いに行き来はできない。給排水管も別であり、壁以外にいわゆる共有部分と呼べるような部分はない。さらにバルコニーの高さもそれぞれの色部分によって異なっているのがわかるだろう。
「建替えをするときはどうするのですか」と現地の方に聞くと「建替えや修繕が必要なときは、相手側の壁を半分まで削り取って壊してもよい」のだそうだ。日本のような建替え決議は不要である。むしろ、台湾の方はこの長屋形式のマンションを1棟の建物だとは思っていないという方が正しいかもしれない。

なお、図1は色が違うという分かりやすい建物を例として説明したが、外壁が同じ色の場合も多い。
屋上には貯水タンクがずらり
図2は、すべて壁が白い建物であるが、奥から3戸の区分所有に分かれている。壁の劣化度でその境界線がおわかりいただけるだろう。また、屋上にはそれぞれの住戸で使用される貯水タンクがある。上水道の水道管は水圧が低く、2階建てであっても屋上に貯水タンクが必要になるそうだ。日本なら低層階は直結方式、高層階は高架水槽での給水となるだろうが、縦割り区分所有という事情により各住戸ごとに屋上に貯水タンクが設置されている。街のいたるところにある屋上の貯水タンクが目に付く。

また、台湾や中国の一部の地域ではトイレにティッシュを流さず、汚物入れに入れる習慣があることはよく知られている。日本を旅行する人々がトイレットペーパーを流さず、汚物入れに入れてしまうことに困惑するレストランは多いと聞く。これらの旅行客対応として公共のトイレには、トイレットペーパーをそのまま流すように促す中国語の注意書きがあることもある。南台湾ではその習慣の通り、住戸のトイレでもティッシュを流すことはできない。そんなことをしたらすぐに詰まってしまうと言う。大きなゴミ箱にティッシュを入れるのはなかなか慣れずに苦労した。ゴミ箱を開けると相当な臭いに襲われる。
共稼ぎは大変、ゴミ出し事情
ゴミ出しは家事の中でも大変な仕事であるそうだ。日本のマンションの場合は、共用部分にある「ゴミ置場」に搬出すればよい。しかし、南台湾では「ゴミ収集車の作業員にゴミをリアルタイムで手渡す」ことが必要になる。
夕方、ゴミ収集車が近づいてくると有名なピアノ曲のメロディーが聞こえてきた。それを合図として、各家庭からゴミ袋を持った人が一斉に出てくる。まだ収集車が見えない段階でも、その場を離れずに待ち構えている光景が印象的だ。「逃してなるものか」といった意気込みさえ感じる。
ゴミ収集車の後部には、作業員が1人乗っている。その人に向かってゴミの袋を手渡したり投げたりしている。どんなにゴミがあってもゴミ収集車は停車してはくれない。ゆっくりと走り続けたままである。遅れて出てきた若い男性が収集車の後ろを猛ダッシュで追いかけていく姿も目にした。



なぜ手渡しなのだろうか。日本のようにゴミ置場からの搬出や回収は考えられないのだろうか。現地の方に伺うと次のような事情であることが分かった。
「以前は、ゴミ集積所があって、そこから回収していた。そうすると、ゴミをあさる人がいて街中がひどい臭いになる。特に台湾は生ごみの他に、トイレのティッシュなどもあるから、そりゃあひどい。だからリアルタイムで回収するようになった」とのこと。トイレ事情もこんなところにつながっていく。
「共稼ぎは大変。収集時間は決まっていると言っても、1時間くらいは前後する。回収時間に家にいないとゴミは溜まる一方。なんとか時間をやりくりして出すしかない。バイクにゴミを積んでゴミ収集車を追いかけたこともある」そうだ。行政と住民の葛藤が感じられる話である。
縦割り区分所有建物の将来
南台湾の人々の感覚はマンションであっても戸建て住宅とほとんど変わらない。何をするにも個人単位である。南台湾のマンションは運命共同体ではないのだ。
図6では、手前の住戸は人が住んでいないのではないかと思うほど老朽化していた。ガラスは割れ、中の家財も壊れかけているのが見えた。それでも近づくと人の気配がする。風貌からして所得の低い方であると思われた。しかし、奥の住戸はほぼ新築である。

こうした修繕や建物の状況の違いが、街の景観にちぐはぐな印象を与えていることは否めない。ところどころに老朽化した住戸があるうちはまだ問題にはならないだろう。しかし、多くの住戸が個人単位での修繕や建替えを諦めたとき、街全体が管理不全に陥る可能性もある。今、日本の抱える問題と同様のことが起きかねない。
南台湾は、美しい海と美味しい食事が魅力で、日本人にも人気のエリアである。何度でも訪問したいと思わせる場所だ。
いつまでもこの街の景観が保たれることを切に願うばかりである。
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マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業統括部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。