共用部分の活用~住込み管理員の居室は今、どうなっているか~

改修工事
共用部分の活用~住込み管理員の居室は今、どうなっているか~

1.管理方式について

中古マンションの仲介を目的としたインターネット上の広告では、管理方式について各社がさまざまな名称を使用している。例えば「常駐」「日勤」「通勤」などである。「常駐」と言うと24時間体制の管理方式のようにもとらえることができるが、マンションの規模などから推測して24時間勤務を表しているとは考えにくい広告もある。また、筆者が直接、不動産会社に「通勤管理とあるが、管理員は何をしているのですか。」と問い合わせたところ「清掃のようです。」と回答された。不動産広告上の管理方式は、誰が何をするのかが定義されているとは考えにくい。

ここでは、管理方式等の用語を次のように定義する。

管理員
日常清掃業務、受付業務、巡回業務など複数の管理業務を行う者をいう

通勤管理
管理員が1名または複数名による交代制でマンションに通勤し、管理委託契約に定められた時間に勤務する方式

住込み管理
管理員がマンションの管理員居室に居住し、管理委託契約に定められた時間に勤務する方式

巡回管理
管理員が勤務せず、清掃業務は清掃員、巡回業務は巡回員が実施する方式

当社受託管理マンションの管理方式は、図1のような割合となっている。現在は通勤管理が79%を占める。

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2.住込み管理の減少

昭和57年建設省「中高層共同住宅標準管理委託契約書」では、管理員業務の仕様について、次のように記載している。当時の建設省が通勤管理ではなく、住込み管理を例として使用していることから、この当時は住込み管理が一般的であったことがうかがえる。

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その後、平成15年国土交通省「マンション標準管理委託契約書」の改正からは、管理員業務の「業務実施態様」は、「通勤管理方式」に変更されている。通勤管理が一般的になったことによる影響ではないだろうか。
それでは、なぜ住込み管理から通勤管理に代わっていったのだろうか。当社では、住込み管理員が退職する度に、原則として管理組合に通勤管理への変更をご提案している。それは次のような理由による。他の管理会社でも同様ではないかと推測される。

①人手不足

住込み管理では、管理組合と夫婦2名での勤務が前提として管理委託契約を締結するケースが多い。この場合の住込み管理員は、夫婦2名のみの世帯であり、かつマンション以外に居住しないことが前提となる。多くの管理員は他の企業を定年退職し、第二の人生として管理会社に再就職される方が多い。この時にすでに持ち家があるか、親や子供と同居していれば住込み管理員は選択しない。つまり、限られた条件を満たす方を雇用しなければならず、採用が難しい。

②退職後の住居の確保

住込み管理員の場合、退職する時にはマンションから退去し、他に居住地を探す必要が生じる。高齢者ということもあり、親族と同居できない場合に賃貸住宅を探すのは困難である。退去の時期等については管理員個人の事情に左右されるところも大きく、管理組合と管理会社の管理委託契約だけでは割り切れない問題が生じることもある。

③待機時間の問題

マンション居住者の住込み管理員への期待は、「夜中でも何かあったら対応してくれる。」といういわば疑似的な24時間勤務とも言えるものがある。本来、勤務時間は管理委託契約に定められた時間であり、勤務時間外は住込み管理員であっても、マンションから外出したり、就寝していても構わないはずである。しかし、マンション標準管理委託契約書に記載のある、「緊急事態が発生したときその他やむを得ない場合においては、当該時間以外に適宜執務する」との条文に準拠して管理委託契約を締結している場合、住込み管理員は、常に管理員室もしくは管理員居室に待機していることが居住者から期待される向きもある。
さらに、警備員の仮眠時間に関しては、2017年のイオンディライトセキュリティ事件(千葉地方裁判所平成27年(ワ)1447号)をはじめとする判決で、一定の条件のもとで仮眠時間が待機時間とみなされる場合には賃金の支払いをしなければならないことが明確になった※。これらの判決に照らすと住込み管理員でも「緊急事態が発生したとき」の勤務は一定の条件のもとでは待機時間であるとも考えられる。この場合、労働時間が法定労働時間を超過することになりかねない。
こうした居住者からの「24時間対応」への期待と管理員の雇用環境との間にギャップが生じていた。

※関係判例 
①イオンディライトセキュリティ事件(千葉地方裁判所平成27年(ワ)1447号)
②大林ファシリティーズ事件(最高裁平成19年10月19日判決) 割増手当請求事件 平成17(受)384 最高裁判所
第二小法廷 平成19年10月19日
③オークビルサービス事件(東京高裁H16.11.24:労判891)
④互光建物管理事件(大阪地裁H17.3.11:労判898)
⑤新日本管財事件(東京地裁H18.2.3:労判916)
http://osrc.jp/past_consul/archives/2007/07/post_6.php
 

④機械警備の発達

1980年代に通信技術の発達とともに、緊急信号を機械が受信し、マンション近くの待機所から警備員が出動する形態の「機械警備」が一般的になっていった。当社の緊急センターであるライフネクスト24の前身となる組織は、1991年に開設している。住込み管理より機械警備を導入するほうが、安価であることもあり代替えの管理方法として用いられるようになった。
こうした状況から住込み管理は減少し、通勤管理に変更になっていったと考えられる。
当社において、住込み管理から他の管理方式に変更されていった時期は、図2の通りである。おおむね20年程前から変更が始まっている。マンション標準管理委託契約書の変更時期と重なっている。

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3.住込み管理員居室の活用

住込み管理から通勤管理に変更になったマンションでは、住込み管理員が居住していた居室が空室となる。この住込み管理員居室は現在どのように活用されているのだろうか。
当社管理マンションのうち、住込み管理から通勤管理に変更した34組合について、その後の活用方法を調査した(図3、表1参照)。

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①管理事務室・控室および倉庫・防災用倉庫に変更したマンション

これらの用途に使用されているマンションは、管理員居室の構造上、管理事務室と管理員居室が区分できず、他の用途に転用できないケースである。例えば、管理事務室を通らないと居室に入れない等の構造となっており、居住者が日常的に使用することが難しい場合に選択されている。

②賃貸用居室に変更したマンション

管理員居室が独立した住戸となっている場合に、管理組合が貸主となり、第三者に賃貸しているケースである。ただし、この用途を選択した5事例のうち、3事例において、マンションに居住している区分所有者の親族等の関係者に賃貸している。
住込み管理員居室の使用に関する決議がされた時の総会議案書、議事録等を調査すると「賃借人がどのような人物かわからないため不安である」「賃料の滞納が発生するのではないか不安である」等の賃借人に関する不安意見が出されている。こうした意見を踏まえ、管理組合ではアンケート調査を行い、区分所有者の関係者に「借りたい」という人物が現れてから賃貸用住戸への転用を決議している。賃料収入により管理組合の収益を改善しようとするだけでは、管理組合の合意には至りにくいことがうかがえる。
なお、区分所有者の関係者が居住している3事例では、いずれも現在の賃借人が退去した場合に、継続して賃貸用住戸とするのか、別の用途に転用するかは未定である。
 

③ゲストルームに変更したマンション

ゲストルームとして使用する場合、管理員または清掃員によるベッドメイキングや清掃にかかる時間に対して管理業務委託費が増額となる。また、シーツやベッドカバー等をクリーニングするにも費用がかかる。ゲストルームの使用を有償化してもこれらの経費が賄えるとは限らない。そのため、ゲストルームを選択した管理組合ではそれらの経費ができる限りかからないような工夫をしている。例えば、ゲストルーム使用後の清掃は、使用者が自ら行うこととする、布団やシーツは、使用者が持ち込むか、レンタル会社を管理事務室で紹介するなどの方法である。
新築マンションの場合、ゲストルームは「ホテルライクな生活」「豪華な共用施設」と広告し販売されていることが多く、布団の持ち込みやレンタルは居住者には受け入れられにくい。しかし、住込み管理員居室からの転用の場合には、管理組合の負担がないように検討されることから、こうした使用者負担のある利用方法も選択されるようである。
最近は、新型コロナウィルス感染拡大の影響もあり、他人が使用した布団は使用したくない、という意識も働き、レンタル会社により消毒された布団のほうがむしろ受け入れられやすくなっているかもしれない。
 

④仮住まいとして使用しているマンション

現在、仮住まいとして使用している例は1件であるが、他の用途に転用する前に一時的に仮住まいとして利用されていたケースも1件あった。
どちらのケースでも、マンション内で被災した区分所有者が一時的に使用している。同じ場所に継続して居住することができたため、当該区分所有者から感謝されているようである。
「災害」というキーワードから分類すると、倉庫・防災用備蓄庫、災害時の集合場所といった用途も含めて6事例となり、共用部分を災害に対する備えに使用しようとする意識の高まりが感じられる結果となっている。
 

4.まとめ

マンションの共用施設は、その販売された時代のニーズにあわせて設置されている。年月が経過するとその役割を終了する場合もある。こうした場合に、どのような転用方法があるのかを検討し、合意形成を得るのは難しい。「この施設があるから購入した。」「この管理方式だから購入した。」といった意見もあり、転用の検討が難航するケースもある。
しかし、こうした過程を経て合意形成に至ったマンションは、そのプロセスにおいて意見の集約や反対する区分所有者への丁寧な説明など、これからも続くであろう様々な決議においてその経験がプラスに作用するに違いない。

以上

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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