マンション事件簿── 緊急コールセンターが受けた実録とは

マンションを取り巻くリスク
マンション事件簿── 緊急コールセンターが受けた実録とは

問題が起きないことこそ良しとされるマンション管理。しかし、実際はそうはいかない。何も起こらないマンションなどあり得ないからだ。

人々が生活する空間では、毎日どこかで、何かしらの事件が発生するもの。その不測の事態に対し、24時間365日電話で対応する管理会社の緊急コールセンターには、日々様々な事件が通報されてきている。

今回は「マンションみらい価値研究所※1」がまとめた、緊急コールセンターの受信記録から、どのような事件が発生しているのかを紐解いてみる。

実録1:冬の寒空の下、ベランダから助けを呼ぶ女性の声

1月の寒い朝だった。Aマンション505号室の住民から、「503号室のベランダで女性が助けを呼んでいる。早く救出を!」という緊迫したコールが入った。

この事件の全容はこうだ。女性はいつもの通り夫を見送った後、洗濯物を持ってベランダで干していた。干し終わり振り返ると、閉めたはずのないガラス戸が閉まっており、そこには施錠がしてあった。

パニックになる女性。少しの時間だからと上着も着ていなければ、携帯電話も所持していない。室内には、やっと立ち歩きができるようになった我が子だけ。どうすることもできない。

地上を歩く通行人を呼び止めようにも、こういう時に限ってなかなか人が通らない上、ましてやここは5階、声も届きづらい。困り果てるも、もはや打つ手が見当たらない。極寒の中、薄着で震える身体にも限界が近づいている。できることといえば、パニックになりそうな自分をなんとか冷静に保つことぐらいだった。

それから数時間後、2軒先のベランダで人が出てくる物音がした。女性はこれを逃すまいとベランダから身を乗り出すと、助けを求めて大声で叫んだ。
「助けてください!! 503号室の者です。閉め出されています!」

これにより女性は無事救助された。

このケースを解説すると、室内からベランダのドアを施錠してしまったのは、幼い我が子だった。実はこれはよくある事例。

しかし、対処の仕方は一様ではない。この女性が住むマンションの場合、警備会社に専有部分の鍵を預けるサービスを導入しており、さらにその鍵をマンション内の管理事務室の警備会社の金庫で保管していたということも、迅速な救出につながった。

一方で、専有部分の玄関が施錠されており、鍵の預かりサービスが導入されていないマンションで発生した場合は、まず玄関の錠をこじあけることのできる協力会社の手配をするところからはじめなければならず、その作業費は高額に。場合によっては、出かけているご家族の帰宅を待つことを選択された事例もある。

マンションみらい価値研究所のレポートによると、緊急コールセンターで対応した専有部分のトラブルでは、「施錠・解錠依頼」は上位から5番目に多く※2、ベランダに閉め出されるケースはほぼ毎月のように発生しているという。幼いお子様のいるお宅にとっては決して他人事ではない話なのだ。

実録2:帰宅後に発見、洗面所天井から水が滴る被害

時刻は夜の9時過ぎ、Bマンションの810号室の方から入電があった。「帰宅したら洗面所の天井から、ポタポタと水漏れしています。上階の部屋は最近まで空き家でしたが、どうやら入居された様子です」という内容だ。

緊急コールセンターのオペレーターは、まず状況確認のため上階の部屋にあたる910号室に連絡を取ろうとしたが、入居間もない賃借人でもあり電話番号の登録がまだなかった。部屋の所有者宛に電話をしてもつながらない。そこで、とりいそぎ協力会社に被害宅の現地確認を依頼することとしたが、すでに夜は更けていたため、被害者の希望により、翌日の現地確認となった。

翌日朝8時、オペレーターはまず管理事務室に入電。出勤したばかりの管理員宛に、昨晩連絡の取れなかった上階の部屋の入居者とのコンタクトを依頼した。こうして、910号室の入居者に、宅内で漏水の可能性があることを伝えたがこぼし水には心当たりがないという。

ということは配管からの水漏れが原因ではないかと推測し、急ぎ漏水原因調査の対応ができる協力会社へ出動を要請した。

810号室の被害状況は、廊下のクローゼット、廊下照明付近、リビング横の和室、玄関入ってすぐの天井など広範囲で漏水が発生していた。協力会社の出動要員が吸水シートを使い養生を行った。

910号室の賃借人と連絡がとれた。仲介の不動産会社がリフォームを手配し、漏水事故の2日前に入居したばかりだった。不動産会社の担当者も立会いのもと、目視調査した結果、洗面台の排水管の床下付近で水漏れが確認できた。

しかし、床を開口しての調査は、部屋の所有者の許可を得ていないとのことで断られ、場所の特定までは至れず。原因箇所の補修までは、910号室の洗面台は使用しないという約束となった。

その後、910号室の所有者の指示により、不動産会社によって床下の調査が行われ、漏水箇所の配管を特定し補修を完了。810号室の被害箇所のリフォーム工事も行われたという。漏水発生から原因調査、そして補修完了まで、多くの人が関わり日数もかかる、そんな事件がマンションの漏水事故なのだ。

マンションとは、複数の住戸が壁・床一つで上下左右に接している共同住宅。漏水事故のリスクとも背中合わせの状態であり、加害者にも被害者にもなりうる。

例えば、「お風呂の湯を入れていることを忘れてしまい浴室から湯があふれ出てしまった」、「洗濯機のホースがはずれ床が水浸しになってしまった」など、いわゆる“こぼし水”であればまだ解決までの時間がはやい。厄介なのは、床下や洗面台・キッチン下などの見えない配管からの水漏れだ。

通常の生活では気付かないことがほとんどで、水が浸み渡り下階の天井にまで到達して初めて発覚する。さらには、具体的な漏水原因箇所を特定するのに、床や壁などのボードをはがずなど、調査は大がかりになりやすいのだ。

実録3:警察から「防犯カメラの映像を見せてほしい」という要請が

まもなく日付も変わろうとしている深夜、警察官より入電があった。「Cマンションで道路側に面している防犯カメラの映像の確認をしたい」。マンション近くで発生した交通事故の検証をしたいようだ。

緊急コールセンターへの問合わせは、該当のマンション内で起きたものに限らない場合もある。管理組合にてマンション内に設置した防犯カメラは、管理規約や細則にて、映像確認のルールが定められている。管理組合の担当事務所の連絡先および営業時間をお伝えして、緊急コールセンターの対応は完了となる。

マンションみらい価値研究所のレポートによると、緊急コールセンターで対応した防犯カメラに関する問い合わせのうち「警察からの映像確認依頼」は、「居住者からの映像確認依頼」や「防犯カメラ不具合・故障対応依頼」の数より多いと報告されている※3。

映像確認が必要となるような事件・事故は時間を問わず昼夜起きている。また、マンション現地の管理事務室の扉や掲示板などの目立つ場所には緊急時用に電話番号が案内されていることなどから、緊急コールセンターへの第一報が入ることが多いのだろう。

年間約4万件以上の電話対応を行っている緊急コールセンター。水が出る、電気がつく、ガスがつく、インターネットがつながる、テレビが観られる、自動ドアが開く、エレベーターが動くという日常生活の安心・安全を見守っている。時に事件が起きたとしても、迅速に解決に導いていく緊急コールセンターは縁の下の力持ちといえるのだろう。


参考
*1:マンションみらい価値研究所は、大和ライフネクストが設立したマンション管理業界初の総合研究所です。(2019年12月2日プレスリリース参照)
また、研究者等に向けての論文等の発表だけでなく、一般向けのWEBマガジン“マンション元気ラボ”を運営しています。

*2:>マンションみらい価値研究所>レポート>「緊急コールセンターの受信状況からみるマンショントラブル

*3:>マンションみらい価値研究所>レポート>「管理組合の防犯対策について

大野 稚佳子
執筆者大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

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