“金食い虫”、マンションの機械式駐車場をどうする?

組合運営のヒント改修工事
“金食い虫”、マンションの機械式駐車場をどうする?

「今後も車を持つつもりはないですね」──今年三十路の私が、上司や親戚から車を持つよう勧められた時にはこのように答えている。その理由は、車を使う頻度とコストパフォーマンスを考えると、カーシェアやレンタカーで十分だからだ。

父親世代は「ロマンがないな」と感じる方もしれないが、都内で働く同僚や学生時代の友人も車を持っているのは一握り。いわゆる「車離れ」だ。

日本自動車工業協会によれば、2015年時点で首都圏の自動車保有率は69.3パーセントだが、若者の車への関心度は30%程度といわれている。また高齢者の免許返納が注目される世の中を考えると特に都心部での車離れがより進んでいくのだろう。本コラムではこの車離れがマンションに与える影響について考えていこうと思う。

機械式駐車場の空き。赤字黒字のボーダーラインは?

車離れの結果、マンションで空き駐車場が増加してしまう。新築時に試算された管理費と修繕積立金には、駐車場利用料が収入として入ることを前提に考えられており、中でも一家に一台車を所有していた時代のマンションはその傾向が強い。そのため駐車場の空きが増えれば当てにしていた収入源がなくなってしまうという構図だ。

そして最も厄介なのは機械式駐車場の場合。収入が減るだけでなく毎月の保守費用が発生し、また耐用年数の25年~30年の間で1パレットあたり150万〜300万円程の修繕が必要になる。本来は収入源でなくてはならない駐車場利用料であるのに、空きの増加で赤字になってしまうことになる。

10パレットの機械式駐車場の年間支出は、保守費用に加え、30年間で割り込んだ修繕費用だけで年間約100万円かかることになる。利用料が月1.5万円だとした場合、すべて埋まっていれば年間180万円のあがりになるが、空きが40%以内だとトントン、それ以上だと修繕費用だけで赤字と思って欲しい。保守費用も入れて考えれば、なんとか空きを20%以内に抑えないといけない計算になるのだ。

機械式駐車場の規模縮小から考える

空き率を減らす方法は大きく分けて以下の2つになるだろう。

1つ目は空き率20%以内まで規模を縮小することだ。例えば機械式駐車場を3段式から2段式収容の規格に入れ替えてみる。そうすることで改造に費用はかかるが部品数が減り、保守費用修繕費用が下がる。私が担当するマンションでは、3段式で使わない部品含めて一斉に交換する費用よりも、2段式に新しく入れ替えした方が安くなるケースが多い。また、あまりにも空き率が高い場合は機械式駐車場を解体し、埋め戻して平置きにしてメンテナンスフリー化する方法もある。

2つ目は、空き駐車場を収益源として有効活用する方法だ。マンション管理組合が区分所有者以外から得た収益は、課税対象となる。例えば、外部に月極駐車場として、事業者にカーシェアやパーキングとして、貸し出した場合などだ。税金が発生しない形での有効活用としては、区分所有者が支払う形の来客用駐車場やトランクルームなどになる。

マンションによって異なるが、基本的な考え方としては規模縮小の工事を行い、空き台数を20%以内に近づけて、残りの空いているスペースを活用するという方針で考えれば、ほぼ間違いない。なぜなら、駐車場を他の方法で活用し、駐車場の利用料を上回る利益を生み出すことは稀だからだ。台数を減らす方が得策になるケースが多い。ただしそれぞれ注意しなければならない点があるので、検討する前に確認しておこう。

空き駐車場対策にも落とし穴あり? それぞれ注意しなければならないこと

規模縮小工事の注意点を挙げる。1つ目は、装置自体が受注生産のため、発注から納品まで4ヶ月程度かかることだ。こういった工事の検討を開始するのは、部品交換の時期が来たことや不具合が起きたことがきっかけになりがちである。しかし、どれだけ早く検討しても工事完了までに半年以上はかかるので、不具合が起こる前から早めに検討を開始しよう。

2つ目は各自治体によって駐車場の附置義務(駐車場を最低限設置しなければならない台数の決まり)があり、減らせる台数が限られる可能性があることだ。せっかくランニングコストが下がっても違法建築物となりマンションの資産価値が下がっては元も子もない。新築時に課せられる条件ではあるものの、検討前には各自治体の窓口に確認することをお勧めする。

シミュレーション結果によっては、契約台数よりも収容台数を減らした方が最適な状態になるケースもある。一部の方に外部駐車場へ移動していただくことになる。そうなると、合意形成のハードルが格段にあがってしまう。

意外と揉めやすいのは、従来よりも使いにくくなったり、利用料を値上げしたりしたケースだ。機械式駐車場を入れ替えると、技術基準の改定もあったので安全ゲートをつけなくてはならないケースもある。その場合、地上の車でも従前は不要だったゲートの開け閉めが必要になり、入出庫に時間がかかることにもなる。また3段式から2段式に変えた場合は、3段目に停めていた方が2段目にあがり、利用料が上がってしまうケースだ。そのため、いきなり総会に議題をあげるのではなく利用者に対して事前説明会を実施したほうがいいだろう。

次に、空き駐車場をモビリティスペースとして活用するケースでの注意点を挙げていきたい。まずは前述でも挙げた通り外部から収入を得る場合は法人税+申告費用などがかかる点である。またカーシェア、カーリースなどのモビリティ商材が溢れているため、収支のシミュレーションがかなり複雑になる。そのため、役員の負担が大きくなることは覚悟したほうがいい。そしてリスクとして第三者が敷地内に入りやすくなることやマンション住民以外からの物損事故の可能性も増える。そのためセキュリティ設備や損害保険の見直しなども視野に入れる必要がある。

まずはマンション内外のニーズを調査しよう!

とはいえ、最初に行っておきたいのは、マンション住民へのアンケートになる。車の所有有無やサイズ、今後の保有予定などをしっかり聞き出しておく必要がある。私が担当していた郊外のマンションでは、3段式の空き駐車場の地下2段が埋まっていなかった。当初の計画では、すべてを平置にする方向で検討していたが、アンケートを実施したところ「ハイルーフが停められないため、外部に停めている」という世帯が3世帯あった。急遽、地下をハイルーフ対応の2段式に変更することにした結果、収益も上がり、お住いの方のニーズにも応えることができたのだ。

また、外部ニーズを見極めることも重要だ。外部から収益を得ようとした場合、付近に月極め駐車場があるかどうか、料金や稼働状態を把握しておかないと適切なシミュレーションはできない。マンション内外の需要と供給のバランスを見極めていくのは収益事業の基本の基本だろう。収支計算なども含めてマンション管理会社やマンション管理士に相談しながら進めていくと良いだろう。

今からでも遅くはない。早期に検討して、機械式駐車場を「金食い虫」ではなく「貴重な収入源」に転換していきたいものだ。

金坂 将史
執筆者金坂 将史

大和ライフネクスト2012年入社。入社後人事部にて採用業務・人事労務を3年半経験し、技術系部門で修繕コンサルタントを4年半担当。現在は経営企画室にてブランディングなど広報活動に関する業務を行う傍ら、機械式駐車場空き対策専門チームにも所属。駐車場サブリースや駐車場診断などの提案を行う。

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