昨今とにかく多い、日本列島を襲う自然災害。予想を超える豪雨、続発する台風と、テレビをつけるたびに避難所生活の様子がニュースになっているような気さえする。「うちも大きな地震が来たら、すぐ避難所にいかないとね」と話し合っているご家庭も多いことだろう。しかし、ちょっと待って欲しいのだ。「木造住宅」と「コンクリート造のマンション」とでは、避難の方法が異なるからだ。マンション住民は避難所には行かず、被災生活期を自宅で送る、いわゆる「自宅避難」が今回のテーマだ。
これは、実際、避難所で生活された方の話だ。避難所とは、命を守れる安全な場所のこと。つまり非常に安心できるありがたい公共共同スペースだ。それだけは大前提であることは間違いない。しかしここでは、避難所での生活についての“リアル”を紹介してみたい。避難所の多くは、学校の体育館や公民館だ。広い空間を家族単位で小さく区画割し、仮の居住スペースを確保する。当然、壁がないためプライバシーなどない。場合によっては、横になって休めるスペースを確保できないこともある。トイレだって、地域全体が断水していれば、もちろん水で流せない。衛生面も劣悪なケースもある。それが嫌で、なるべくトイレに行かなくてすむように「水を飲まない」なんていう人も多いらしく、これでは当然健康上よくない。しかも配給される非常食は炭水化物中心になりやすい。抵抗力が低下したところに、何百人も寝泊まりする体育館では、風邪やインフルエンザなどの感染症が蔓延しやすい。それが致し方ない、避難所の環境だ。
「この地域の避難所は〇〇中学校です」マンションの掲示板にそんな案内が貼られているのを良く見かける。自宅近くの避難所を知ることは大事なことだ。当然、マンション住民も「大地震が来たら避難所の中学校に行く」のだと刷り込まれているはず。家族の合言葉でも「なにかあったら避難所の〇〇中学校ね!」なんて話し合っているかもしれない。まず、収容の余地があるかどうかわからない避難所の“キャパ”。人口密度が高いエリアや、帰宅困難者でごった返す都市部では、人がいっぱいで、収容してもらえるかどうかは分らない。また、災害時には想定外のことがたくさん起こる。例えば、電柱が倒れ電線が頭上にぶら下がり感電してしまうかもしれないし、うねりや亀裂の入った凸凹道を、足を取られながら歩かなければならないかもしれない。夜になれば、停電した真っ暗闇を懐中電灯の明かりだけで歩かなければならないかもしれない。それを押してでも「避難所へ行かねば」には「待った」と言いたい。なぜなら、堅牢なコンクリート住宅であるマンションなら、自宅にいる方が安全な場合が多いからだ。マンション住民向けの震災セミナーで、「大地震が来たら、あなたはどこで避難生活を送りますか?」と尋ねてみると、ほとんどの人が「避難所」と答えている。しかし避難所とは、雨風がしのげない、また次の余震で倒壊の危険性のある脆弱な建物に住む人を優先する場所。旧耐震基準のマンションではその限りではないが、大きな揺れで建物に亀裂や破損は生じることはあっても、倒壊し人が生き埋めになることはまずないと言われている。つまり、マンション住民は自宅で被災生活期を送れるということだ。
一方、マンションの弱みは「高さ」だ。通常時、エレベーターや給水ポンプなどは、電気の力で「高さ」を克服している。しかし、震災となれば電気・ガス・水道などのすべてのインフラが数日間停止してしまう。水、ポータブルガスコンロ、簡易トイレ(ビニール袋と固形剤がセットされたもの)、LEDのランタンなどがあれば、数日間は自宅で生活が可能。自宅であれば、わざわざ非常食を買い置きしなくても、日頃の食料もある。工夫すれば1週間程度は飢えずに温かいものを食べることができるだろう。また、寒さをしのぐ衣類や布団もある。プライバシーを気にせず、家族で身を寄せ合って耐えることができる。さらに、マンションにはコミュニティがあり、近所力を発揮して協力し合い、被災生活期をみんなで乗り切った事例もたくさんある。マンション防災の基本は、まずマンションの強み・弱みの実態を知ることにはじまる。強みを活かし弱みを克服すること。あなたが暮らすマンションの強みを活かす工夫は、あなた次第であるし、「災害=避難所への避難」という安易な発想で家族がより困難な状況に陥らないように、今一度話し合ってみても良いかもしれない。
マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。
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