マンションにおけるアスベスト調査の実態

マンションを取り巻くリスク
マンションにおけるアスベスト調査の実態

1. マンションとアスベスト

 「アスベスト」と聞くと吹付アスベストを想像する人が多い。「吹付」という名の通りモコモコとした綿のような状態の建築材料である。耐火性、防音性などに優れ、かつては建築材料や工業材料として幅広く用いられた。アスベストの歴史は古く、紀元前の古代ローマでも用いられていたという。しかし、近年は、アスベストの危険性が世界的に認識され、日本でも解体現場などで働く作業員の健康被害が知られるようになり、1975年以降に数次の規制強化が行われ、2006年には、アスベストの含有量が0.1%以上の材料の製造や輸入、譲渡、提供、使用が禁止され(以下、「2006年禁止措置」とする。)、2012年には、2006年禁止措置で除外とされた例外的な品目も禁止となった(以下、「2012年禁止措置」とする)。参考1

 アスベストは吹付アスベストのように「見てわかる」ような状態で存在しているものばかりではない。2006年禁止措置以前は、さまざまな建材等の中に混入され(言わば混じる形で)使用されていた。マンションの共用部分に限って言えば、鉄骨等の保温や外装、屋外のゴミ置き場の屋根などに使用されている例が数多く報告されている。2006年禁止措置以前に建築されたマンションにお住まいの方は、自宅の壁や床の中にアスベストが入っており、空気中に漂っているのではないかと不安になる人もいるかも知れない。こうした建材の中に存するアスベストは、日常生活を営んでいる間に飛散する可能性は低いとされるが、不安を感じる場合には、厚生労働省のサイト「アスベスト(石綿)に関するQ&A」などを確認の上、適切な専門家に相談されることをおすすめしたい。参考2

参考1 厚生労働省 「石綿 総合情報ポータルサイト」
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/about/
参考2 独立行政法人環境再生保全機構「アスベスト(石綿)による健康被害」→「昔住んでいた家に石綿が使用されていた可能性があり、病気にならないか不安です。https://www.erca.go.jp/asbestos/what/higai/q05.html
厚生労働省 「アスベスト(石綿)情報 」→「 アスベスト(石綿)に関するQ&A」→「(13)わが家はアスベストの危険性があるか。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/topics/tp050729-1.html

2. マンションにおけるアスベスト調査は2つ

 マンションにおけるアスベスト調査は2種類ある。
 ひとつが、「特殊建築物定期調査」である。これは、建築基準法第12条に基づき、建物の屋上を含めた外周やエントランス部分、廊下などの共用部分が調査される。なお、特定建築物定期調査の対象となる建物は、安全上特に重要とされる映画館や病院などについては政令で一律に指定されてきたが、住居については、地域の実情に応じて特定行政庁が分譲マンションや高齢者住宅などを調査対象に指定してきた 。調査の実施対象となった分譲マンションでは、管理組合が保管する特殊建築物定期調査報告書を見れば、アスベストに関する調査結果を確認することができる(表1参照)。しかし、この調査は、建材の中に含有されているアスベスト調査までは実施せず、目視点検にて「見てわかる」吹付アスベストやアスベスト含有吹付ロックウールの調査がされているに留まる。

image

 もうひとつが、大気汚染防止法に基づく「工事前アスベスト含有事前調査」である。
 2022年4月1日から、建築物等の解体・改修工事を行う受注者は、当該工事における石綿含有建材の有無の事前調査結果を行い、その結果を都道府県等に報告することが義務付けられた。参考3

参考3 環境省 石綿事前調査結果の報告について
https://www.env.go.jp/air/asbestos/post_87.html

 マンションでも、大規模修繕工事などではアスベストの事前調査を行い、その結果を工事会社に通知する必要がある。また、工事会社はその結果に基づき、定められた作業レベルに応じた対策を実施し、工事を行うことになる(表2参照)。
 ただし、この調査もマンションのすべての部位において調査する訳ではない。工事に関係する部分を調査しているのみである。どの部位を調査したのかについては、報告書に記載がされている(表3参照)。

image

image

含有位置と総評
①試験の結果、計3検体のうち、内壁から採取し天井・上裏から採取したリシン、吹付タイル及び外壁磁器タイルの計3検体についてアスベストの含有が認められた。
②アスベストが含有している建材は、天井・上裏から採取したリシン、内壁から採取した吹付タイル、及び外壁磁器タイルの下地材であることから、作業レベルは、レベル3であると判断できる。
③以上より、天井・上裏塗装部分、内壁及び外壁タイルにおいて粉塵の発生する作業をともなう際にはアスベストを飛散させないための措置が必要となるため、工事会社へ本調査結果を開示すること。

3. 当社管理受託マンションにおけるアスベスト調査の実態

 2006年禁止措置が適用されていると考えられるか否かの割合は、次の通りである(図1参照)。なお、厳密に言えば、建築物の着工年月日が2006年9月1日以降であることが確認できる物件が2006年禁止措置にあたるとされるが、ここでは竣工年月日から概要を把握した。

image

 2006年禁止措置以前のマンションは72.59%(2,882件)である。
 次に、2006年禁止措置以前のマンションのうち、特殊建築物定期調査または、工事前アスベスト含有事前調査のいずれかを実施したマンションを調査した。調査の実施があるマンションは73.80%(2,127件)であった。また、調査の結果、アスベストを含む建築材料(図2において「該当建築材料」という)ありのマンションは17.24%(497件)であった(図2参照)。

image

 工事前アスベスト含有事前調査の結果を受け、管理組合はどう対応しているのだろうか。「アスベストを含む建築材料あり」の497件のうち、「措置済み」または「措置予定あり」のマンションは1.41%(7件)に留まっている(図3参照)。490件のマンションでは、「措置予定なし」または「未定」となっている。

image

 建築材料にアスベストが含まれていても、措置を講じる義務が直ちに生じる場合とそうでない場合がある。そうしたこともあってか、多くの管理組合では措置の実施に至っていないと考えられる。「措置済み」または「措置予定あり」のマンション7件は、2006年禁止措置以前のマンション2,882件を分母とすると僅か0.24%である。

4. まとめ

 工事前アスベスト含有事前調査が始まってからまだ日が浅く、多くの管理組合は大規模修繕工事の段階になってはじめてこの調査の存在を知る。吹付アスベストしかイメージにない区分所有者は、「アスベストあり」と聞いて不安を抱くこともあるだろう。
 アスベスト調査の結果は、マンション標準管理委託契約書でも、管理会社が不動産仲介会社等から請求があった場合に、その内容を開示する項目に含まれている。参考4 管理会社から「アスベストあり」として不動産仲介会社に報告すると、「アスベストの詳細を教えてほしい」「なぜ措置しないのか」といった問い合わせが来ることもある。
 措置するに越したことはないが、管理組合にとってみれば、その措置に係る費用は、長期修繕計画にも含まれておらず、言わば「寝耳に水」の話である。緊急性がなければ措置しないという判断になるのも致し方ないだろう。
 区分所有者もマンション購入希望者も、漠然としたイメージでアスベストを捉えるのではなく、調査報告書などをよく確認しそのリスクを判断する必要がありそうだ。参考5

参考4 国土交通省 宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する省令について
(アスベスト調査、耐震診断に係る情報についての重要事項説明への追加)
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/01/010313_3_.html

参考5 国土交通省 アスベスト対策Q&A
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/Q&A/

 


◆7月開催セミナー◆
「理事のなり手不足」解消の一手~ 組織開発支援で、住民の未来を拓く ~
>詳細をみる

マンションにおけるアスベスト調査の実態[2.5MB]

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

田中 昌樹
執筆者田中 昌樹

マンションみらい価値研究所研究員。一般社団法人マンション管理業協会出向中。現在は、マンションみらい価値研究所にて、防災・減災に関する統計データの活用や居住者の高齢化や災害の激甚化などの社会的な課題について、調査研究や解決策の検討を行っている。

Contact us

マンションみらい価値研究所・
セミナー等についてのお問い合わせ