管理規約には、国土交通省からマンション標準管理規約が示されているが、使用細則にはこうした標準型はない。ただし、マンション管理に関わるさまざまな団体から、使用細則事例集が出版されていることもあり、こうした関連団体の使用細則(ひな型)を参考に作成している管理組合も多い。
しかし、管理規約とは異なり、使用細則は共用部分の使用方法など個々の管理組合の事情が大きく関係してくるため、なかなかひな型通りにはいかない。事例集もすべてが網羅されているわけではなく、まったく白紙の状態から独自の使用細則を制定しなければならないこともある。
※マンションが特定できる表記は変更または削除するなど一部編集を加えている
※すべての関係団体の使用細則事例集は確認できていないため、管理組合オリジナルではなく関係団体の作成した使用細則が含まれている場合がある
※あくまでも事例であり、すべてのマンションに推奨するものではない
1.使用細則の作り方
使用細則には2種類の作り方がある。ひとつが「統合型」、もうひとつが「分冊型」である。
統合型は、使用細則という1冊の書面にまとめ、条文立てをして作成する方法である。分冊型は、統合型の各条にあたる内容をそれぞれ「〇〇使用細則」として独立させ、何種類もの使用細則を作成するものである。それぞれ、次のような形式となる。
統合型の例
下記のように、1冊の書面に条文を並べて制定する形式
〇〇マンション使用細則
本マンションの居住者は次の事項を遵守するものとする。
第1条 (禁止事項)
本マンションの禁止事項は次の通りとする。
一 廊下で大声で話をすること
二 共用部分でタバコを吸うこと(以下略)
第2条 (リフォーム工事)
リフォーム工事をする場合は次の事項を遵守すること。
一 あらかじめ理事長に必要事項を記載した届出書を提出すること
二 床材の変更を行う場合には、隣接住戸に通知を行うこと(以下略)
第3条 (防犯カメラの再生)
防犯カメラを再生する場合には、次の手続きを経るものとする。
分冊型の例
下記のように、各使用細則にタイトルが付され、多くの種類の細則を制定する形式
〇〇マンションリフォーム工事使用細則
第1条 (目的)
本マンションの適正なリフォーム工事の実施のため、本細則を定めるものとする。
第2条 (届出事項)
リフォーム工事を希望する者は別紙様式を施工希望日の1か月前までに理事長に提出し、その承認を受けるものとする。
第3条 (承認または不承認)
届出をうけた理事長は、速やかに理事会を招集し、当該リフォーム工事の承認または不承認を審議するものとする。
〇〇マンション防犯カメラ運用細則
〇〇マンション集会室運用細則
〇〇マンション理事会運営細則
20年ほど前から、マンションのトラブルが増加するにつれ、統合型では「どこに何が書いてあるか分かりにくい」「すべての規定が書ききれない」などの理由から分冊型が増え始め、現在の新築マンションの使用細則はほとんどが分冊型となっている。
以下、使用細則の具体例を紹介する。
2.弔慰金規定
居住者間のコミュニティが形成できない、入居者名簿が集まらないなど、人間関係の希薄さが問題になっている一方、弔慰金規定や慶弔規定を制定している管理組合もある(図1参照)。使用細則を調査した1,697組合のうち、約5%にあたる81の管理組合でこの規定が置かれている。
弔慰金規定があるということは、居住者の中で誰が亡くなったのかを把握できているということであり、かつ管理組合役員の誰かは弔問に訪れているということでもある。いわゆる「濃い」人間関係のある管理組合であると想像される。
弔慰金規定例(分冊型)
第1条 (目 的)
この細則は、〇〇マンション管理組合の区分所有者等に関して、弔事が生じた場合に弔慰金を贈り、弔意を表す事を目的とする。
第2条 (対 象)
前条による弔慰金等の対象者は、〇〇マンション管理組合の区分所有者及び現に居住する区分所有者の家族とする。
第3条 (通 知)
弔事が発生した場合、遺族等はその旨を管理組合に通知するものとする。
第4条 (弔慰金)
通知を受けた管理組合は、別記に示す品を理事長または理事長の指定する者、もしくは生前に親交のあった者に託すなどの方法により、霊前に供えて弔意を表すものとする。
第5条 (経 費)
この細則の弔慰金等に要する費用は、当年度の管理費会計の中から支出するものとする。
第6条 (その他)
この細則に定めのない事項の運用については、理事会で決定する。
第7条 (付 則)
この細則は、〇年〇月〇日から施行する。
別 記
香典として 金10,000円
弔慰金規定(統合型)
第〇条
本マンションに居住する区分所有者および同居家族、賃借入居者および同居人家族の死亡に対し、一律、1万円を贈るものとする。
2. その他で特別に弔慰金を贈る場合は、理事会で決定するものとする。
3. 弔慰金は、一般会計(雑費)から支出する。
3.居住者名簿取扱い規定
管理組合役員の方々から、「居住者名簿を提出してもらえない、どうしたらいいか」という質問を受けることがある。災害時の避難やその後の復旧工事などのために、居住者名簿が必要であることはいうまでもない。しかし、なかなか提出されないという悩みを持つ管理組合は多いようである。
名簿を提出する居住者の側に立って考えてみよう。例えば、女性のひとり暮らしの場合、近所の人にもひとり暮らしであることを知られたくないと思う人がいるかもしれない。また、管理事務室に入室したことのない人であれば、保管場所の状況を知りたいと思う人がいるかもしれない。そうした不安を払拭しないと、なかなか提出はしてもらえない。
「災害時のために名簿の提出をお願いします」この一言だけでは名簿は集まりにくい。
居住者の不安を払拭するためのひとつの手段として、また居住者名簿の不正利用防止の観点からも、居住者名簿取扱規定を設定することは有効だろう。
居住者名簿運用細則(分冊型)
第1条 (趣旨・目的)
〇〇マンション管理規約(以下、「規約」という)第〇条(使用細則)の規定に基づき、〇〇マンションの居住者の高齢化・独居化に伴う孤立死対策、大地震・火災・台風等の災害時の安否確認や理事会、災害対策本部への情報提供を迅速かつ的確に出来るようにすることを主目的にして、居住者名簿を作成し、その運用・保管に関し必要な事項を定める。
第2条 (居住者名簿への記載事項)
居住者名簿に記載する事項は、別記様式「居住者届(兼変更届)に掲げるものとする。「居住者届(兼変更届)は4枚を複写し、それぞれ①管理組合、②管理会社、③閲覧用、④届出者控として保管する。
第3条 (居住者名簿の作成および更新)
理事長は、規約第〇条(届出義務)の規定に基づき第2条に示す届出書を1冊のファイルに綴じることにより居住者名簿を作成するものとする。
2. 理事長は、前項により作成した居住者名簿の内容を更新する必要があると判断したときは、理事会の決議を経て、更新することができる。
第4条 (居住者名簿の利用目的)
理事長は、第2条により作成した居住者名簿を次の各号に掲げる目的のために利用するものとし、他の目的に利用してはならない。
(1) 規約〇条(業務)に定める管理組合の業務
(2) 居住者の高齢化・孤立死対策、大地震・火災・台風等の災害時の安否確認や理事会、災害対策本部への情報提供
(3) 理事会の決議事項等を記した「理事会だより」の送付
(4) 規約〇条(業務の委託等)に定める管理組合業務の全部または一部をマンション管理業者に委託し、または請け負わせるとき、その「マンション管理業者」の業務上必要な情報提供
(5) 理事長が理事会の決議を経て行う地域の民生委員、自治会などへの情報提供
第5条 (居住者名簿の管理及び保管)
前条で運用を定められた者は、居住者名簿の原本を管理事務室内の安全に保管できる場所に保管するものとする。
2. 居住者名簿に掲載された個人情報を知り得た者は、この細則に定められた事項を遵守するとともに、居住者の個人情報を漏らしてはならないものとする。
3. 居住者名簿は、機密保持および名簿の流出を防ぐために、その写しは作成せず、また、電子データ化も行わない。但し、第〇条(業務の委託等)の規定に基づき管理組合業務の全部または一部をマンション管理業者に委託し、または請け負わせる場合は、管理業者と締結する管理委託契約の範囲内で写しの作成および電子データ化を認めるものとする。
第6条 (名簿の閲覧)
理事長は、区分所有者または利害関係人、若しくは警察等の捜査機関若しくは公的機関による法令等の規定に基づく理由を付した書面による閲覧請求があった場合は、居住者名簿を閲覧させることができる。ただし、正当な理由がある場合は、閲覧を拒否することができる。
2. 理事長は、前項に掲げるほか、災害等の発生および法令の定めがある場合にはその定めに従い、居住者名簿を閲覧させることが居住者の利益に資すると判断したときは、「居住者届(兼変更届)」③閲覧用を関係機関に閲覧させることができる。
3. 理事長は、前2項の閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
4. 第1項の閲覧に供する居住者名簿の項目は、居住者の氏名および第3条「居住者届(兼変更届)」により居住者から届け出のあった連絡先のみを記載したもの(「居住者届(兼変更届)」③閲覧用)とする。
5. 第1項および第2項により居住者名簿を閲覧した者は、閲覧の目的以外にこれを利用してはならない。
第7条 (規定外事項)
この細則に定めのない事項については、規約または他の使用細則の定めるところによる。
第8条 (細則の改廃)
この細則の変更または廃止は、理事会の決議を経た後、総会の決議によるものとする。ただし、この細則の変更が規約の変更を必要とする事項であるときは、規約の変更を経なければ、行うことができない。
4.資金運用、資金管理規定
管理組合の資産運用は、管理組合が収益事業を目的とした団体でないことからノーリスクが前提であるため、ローリターンであることが多い。定期預金や住宅金融支援機構のマンションすまい・る債などが主な資金運用先となっている。その都度、総会の決議により資金運用先を決めている管理組合が多い中、将来の金融不安に備えて使用細則で定めている例もある。
また、管理会社による管理組合の財産棄損については、マンション管理適正化法により重い行政処分が課され、国土交通省のホームページにて社名が公開される。
一方で、管理会社による財産棄損ばかりでなく、管理組合役員による財産棄損事故が発生していることも事実である。
マンション管理に関わる専門家の方々から聞いた事例を紹介しよう。
・資源ごみの回収に伴う協力金の支払いを受けるために、通帳と印鑑の両方を理事長が保管する口座が存在した。理事長が理事会に無断でその口座にかかるキャッシュカードを作り、資金を流用していた
・理事のひとりが管理組合が主催するイベントの準備のために必要な資金の仮払いと称して、管理会社に指示して別口座に管理組合資金の一部を振り込ませた。そのまま清算せずにマンションを売却、転居し、行方不明となった
それぞれの事例については、どこかのタイミングで誰かが不正に気が付くことができたかもしれないが、他の役員や管理会社などの第三者の目に触れない、属人的な財産管理に陥っていたことが原因のひとつだと考えられる。こうした事故を防止するためにも、財産の管理方法について使用細則に定めておくことが有効だろう。
資金運用細則(分冊型)
第1条 (趣 旨)
この細則は、〇〇マンション管理規約(以下「規約」という。)第〇条の修繕積立金の運用業務および管理費・使用料の運用業務の適正を確保するため、必要な事項を定めるものとする。
第2条 (基本方針)
管理組合が次条に規定する資金を運用する場合は、当該資金が組合員共有の財産であることに鑑み、事業計画及び予算に基づいて執行することを旨とし、その運用に際しては元本の安全性を確保することを最優先するものとする。
第3条 (管理組合資金)
管理組合が運用する資金は次のとおりとする。
(1) 規約第〇条に規定する管理費
(2) 規約第〇条に規定する修繕積立金(修繕積立一時金を含む)
(3) 規約第〇条に規定する使用料及び専用使用料
第4条 (取引金融機関)
管理組合が取引できる金融機関等は次のとおりとする。
(1) 日本国内に本店を置く銀行
(2) ゆうちょ銀行
(3) 住宅金融支援機構
2. 管理組合は、前項に規定する金融機関等と新たな取引を開始する場合、または前項以外の金融機関等と取引を開始する場合は、総会の決議を経なければならない。
第5条 (金融商品)
管理組合が第3条の資金を運用できる金融商品の範囲は、次のとおりとする。
(1) 預金
(2) 郵便貯金
(3) 国債
(4) 住宅金融支援機構マンション修繕債券
(5) その他元本保証が確実で、運用に関し理事会で承認されたもの
2. 前項の金融商品で資金を運用する場合は、理事会の承認を経なければならない。
3. 管理組合は、第1項に規定する金融商品以外の金融商品で資金を運用する場合は、総会の決議を経なければならない。
第6条 (取引の停止又は解約)
管理組合は、前条に規定する金融商品であっても、元本の安全性に明らかな懸念が生じたと判断される場合は、理事会の決議を経て、取引の停止又は解約をすることができる。
第7条 (通帳等の管理)
管理組合は、理事長及び会計担当理事を第3条に規定する資金の運用の管理責任者として指定するものとする。
2. 理事長は、金融機関等との取引印を保管する。
3. 会計担当理事は、金融商品に係る通帳若しくは証書又は証券等(以下「通帳等」という。)を保管する。ただし、理事会の決議を経て、第三者にその保管を委託することができる。
第8条 (報 告)
理事長は、管理組合の取引金融機関及び金融商品種類及び残高に関する書類を保管し、組合員から閲覧の請求があったときは、正当な理由がある場合を除いて、これを拒んではならない。
2. 理事長は、第5条第2項及び第3項の規定により資金を運用したとき若しくは第6条の規定により銀行等を変更または解約したときは、速やかに、その旨を組合員に通知しなければならない。
第9条 (細則外事項)
この使用細則の定めに疑義が生じたとき、又は使用細則に定めのない事項については、管理規約第〇条によるものとする。
第10条(細則の改廃)
この細則の変更又は廃止は、総会の決議を経なければならない。ただし、この細則の変更が規約の変更を必要とする事項であるときは、規約の変更を経なければ、することができない。
5.使用細則の効果
使用細則の制定は、管理組合の課題解決に役立つ手法のひとつだ。ルールを作るというだけでなく、そのルールを決議するまでのプロセスには、理事会決議、総会決議、それぞれの議案書の配付や議事録の配付などがある。それらの手続きを通じて、総会すなわちマンション住民の合意に基づいて決めた「守らなければならないこと」として認知され、問い合わせや事象が起こった際も使用細則に基づいて対応することができる。掲示板にお知らせを貼ることや、各戸に広報文を投函すること以上の効果があることは間違いない。
ただし、使用細則もまた「作って終わり」にならないよう、定期的な見直しが必要だ。
マンション標準管理規約は国が見直しを行い定期的に改正されることが契機となり、各管理組合が見直しをすることになる。しかし、使用細則にはその「契機」がない。管理規約の見直しと同時に使用細則を見直したり、〇年に一度とタイミングを決めて内容の確認をしたりなど、有名無実化しない工夫も必要だろう。