新築マンションとは一般的に販売中のマンションを指す用語である。ひとたび分譲主から購入者への引き渡しが始まれば、管理組合が成立し、一般的には「既存マンション」と呼ばれるようになる。
「既存マンション」になると、意思決定の主体は管理組合となるため、分譲会社がルールを変更したり共用部分に手を加えることは当然できない。しかし、引き渡し後しばらくの間は区分所有者の意識も「お客様」のままである。例えば、「引っ越しの荷物が部屋の中に入り切らないので一時的に集会室に置かせてほしい」「引っ越しに時間がかかるので来客用駐車場を丸一日確保したい」などといった、使用細則では認められていない使用方法を分譲会社に要望してくることもある。「お客様」であるという意識が残っており、自分たちで合意形成をするという意識が醸成されていないからだ。
こうした要望も月日が流れるにつれ、やがてなくなっていく。新築マンションが名実ともに既存マンションに転換できたということである。この転換点はどこにあるのか。筆者は「設立臨時総会」であると考えている。
1.設立臨時総会の開催はいつごろか
分譲主から引き渡しを受けたあと、最初に開催されるのが「設立臨時総会」である。区分所有者は、引き渡し後しばらくの間は引っ越しやら家財道具の整理やらで何かとバタバタしていることが多い。その時期を過ぎ、落ち着いてきたところで、設立臨時総会を開催し、管理組合が始動することになる。
2021年4月1日から2023年3月1日までに引き渡しが開始された新築マンションのうち、2023年3月31日までに設立臨時総会が開催されたマンション66棟について調査した。
引き渡しから設立臨時総会までの経過月数は次の通りである(図1参照)。
引き渡しの翌月に設立臨時総会を開催している管理組合はなく、最多は6カ月経過後、平均は5ヵ月経過後であった。新型コロナウィルスの感染防止の観点から総会の開催を延期した結果、13ヵ月経過した管理組合も1件あった。つまり、管理組合が意思をもって活動をはじめるには、おおむね半年後、最長で1年かかるということになる。
また、管理会社はマンション管理適正化推進法の規定により、新築マンションにおいては1年以内に重要事項説明会を開催しなくてはならない。管理委託契約の締結には総会の決議が必要であるから、重要事項説明会と総会は同時に開催されることが多い。そのため、設立臨時総会も最長で1年以内には開催する必要があると考えられる。
2.設立臨時総会の議題
設立臨時総会の議案にはどのようなものがあるのだろうか。新築マンションとして管理を始めるに際し、最低限必要な議案は次の4議案である。
①予算案の承認
②第1期役員選出
③管理会社との管理委託契約の締結
④長期修繕計画、積立金計画の承認
調査した66管理組合では、この4つの必須議案はすべて決議されている。そのほかには、次のような議案があった(図2参照)。
WEB会議システム導入
調査した2020年~2021年が新型コロナウィルスの影響を受けている年であり、設立臨時総会後の管理組合活動を非対面型にて円滑に行うことを目的に、WEB会議システムの導入が審議されている。
管理規約・使用細則変更
原始規約の作成段階では想定しきれなかった問題が生じ、設立臨時総会の議案となっている。例えば、次のような議題である。
①来客用駐車場について、当初の想定よりも多くの利用があり、管理事務室に届出をしなければ予約ができないことに対する不満の声が上がっていたため、使用細則で定めた予約方法を変更しようとするもの
②パーティルームの利用は「3時間ごと」の設定であったが、より短時間での利用希望者が多かったため、「1時間ごと」に変更しようとするもの
原始規約は、売買契約時に分譲会社から区分所有者(予定者)に対して交付される。分譲会社が作成するのではなく、多くは管理を受託する予定の管理会社が分譲主と協議して作成している。管理会社は同規模・同地域の類似マンションの事例などから区分所有者の利用方法などの傾向を想定し、管理規約や使用細則を作成する。しかし実際に管理がはじまると、こうした想定にあてはまらない事象も発生する。
設立臨時総会は想定と現実の調整の場でもある。設立臨時総会が長い間開催されないと、区分所有者の不満が蓄積し、その後に発足する理事会に不満の矛先が向かうことになりかねない。管理組合活動がスムーズに開始できるようにするためにも、設立臨時総会での「想定し得なかった事項の補正」は重要である。
業務委託契約の締結・変更
管理会社と締結する管理委託契約とは異なり、他の事業者との契約を締結するための議案である。例えば、分譲主がある事業者と契約を締結し、管理組合はその地位を承継していたが、別の事業者との契約に変更し、新たに契約を締結するものなどがある。これも当初は想定し得なかった業務が発生するなどのことが起きた場合に議案となっていることが多い。
その他
その他に分類されている3件は「収益事業の開始」「会計年度の変更」「町会加入」についてである。収益事業は太陽光発電による売電を始めようとするもの、会計年度の変更は、引き渡し時期の変更に伴うものである。
工事関係
新築マンションは引き渡し後、分譲会社のアフターサービスを受けられるため、当面の間は工事が発生しないと考えられている場合が多い。しかし、災害による破損や通信設備の追加工事など、アフターサービスの対象とならない工事が決議されている。
設立臨時総会の議案は、20年後、30年後の大規模修繕工事に関する議案などと比較すると、専門的な内容はなく、金銭の支出を伴う議案でも多額の費用を要するものは含まれていない。それでも、総会の終了時刻を確認すると、相当な時間を要したと思われる例もある。「総会とは何か」「区分所有者とは何か」といった用語の解説からはじまることもあり、審議に時間がかかるのだろう。
さらに、議案とは直接関係のないクレームや不満を管理会社や分譲会社に対してぶつけている発言もある。設立総会の最中は、区分所有者の意識が「お客様」から「組合員」にまだ転換できていないことの現れとも言える。
しかし、次第にネガティブな発言も、管理組合での解決を探る方向に進んでいく。設立臨時総会が終了すれば、理事会が活動をはじめることになる。設立臨時総会は区分所有者の意識の転換の場、新築マンションからのターニングポイントになっている。
「当社は売りっぱなしにしません」という分譲会社の販売広告を見かけることがある。販売後のことまでを考えるその姿勢は大切であるが、いつまでも分譲会社がマンションに関わり続けると管理組合が育たない。管理組合はいずれひとり立ちしなければならない。早い段階で「お客様」から「区分所有者」に意識を転換することも必要である。