1.はじめに
マンション標準管理規約(単棟型)、(以下「標準管理規約」という)では、第37条(役員の誠実義務等)第2項に、「役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払と報酬を受けることができる。」と定められており、管理組合の役員が報酬を受け取ることを認めている。また、多くの管理組合の管理規約ではこの条項が存在している。
役員報酬が支払われている管理組合はどのくらいあるのか、その対象者や金額はどれくらいなのか。当社が管理する管理組合の事例をもとに、その実態を調査した。また、防火管理者への報酬の実態についても紹介する。
2.役員報酬に関する調査結果(全体)
当社管理の3,904組合の会計データから調査したところ、役員報酬の支払がある管理組合は、368(9.4%)であった。10組合に約1組合の割合ということになる。
国土交通省の発表している平成30年度マンション総合調査(以下、「総合調査」という)では、役員報酬の支払い状況について、「報酬は支払っていない」の割合は、完成年次が新しくなるほど高くなる傾向にあり、また、総戸数規模が大きくなるほど低くなっている、という結果が報告されている。
この総合調査の結果を言い換えた以下二点を仮説とし、2020年1月時点の当社管理の管理組合における実態を調べた。
(仮説1)完成年次が新しくなるほど、役員報酬を支払っている傾向が低い。
(仮説2)総戸数規模が大きくなるほど、支払っている傾向が高い
まず仮説1については、表1に完成年次別の報酬有り/無しの割合を示した。仮説のとおり、完成年次が新しくなるほど役員報酬を導入している管理組合が少ないことがわかる。築年数を重ねるほど、ハード・ソフト両方で、管理組合の課題は増え、役員の業務量が増すためであろう。また、組合員の高齢化や現に居住しない組合員の増加に伴い、役員の成り手に偏りが生まれることから、役員報酬というかたちで不平等感を解消しているとも考えられる。
続いて、仮説2については、表2に戸数帯別の報酬有り/無しの割合を示した。こちらも仮説のとおり、総戸数規模が大きくなるほど、役員報酬を導入している管理組合の割合は高くなる。戸数に比例して検討課題は増え、その内容も複雑化することは予想でき、それによって役員の責任と拘束時間が増すからであろう。また、輪番制を導入していたとしても、総戸数規模が大きくなると、輪番が一周し、組合員全員が役員を経験するまでには相当な周期が必要となることから、その不平等感の解消にも、役員報酬が役立っていると思われる。
3.役員報酬に関する調査結果(サンプル調査)
報酬を導入している368組合のうち、140組合について、より詳細な実態を調査した。総会議案書ならびに管理規約集および各種細則を確認した。
3-1.役員報酬の導入を決定したのはいつか
役員報酬の導入が総会で決議された期を調査したところ、図1のとおりであった。突出して数が多かったのは、第1期であった。なお、マンションが分譲された当初から役員報酬を設定している事例はなく、設立臨時総会で選任された役員メンバーが検討を行い、第1期通常総会で上程し可決したものばかりだ。これらの管理組合の第1期の年代を確認したところ、1990年代から最近の2010年代のものまで、年代に大きな偏りはないため、管理組合設立時の時代背景の影響はないことが伺える。また、第2期から第4期にかけて導入している例も比較的多く、管理組合の歴史の浅い時期から役員報酬の導入に前向きである傾向がわかる。
3-2.役職ごとに報酬額は異なるか
役員報酬と一言でいっても、その内訳は管理組合によって異なる。図2のとおり、「各役員一律」、「役職ごとに異なる」、「報酬の支給は全員だが、理事長のみ金額設定が異なる」がそれぞれ約30%で、「一部の役職のみ支給」は8%という結果だった。
「役職ごとに異なる」の場合は、理事長・副理事長・その他の理事という順番に、報酬金額を下げ、段階的な金額設定にしている管理組合が多かった。また、定期的な業務や責任が増すという理由から、会計担当理事・書記担当理事・防火担当理事などの役職については、その他の理事よりも報酬を上乗せしている事例や、理事長・副理事長は年額支給としその他の役員については理事会・総会の1回の出席につき金額を設定している事例も見受けられた。
「一部の役職のみ支給」の場合は、理事長のみ支給の事例が多く、理事長のほかに副理事長または監事という役職にのみ支給している事例があった。
3-3.各役員一律の場合の金額設定
「各役員一律」の場合の役員報酬のうち、年額設定(月額設定の場合は12倍したものを含む)の場合の平均金額は、12,130円/年(1,011円/月)であった。一方で、固定報酬ではなく理事会や総会に出席した1回あたりの金額を設定している場合の平均金額は、2,929円/回であった(表3参照)。
参考までに、総合調査では、「各役員一律の場合の役員の報酬額平均は約3,900円/月である。」とあり、月額で比較すると今回の調査結果のほうが少ない金額となった。おおよそ月1回の理事会と想定すると、1回あたりの金額も同様に、総合調査結果を下回る。
3-4.各役員一律ではない場合の金額設定
「役職ごとに異なる」・「理事長のみ金額設定が異なる」・「一部の役職のみに支給」の3つをまとめ、金額設定を見てみると、年額設定(月額設定の場合は12倍したものを含む)の場合の平均金額は、理事長39,247円/年(3,271円/月)、副理事長18,688円/年(1,557円/月)、その他の理事14,513円/年(1,209円/月)、監事15,963円/年(1,330円/月)であった。一方で、固定報酬ではなく理事会や総会に出席した1回あたりの金額を設定している場合の平均金額は、理事長2,787円/回、副理事長1,731円/回、その他の理事1,400円/回、監事2,150円/回であった(表4参照)。
なお、総合調査では、「役員報酬が役員一律でない場合の報酬額平均は、理事長が約9,500円/月、理事が約3,900円/月、監事が約3,200円/月である。」とあるが、いずれにしても今回の調査結果はこれを下回る。
前述の各役員一律の場合同様、総合調査との差が出ている理由として考えられるのは、総合調査ではマンション管理会社に管理事務を委託していない管理組合(マンション管理業者に基幹事務を委託していない管理組合)が含まれており、そういった管理組合は役員の負担が増す分、役員報酬も高い設定であろうということが上げられる。また、今回の調査対象の中には、固定報酬に加え、出席回数に比例する報酬も支給する設定になっている管理組合も存在し、その数は10組合(7.1%)だったが、出席頻度により金額が変動してしまうため今回の集計では、年額設定の対象として取り扱ったことも差があるように見える要因かもしれない。
3-5.各種事例
調査の中で、目に留まった事例をいくつか紹介したい。
● 年額または月額の設定をしている管理組合では、支給条件として、理事会・総会の年間合計回数に対する出席率を定めている事例がある。出席率の下限としては、「50%(2分の1)」、「67%(3分の2)」、「75%(4分の3)」、「80%」が目立った。「出席80%以上で満額、50%以上80%未満は半額、50%未満は無し」のように、出席率を段階的に判断する事例も複数見られた。
● 報酬の導入開始当初は年額設定であったが、理事会に出席しない役員がいた場合の不平等さが問題視され、出席した1回あたりの金額設定に変更をした事例もあった。
● 年数とともに金額設定が複数回見直された事例があった。その多くが、報酬の増額であったが、中には管理費会計の逼迫を理由に、減額となった事例もある。
● 外部区分所有者や役員辞退者による協力金制度も導入されている管理組合もあり、その数は21(15%)であった。中には、役員報酬の制度と同時に開始している事例もあり、報酬の原資とする意向であることが伺えた。
4.防火管理者への報酬に関する調査
当社管理の3,904組合の会計データから調査したところ、防火管理者への報酬の支払がある組合は、296(7.6%)であった。集計した条件としては、各管理組合の支払の履歴において「報酬」・「手当」・「日当」・「謝礼」と表記されたものを対象とした。防火管理者資格取得のための講習費やテキスト代・交通費等、実費の精算を表す記載だったものはその金額の一部が報酬だったとしても今回の集計結果では対象外となっている。また、役員が防火管理者を兼ねる場合で、役員報酬の位置づけとして支払っているものも数に含んでいない。
その結果、防火管理者報酬の平均値は、年額15,598円であった。中央値は、年額15,000円であったことから、桁違いに報酬金額が高いものや低いものもはなかったと言える。
役員報酬では傾向が確認できた「完成年次別」と「戸数帯別」については以下のとおりであった。表5では、完成年次が新しい方が報酬有りの割合が高い傾向がある。新築のマンションでは、防火管理者資格を持った者もしくは新たに資格取得を引き受ける者を募る必要があり、それにあたり報酬を提示する管理組合が多いのではないかと推測する。
一方で、戸数帯別で見ると、表6のとおりだ。50戸以下のマンションが51~200戸と比較して少ないのは、消防法の規定によりそもそも防火管理者の選任義務がないマンションを含むからである。201戸以上で報酬有りの割合が減る理由については、見当がつかず、戸数規模については、防火管理者への報酬有無に影響を与える要素は少ないと判断する。
5.調査結果を受けて
役員報酬が導入された際の議案を読むと、その金額設定には、その当時の総合調査(国土交通省が5年ごとに実施)の結果を参考としているものが複数あったが、あくまでも参考であり、最終的には報酬の出どころである管理費会計の収支状況を考慮して設定されているものと思われる。また、調査結果の金額だけを見ると、拘束時間や責任などと比較して、役員報酬自体が決して積極的に役員を引き受ける理由には値しないと感じるのは私だけではないだろう。この状況を裏返すと、管理組合は全組合員により運営されるべきという考え方の団体なのだと改めて実感する。
今後の社会変化により、ますます役員の成り手不足が際立つようになり、解決策を模索する必要性が生じているが、冒頭で紹介した標準管理規約第37条のコメントには、こう書かれている。
「マンションの高経年化、区分所有者の高齢化、住戸の賃貸化・空室化等の進行による管理の困難化やマンションの高層化・大規模化等による管理の高度化・複雑化が進んでおり、マンションの円滑な管理のために、外部の専門家の役員就任も考えられるところである。この場合、当該役員に対して、必要経費とは別に、理事会での協議・意見交換の参画等に伴う負担と、実際の業務の困難性や専門的技能・能力等による寄与などを総合的に考慮して、報酬を支払うことも考えられる。」
現状の当社管理の管理組合では、外部の専門家が役員に就任しておりその報酬が支払われている管理組合は、片手で数えられるくらいだが、そう遠くない将来、組合員が役員に就任するという常識は塗り替えられ、報酬の支払先は外部の専門家へと変わっていくのかもしれない。
以上