1.総会議案の調査の目的
管理組合の総会では何が決議されているかを分析し、議案の傾向から管理組合に生じている問題は何か、解決に必要な情報は何かを考察する。
● 調査対象期間
2007年10月~2019年9月までの12年間
● 調査対象マンション
当社管理受託マンション(調査対象期間に解約となったマンションを含む)
団地型の場合は棟総会、複合用途型の場合は部会等を含む6,344組合(棟・部会)
● 調査対象議案
毎年、定例的に議案となる下記の議案を除く56,836議案 (否決を含む)
①決算の承認、予算案の承認
②管理会社との管理委託契約の締結
③次期役員選任
● 調査方法
総会議案のタイトルからキーワードを抽出し分類する
2.調査結果
総会で決議される議案を大きく下記のように分類した(表1、図1参照)。
上記の分類のうち、工事関係、管理組合運営諸決議、管理規約・使用細則・その他ルール改正、契約の締結については、さらに小項目に分類する。
①工事関係の決議について
工事関係の議案の内容と議案数は下記の通りである(表2参照)。なお、グラフは200以下の議案についてはその他として表示している(図2参照)。
■考察
全体を通して
大規模修繕工事に関する決議が14%を占める。管理組合にとっても最も重要な決議であることに異論はないだろう。工事関係の議案の傾向としては、原状回復のための工事だけでなく、照明器具のLED化(6%)、電子ブレーカーの導入(4%)等、省エネに関する議案やインターホン関係工事(6%)、給水方式変更(3%)等、機能的劣化を防止するための議案が多くなっている。新築マンションには「当たり前」のように設置されている設備等への改修に関心が高いことが推測される。
専有部分の設備の一斉交換
ガス漏れ警報器(3%)、網戸・戸車の一斉交換等、専有部分内に設置されている設備等を全住戸一斉に交換する工事を総会決議にて実施している。区分所有法上、異論も多い決議であろうが、マンション全体の安全性の向上、住戸あたりの費用の削減を目的として実施されている。
②管理組合運営諸決議について
管理組合運営諸決議の議案の内容と議案数は下記の通りである(表3参照)。なお、グラフは100以下の議案についてはその他として表示している(図3参照)。
■考察
修繕積立金の改定について
国土交通省の平成30年度マンション総合調査では、修繕積立金が不足していると回答している管理組合は34.8%である。当社管理受託マンションでは、修繕積立金が不足する場合に担当者から値上げの提案を行っていることもあり、概ね値上げされているように推測できる。
携帯電話基地局関係について
管理組合の収益を増加させる方法として屋上に携帯電話基地局を設置する管理組合がある。この導入に伴い、収益事業の開始に関する決議も必要になる。こうした関連性を持つ議案としては他に、滞納者に対する対応と損金処理、機械式駐車場埋め戻しと駐車場に関する料金改正や利用方法改正等がある。管理組合として対応する事象は1件であっても総会決議は複数の議案に及ぶことがあり、関連する決議に漏れや抜けがないように注意する必要があろう。
③管理規約・使用細則・その他ルール改正
管理規約・使用細則・その他ルール改正の議案の内容と議案数は下記の通りである(表4参照)。なお、グラフは100以下の議案についてはその他として表示している(図4参照)。
■考察
住宅宿泊事業法への対応について
2019年3月末日を目途として、住宅宿泊事業法による届出開始前までに住宅宿泊事業を可とするか不可とするかを総会にて決議する必要があった。法律の施行前に不可としたい管理組合は臨時総会を開催するなどして規約の改正を行った。これは同法への対応によるものであり、恒常的な議案とはならない。しかし、当時は「短期間に総会決議を行うことは難しい」と考えられていたが、ほとんどの管理組合にて期日通りに決議が終了している。今後も法改正等があれば、それに対応するために管理規約の変更決議は可能であることが分かった事例である。
駐車場に関する料金改正や細則改正
駐車場に関する料金改正や細則改正(9%)と自転車置場に関する料金改正や細則改正(8%)を合計すると17%の管理規約の改正が駐車場、自転車置場、バイク置場に関する議案となる。日常的に使用する共用部分であり、不都合な点が目につきやすく関心が高いことがわかる。
全面改正、標準管理規約改正に伴う改正
全面改正の議案では、標準管理規約改正をきっかけとして改正箇所をすべて反映し、さらに管理組合独自の条文改正を追加し、管理規約集の冊子を入替える形で行われている(4%)。また、管理規約の入替えまでは至らずとも、標準管理規約の複数の改正箇所を反映させた改正も行われている(2%)。標準管理規約の改正が管理規約の見直しのタイミングとなっていることが分かる。
ペット
集計データは存在しないが、20年以上前はペット飼育不可のマンションで飼育する居住者が問題となる事例が多かったように記憶している。しかし、その後新築マンションを中心にペット飼育可のマンションが増加した。本調査でもペットの飼育についての議案は2%(217件)であり、ペット問題は収束の傾向にあると言えよう。
外部区分所有者協力金について
協力金請求事件(最高裁判所平成22年1月26日判決平20受666号)では、外部に居住する区分所有者(以下「外部区分所有者」という)に協力金を求めることが認められた。この判決以降、外部区分所有者に負担金を求める管理組合が増加している。金額は月額数百円程度の少額なものが多いが、これに類似する議案が100件に及んでいる。
町会費について
自治会費等請求事件(最高裁裁判所平成17年4月26日判決平16受1742号)により、町会への加入や退会については区分所有者個人の意思に委ねられていることが明らかとなった。しかし、現在も管理組合が団体として町会に加入していたり、区分所有者の町会費の支払いを代行していたりする管理組合もあり、町会に関する議案は存在し続けている。地代の改定についても同様である。借地権のマンションにおいて地代は土地所有者と区分所有者の間の賃貸借契約に基づくものであり、その改定は総会の決議を必要としない。しかし、管理費や修繕積立金と同様に金額の改定として議案とされている。
電磁的方法による理事会の開催
当社にて導入したWeb会議システムを利用した理事会の開催を可能とするための管理規約の改正は、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、理事会の開催が自粛され始めてから多く活用されるようなっている。新規導入の問い合わせも増加している。今後、電磁的方法を利用できるシステム開発は加速することが予想され、管理規約、使用細則にて電磁的方法の利用に関しての改正が進むと考えられる。
④契約の締結
契約の締結の議案の内容と議案数は下記の通りである(表5参照)。なお、グラフは、30以下の議案についてはその他として表示している(図5参照)。
■考察
管理組合の支出削減を目的とした電力契約先変更契約が44%を占める。また、税務申告委託契約は収益事業に伴うものであることから、収入の増加、支出の削減には関心が高いことがうかがえる。また、専門家との顧問契約、団体加入契約等は知見を外部から得ようとするものである。
少数ではあるが行政との協定書の締結(1%)もあり、津波避難ビルの指定を受けたり、地域に貢献しようとする管理組合もある。
管理組合にとって管理会社は最も身近なコンサルタントであり、総会議案書のトレンドから、多くの管理組合が議案として検討しているにも関わらず、検討していない管理組合があれば、積極的な提案を行い、その潮流に遅れないようアドバイスしていきたい。
⑤総会の開催種別
管理組合の総会は通常総会、臨時総会の他、新築マンションの設立臨時総会、書面総会がある。開催された総会の内訳は下記の通りである。(表6参照)
臨時総会の開催は、管理組合の役員が多忙である場合、敬遠されがちであるが、工事関係の議案では約20%、4,000件近い議案が審議がされている(図6参照)。
必要に応じて臨時総会の開催も視野に入れた早めの対応が求められている。
以上