2023/08/04第9回 マンションみらい価値研究所セミナー 「分譲会社vs管理会社〜それぞれの論理と日本のマンションのこれから〜」7月13日(木)、第9回となるセミナーが開催された。今回は株式会社CANの代表取締役、加納幸典さんをお招きし「分譲会社vs管理会社〜それぞれの論理と日本のマンションのこれから〜」と題してお届けする。「突然ですが、これ、何の写真かわかりますか?」──冒頭では当研究所所長の久保依子の研究データの発表が行われ、まずこの問いかけからスタート。映し出された写真は、とある分譲マンション内の「プレイロット」(マンション敷地内に設置された幼児向けの遊び場)であり、バネのついた5歳児用の遊具はもう誰も使用しておらず、砂場だったエリアは手入れが行き届かず草が生い茂った状態になっている。この写真を見せたのは、新築分譲時に設置されたものに対して、将来的な使用有無やメンテナンスの問題について考えるきっかけとするためだ。さらに事例紹介は続き、環境のためにと竣工時に設計された屋上緑化も、植物の生育が進い、維持費用がかさむといった理由で数年後に撤去した事例などにも触れた。つまり、マンションの分譲当初はデベロッパーが新婚期や小さな子を持つファミリーが入居することを想定した設計を行い、ターゲットにより魅力的に感じてもらえるような付加価値をつけて販売している。しかしながら、経年によりライフスタイルの変化や設備の劣化が進んでいくと、そうした設計を維持するかどうかについて都度判断が迫られていくものだ。「マンション内の公園・プレイロットにある遊具は現在どうなっているか(2020.8.26)」“その判断をするのは誰か”という問いの答えは、当然ながら管理組合だ。講演の中で久保所長は「管理組合はいつまでもデベロッパーにおんぶにだっこではいられない」と強い口調で語りかけた。これが「管理会社」を代表して発せられた意見である。続いて立場が変わり、後半では「デベロッパー」を代表する意見として、ゲストの株式会社CANの代表取締役、加納幸典さんが登壇。果たしてどんな思わぬ“業界裏話”が聞けるのだろうか。「分譲会社の事業の構成上、売り切りたいという思考を優先してしまいがちな面があるのは否定できません」とデベロッパー側の事業の仕組みについて語り、続けて「”分譲会社は夢を売る仕事”などといわれる面がある。」と、販売戦略の裏側を明かしてくれた。見た目の豪華さを追求する共用部、有名な建築家の採用、ラグジュアリー感をプラスする住戸内の付帯設備、非日常感を演出するモデルルーム。こうしたイメージ戦略にかけるイニシャルコストは、販売価格に上乗せして回収することができる一方で、管理費等のランニングコストなどの長期的な目線は不足している面もあるかもしれないとも語られた。これこそまさに、とにかく売ってしまいたいデベロッパーと、入居後から将来を見据えた管理をしたい管理会社の、「論理のギャップ」である。さて、ここまでは「現在まで」の話。「これから」の話をすると、少子高齢化の加速や地代・建築費の高騰、さらには環境問題といったさまざまな要因に鑑み、デベロッパーは社会問題解決の使命を担う存在になるという。つまり、これまでのようにイケイケドンドンと景気よく、豪華で非日常感溢れるマンションをスクラップ&ビルドしていくような時代ではなく、循環型・持続可能なシステムの在り方などが優先されるようになっていくだろうということだ。「デベロッパーはデベロッパー」「管理会社は管理会社」と切り分け、それぞれの仕事に特化するこれまでのやり方にはすでに限界がきている。今後さらに重くのしかかってくる社会問題の解決に向けて、持続可能な住宅の在り方を追求するためにも、立場の垣根を超えて協働していくことが求められている。次回のセミナーは8月17日(木)16:00から【住まい方ひとつで人間関係は変わる。~マンションで暮らす「配慮が必要な方」への支援】と題し、マンションにおけるより良い住まい方についてトークセッションを開催いたします。