第5回 マンションみらい価値研究所セミナー 「超高齢化社会における共生」

2月8日(水)、5回目となるオンラインセミナーが配信された。今回の講師には、東京都健康長寿医療センター研究所、福祉と生活ケア研究チームの研究部長・井藤佳恵先生をお招きし、『超高齢化社会における共生』と題して実施された。日本の超高齢社会を背景とした認知症や孤立死といった社会的な課題に言及する。

最初の話題には「高齢者の住環境と福祉」というテーマを掲げ、高齢期に現れるいわゆる「ゴミ屋敷」を取り上げた。ここで井藤氏は、「ゴミ屋敷」と捉えることによって、「居住者(住む人)」ではなく「屋敷(環境)」にばかり関心が向くと指摘した。つまり我々は、屋敷(環境)の課題問題という感覚でそれを捉えてしまっていることこそが問題ではないかと語る。

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支援対象は人なのか、屋敷なのか。人であるとするとそれはそこに住む人のことなのか、周辺住民のことなのかを考えた時、これを環境ではなく、ひと(福祉)の課題であるという視点を持つべきではないだろうか。そうでなければ、ゴミ屋敷の住民を“排除の対象”とみなしてしまいかねない。

そこで井藤氏は「権利の尊重」の難しさを主張する。誰もが一人の人間として尊厳は守られるべきであり、我々もいずれ高齢期に入った時に、その当事者になる可能性がある。「最後までここで暮らしたい。施設には入りたくない」という本人の意思は『自由権』の行使だ。一方で、施設に入って安心安全な暮らしをしてほしいと周囲の支援者が願い行動することは『社会権』の擁護を目的としている。本人の意に反して福祉の制度を使おうとするとき、個人の中で『自由権』と『社会権』が対立することがありがあり、相容れることはなかなか難しい場合があるとも語る。

井藤氏が12年間の行政事業で担当した高齢者困難事例293人のうち、61人の住環境が「ゴミ屋敷」であったとし、その中から印象の強いお一人の事例を紹介。人の一生における栄枯盛衰を垣間見る物寂しいエピソードには涙を誘った。こちらはライブラリーを視聴することで確認してもらいたい。

後半では、マンションみらい価値研究所・所長の久保依子が登場し、対談形式で進行していく。

久保は、分譲マンションを管理する立場から井藤氏に質問をぶつける。認知症の疑いがあって、他の入居者に迷惑をかけてしまう高齢者の事例が多くなっていることに触れると、井藤氏は「高齢者の迷惑行為=これこそ認知症と認識するのは良くない」とし、実際、専門医でなければ医師でも、とくに初期の認知症に気づくことは難しいという。逆に、認知症の有病率では65歳以上で15%、80歳以上では40〜80%といわれる中、その大多数が人知れず静かな生活に溶け込んでいるし、目立つ症状があるのも長い認知症の経過のなかの一時のことだとした。

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また昨年、井藤氏に監修していただいた『孤立死マニュアル』の話題では、「高齢者が望む最期のひとつに“ピンピンコロリ”というものがある。要は亡くなるその瞬間まで元気でいたいということ。“最期まで家で過ごしたい”というのも多くの人が言う。そして高齢になるほど独居率は高くなる。そうであるなら孤独死は特別なことではないかもしれない」とし、「孤独死がもつ“さびしい”というイメージにアプローチするなら、“ゆるいつながり”が必要だ」とした。

この“ゆるいつながり”に対し久保が実際どういうことなのかを問うと、「管理員さんに挨拶をしたり、ゴミ収集所で軽い会話を交わしたり、毎日同じ時間に散歩にでかけるなど、自分からつながっておくことでも、気にかけてもらいやすくなる」と見解を示した。

しかし、マンションの管理員として、どの段階で行政や家族に連絡を取ったらいいのかという不安があり、これに対するアドバイスを問うと、「入居者時に、どういったときにどこに連絡するということをマニュアル化していくことも有効ではないか」とした。また「自警団のように特定の人を探し出し私的な制裁をしてはいけない」とも付け加えた。

認知症は、流行病のように昨今急に出現したものではなく、高齢期になれば誰しもなり得る。いうなれば「お互い様」だ。よって、健常である時には関心をもちにくいかもしれないが、これからは深く理解していく必要がある。「個人の権利」と「近隣住民の権利」、それが対立しているとき、その相反する部分をどのようにすりあわせて共生の道を模索していくかは、対応マニュアル含め個々の理解と協力が求められる。

講義の最後に井藤氏は「住み慣れたマンションで、人としての尊厳を維持して暮らすことを、いかにして実現していくか、これが日本の超高齢社会の課題だ」とした。これを機に我々も今一度、他人事ではなく自分事として捉えていく必要があるのだ。

次回は4月7日(金)16:00より、ゲストに横浜市立大学国際教養学部・都市社会文化研究科 齊藤広子教授を招き、「コロナ禍で気づいた住まいの価値 〜マンションの魅力を再発見!〜」と題して、第6回マンションみらい価値研究所セミナーを予定している。

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