大阪市マンション管理支援機構とは、市内の分譲マンションに対し情報提供などを行うことで管理運営をサポートすることを目的とした組織。参加団体は、大阪市、大阪市住まい公社、(独)住宅金融支援機構といった公共団体、弁護士会、建築士会などの専門家団体、民間事業者団体などが連携している。 また同支援機構では毎年、マンション管理に役立つ「基礎講座」を開催。特に今年度は、大阪市のマンション管理計画認定制度スタートの年にあたる。大阪市で定めた管理計画認定の上乗せ基準にスポットをあてた防災の講座が10月29日(土)に企画され、マンションみらい価値研究所の丸山肇が登壇した。
セミナーの構成 今回のセミナーは以下の3要素で構成された。 ① そもそも管理計画認定制度とは何か?制度自体の狙いを確認 ② 大阪市が定めた防災に関する独自の認定基準は管理組合の“備え”のための行動目標。活用できるためにはどんな水準を目指すべきかを事例も含め解説 ③ マンションの強み・弱みを理解し、合理的な防災計画とは何かについて考える セミナーでは、マンションの変遷と昨今の高齢化問題や管理不全に至った経緯や、それらの対策のためにマンション管理適正化法が20年ぶりに改正され、管理計画認定制度という形で、管理組合の健全性のための具体的な目標が認定基準として示されたことの説明がされた。 また、管理運営の良し悪しは、当事者(管理組合員自身)だけの主観的なものになりがちだが、行政が積極的に世の中に当該マンションに対し「居住価値が高いマンション」であるという証明を与える制度なのだと、その狙いを解説した。 加えて、各行政が立地環境などの特性に合わせた認定基準を追加でき、大阪市では、以下の3点が上乗せさせれている旨の説明があった。 イ) 年1回以上の防災訓練の実施 ロ) 防災訓練とは別に上げる7項目の中のいずれかの防災対策が講じられていること ハ) 旧耐震においては、耐震診断を実施し不足している場合は耐震改修などの議論等がされている また、ロ)の7項目と国が定めた認定基準にある「名簿の管理」の計8項目について、表層だけで形を整えるのではなく、いざという時にしっかり活用できる防災対策にするためのノウハウを、事例を交えて整理した。
認定基準を防災でしっかり活用できるために 管理計画認定基準(国+大阪市版の7項目)
※大阪市では、国の“名簿”に加え、防災訓練の実施と上記の7項目のいずれかの防災対策を講じていることを条件としています。 国の定めた名簿の管理について、名簿は安否確認のためにだけにあるのではない。 長期間遠方の親戚宅などで避難生活を送られる方もいるため、復旧等の総会を開催する場合など、より多くの方の賛同を得るためにも緊急連絡先が記載された名簿が必要になる。 また、熊本地震の例では、建物解体にあたり公費解体の行政支援を受けるためには、被災マンション法に関わらず所有者全員の同意等(その他、賃借人・抵当権者)が必要となる。まずは、区分所有者全員との連絡が取れる状態を確保することが最低条件との話があった。
大阪市の追加基準について 以下、抜粋して紹介しておこう。 ■避難所の周知徹底について■ もちろん、どこが避難所なのかを知っておくのは、基本中の基本。 しかし、新耐震で堅牢なコンクリートの建物であるマンションの場合、避難所でのストレスや感染病などのリスクを考慮しておく必要がある。在宅避難が可能なケースも多く、どのような状態であれば避難所に行くべきかなどの判断と同時に、在宅避難ができる備えも大切であると説く。 熊本地震での直接死55名、全てが避難所のストレスが原因とはいわないまでも、被災生活期などで亡くなった、いわゆる被災関連死は218名に上っているなどの事例を交え解説した。 ■マニュアルについて■ 火災と震災では避難等の行動は異なる。災害ごとに、またマンションの立地・建物・住民の特性に合わせ、汎用型ではない自分たちのマンションにあったマニュアル作りが望ましい。 ① 特性分析 ②災害種類・規模等の条件 ③被害想定 ④備え等のためのアクションプラン など基本的なフレームを示し解説した。 ■高齢者の名簿について■ 市が作成している「避難行動要支援者名簿」の運用や地域への開示方法などを説明した上で、災害時の要支援者とはイコールではないものの、「日本の障碍者の割合は何パーセントぐらいだと思うか」という投げかけがあった。答えは8%であり、また高齢化と共に年々増加している。築年の古いマンションでは住民の平均年齢も高いことから、8%どころかもっと多いかもしれない。 自助が基本ではあるものの、マンション内で助け合う、“近所力”は大切であり、そのベースになるのが要支援者の名簿であることは確かであるとの話があった。 ■安否確認について■ 実は安否確認をすることだけが目的ではなく、家具の下敷きになっている人などの救出をスムーズに行うことが目的なのである。 阪神淡路大震災の際、神戸で発生した大火の後に発見された数多くのご遺体の解剖結果では、多くの方の肺にススは入っておらず、焼死ではなく圧迫死によるものであったことがわかった。つまり、いかに早く助け出すかがポイントなのだ。 コンクリートのマンションではいっぺんに倒壊する危険性はまずないが、体力のない高齢者や子供が家具等の下敷きになると命に関わる。なんのために安否確認を行うのか、しっかり深掘りしておく必要がある。 また、安否確認用としてマグネット付きのLEDランプを全戸に配布し、無事ならランプを点灯しドアに取り付ける。一目瞭然でどこに訪問して確認すればよいのかもわかるし、停電の際の共用廊下を照らす明かりにもなるという知恵も披露された。
防災の目的は生活復興 マンションの強みと弱みの整理と“生活復興”についての話でまとめとした。 まずマンションの強みでは、震災等には強い堅牢なコンクリートの建物であり、またマンションコミュニティ内で“近所力”を発揮しやすいこと。 一方、弱みとは、ハード面では建物の“高さ”、ソフト面ではコミュニティの“力“が発揮できず復旧や建て替えなどの合意形成ができない場合などをあげて説明した。 また、震災等も社会インフラが復旧すれば日常に戻れるレベル、また次には建物の復旧のために部分的に建物の改修が必要になり、家財の一部も震災ゴミになったが、修繕積立金や多少の貯えで復旧でき、職場も存続できているケース。 一番大変なケースとは、マンションの大規模な改修や解体除去が必要となり、家財もすべて震災ゴミとなる。その上、勤め先が被災し職場そのものを喪失し、その後の収入源も失われてしまうようなケース。 東日本大震災の際の倒産件数や負債総額、また家財が震災ゴミとなってしまった場合の再調達価格なども例に上げて説明した。 最後に“資金”と“気力”については、建物や家財への地震保険・管理組合の潤沢な修繕積立金・支援金の活用の大切さなど、いざという時の資金の確保も備えであること。 また、怪我をしない・病気にならない、そしてコミュニティの力で“気力”を保つことも、大切であるとして締めくくった。
大阪市の取り組み 天六商店街にほど近い「大阪市立住まい情報センター」を訪れると、大阪市の“住”に対する、買う・借りる・維持管理するなど、総合的な発信基地であることがわかる。 また、こちらの8階にある「住まいのミュージアム 大阪くらしの今昔館」は、大阪の住まいや街の文化を伝える大変工夫されたミュージアムだ。大阪市マンション管理支援機構はこの住まい情報センターの中で、マンションの管理組合への支援窓口を担う。 大阪市の管理計画認定制度の上乗せ基準のひとつに同支援機構への登録が条件となっているが、十分に管理組合に応えられる位置づけであることを実感することができた。さまざまな行政の中でも、最先端でかつ意味のある運営をされていることに間違いはない。