調停委員向けのセミナー報告 『マンションの4つの将来リスク〜日本のマンション管理の課題を考える』

※   裁判所内での写真撮影は禁止されているため参考にスライド資料を使用しています。
※   セミナー終了後の調停委員向けインタビューは、別会場にて実施、氏名は伏せてご紹介しています。
 

9月1日、大阪地方裁判所大会議室において約40名の調停委員に向けたセミナーが開催され、マンションみらい価値研究所の丸山肇が登壇した。

丸山は冒頭で「マンションみらい価値研究所」の取り組みや研究成果などの発信も行う大和ライフネクストの情報発信プラットフォーム「赤坂プラスタ」について簡単に紹介した後、本日の講演テーマ『マンションの4つの将来リスク〜日本のマンション管理の課題を考える』について90分間、熱く語った。

本題の報告に入る前に「調停」とは何かを説明すると、個人間の紛争を解決する目的で裁判所が仲介し、当事者間の合意を成立させるための手続きのことをいう。調停の場では、調停委員が当事者と一緒に紛争の実状に合った解決策を考え、また双方の言い分や気持ちを十分に聞きつけ、解決に向けた話を進めていくというもの。

調停委員は、弁護士・大学教授・公認会計士・不動産鑑定士などの専門家や地域社会に密着して活動してきた人などから選任された非常勤の裁判所職員である。

昨今、マンション管理をめぐる調停が増えているという。よって今回のセミナーは、マンション管理にはどんな人たちが関わり、どんな問題が発生しているのかについて深く学ぶことを主な目的として開催された。

マンションを取り巻く問題を大まかに整理すれば、以下の4つだろう。
①    2つの老い
②    管理組合収支の悪化
③    社会変化についていけない現状
④    自然災害等からの復旧・復興

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中でも最も重大な問題は、建物と人の「2つの老い」から派生するもの。建物が古くなれば修繕費用は増加し、また機能的にも住まう方のトレンドについていけなくなる。住まう方の多くが年金受給者となってしまい、改修やリノベーションの資金手当てが難しくなる。また管理運営への活力も低下してしまう。

日本の高齢化の縮図がマンションである、といってもおかしくはない。2025年には、日本の年齢別人口構成は逆ピラミッド型が鮮明になる。25年前の2000年と人口のボリュームゾーンを比較しても約20歳跳ね上がり、45歳〜80歳となる(国勢調査からの予想)。人口は減り続け、2050年には現在のカナダの人口に近い約3,300万人が減る計算。当然のことながら、住宅余りも加速し空家が増加していく。

かつての高度経済成長期には、住宅不足の解消のため住宅供給に躍起になっていた時代があった。建設ラッシュはマンションブームを巻き起こし、すでに60年程度が経過した。過剰なマンションストックに対する少子化による人口減、そして2つの老いが、さまざまな形で問題を引き起こしていく。

そこで思うのは、「日本人にとってマンションは何だろう」ということ。日本のマンションの平均築年数は25年を超え、築40年以上のマンションは約270万戸。さらにマンション住民の半数が60歳以上と高齢化が進行。今あらためて、共同住宅であるマンションという居住形態の未来とマンション自体の存在意義を考えていかねばならない。

人の老いがもたらす主な問題は、管理組合の資金の枯渇だけではない。人の高齢化による体力・気力の低下、介護の必要性も生じ、健全な管理運営の継続が難しくなっていくことだろう。そして、終の棲家として人生を全うした後には、相続放棄や空家が問題となり始める。
老朽化した建物の解体や建て替えも、個々の事情や懐具合を考えれば、マンション全体での合意形成は極めて難しい。結果、建物が放置され空家特措法による行政代執行で解体されたマンションもすでにあるのだ。しかし、行政側の解体に至るまでの手続きの手間暇や税金を使っての処分は、すでに大きな社会的経済災害ともいえる事態ともいえる。日本の近未来の姿は、けして楽観できるものではない。

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丸山はこうした背景を説明するとともに、マンション管理に登場する人々の間で生じたトラブル事例などをいくつか紹介した。「管理会社との関係」では、従来の関係性が一変し管理会社から委託費値上げや更新拒否(解約)が急増していることや、、利益相反行為まがいの「工事監理の問題」などを取り上げた。

マンション管理は、それなりの専門知識が求められる。総会で選出された理事といっても、一般の方では、解決しがたい問題でもあると指摘した。
「理事のなり手不足」にも関連させ、「理事会運営方式」が日本の主流のやり方になっていった歴史的経緯に加え、海外では一般的な「第三者管理方式」の比較紹介を行った。

また、最新の情報である「管理計画認定制度」にも触れ、「管理計画認定制度の“認定”が、“居住価値が高い”ことの“客観的な証明”になっている社会にしていくことが狙いだ」と展開した。

右肩上がりで分譲マンションの供給を続けてきた日本。建物と住まう人の高齢化時代を迎え、マンション管理そのものの難しさが噴出している現状がある。それに対し、現在ではどんな対策が検討されてきているのかなどの最新情報に至るまでを説明した。

マンションを取り巻く登場人物の間では、調停に至る紛争がこれからさらに増加し複雑化するだろう。まずは、マンション管理の抱える問題や背景を知っていただき、困っている当事者と一緒に解決策を見いだして行ってはと締めくくった。

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座談会の様子

講演後、調停委員3名とマンションに住まうひとりの住民の立場で座談会を行った。
簡単に座談会の内容も報告しよう。
聞き手:マンションみらい価値研究所 大橋正和

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大橋
マンションの「2つの老い」が本日の一番のテーマでしたが、克服していくためのいくつかのキーワードもあったかに思います。
ざっくばらんにみなさまの感想をお聞かせください。

Aさん
私は築30数年、370戸のマンションに住んでいます。駅に近いこともあり空き住戸が出るとすぐ新しい方が購入されているようです。空家が増える心配は少ないとは思いますが、中古で入居された方ほど、管理組合運営へ関わるきっかけがないのか、無関心なケースが多いように感じています。

大橋
駅に近いという立地ポテンシャルが高く、人気のマンションということですね。
ただ、新しく入居された方が、管理組合の活動に無関心ということですね。

Aさん
はい、それに加えて、共同住宅の住まい方に慣れていない、もしくは理解されていない方も見受けられます。訴訟までの問題にはなっていないものの上下間の騒音問題などが発生しています。
現在は、古くから住まわれている方が、熱い思いで自治会や理事会活動をされています。コミュニティ活動も充実しています。しかし、今後、高齢化が進んでいくとどうなるのかが不安ですね。やはり、新しく入居された若い方が、後を引き継ぎ、代わって運営してもらえる、そんな状況を古くから住んでいる側が意識して作っていかないといけないのでしょうね。
ルールで縛るとかではなく、あくまでも自らの気付きの中で、管理組合やコミュニティ活動に積極的に関わってもらうためにどうするかが一番のテーマのような気がします。

Bさん
私もすでに築35年を超えている226戸のマンションに住んでいます。
新築当時は、総会に参加される方が多かったのですが、最近は直接自分に関わること以外は総会に出てくることもなく、ずいぶん雰囲気も変わってしまいました。
賃貸に出している外部区分所有者が多くなってしまったことも原因の一つなのでしょう。
管理会社にはしっかりやってもらっていると思います。今日の話にもあった専門家であるマンション管理士を入れたら、よりうまく回りだすのではという話もなかったわけではありませんが、マンション管理士と管理会社との関係はうまくいくのかという想いもあり、積極的に進めていませんでした。
しかし、管理会社にしてもマンション管理士にしても、立場の違いこそあれど、管理組合をサポートし健全化を図るという目的や方向性は一つなので、今日の話を聞いて検討する意味はありそうだと思えました。

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大橋
そうですね。
ひとことで言ってしまえば、管理会社は、管理委託契約の仕様書に基づき、運営補助や理事会の指示で管理実務を行う立場。マンション管理士は、理事会が区分所有者への説明責任を果たすために専門家の立場からアドバイスする立場ですね。

Bさん
そうですね。
今日の話を聞いて、実務代行の管理会社と第三者的な立場でアドバイスする専門家がマンション管理士なのだということが、よくわかりました。競合することもなく、双方をうまく活用しより確かな運営ができるのかもと思えました。
早い話、そのあたりの関係性が今一つわからなかったところもあり、マンション管理士の活用に踏み込めなかったのかもしれません。


Cさん
私は、34年目の66戸のマンションに住んでいて、私自身も輪番で理事長を2回やっています。
築年が新しいうちは、月1回の理事会でしたが、現在は2ヶ月に1回の開催としています。管理会社も適切にサポートしてくれているので安心はしていますが、マンション管理の専門性が自分自身にあるかというと、正直、自信はない。
今後は、マンション管理士に何らかの形でお願いしようという話もあったのですが、やはり費用のかかることですし、大きなマンションでもなく資金的にも豊かとはいえず、二の足を踏んでいました。
しかし、高齢化の問題を掘り下げて考えていくと、マンション管理士にアドバイザーになってもらう、いや第三者管理方式に切り替えるのも一つの選択であることは確かなのでしょうね。
まずは、マンション管理士に依頼するといくらくらいかかるものなのか、またどんなマンション管理士にお願いするのが良いのか、もう少し一般的にわかりやすくなっている状況が必要なのかもしれませんね。

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Bさん
管理組合運営も大切ですし、同時にそれを下支えするコミュニティ活動も大切だと思うんです。マンションによって差が多いと聞いていますが、みなさんのところはどうですか。

Cさん
マンションや地域で、夏祭りや餅つき大会などをやろうとしても、最近は新型コロナの件もあり、めっきり活動が減っているようですね。
コミュニティ活動の分野もマンション管理士にアドバイスしていただける? いや、その分野は難しそうですね。

大橋
管理組合の運営とコミュニティ活動は一線を画す、マンション標準管理規約ではそのような考え方です。また、コミュニティ活動の最近のトレンドは、ネイバーフッド(neighborhood=近所・地域)という、マンションからもう少し広げて地域全体での楽しみや生きがい、喜びを設計しようという考え方もあるようですね。
マンション管理の専門家であるマンション管理士というよりは、街おこしなどが得意なNPOなどがアドバイザーに入って、マンションや地域も含めての居住価値の向上のために活動している事例もあるようですね。

Aさん
私のマンションでは、以前は子供会でやっていた資源ゴミの回収を、今はシニアクラブが行っています。多くの元気なシニアが積極的に参加されています。その収益をコミュニティ活動に充てているのは良いことなのですが、住民の少子高齢化が進み子供会が作れない状態になってしまったからというのも、寂しい気がしています。

Bさん
高齢化の問題は、やはり持続可能性をいかに確保し、若い世代につなぐかなのですが、マンション管理の専門性の問題、また同時にコミュニティ、いやトレンドで言えばネイバーフッドですか、そのあたりの専門性も必要になるのかもしれませんね。

Cさん
まずはマンション管理側の解決として、マンション管理士にお願いしたら、理事会運営方式から第三者管理に換えるには、どれぐらいの費用が必要なのか。また管理規約の改正など、どんな準備が必要なのか。私たちも学んでいきたいところですね。

大橋
今日は、セミナーの後の短い時間を頂き、大変興味深く、みなさまの気付きをお聞きできました。
ありがとうございました。

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