日本人は土地が好きである。
土地付き分譲マンションでは、2階やそれ以上の階であっても敷地権により土地の持分を所有しているという考え方になる。空中にある住戸に土地の権利を付ける区分所有法とは、土地好きの日本人向けによく考えられた法制度だと思えてしまう。
高層マンションの1戸あたりの土地持分計算をしたことがあるだろうか。わずかに数㎡の場合もある。当然だが、土地の分割請求もできない。それでも土地付き分譲マンションにこだわる方は多いのではないだろうか。
一方、借地権付きマンションとは、文字通り建物は区分所有者、土地は他人の所有であるマンションのこと。土地の所有権ではなく借地権が敷地権になるわけだ。
分譲会社にとっては、土地を購入する必要がなく、原価は主に建築費用のみ。販売までの間の金利負担も少ない。購入者は借地料などの支払いは発生するが、安価に購入できる。
借地権にも種類がある
借地権は、大別すると2種類。土地所有者との間の土地賃貸借契約において期間の更新ができる普通借地権と、更新のできない定期借地権が該当する。
借地権付きマンションを選択される方は、価格が安価であるという理由ばかりではない。
マンションの建替え決議や敷地売却決議の合意形成は容易ではない。再建築にかかる費用をどう捻出するのか、また敷地売却をするにしても売却先を探すのも大変なのだ。
土地付きマンションの場合、いつかこれらの問題と向き合うときがくる。
一方、借地権付きマンションは、購入段階で建物が滅失したら土地を所有者に返却することがあらかじめ約束されている。特に定期借地権の場合は、区分所有関係の終了日が明確に決まっている。土地付きのマンションの将来的なわずらわしさを考えると、積極的に定期借地権付きマンションを選択する方もいるくらいなのだ。
土地所有者はどんな人?
借地権付きマンションを条件に、ある68棟を調べてみた。土地所有者の属性は、宗教法人(神社・寺院)が38%、個人が34%であった。宗教法人(寺院)の場合、土地を売却するには檀家の承認が必要であることから、売却ではなく借地とすることを選択しているのではないかと推測される。分譲会社にとっても、土地の所有者が宗教法人であると購入者に安心感を与えやすいのではないだろうか。
土地所有者が個人や宗教法人以外の法人の場合は、相続、破産や転売により、土地所有者が変更となる可能性がある。こうした土地所有者の変更については注意が必要だ。
ある事例を紹介しよう。
借地権付きマンションの土地をある個人が所有していたが、40年近く経過してから不動産会社に転売した。この不動産会社が、土地の購入後、建物の専有部分の購入をはじめた。売り出された住戸を購入するばかりでなく、個別に売却してもらえないかと訪問しているそうだ。この不動産会社の目的は、建物を全戸購入後に取り壊し、更地にして売却することなのだろう。
購入した住戸の議決権が過半数を超えれば、管理組合の普通決議事項はこの会社の思い通りになる。特別決議もこの会社が反対すれば成立することはない。このマンションでは、総会に給水管更生工事の議題が審議された時も、この不動産会社から長文の質問状が理事長あてに届くなどし、最終的に否決となっている。建物の取壊しを目的としているわけだから、不動産会社にとっては工事そのものが不必要であり、給水管更生工事に賛成するはずはないのだ。さらには、給水管というライフラインに不安があるマンションからは退去したいという区分所有者が現れれば、建物の購入はさらに早まることとなる。
一方で、老朽化したマンションは買い手がつきにくく、将来の建替えや敷地売却の大変さを考えれば、不動産会社が専有部分の購入をはじめたことを歓迎する区分所有者もいるという。
更新料は払えますか?
普通借地権付きマンションの場合、土地賃貸借契約の更新時に更新料が必要な場合がある。土地賃貸借契約は、土地所有者と区分所有者の間の契約であるとはいうものの、地代の支払いや更新料の支払いは、管理組合を介してその手続きをするとしているケースも数多く存在する。
また、更新料の算出方法は、路線価に一定割合を乗算して算出するとしているマンションも多い。具体的には「更新時の路線価の〇%相当額を支払う」等の記載になる。現在の路線価で計算すると、数百万円に及ぶ場合もある。こうした路線価等に基づく更新料の支払いの場合は、一度算出しておくことをお勧めしたい。
土地賃貸借契約の更新は「まだ先の話」として意識しないでいると契約満了時に更新料の支払いをめぐる問題が生じる可能性がある。管理組合を介して支払うという契約の場合は、各戸から一時負担金として徴収する対応が必要となったり、未収金が発生すれば更新料の支払いのために管理組合の資金を充当しなければならなったりする可能性もある。
例えば、長期修繕計画に備忘録として更新料を記載しておくなど、更新時に区分所有者が必要な金銭を準備しておくことを思い出させるような工夫も考えられるだろう。また、更新料を分割して管理組合が毎月徴収することを決議したケースもある。管理組合が更新手続きに関与する場合は、管理費等と更新料の性格は異なるので、売買や相続などで区分所有者が変更になることも想定し、積立てた更新料をどのように取扱うか、十分に理解を得ておく必要もある。
解体費用は払えますか?
定期借地権付きマンションの場合は、土地所有者に土地を返却する時には原則として建物を解体する必要がある。借地の契約期間が満了になり解体したマンションは筆者の知る限りまだ存在していないが、近い将来発生することになるだろう。
解体費用は区分所有者が積立てるとするケース、解体時に一時金を徴収するケース、分譲時に事業主が解体金として管理組合に預託しているケースなどがある。解体費は、決して少ない費用ではない。いつどのように解体費を負担することになるのかを把握しておくのも大切だ。
また、解体にあたって、地中にある杭を抜くか、抜かないかによって、解体費用は大きく異なる。借地契約に明記されていないようなら、解体の範囲についても土地所有者と協議しておく必要があろう。
長期修繕計画などで、できることは?
国土交通省マンション標準管理規約、長期修繕計画作成ガイドライン、さらにはマンション向けの様々な政策は土地付き分譲マンションを前提として策定されている。地代や更新料、解体の概念はその中にはない。いわゆる「ひな型」を国は用意してくれてはいないのだ。
管理組合が地代の支払いや更新料の支払いに一定の関与が必要であるなら、区分所有法第3条の解釈上のご批判はあるだろうが、管理規約にその取扱いについて規定し、また長期修繕計画の資金計画の中に反映させておく手はあるだろう。
また、長期修繕計画の考え方も異なる。借地契約満了を目前にして大規模修繕工事などを行う必要はなく、解体までの期間、いかに無駄なく最低限の補修で済ませるかということになろう。
まずは土地賃貸借契約をもう一度確認し、そのマンションの建物の行く末をとらえ、最善の手をあらかじめ打っておこう。