最初にお伝えしておくと、海や山に囲まれたリゾート地に建てられたマンションがすべてリゾートマンションという訳ではない。地元の方々の実需向けに建築されたマンションもある。
しかしその逆に、郊外型ファミリーマンションとして作られていても、海に近い、スキー場に近いなどの場合、実際にはリゾートマンションのように利用されるマンションもある。
つまりリゾート地に建てられているものが一概にリゾートマンション、ということではないのだ。
今回はリゾートマンションと銘打って建てられた分譲型リゾートマンションに限定して、その特徴や課題などを整理してみよう。
短期滞在者と定住者との狭間で生じる“はてな”とは
私が取材したリゾートマンションの特徴を列挙してみよう。
■専有部分に洗濯機の置き場がない。洗濯は共用部分に設置されたコインランドリーを利用する。
■入浴は共用部分の大浴場を利用することが前提で、専有部分に浴室がない。あってもシャワールーム程度。
■駐車場は無償か、時間貸し。月極め契約はないか、あっても数台のみ。
■行政指定のゴミ袋は管理費で購入。管理スタッフが短期滞在者のゴミをまとめて搬出する。
コインランドリーや大浴場、駐車場やゴミ出しの方法などの利用上の特徴は、まさにホテルと同じであり、定住することを目的として建築されたものではないことは一目瞭然。
しかし、こうしたリゾートマンションにも、定住している方は少なからずおられる。さて、どんな状態になるかを考えてみよう。
まず大浴場に関してだが、取材した近隣の公共温浴施設の利用料が1回あたり500円のところ、このマンションでは100円と格安だった。利用者は水道やガス代を使わず、石鹸やシャンプーも買わず、風呂掃除の手間もかからず、1回当たりの入浴が100円とは、大変お得な話だ。しかし当然、大浴場の運営費は1回あたり100円では収まらず、差額は管理組合の管理費でまかなわれる。
ゴミ問題でいえば、当初は短期の滞在期間の少量ゴミを管理スタッフが分別し、まとめて指定ゴミ袋に入れることを想定していた。しかし、蓋を開けてみれば管理組合は定住している方の生活ゴミのために多くの行政指定のゴミ袋を購入している。
さらにいえば、分譲時は短期滞在者の利用を想定してホテルライクに作られていたので、こういったサービス形態もわからないでもない。しかし定住者が増えていくにつれ、一部の人のために大浴場やゴミ袋などを管理費で負担するという、不自然さが目立ってきてしまっているのもリゾートマンションの特徴だ。
ある大浴場付リゾートマンションで、管理費会計が赤字になった。主に定住者で構成する理事会が、膨れ上がる支出を抑えるためにも「大浴場の利用時間帯を夕刻に限定し、午前中はボイラーを停止しよう」と考えた。しかし、短期滞在で利用している区分所有者からは、大反対の声が上がりこの案は廃案となった。
支出削減だけでなく、短期滞在者との利用上の不公平感を是正するためにも定住者である理事会メンバーが朝風呂を我慢しようと心に決めた案ではあったが、「いつマンションに到着しても、すぐに大浴場を利用できる状態、それがリゾートマンションとして価値なのだ」という短期滞在者の想いと、大きくかけ離れてしまったわけだ。
このマンションの区分所有者の多くは、リゾートとして利用する短期滞在者である。また、企業が社員の保養所として所有しているケースも多いのも事実。一般のマンションなら管理組合の財政課題は重要なのだが、リゾートマンションとしての購入目的の維持の方が最重要課題ということになるのもわからないでもない。
一方で、短期滞在者と定住者の間の不公平感が表面化し、管理規約の改正が行われた事例もある。例えば、短期滞在者と定住者との管理費や使用料に金額差をつける。また、所有権や居住権との兼ね合いはあえてここでは述べないが、すでに定住した方を除き今後は短期滞在利用のみとすることを決議した管理組合もある。
賃貸化が進む都心のマンションで外部区分所有者協力金を規約に盛り込む事例が思い出される。リゾートマンションに限らず、使い方や目的の多様性が広がっていけば、とかく問題は生じやすいということなのだろう。
リゾートマンションの大規模修繕工事の問題
長期修繕計画の大規模修繕工事費等の単価は都道府県別の建築工事単価などを参考にして作成されている。特定の市町村を想定したものではない。
リゾート地では、近隣に建設会社や工務店が少なく、あってもマンションの修繕については未経験というケースも多い。つまり、都市部を中心に修繕工事を行っている施工会社に依頼することになりやすい。その結果、工事担当者や職人がマンションまで来る交通費や宿泊費が工事費に加算されてしまう。国土交通省の長期修繕計画作成ガイドライン等を参考に策定したとしても、実際の修繕工事に向けて見積を取得したら、計画作成段階の資金計画でおさまらず積立金が大幅に不足してしまう可能性も十分にあり得るということだ。
それでも、工事を請けてもらえる会社があれば良い方だが、なかなか見つからずに発注先を探すのに数年を要した事例もあると聞く。
リゾートマンションと管理費等の未収金
リゾートマンションはバブル期に建築されたものも多い。すでに築30年を超え、その後の経済変動や、スキー場近くのリゾート地ではスキー人気の衰退などから中古売買価格が下落。転売さえもできないまま、固定資産税や管理費等を支払い続けなくてはならないケースもあると聞く。インターネット上では、0円で売りに出されていたり、内装費用や家具を売主が負担する、いわゆるマイナス価格の取引もあるということだ。
こうした背景から管理費等の多額の未収金が発生している管理組合もある。管理組合として未収金回収を目的に競売の申立てをしても、無剰余取消(抵当権者が持つ債権と租税公課の滞納分の加算額が裁判所の基準価格を上回り、管理組合まで配当が回らずに取消となること)となる可能性は高い。そこで単に債権の回収という考え方ではなく、区分所有者の共同の利益に反する行為の除去を目的とした区分所有法第59条1項による競売を申立てた管理組合もある。
また、相続放棄、登記上の法人が解散しているなど、管理費等を請求しようにも請求先のない住戸も発生しているケースもあるのだ。
コロナ禍が、リゾートマンションを変えるか
世の中がコロナ禍となり、各企業がリモートワークを推進してきた。ワーケーションも可能になってきている。
事実、首都圏近郊の別荘地価格は上昇に転じた。人気のリゾート地では、アフターコロナを見据えた投資の動きもみえる。
都市部を離れ、リゾートマンションで暮らしながら働くことを考える人も出てきているのも確かだ。バブル期に作られたリゾートマンションであっても、時代やニーズの変化を先読みすることで再生創造への道を開くことができるかもしれない。
確かに、従来の定住者と短期滞在者に加え、新たに暮らし働くワーケーションの方と、区分所有者の多様性は広がる。さらに、多様性に配慮した管理組合運営が求められることになる。
しかしこれだけでは終わらない。
暮らし働くワーケーション層の年収や家族構成を想定すれば、狭小のワンルーム物件ではなく、いわゆる別荘と競合しても負けないポテンシャルが求められる可能性もある。また、月に1度程度は都心部に出向く必要性を考えれば、新幹線など都市部への交通の利便性も求められるだろう。もちろん、ワーケーションのすそ野が広がれば、これらの条件は緩和されるだろうが、アフターコロナを踏み台にしての再生創造が可能なリゾートマンションは限定的だろう。
仮に条件を満たしていたとしても、リゾートマンションにある本質的な課題を解決しておくことが先決だ。
多額の未収金がある場合はその回収・精算を行う。所有者不在住戸の対策も忘れてはいけない。もちろん、管理組合収支の健全化もだ。
そのうえで、今までの使い方から、定住者・短期滞在者だけでなく、暮らし働くワーケーションのニーズも配慮しての管理規約や使用細則を見直すことになる。
いずれにしろ、区分所有関係や過去を引きずらない別荘地などとは異なり、中古のリゾートマンションには多くの場合コロナ禍が追い風にはなりえないということだ。やはり、管理運営の健全化が大前提にあって、アフターコロナを踏み台にしての再生創造が初めて可能になるということだろう。