第11回 マンションみらい価値研究所セミナー 「老いの本質をとらえて、マンションライフを考える」

9月14日(木)、第11回となるセミナーが開催された。今回はNPO法人「老いの工学研究所」理事長・一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事でコラムニストの川口雅裕氏をお招きし「老いの本質をとらえて、マンションライフを考える」と題してお届けした。

司会を務めた鈴木理文は冒頭で、「今、日本のマンション全体の2割近くが築40年以上。こういったマンションの『建物の老朽化』もさることながら、孤立死や認知症に伴うトラブルなどの『住民の高齢化』も問題になっている。『福祉は住宅に始まり住宅に終わる』という言葉があるくらい、住宅は人が生活する上ですべての基本となる」と前置き。これを踏まえ、研究員の田中昌樹が執筆したコラム「歳を取るとマンションに住んでいられない?」を元に見解を展開した。

田中の調査研究では、日本の国勢調査には分譲マンションの項目がないことを指摘し、分譲マンションの実態把握が曖昧であることを示唆。よって、行政の各施策においても戸建て住宅が前程となっているものが多いが、実際には分譲マンションと戸建て住宅で高齢社会における課題の違いがあるはずだと指摘。

その違いを明らかにするため、足立区が2017年と2020年に区内の全高齢者を対象とした悉皆調査のデータをベースに、分譲マンションや戸建て住宅といった住居形態ごとの違いや課題を追った。

特筆すべきは、「戸建て住宅、事業所併用住宅、アパート」の割合が高い地域では、近所の人への信頼感が高い傾向があり、「マンションや団地」の割合が高い地域では、近所の人への信頼感が低下する傾向が見られたという。総じて、分譲マンションは地域コミュニティや近隣との関わりが薄く、福祉などの支援が届きにくい社会的な構造があることが懸念されることを指摘した。

後半では、先述のゲスト・川口雅裕氏が登壇し田中との対談が行われた。川口氏は京都大学教育学部を卒業後、不動産デベロッパーに入社。その後独立し、現在約1万9千名に及ぶ会員を保有する「老いの工学研究所」にて日々研究・講演活動を行っている人物だ。

著書『年寄りは集まって住め』(幻冬舎ルネッサンス新書)の内容を中心に話題は進む。そもそもこの本を執筆するきっかけとなったのは、先の団体で活動する中で経験した“幸福な高齢期を送る人たち”との出会いであったという。ある方は若い頃に夢中になった絵画に熱中、ある方は音楽バンドを結成、またある方は学びのコミュニティとして「大阪自由大学」なる団体を結成し活動している、といった内容が紹介された。

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しかしながら社会全体を見ていくと、都市化・核家族化による弊害として地域コミュニティが崩れ、特に高齢男性が取り残される事態が起こっていることを指摘。それは、定年退職後に所属団体から放り出されることも影響しているとし、退職後も社会とのつながりもつ意味でもどこかの団体に所属していくべきだとした。

さらに、長年妻に家事を任せきりで生活をしてきた高齢男性が妻に先立たれると、食事はおろか下着の在り処もわからないほどの困難に遭遇する場合があるとし、このことがより孤独感や不安感を大きくしているという。

一方で、高齢者の歩行速度からみる身体的な若返りという調査では、20年前の70年代前半と現代の80代前半がほぼ同じであることがわかった。

ここでひとつの結論としては、漫画『サザエさん』の家族構成や住まい方のように、一昔前の三世代同居における時代では、敬老の精神もあり高齢者が何もせずに暮らしていくことができたため、孤立化という問題は起こらなかったが、体力的な衰えを始めとする老け込みが進んだ。しかし現代は、買い物、料理、掃除、洗濯といったことも自分でしなければいけない時代であることから、体力面・外見面での維持・向上が見られているのだろうとした。

最後に、著書のタイトル『年寄りは集まって住め』の論点に立ち返る。高齢者に向けたアンケートでは「同世代との交流」を望んでいる人が圧倒的に多かった。その理由としては、世代が異なることで話題やライフスタイルの違いが浮き彫りになり、心からの満足が得られないからのようだ。つまり高齢者は高齢者同士だからこそわかり合えるものであり、同世代との交流を活発にしていくことが現代を豊かに生きていくポイントであるとし、さらに東京大学の研究からも、健康長寿の3要素のひとつに「交流」が挙げられているとして見解をまとめた。

次回の配信は10月12日(木)16:00から「これからのマンションの課題を考える〜熱海が教えてくれる未来のマンション管理〜」と題し、開催を予定している。

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