見えない危機!?インフラ老朽化とマンション~マンション設備の再考③~

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見えない危機!?インフラ老朽化とマンション~マンション設備の再考③~

インフラ老朽化により発生した事故

 2025年1月28日に発生した埼玉県八潮市道路陥没事故は、連日報道が繰り返されたこともあり、記憶に残っている人も多いだろう。しかし、日本では、この事故以前から、インフラ老朽化に伴う事故が全国各地で発生しているのである。
 2018年7月4日には、東京都北区で老朽化した水道管が破損し、道路が陥没。周辺約20戸に浸水被害が発生している(※1)。2021年10月3日には、和歌山県 六十谷(むそた)水管橋崩落事故が発生し、約6万世帯(約13万8000人)に断水が起きるなど、住民の生活に深刻な影響を与えた。この水管橋崩落事故の様子は、国土交通省のホームページで動画として視聴できる(※2)。水管橋が、あっという間に崩落する様子は衝撃的だ。
 インフラ老朽化といえば、他にも2012年12月2日に発生した笹子トンネル天井板崩落事故などもあるが、今回はインフラの中でも特に上下水道管の老朽化に注目してみたい。

上下水道管の現状

 全国で発生している下水道等に起因する道路陥没事故は2022年度で約2,600件に及ぶ(※3)。日本には1,700以上の市町村があることを考えると、毎年、日本のどこかで道路陥没事故が起きている計算になる。さらに、同調査によれば、日本の管路経年化率(法定耐用年数を超えた管路延長÷管路延長×100)は22.1%、それに対して管路更新率(更新された管路延長÷管路延長×100)は、わずかに0.64%とされている。
 下水道管が劣化することは、管の敷設時から想定されていたことである。いずれ来る耐用年数の経過に向けて、なぜ、事前に手を打つことができなかったのか。
 「なぜ、老朽化する前に手を打たなかったのか?」これは、マンションの高経年化問題でも必ず挙がる質問である。背景は同じなのだろう。想定以上の人口減少、そして経済の失速である。人口が増加し続け、生産年齢人口が増加し続けていれば、たとえ、耐用年数が到来しても、その更新費用を社会全体で負担できたはずだ。右肩上がりの経済成長が持続していれば、税収もまた右肩上がりであったはずだ。しかし、そうはならなかった。

 さらに国土交通省によれば、過去10年間(2011~2020年度)の水道施設の投資額平均は約1兆3000億円である。これに対して、将来30年間(2021~2050年度)にわたって単純更新を行った場合の更新費は、平均約1兆8000億円 と試算され、毎年約5000億円が不足するとされている(※4)。

 単位が大きすぎてピンと来ないため、ここで単位を小さくして考えてみよう。
日本の総人口(外国人を含む)は、総務省統計局によれば、202〇年〇月時点で約1億2,380万人である。不足額の5000億円/年を、日本の総人口で割り算をすると、単純計算では一人当たり約4,170円 /年の負担が必要という計算になる。これは赤ん坊から高齢者に至るまで、国民全員が均一に負担した場合の金額である。 例えば、3人家族の場合は、4,170円/年×3人=12,510円/年となる。
 我が家は3人家族であるが、この12,510円/年という金額を今すぐに負担し始めたとしても、今後30年間、水道料金は上がることはあっても、下がる見通しは立っていない。自分で試算をしておきながら、この負担額の大きさに驚く。

値上げに踏み切る自治体

 

 上下水道料金は市区町村の自治体が徴収し、その維持管理も市区町村が行う。国の事業ではない。そのため、自治体単位でその負担額は大きく異なる。2026年2月20日現在、上下水道料金が高額である自治体を調査したところ、最も料金が高額なのは北海道夕張市であった。夕張市は過去に財政破綻を経験しており、その状況が料金水準に影響しているとみられる。
 上下水道料金の値上げは人口の多い首都圏でも始まっている。例えば埼玉県戸田市は、2025年4月から約30%の値上げに踏み切っている 。埼玉県寄居町のホームページではには、値上げの理由について次のように説明している(※6)。

「水道事業は、税金ではなく使用者のみなさまからの水道料金で運営しておりますが、年々進む人口減少に加え、節水型機器の普及等の影響を受け、今後も水道使用量(料金収入)が減少する見込みであり、その一方で、老朽化した水道施設の更新や維持管理に要する費用の増大により、厳しい経営を迫られています。将来にわたり、安全・安心な水道水を安定してお届けするために、令和7(2025)年4月1日から水道料金を改定(値上げ)させていただきます。」

  この説明文からは、悲鳴が聞こえてくるようだ。

 寄居町が言う通り、「水道事業は水道料金で運営」されている。他にも、水道料金が高額な自治体には、宮城県女川町、福井県敦賀市などの名前もある。この2市町村は、原子力発電所のある町として有名である。原子力発電はその地域に多額の補助金が交付されることもあり、財政的に恵まれている印象を持たれることもある。しかし、こうした交付金は上下水道料金の軽減には直接つながらず、市民の負担は大きいようだ。水道管の老朽化問題は、水道事業によって対応するしかないのだろう。

■ 上下水道料金 例

口径13mm、使用量20㎥で算出

都道府県 市区町村 料金シミュレーション/月 引用元
北海道 夕張市 6,870円 夕張市上・下水道使用料金表
北海道 札幌市
5,049円
札幌市水道局
宮城県 女川町 5,995円 女川町上下水道料金及び支払方法
宮城県 仙台市 5,470円 仙台市水道局水道料金のしくみと料金表
福井県 敦賀市 5,907円 敦賀市水道料金および下水道使用料の改定について(令和8年1月改定)
福井県 福井市 4,906円 水道料金等早見表
神奈川県 横浜市 3,603円 水道料金・下水道使用料表

マンションは二重負担

 築40年~50年位までの間、マンションの修繕工事で最も負担が大きいのは、給水管更新工事、排水管更新工事などの「水回り工事」であろう。ただし、長期修繕計画では水回り工事の費用が、36年目以降に工事項目として設定されることが多い。新築時に作成される30年間の長期修繕計画には含まれないのだ。5年ごとに長期修繕計画を見直す場合は、10年目以降にようやく工事項目として現れることが一般的だ。そのせいもあってか、水回り工事には多額の費用が必要となることを認識していない区分所有者も多い。
 さらに、長期修繕計画の見直しをする際も、水回り工事費用を積立金計画に算入するのか、しないのかで月々の積立金の額は大きく上下する。管理組合によっては、値上げの合意が得られそうにない場合、水回り工事を後ろ倒しにして、長期修繕計画に算入しないことで、まるで将来も積立金が充足しているかのように見せることもあると聞く。

 水道事業において、自治体が責任を負う範囲は、基本的にマンションに給水管を引き込むところまでである。そこから先、マンションは共用部分の設備として給排水管を維持管理していかなければならない。つまり、マンションは公共の給排水管とマンションの共用部分の給排水管の維持管理費用を両方負担する必要がある。戸建て住宅にはない負担である。
 自治体の水道料金見直しと、積立金の見直しが同時期に重なれば、区分所有者の負担は増え、積立金の値上げを決議することはますます難しくなるだろう。マンション内では漏水事故が多発し、道路では陥没事故が多発するといった、そんな状況が現実味を帯びてしまう可能性もある。
 そうなる前に、長期修繕計画において給排水設備の更新工事はいつ、どの程度の想定がされているのかを見直してみる必要がある。
 インフラの老朽化は自治体の問題だけではないのだ。

※1 産経新聞 https://www.sankei.com/gallery/20180704-QKA2G4ROKJO7VOHDF6FDDX4WQU/
※2 国土交通省 https://www.kkr.mlit.go.jp/bousai/taiou/kinki/r3_wakayama1003.html
※3 国土交通省、下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会第1回検討会資料、2025、https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000987.html
※4 国土交通省 https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/watersupply/content/001741376.pdf
令和6年度 全国水道主管課長会議資料
※5 戸田市ホームページ https://www.city.toda.saitama.jp/site/suidou/mizu-somu-ryoukinkaitei.html
※6 寄居町ホームページ https://www.town.yorii.saitama.jp/soshiki/18/suidou-r7kaitei.html


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久保 依子

執筆者

久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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