団地からマンションの歴史を考える~展示に見る建築と生活文化の変遷~

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団地からマンションの歴史を考える~展示に見る建築と生活文化の変遷~

1. はじめに

 マンションの歴史を考えるうえで、日本住宅公団(現UR都市機構)が供給した数多くの住宅団地は欠かすことができない。高度経済成長期、日本では大量の住宅供給が必要となり、団地は単なる住宅ではなく、新しい都市生活、核家族化、近代的ライフスタイルを象徴する存在となった。
 しかし現在、多くの団地は築50年以上を迎え、建替えや再生が進んでいる。その過程で、「団地の歴史をどのように残すのか」という問題が生じている。最近の実績を見ると、団地保存には大きく二つの方向性が存在する。第一は、建物そのものを保存する「建築物としての保存」、第二は、団地で営まれた暮らしや生活文化を記録・展示する「生活の保存」である。さらに近年では、その両者を統合しようとする試みも現れている。本稿では、この三つの方向性を整理し、団地保存の特徴を明らかにしたい。また、読者の皆さんは、ここに紹介する博物館等に足を運んでマンションや団地の歴史に触れてみてほしい。

※博物館の内部写真は原則として非公開とされているため、本稿では、外観写真または各博物館等のURLを示している。

2. 建築物としての保存

2-1. URまちとくらしのミュージアム(旧赤羽台団地内)のスターハウス

 旧赤羽台団地(現ヌーヴェル赤羽台)は、旧住宅都市整備公団(現UR都市機構)が開発した東京都北区にある団地である。ここでは、1つの階段室を中心に住戸を放射状に配置したスターハウスや、羊羹型とも呼ばれる立方体の建物が建替え後もミュージアム機能を伴う形で公開されている。スターハウスは、1950年代を代表する建築形式であり、2019年には国の登録有形文化財にも指定された。
 旧赤羽台団地での保存は、単なるノスタルジーではない。団地が「戦後日本の社会インフラ」であったことを示す文化財的保存である。つまり、団地が都市史・住宅史・建築史の資料として扱われ始めたことを意味していると言えよう。

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2-2. ひばりが丘団地における管理事務所棟とコミュニティ棟

 ひばりが丘団地は、東京都の多摩地域にある旧住宅都市整備公団(現UR都市機構)が開発した団地である。団地の再生においては、老朽化した住棟を全面的に建替えるケースが多い。しかし、ひばりが丘団地では、大規模建替えが進められた一方で、一部住棟が残され、旧団地の風景や空間構成を継承しようとする試みが行われている。
 ここで保存されている建物は、URまちとくらしのミュージアム(旧赤羽台団地内)のスターハウス保存とは異なり、展示物として保存するのではなく、管理事務所や居住者のためのコミュニティセンターとして当時の面影を残しながら現役の建物として再活用されている。

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3. 生活の保存という考え方

3-1.江戸東京博物館における住宅内部の展示

 一方、団地保存には、建築物そのものではなく「団地生活」を保存しようとする動きがある。代表例が 江戸東京博物館(※1)における団地住戸の移設、再現展示である。ここで展示されているのは、同潤会アパートやひばりが丘団地の住戸である。同潤会アパートは、表参道ヒルズに一部当時の建物を保存している。また、ひばりが丘団地は、2-2.に示す通り、いまも現地に建物が保存されている。どちらも現地に行けば建築物は見学できる。それでも、江戸東京博物館に住戸を展示するのは、そこで人々がどのように暮らしたのかという「生活文化」の展示をしようとするものであろう。
 ここでは生活様式のほかに、当時の家具、家電、食卓、生活用品が配置され、「団地での暮らし」全般が展示対象となっている。つまり、団地は建築史資料から生活史資料へと変化しているのだ。

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3-2.常盤平団地と松戸市立博物館

 興味深いのが常盤平団地と松戸市立博物館(※2)の関係である。
常盤平団地は旧住宅都市整備公団(現UR都市機構)が開発した千葉県松戸市にある団地である。1959年から入居が開始され、現在も現役住宅として存在し、さらに一部では建替えやリニューアル工事も進められている。駅から団地に向かう「けやき通り」を歩くと、大きく育った木々から60年以上の歴史を感じることができる。この団地では、2-1.で示したスターハウスも現役で使用されている。
 それにもかかわらず、松戸市立博物館は常盤平団地の住戸を再現展示するために改修工事を行い2026年9月に再開館した。これは、「建物が残っていること」と「当時の生活が残っていること」は別の問題であるという認識を表していると考えられる。団地は改修されることで設備や間取りが変化し、生活様式も更新される。その結果、「昭和の団地生活」は現役の団地から失われていく。そのため博物館は、建築物ではなく「生活の記憶」を保存しようとしているのであろう。

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4. 建築物と生活を一体的に保存する試み

4-1. URまちとくらしのミュージアム

 近年の団地保存で注目されるのが、建築物と生活文化の双方を統合的に保存しようとする動きである。その代表例がURまちとくらしのミュージアム(※3)である。
同施設では、2-1.で示したように、旧住宅都市整備公団の住棟や空間構成を保存するだけではなく、別にミュージアム棟が建築され、住宅内部の生活再現展示も行われている。そこでは当時の家具・家電・台所設備などが再現され、「団地での暮らし」が展示されている。
 これは従来の保存概念を拡張するものである。単に建物だけを残しても、人々がどのように暮らしたのかは伝わりにくい。一方で、生活だけを展示しても、団地空間特有のスケール感や住棟配置、屋外空間との関係性は理解しにくい。
 URまちとくらしのミュージアムは、この両者を統合することで、「団地という総合的生活空間」を保存しようとしている。

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4-2. 浦安市郷土博物館

 

 ここまで、マンションの歴史に着目してきたが、さらに「住宅」まで広げると同様の事例がある。
 浦安市郷土博物館  (※4)は、江戸時代の浦安市の街並みや産業が再現されている。この博物館に行くためには、JR新浦安駅からバスを利用するのが便利だ。博物館には団地こそ再現されていないが、JR新浦安駅周辺の埋め立て地に林立するマンション群を見ながら浦安市郷土博物館を見学すると、自分が立っている土地が海であったことを実感できる。この博物館でも当時の町民の生活を彷彿とさせる道具などが同時に展示されている。

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5. これからのマンション史

 団地の保存は以下のように分類できる。

分類

対象

事例

建物保存型

住棟・配置計画・外観

ひばりが丘団地
赤羽台団地の保存建物

生活保存型

暮らし・家具・生活文化

江戸東京博物館、松戸市立博物館
浦安市郷土博物館

併用型

建築+生活の両方

URまちとくらしのミュージアム

 団地は単なる建築物ではなく、「戦後日本人の暮らしそのもの」を表象する存在として認識され始めたと言える。今後のマンション史の研究では、建築史だけでなく、生活文化・記憶・コミュニティを含めた総合的視点が重要になると考えられる。

※1江戸東京博物館
https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/
※2 松戸市立博物館
https://www.city.matsudo.chiba.jp/m_muse/
※3 URまちとくらしのミュージアム
https://akabanemuseum.ur-net.go.jp/
※4浦安市郷土博物館
https://www.city.urayasu.lg.jp/kanko/kyodo/index.html

団地からマンションの歴史を考える~展示に見る建築と生活文化の変遷~ [5.9MB]

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久保 依子

執筆者

久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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