はじめに
最近、新聞、雑誌やインターネットなどの情報には、マンションに関するセンセーショナルなタイトルが目につくようになった。「廃墟化するマンション!」「タワマン崩壊!」などはインターネットで検索すれば多くの記事が表示される。
しかし、中にはその真偽について首をかしげたくなるような語り(言説)もある。こうした言説はどこまでが真実なのだろうか。また、どのくらい信じられているのだろうか。
そこで今回は、マンションに関する4つの語り(言説)を取り上げ、その情報の正確さや浸透状況についてアンケート調査を実施した。その結果をもとに検討してみたい。
Webアンケート調査:マンション情報に関するアンケート(マンションに関する「語り」について)
読者の皆さんもアンケートの設問に回答しながら結果を予想してみてほしい。
|
Q.1 あなたはマンションに関する次の「語り」を見聞きしたことがありますか? Q.1-1 日本には廃墟化し、誰も住まなくなった大規模団地が存在する Q.1-2 タワーマンションは外国人投資家により買い占められている Q.1-3 住民の高齢化が進行し『スラム化』や『限界マンション』と呼ばれるマンションが急増している Q.1-4 マンション住民は、震災が発生しても近隣の避難所には入れてもらえない 選択肢 Q.2 あなたは、次のマンションの「語り」について、本当だと思うものはどれですか 選択肢 Q.1-1 ~Q.1-4 調査方法:インターネットによるアンケート調査 |
結果と考察
◆全体傾向

Q.1-2外国人に関する語りを見聞きしたことがある人が最も多い。外国人に関する語りは広がりやすい。その理由は、治安、景気などへの不安を外部の要因に帰属させることで問題が単純化され、理解しやすくなるからではないかと考えている。
例えば、特定の地域に居住する海外ルーツの住民に関する語りを検索すると、不安を示す日本語表現が散見される。
次に、Q.1-3「スラム化」に関する語りが続く。スラムとは、一般的に「人々がそこに生活しているが、住環境は劣悪で、貧困状態にある地域」を表す。インフラが未整備で、経済的困難を抱える住民が多い地域をイメージするとわかりやすいだろう。一方で、高齢化マンションに見られるような、空室が増加し、誰も住まない状態は「スラム化」ではなく「ゴーストタウン化」ではないだろうか。個人的には「スラム」という用語を使用しているだけで、現状を把握できていない語りだと感じている。
Q.1-4がもっとも知られていない。マンション管理に従事する者として、この避難場所に関する語りはなんとか消えないものかと考えていた。他の語りは生命や財産の損害に直結するものではないが、避難所の語りだけは、生命をおびやかすものだからである。
これらの語りの正確さについてどうかを検証してみよう。(以下「ファクトチェック」という)。
Q.1-1 日本には廃墟化し、誰も住まなくなった大規模団地が存在する

ファクトチェック
誰も住まない大規模団地として有名なのは「軍艦島」であろう。ただし分譲マンションではない。築年数の経過した公営団地(賃貸)において、行政が立ち退きを進めているマンションは存在する。見た目は管理不全であるが、立ち退きまでの一時的な空き家である。こうした公営団地の再生は行政にゆだねられており、将来計画のないまま放置された状況ではない。
また、旧住宅都市整備公団(現UR)分譲マンションにおいて、老朽化が進み、修繕費用が不足しているマンションは存在している。ただし、廃墟化し、誰も住んでいないわけではない。
一部の雑誌や動画などで「廃墟」とされているマンションを実際に訪問してみると、ベランダには洗濯物が干され、駐車場には車が止まっている。確かに人通りは少ないが、それをもって廃墟とまでいえるだろうか。私の持つ廃墟のイメージは、建物は瓦礫と化し、雑草に覆われた風景が広がるようなもっと深刻な状況だ。
こうした表現をみかけたら、まずはGoogleでその場所を検索しストリートビューなどで確認してほしい。イメージ通りの「廃墟」だろうか。一部の情報や映像の「切り抜き」ではないだろうか。
年代別の傾向
高齢になるほど、インターネットからの情報取得割合は減少し、新聞、雑誌、テレビからの取得が増加するのではないかと予想した。しかし、結果はどの年代においても、第1位は「新聞・雑誌・テレビ」、第2位は「インターネット記事、動画」である。
年齢を問わず、その割合はほぼ一定である。これは、情報の広がり方に関係していると考えられる。今回取り上げた言説は、いつ、誰が最初に発信したものかは特定できていない。しかし、例えば最初の情報発信者がSNSを使って発信し、それが拡散したとしよう。それを雑誌が取り上げ、次にテレビが取り上げる。そうしたメディアの情報の連鎖が、あらゆる年齢層に広がっているのではないだろうか。もはや現代社会においては、どの媒体であるか、どの年齢層であるかを問わないのかもしれない。
Q.1-2 タワーマンションは外国人投資家により買い占められている

ファクトチェック
国土交通省が不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果を公表している。
~三大都市圏及び地方四市の短期売買や国外居住者による取得状況~
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo05_hh_000001_00237.html
同調査は、法務省が保有する不動産登記情報及び民間の価格データ情報を活用し、2018年1月から2025年6月までに保存登記がなされた三大都市圏及び地方四市の新築マンション約55万戸を対象として 実施され、次のような点が示されている。
【新築マンションの短期売買】
・国外に住所のある者が2億円以上の高額物件を活発に短期売買している傾向は特に見られない(都心6区)。
【国外に住所がある者による新築マンションの取得】
・国外に住所がある者が2億円以上の高額物件を活発に購入している傾向は特に見られない(都心6区)。
登記簿の調査は民間企業ではできるものではない。さすが、国の調査であり、その調査範囲も大規模だ。ここまで調査して顕著な傾向がないと結論づけるからには、その通りなのだろう。
しかし、一部に、外国人が日本で法人を立ち上げて、日本法人として登記しているものは含まれていない等の批判もある。外国人が所有することに対する懸念点は、連絡が取れなくなることであろう。この点については、改正区分所有法に「国内管理人」の制度が創設されたことにより、今後改善されていくことを期待したい。
Q.1-3 住民の高齢化が進行し『スラム化』や『限界マンション』と呼ばれるマンションが急増している

ファクトチェック
「スラム化」や「限界マンション」の用語は公的機関では使用されておらず、定義もあいまいである。法律や公的機関が使用している用語は「管理不全」である。管理不全は区分所有法第46条の13において、裁判所の命令が必要であるとされている 。 なお、区分所有法は2026年4月1日に改正されたばかりであり、本条を適用した管理不全命令が発出された事例は私の知る限りまだない。また、国土交通省が5年に1度調査するマンション総合調査においても、管理不全マンションの数についての調査項目はなく、急増しているという事実は見当たらない。
国土交通省マンション総合調査 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000058.html
Q.1-4 マンション住民は、震災が発生しても近隣の避難所には入れてもらえない

ファクトチェック
「在宅避難」という言葉が発信されるようになってから、マンションに居住する人は震災などの災害にあっても、在宅しなければならない、避難所に入れてもらえない、という言説を目にするようになった。しかし、内閣府「在宅避難」や東京都「とどまるマンション」ではマンションに居住することが可能な場合に在宅することを推奨しているだけであり「避難所に入れてもらえない」わけではない。
内閣府 在宅避難者・車中泊避難者等の支援の手引き https://www.bousai.go.jp/taisaku/shien/index.html
東京都 東京とどまるマンション情報登録・閲覧制度(令和5年1月施行)https://www.mansion-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/bousai/02lcp-touroku/
Q.2 あなたは、次のマンションの「語り」について、本当だと思うも のはどれですか

これまでのファクトチェックにより、今回取り上げた語りは一部に十分な根拠が確認されていない情報を含むものであることがお分かりいただけたであろう。では、見聞きした語りはどのくらい信じられているのだろうか。
世間を騒がせる事件が発生すると、その語りについて誤情報、偽情報が出回ることがあるが、こうした大事件だけでなく、身の回りの語りについてもその正確さを見極める力を持ちたいものである。