1. パブリック・コメントとは何か
「e-GOV(イーガブ)パブリック・コメント」のページ※1 では、次のように説明されている。
「国の行政機関は、政策を実施していくうえで、さまざまな政令や省令などを定めます。これら政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民の皆様から意見、情報を募集する手続が、パブリック・コメント制度(意見公募手続)です。」
つまり、法律は国会で審議されるが、政令や省令は国民から選ばれた国会議員による審議がない。そのため、国民から直接声を聞くための制度がパブリック・コメント制度である、というところだろう。
しかし、この制度を揺るがしかねない出来事が起きた。2025年5月のことで、当時は盛んに報道されていたことから、記憶にある人も多いだろう。
環境省が実施した「『平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案等』に対する意見募集」※2 という長文の意見募集に、実に20万7,850件もの意見が提出された。
しかし、このうち、約96%(19万9,573件)が、SNSなどで拡散された「例文のコピー」であったと報道されている※3。 それでも、環境省が公表した「パブリック・コメント 御意見に対する考え方(別紙)」は実に80頁に及んでいる。環境省の担当官の業務負担はいかほどであったろうか。
こうした事態を受けて、「e-GOVパブリック・コメント」には次のような注釈が赤文字で追加されることになった。
「パブリック・コメント制度では、提出された意見の「量」ではなく「内容」を考慮します。同一内容の意見が多数提出された場合であっても、その数が考慮の対象となる制度ではありません。」
では、マンション管理に関する政策におけるパブリック・コメントの募集及び結果報告の状況はどのようになっているだろうか。
※1e-GOVパブリック・コメント
https://public-comment.e-gov.go.jp/contents/about-public-comment/
※e-GOVとは、デジタル庁が運営する、行政手続きや情報収集を行えるオンラインポータル
※2「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案等」に対する意見募集
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/1040?CLASSNAME=PCM1040&id=195240105&Mode=1
※3読売新聞オンライン「パブリック・コメントに大量の同一意見…「『除染土の再利用」』『「マイナ保険証」』などSNSで例文拡散」2025/05/05 05:00
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250504-OYT1T50090/
2. マンション管理に関するパブリック・コメントの実施状況
「e-GOVパブリック・コメント」の検索画面にある総件数3,314件のうち、「マンション」「管理組合」をキーワード欄に入力し、所管官庁を「国土交通省」として検索したところ、過去案件、結果公示案件、意見募集中案件の合計56件が表示された(2025年12月9日現在)。
最も古い案件は、2003年9月12日に結果が公示された「『新たな住宅政策のあり方について』建議(案)に関する意見募集について」である。マンション管理に関するパブリック・コメントはおおよそ22年間の間に56件実施されたことになる。
① 意見募集手続の方法は2種類
パブリック・コメントの実施方法には2種類ある。ひとつは、「行政手続法第39条による意見募集」である。もうひとつは、法を根拠としない「任意の意見募集」である。
任意の意見募集とは、法定手続ではないが、社会的な影響の大きいものや話題性の高いものについて、行政が一方的に決めてしまうのではなく、国民の意見を聞いておこうとする場合に実施されるものと個人的には理解している。
| 【参考】行政手続法 第三十九条(意見公募手続)命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければならない。 |
マンション管理に関するパブリック・コメントでは、「行政手続法による意見募集」が約37%、「任意の意見募集」が63%となっている(図1参照)。パブリック・コメント全体における割合は公開されていないため、他のカテゴリとの比較はできないが、任意の意見募集が多いということは、それだけ、マンション管理に関する社会的関心が高いと肯定的に捉えられるのではないだろうか。

② 結果の公示数は増加傾向
2003年度から2025年12月末日現在 までの、マンション管理に関するパブリック・コメントの結果公示数は次の通りである(図2参照)。2021年度と2025年度(12月末日現在) が8件と最も多くなっている。両年度ともに、法改正とマンション標準管理規約の改正がなされている点が共通している※4。マンション標準管理規約の改正は、やはりマンション管理分野における大きなイベントであることは間違いない。

提出された意見が多かったものは次の通りである(図3参照)。特に、上位3件は500件以上と突出している。
※4 2021年6月22日『「マンション標準管理規約」の改正(案)に関する意見公募結果について』は提出意見数32とあるが、<パブリック・コメントにおけるマンション標準管理規約(単棟型)の改正(案)に対する主なご意見とそれに対する考え方>に注釈として「※計32の個人・団体より、123件のご意見を頂きました」とあり、他の集計結果とあわせて123件に修正した。

上位3件は次のような案件である。
- 第1位:1,120件
2017年8月29日「マンション標準管理規約」の民泊関係改正(案)に関する意見募集について - 第2位:760件
2016年3月14日「マンションの管理の適正化に関する指針」及び「マンション標準管理規約」の改正(案)に関する意見募集について - 第3位:635件
2024年6月7日マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインに関する意見募集の結果について
第1位は民泊に関する意見募集である。当時、住宅宿泊事業法の成立に伴い、すべてのマンションで管理規約を改正する必要があった。当時は臨時総会の開催に向けて、各管理組合が大きく混乱したと記憶している。
第2位のマンション標準管理規約の改正では、外部管理者方式に関する条文に多くの意見が寄せられている。第3位と併せてみても、外部管理者方式への関心の高さがうかがえる。
④ 意見募集から結果の公示まで、最も時間がかかったのは?
意見募集から結果の公示までに要した期間は次のとおりである(図4参照)。一目で分かるように、2件が突出している。

- 第1位:46.6ヵ月(1,418日)
2016年2月19日「昇降機の適切な維持管理に関する指針」(案) - 第2位:34.2ヵ月(1,040日)
2016年2月19日「エレベーター保守・点検業務標準契約書」(案)に対する意見募集について
エレベーターに関しては、2006年6月、東京都港区のマンションで、当時高校2年生の男子生徒がエレベーター事故で亡くなるという痛ましい事故が起きた。この事故を契機に、エレベーターの安全対策についてさまざまな見直しがなされることになった。その一環として、管理組合がエレベーター保守会社と締結する際の参考となる「エレベーター保守・点検業務標準契約書」が策定された。この契約書案に関するパブリック・コメントでは、意見総数がそれぞれ104件、113件と他の意見募集よりもやや多い程度であるが、策定までに4年近い年月がかかっている。
法が成立する際には、テレビや新聞で大きく報道される。しかし、パブリック・コメントの意見募集は注意を払っておかないと見過ごしてしまいがちである。
見落としをなくすためには、「国土交通省メールマガジン」※5 に登録するとよいだろう。登録すると、毎日のように国土交通省からメールが届く。その内容には、「航空機の〇〇に関するお知らせ」や「自動車のリコール情報」など、マンション管理には直接関係のないお知らせも多い。それでも、パブリック・コメントに関する見落としを防止できる。
私自身も、パブリック・コメントには時々意見を提出している。みなさんも提出してみてはどうだろうか。
※5 国土交通省メールマガジン
https://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_010157.html