適正化法103条 設計図書の交付等が確実に履行されるにはどうしたらよいか

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適正化法103条 設計図書の交付等が確実に履行されるにはどうしたらよいか

1.竣工図がない!構造計算書偽造事件

 2005年、構造計算書偽造事件が発生した。すでにマンション管理の世界では歴史の一部となりつつあるが、この事件が発生すると同時に、「自分のマンションは大丈夫なのか」という不安に駆られた管理組合が一斉に構造計算書や竣工図を探し始めた。それまで図書の保管の有無を確認しておらず、書類が見つからない管理組合からは「竣工図や構造計算書が見当たらない。再発行はできるのか」「分譲会社や施工会社、管理会社に控えの保管はないのか」といった質問が相次いだ。
 この事件をきっかけとして、管理組合が竣工図などの図書を保管しておくことの重要性が認識されるようになった。また、法制度が改正され、設計事務所や施工会社などでも一定期間の図書の保管が義務付けられるようになった。
 マンション管理適正化法では、分譲会社が管理組合に対して図書を交付しなければならないことが定められている。

マンション管理適正化法(設計図書の交付等)
第百三条 宅地建物取引業者(宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)第二条第三号に規定する宅地建物取引業者をいい、同法第七十七条第二項の規定により宅地建物取引業者とみなされる者(信託業務を兼営する金融機関で政令で定めるもの及び宅地建物取引業法第七十七条第一項の政令で定める信託会社を含む。)を含む。以下同じ。)は、自ら売主として人の居住の用に供する独立部分がある建物(新たに建設された建物で人の居住の用に供したことがないものに限る。以下同じ。)を分譲した場合においては、国土交通省令で定める期間内に当該建物又はその附属施設の管理を行う管理組合の管理者等が選任されたときは、速やかに、当該管理者等に対し、当該建物又はその附属施設の設計に関する図書で国土交通省令で定めるものを交付しなければならない。
2 前項に定めるもののほか、宅地建物取引業者は、自ら売主として人の居住の用に供する独立部分がある建物を分譲する場合においては、当該建物の管理が管理組合に円滑に引き継がれるよう努めなければならない。

(法第百三条第一項の国土交通省令で定める期間)
第百一条 法第百三条第一項の国土交通省令で定める期間は、一年とする。

2.設計図書とは何か

 一般的にマンション等の建築物では、設計段階で作成される図面を「設計図(設計図書)」といい、建築中に現場の進行のために作成される図面を「実施図」といい、建物が完成した際に作成される図面を「竣工図(竣工図書)」という。
 しかし、マンション管理適正化法第103条では、分譲会社が引き渡しをしなければならない図書を「設計図書」と呼んでいる。呼称だけを聞くと設計段階の図書のように思えるが、平成28年に発出された通達において、この設計図書は「完了検査に用いたもの」としている。したがって、その名称とは異なる図面を指している。
 ただし、施工会社に確認すると、完了検査に用いた図面であっても、行政からの指導等により建物に若干の変更が加わったなどの理由から、修正を加えることはあるという。例えば専有部分の感知器の位置を変更したなどの例があるとのことであった。完了検査に用いた図面もまた、建物完成時の図面とは言い切れない。
 こうしたことから、このレポートでは、管理組合が必要とする建物完成時の図面を「建物完成時の竣工図」と呼ぶことにする。

3.建物完成時の竣工図ができるまで

 建物完成時の竣工図は、分譲会社が作成するわけではない。図面ができるまでは、おおよそ次のような段階がある。

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 施工会社(ゼネコン)の立場で考えてみよう。引き渡し後に図面に不明な点があるとして、分譲会社を通じて管理組合や区分所有者から問い合わせがあるのは、できる限り避けたいだろう。そのため、変更があった箇所が未反映のままの竣工図を引き渡すことはしたくないはずだ。分譲会社と協議して何をどこまで記載するのか、そうしたやりとりが発生する。そのため、上記のような時間と手間がかかる。
 こうしたことから、建物完成時の竣工図は、建物の引き渡し後、何か月も経過してようやく引き渡しがされる。適正化法施行規則では1年以内、管理者が選任された場合は速やかに引き渡すこととされているが、管理組合の手元に届くのは法定で定める期間ぎりぎりのマンションも多い。

4.建物完成時の竣工図に必要な図面とは

 マンション管理適正化法では、管理組合に引き渡す図書等について11 種類を定めている。しかし、この呼称は建築士法や建設業法などにおいて同様の呼称が定められている訳ではない。マンション管理適正化法独自の規定である。また大手の施工会社では、その会社特有の呼称を使用し作成していることもある。引き渡された建物完成時の竣工図をめくってみても、図面下に記載のあるそれぞれの名称が、この11種類の図面のどれに該当するのか判断しにくい。万が一不足している場合でも、どの図面が不足しているのか、建築に関わりの少ない人には分かりにくい。

実際の図面の例
 下記の図は、実際の図面に記載されている「図面名」である。これがマンション管理適正化法の11種類のうち、どれに該当するのか、素人には分かりにくい。

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(法第百三条第一項の国土交通省令で定める図書)
第百二条 法第百三条第一項の国土交通省令で定める図書は、次の各号に掲げる、工事が完了した時点の同項の建物及びその附属施設(駐車場、公園、緑地及び広場並びに電気設備及び機械設備を含む。)に係る図書とする。

一 付近見取図
二 配置図
三 仕様書(仕上げ表を含む。)
四 各階平面図
五 二面以上の立面図
六 断面図又は矩計図
七 基礎伏図
八 各階床伏図
九 小屋伏図
十 構造詳細図
十一 構造計算書

5.竣工図以外の引き渡し書類

 分譲会社が管理組合に引き渡す書類は、建物完成時の竣工図ばかりではない。建物が完成するまでに実施した検査結果書類など多岐にわたる。建物により必要な検査は異なるため、「どのような書類があるのか」は、分譲会社が引き渡しをした書類がすべてであると信じるしかない。以下の事例は、60戸程度の平均的なマンションの引き渡し書類の例であるが、それでも50種類に及ぶ。タワーマンションなどともなれば、段ボール箱が何箱も積み上げられるほどの書類がある。
 実務上、引き渡し時に行われる書類の確認は、時間的制約もあり、分譲会社が作成した書類リストと実際の書類のタイトルが整合しているかを確認する程度であり、中身の確認まではされていないことが多い。何年か経過して、建物完成時の引き渡し書類を確認しなければならない事態が生じたときに、はじめて段ボール箱をあけて必要書類を探すというのが実情だ。
 こうした書類は、あとから疑義が生じるのを防ぐためにも、管理組合に引き渡されたときに目次の確認だけではなく内容の確認もすべきであろう。

引き渡し書類の例

  1. 竣工引渡書一覧表(目次)
  2. 鍵・書類・備品引渡書
  3. 鍵・書類・備品受領書(写し)
  4. 鍵・書類・備品確認書(管理組合用)
  5. 鍵明細書(共用部分)
  6. 備品明細書(共用部分)
  7. 竣工図 引渡書
  8. 竣工図 受領書(写し)
  9. 集合郵便受け部屋番号割付表(受取側)
  10. 提出予定書類一覧表
  11. メーター検針表 (電気・水道・ガス)
  12. 共用部取扱説明書一覧表(目次)(別冊ファイル2)
  13. 共用部取扱説明受講確認書(写し)
  14. 官庁申請・届出書類一覧表
  15. 確認申請・届出書類一覧表(目次)(別冊ファイルA-1)
  16. 確認申請・届出書類一覧表 その2(目次)(別冊ファイルA-2)
  17. エレベーター関係申請書類一覧表(目次)(別冊ファイルB-1)
  18. 消防・設備関係申請書類一覧表(目次)(別冊ファイルB-1)
  19. その他諸官庁書類一覧表(目次)(別冊ファイルB-2)
  20. 確認済証、検査済証(建築物)
  21. 確認済証、検査済証(昇降機)
  22. 物件概要
  23. 住戸タイプ一覧表
  24. 施工業者連絡先一覧表
  25. 共用部仕上一覧表(1)(2)
  26. 共用部設備(給排水・衛生・空調・換気・機械)一覧表
  27. 共用部設備(電気)一覧表
  28. 住設機器一覧表
  29. 機器完成図一覧表(目次)(別冊ファイル3)
  30. 竣工図(別冊:製本図面)
  31. 地下埋設物
  32. 残置予定位置平面図
  33. 境界確定測量 測量成果品(別冊ファイル4)
  34. テレビ電波障害対策工事完成図書(別冊ファイル5)
  35. 建造物によるテレビ受信障害調査報告書
  36. テレビ電波障害対策工事
  37. ケーブルテレビサービス提供に関する覚書
  38. 集合住宅一括契約に関する覚書
  39. 共用部Wi-Fiの利用に関する契約書
  40. ケーブルテレビ施設向け利用に関する覚書
  41. ケーブルテレビ管理支援サービス契約書
  42. 各種覚書
  43. 高圧電力需給契約書
  44. 引込ケーブル施設に伴う電柱使用契約書
  45. 遠隔監視業務委託契約書
  46. 集合郵便受管理委託契約書
  47. カーシェアリング車室使用貸借契約書
  48. 自動販売機設置協定書
  49. マンション内新聞配達に関する覚書
  50. 道路占用許可申請書・道路占用(掘削)工事完了届

6.書類の追いかけ

 建物完成時の竣工図は、管理組合の手元に届くまでに時間がかかる。また、その他の書類も建物の引き渡し時には一部不足が生じていることもある。この時間の経過がときに「図書等のもらい忘れ」につながっているのではないだろうか。分譲会社や施工会社の担当者は、建物が完成してしまえば、すぐに次の建物の販売や建築に取り掛かる。書類を引き渡すことは、いわば「残務」となる。保管する側の管理組合からも積極的に督促しなければ、忘れられてしまいかねない。
 書類がすべて揃っているかは、一度「棚卸し」を行った方がよいだろう。書類の保管は理事長の義務でもある。

標準管理規約(帳票類等の作成、保管)
第64条 理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を、書面又は電磁的記録により作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。(以下略)

7.宅地建物取引業法の改正を

 建築士は建築士法、施工会社は建設業法、分譲会社は宅地建物取引業法、マンション管理業者はマンション管理適正化法、それぞれ業界によって絶対に守らなければならない法律がある。しかし、建物完成時の竣工図の引き渡しは、分譲会社が守るべき条文であるにも関わらず、宅地建物取引業法ではなくマンション管理適正化法に定められている。
 そうしたこともあってか、分譲会社において、建物完成時の竣工図の引き渡しが法定事項であることを知らない人もいる。宅地建物取引士の試験においても、マンション管理適正化法は出題範囲ではないこともあり、あえて勉強する機会もない。管理組合への図書等の引き渡しを確実に行おうとするなら、マンション管理適正化法第103条は、宅地建物取引業法に定めるべきではないだろうか。不動産業界に浸透させるのは、それが最も近道であるように思う。

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久保 依子

執筆者

久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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