近年、気候変動も影響して、災害が激甚化していると言われている※1。過去最大や観測史上初と表現されるような異常気象の報道に接することも増えた。
本レポートでは、大和ライフネクストが管理するマンションの総会議案書や総会議事録から、マンションの防災活動がどのような形式で行われているかについてまとめた。
調査方法
2016年1月から2021年12月までの期間中に議論された管理組合の総会議案64,895件(注1)の中から、災害に関連すると考えられる検索語を用いて1,814件(注2)を抽出し、分析対象とした。
注1:「①事業報告及び決算」「②事業計画及び予算」「③役員選任」の年次の総会における通常の議案は対象数から除いた。
注2:防災に関する議案を抽出するために用いた検索語は次の通りである:「地震」「震災」「感電ブレーカー」「災害」「水害」「防災」「洪水」「津波」「自治会」「町内会」「防火管理」(防災に関する活動に自治会・町内会等は協働、連携する団体と考えられるため、検索語に入れた)
注3:本レポートでは、自治会や町内会などの地縁を元に組成される任意加入の自治組織を「自治会」とする。
1.防災組織について
防災を進めるにあたっては、防災マニュアルの策定や災害時の共助など、さまざまな活動を進める組織が必要となる。ここではマンションの防災組織について、その形式を4つのパターンに大別し、それぞれの特徴を分析した。
(1)防災組織の形式
防災組織の形式を次の4パターンに分類する。




(2)防災組織における形式別の割合
「調査の方法」により抽出した1,814件の総会議案より、防災組織を審議する総会議案(50件)を抽出し、防災組織の形式別の割合について分析した。
『①管理組合内在型』(54%)と『②専門委員会型』(14%)を合計すると68%、約7割となり、管理組合が防災組織を担っているマンションが多いことが分かる。一方で『③自治会型』(10%)と『④管理組合・自治会協働型』(12%)はそれぞれ低い割合となった。
管理組合が防災活動を行う場合は、管理組合の業務としてどの程度の範囲が許容されるのかが問題となる。一方自治会で行う場合は、業務の範囲や親睦の活動などを比較的自由に決めることができるほか、防災訓練の参加者を増やす目的で、懇親会やバーベキューなどの催し等を開催しやすい。そういった観点では、自治会と管理組合が両団体の特性を活かしながら協働して防災に取り組むことが理想的とも考えられるが、現状『④管理組合・自治会協働型』の防災組織は6件(12%)にとどまっている。


2. 『自治会』議案内容の分析
防災活動で協働や連携をする相手となる自治会は、古くから行政との連携がとられており、行政から災害時の要支援者名簿の提供を受けられる団体でもある。ここでは、『自治会・町内会』の言葉が含まれる議案において、どのような内容が審議されているのか分析を行った。

- 『①徴収方法』は、自治会費用の徴収を変更する内容であり、(議案から読み取りにくい場合もあるが)希望する区分所有者が自治会費を管理費等と共に支払う議案であった。
- 『②退会・個別入会』は、「管理組合としては自治会を退会し、希望する区分所有者が個別に入会する」議案である。
- 『①徴収方法』(29%)と『②退会・個別入会』(20%)で約半分を占めるが、自治会との関係が薄くなる内容と考えられる。
- 分譲マンションとしての関わりを強くする内容と言える『⑤加入』(13%)や『⑥連携』(4%)は、合計しても17%にとどまった。平成28年の標準管理規約改正では、コミュニティ条項の削除が検討会で大きな議論となった※4。規約改正に伴う議論では、いくつかの観点から長文の解説がなされたが、区分所有法に基づく分譲マンションの管理組合と任意団体である自治会・町内会との関係整理が課題の基本的な原因として取り上げられている。
議案書では、総じて徴収方法を変更したり、マンション全体としては町会から退会したりするなど、自治会費用の支払いを逡巡している内容が目立った。自治会と管理組合の深刻な対立の様相を呈している議案や議事録も少数ながらあった。
3.地域連携と避難行動要支援者対応
(1)地域連携
分譲マンションは、津波避難や災害時の一時避難の場所としての活用が期待されている※5。総会議案では、地域の公共団体や自治会・町内会と協定などを締結した上で、防災上の連携をしているマンションが20件あった。こうしたマンションは多くの地域に広がっているのではなく特定の地域に集中しており、そこでは行政が協定書ひな形を提示し、避難者受け入れに伴うリスクなどを丁寧に説明している例が多かった。また、地域連携に伴い、行政から防災備蓄品等の補助が得らえる場合も多い。
現状、地域連携に取り組むマンションは少数ではあるものの、行政のこうした施策が進めば、他のエリアにも波及することが期待できそうである。
[議案書・議事録の記載例]
行政と協定書を締結した際の総会議案書、議事録から特徴的な説明や意見等を下記に示す。

(2)要支援者対応
東日本大震災や令和元年台風第19号、令和2年7月豪雨など近年の災害における死者数の多くを高齢者が占め、令和2年7月豪雨では約8割、東日本大震災で約6割であったとされる※5。
このような背景から、災害時の要支援者への対策整備が行われ、2013年の災害対策基本法の改正では、避難行動要支援者名簿の作成が市町村の義務とされた。また、2021年の災害対策基本法の改正においては、避 難行動要支援者のひとりひとりに個別避難計画を作成することが市町村の努力義務となった※6。これは、行政だけでできるものではなく、地域の共助が不可欠となる。分譲マンションにおける災害時の要支援者への対応も今後の課題になると考えられる。
総会議案では、避難行動要支援者を考慮した名簿と避難体制の整備を決議しているマンションが9件あり、いずれも個人情報保護やプライバシーに配慮しながら名簿整備や助け合いを検討している。
[議案書・議事録の記載例]
要支援者対応をした際の総会議案書、議事録から特徴的な説明や意見等を下記に示す。

4.まとめ
自主防災組織の多くは、自治会が主体となっている※7。しかし、自治会の加入を強制することは難しくなり、近年、多くの地域で加入割合が減少していると言われる※8。マンションとの関係はさらに難しく、自治会費に管理組合全体として加入し、各戸から一律に費用を徴収することに疑義が生じることが増えた。そうした背景から、マンションにおいて防災を担う組織の形式をどのようにするかは定まったものがなく、さまざまな工夫がなされている最中と考えられる。自治会のような個人が任意で加入する団体と管理組合のような法律によって区分所有者から構成される団体の望ましい関係性についてさらなる検討が必要だろう。
防災組織の組成や行政などとの連携、要支援者対策(名簿整備含む)などが求められるが、どれも対応に伴う反対意見が一定程度あり、個人情報漏洩などのリスクが懸念されることも多い。行政との連携については、避難者の受け入れなどに伴うリスクと得られるメリットのどちらを選択するかが議論されていることが多い。行政との協定書の締結を通じて管理組合の賠償責任を減じさせることや防災備品の補助などは有効であると考えられる。また、その地域の災害リスクや避難想定などを管理組合に対して解説している例では、総会出席者の理解が進む機会となっており、行政の働きかけが重要なポイントとなっていると考えられた。
議案を確認すると、真剣な議論を行い、有効な対策を講じている管理組合がある一方、そうしたマンションは現状では少なく、日本の災害状況や高齢者等の要支援者の増加を踏まえれば、なお一層の広がりが求められると思われる。管理組合のリスクをできる限り軽減させながら、行政と連携を取っていく必要があるだろう。管理組合にとってリスクとメリットのバランスが取れた取り組みが一層進むことを期待したい。