管理組合の防犯対策について

防犯・防災
管理組合の防犯対策について

1.はじめに

 分譲マンションの防犯対策は、管理組合にてさまざまな取り組みがなされているが、代表的なものは防犯カメラの設置であろう。当社管理のマンション3,950棟(2021年1月現在)のうち、防犯カメラが設置されているのは、約90%である。
 警察庁が公開している「令和2年 警察白書」では、「街頭防犯カメラは、被害の未然防止や犯罪発生時の的確な対応に有効である。警察では、令和2年3月末現在、32都道府県で2,043台の街頭防犯カメラを設置しているほか、民間事業者等による設置・運用について支援を行っている。」とあり、地域によっては自治会や商店会などの地域団体向けに行政が防犯カメラ設置に関する助成金を出す動きもある。防犯カメラの設置は一般的な防犯対策として世の中に広く認識されており、分譲マンションにおいてもそれは例外ではない。
 ただし、防犯カメラは一度設置をすれば、防犯対策は万全というわけではない。年数が経過しマンションの状況が変化するなかで見直す必要性が出てくる。今回は、主に総会議案書および議事録を手がかりに、管理組合における最近の防犯カメラに関する動向を調査した。また、防犯カメラの設置以外に、防犯対策に取り組む様々な事例を紹介する。

2.総会議案に見る、分譲マンションの防犯カメラ動向

 2019年12月から2020年11月までの一年間で、当社で管理を受託する管理組合にて開催された総会のうち、防犯カメラに関する議案についてサンプル調査(170件)を行ったところ、図1のとおりであった。
 まず、既設の防犯カメラの更新・増設に関する議案は128件と最も多い。そのうち増設を含むものは55件あり、既に設置されている防犯カメラ台数では不足すると判断し、台数を増やす検討をする事例が多いことがわかる。
 つぎに、防犯カメラに関する細則の制定・変更は24件である。新規設置と同時に運用ルールを定めることが多いが、変更を加える議案も少なくない。例えば録画映像確認時に立ち会いをする役員の人数規定変更など、運用面での不都合が出たことにより、見直しが図られた事例もあった。防犯カメラの映像は録画できる日数に限りがある。映像確認のための日程調整に時間を要していては、保存期間を越えてしまい、確認したい映像が消えてしまう可能性があるからだ。
 つづいて、これまで防犯カメラがないマンションでの新規設置の議案は17件あった。前述のとおり、防犯カメラの設置率が約9割であることから、これまで防犯カメラを設置したことがない管理組合のほうが少数派となる。一方で、既設の防犯カメラを撤去する議案は1件のみであり、その理由は一般会計の支出削減によるものだった。
 このように、撤去よりも新規設置のほうが圧倒的に多く、また増設を行う件数も多くみられることから、分譲マンションでの防犯カメラの導入率およびマンションごとの設置台数は今後も右肩上がりになるものと推測する。
 では、管理組合が既設の防犯カメラ設備を見直したり、新たに設置したりする理由は何だろうか。理由として述べられていたものを、件数の多かった順に以下のように整理した。中には複数の理由が掲げられているものもあった。

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①現在の契約(レンタル/リース)が満了となるため

 レンタル契約またはリースの契約が満了を迎える場合に検討をする管理組合が最も多かった。中には、再リースや再レンタルの期間中の場合もあった。

②実際に事件・事故・いたずら・マナー違反があったため

 共用部分の破損や汚損(放尿・ペンキ)のほか、駐車車両へのいたずらや盗難、ゴミ出しにおけるマナー違反、粗大ゴミの不法投棄、タバコの吸い殻のポイ捨て、不審者の侵入などが実際に起きたことにより、その対策として防犯カメラの新規設置または増設を検討していた。

③既設の防犯カメラ設備に不具合・故障があるため

 録画ができていない、映像が不鮮明という状況のほか、修理を依頼したが機器が古いため部品調達ができなかったという事例もあった。

④不審者の侵入リスクが高いため

 事件・事故は起きていないものの、既設の防犯カメラの設置位置では死角がある、オートロックシステムではないため誰でも出入り自由なのが心配、などの懸念だ。中には、機械式駐車装置撤去による平面化や給水方式変更による受水槽撤去で、敷地内への侵入が以前よりも容易になったことにより検討を行っているものもあった。

⑤既設の防犯カメラ設備が耐用年数を超えているため

 買取で過去に設置したものや再リース中のもので、約5~7年と言われるカメラの一般的な耐用年数を意識している事例も複数あった。予防保全の観点を重視して検討を行っていた。

⑥組合員や居住者からの声があったため

 防犯への意識が高まり、総会の場や意見書などで声が上がったことをきっかけに防犯カメラの新規設置または増設を検討している事例があった。

⑦より高性能な機器が設置できるため

 日進月歩で設備機器が進化していくため、数年を経過するうちに以前よりも高性能な機器が導入可能となる。例えば、アナログカメラからデジタルカメラへと変更をした事例や、カメラの画素数が向上したことにより設置台数を減らせた事例、360°カメラを導入したことにより撮影範囲が広がり増設の検討が不要になった事例もあった。

⑧費用削減のため

 上記⑦に関連して、数年単位で契約を見直したほうが安価で品質の高いものが設置できることがある。レンタル契約またはリース契約において、同台数で契約した際に、前回よりも安くなったことを説明する議案も多く見られた。また、それまでと同様の月額で1台増設を可能とした事例もあった。

⑨契約サイクルを一本化するため

 レンタル契約またはリース契約では、期間中に解約する場合には費用が発生してしまう。そのため、増設する場合には、別個の契約で導入することがあるが、その場合は録画装置との連携も別個となったり、契約期間満了時期がずれるため複数台設置の金額的スケールメリットを享受できなかったりする。解約にかかる費用を払ったとしても、一本化するほうが安くなることがあり、またトラブルが起きた時の連絡先も一本化され管理組合の手間が軽減される。

3.コールセンターの受電履歴に見る、防犯カメラに関する問い合わせ

 当社のコールセンターの受電履歴(2019年10月から2020年9月まで)から、「防犯カメラ」をキーワードに、どういった問い合わせがあるのか調査したところ、図2の結果だった。
 警察からの映像確認依頼が最も多く、これはマンション内での事件・事故だけに限らず、防犯カメラの設置位置や角度によっては近隣敷地やマンション前の道路が映っている可能性もあり依頼がくることがある。また、居住者からの映像確認依頼としては、マンション内で不審者を目撃した、車両が傷つけられた、家族が見当たらないが出ていく様子があったか確認したいなど理由は多岐に渡る。いずれにしても、映像確認を行うには管理組合が定める細則にのっとった対応となる。
 防犯カメラ不具合・故障対応依頼としては、当社の管理員がコールセンターを通して設備会社を手配している履歴が多い。防犯カメラ映像の監視は原則、管理員の業務には含まれていないが、設備機器の作動確認という観点でエラーメッセージや異音に気付く。中には、設備会社にて異常信号が受信され、コールセンターへ出動の連絡をしている件数も含まれている。
 この結果から防犯カメラは設備機器である以上は不具合が起こりうること、そして犯罪やいたずらの抑止力としての機能だけでなく、映像確認によって、犯罪や事故などを立証する機能として、一般的に認知されていることが分かる。

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4.総会議案書に見る、その他の防犯対策

 管理組合の総会議案書および議事録を調査すると、防犯カメラ設置以外にも防犯対策を行っている事例が複数ある。その具体的な内容を紹介したい。

①侵入防止のフェンス・忍び返しの設置、防犯砂利敷き

 物理的に不審者がマンション内に入りづらくする対策として代表的なものは、フェンスや忍び返しの設置だ。建物をつたいルーフバルコニーのある部屋に侵入する空き巣被害にあった管理組合で、その侵入経路を断つために設置された事例があった。外から建物内へ人が通り抜けできるスペースがあることを懸念してフェンスを新たに設置した事例もあった。これらは比較的容易にできる防犯対策である一方で、共用部分の見た目に変化が生じる。
 また、人が踏むと一定以上の音を出すように作られた防犯砂利というものがある。建物まわり一帯にこの防犯砂利を敷く事例があった。経年劣化で裸地となっていたことから、防犯の効果だけではなく、雑草の繁茂や泥はねの防止にもなる一石二鳥の対策であった。

②オートロックシステムの導入

 主に建築から30年以上が経過するマンションでは、オートロックシステムのない場合もある。マンションに関係のない人の出入りが自由に可能となることを懸念し、エントランスの扉を改修しオートロックシステムを導入している事例が僅かにある。エントランスからの侵入はなくなったとしても、共用廊下や共用階段が開放されている形状の場合はその対応も検討する必要がある。また、防犯の効果は高まるが、新聞配達や食材宅配サービスの置き配が各戸玄関先まで来なくなることから利便性は低くなるという意見が出ることもある。さらに、多額の費用を要する工事ということもあり、合意形成のハードルは高くなる 。

③ホームセキュリティ

 専有部分の防犯としては、玄関扉や窓などに設置した防犯センサーにより侵入の異常警報を発するホームセキュリティサービスがある。侵入警報を感知した場合のほか、非常警報の機能として在宅時の不審者の訪問、急病、ケガなど緊急時にインターホンの非常ボタンが押された場合も、警備員が駆け付ける仕組みだ。当社が管理を受託する管理組合では、このホームセキュリティサービスの導入率は42%であった。
 本サービスが導入されているマンションでは、警備会社の名称が入ったステッカーを各玄関扉などの目立つ場所に貼ることにより、不審者への心理的抑止効果を発揮しているとも言える。

④巡回警備員による防犯

 巡回警備員による夜間に敷地内の巡回を行っている事例がある。不審者や異常事態にその場で気付き対応することができる。これは、防犯カメラと比較するとその人件費は高額であることは想像に容易く、一般会計の資金に余裕があることが条件となる。
 また、人の配置に代わるものとして、画像巡回サービスを導入した事例もある。遠隔監視が可能な防犯カメラを設置することで、映像を毎日定時に警備会社が遠隔でチェックを行い、異常確認時はマンションへ緊急出動し対応するという仕組みである。防犯カメラ設置のみだと通常、異変事態に気付いた居住者等により管理組合宛に連絡があり、のちに録画映像を確認するという手順であるため、どうしても日数単位の時間差が生まれてしまう。しかし、本サービスでは、不審者や大型不審物、敷地内での騒乱、事故などの異常事態を防犯カメラ映像で確認した直後に警備会社がパトロール緊急出動を行うため、初動が速いのが特徴である。夜間の警備員配置を、本サービスに切り替えたことにより、大きな費用削減につながった事例も見られた。

5.おわりに

 分譲マンションだけではなく、商業施設や公共施設での防犯カメラ設置はもはや当然のものとなり、街頭の路上に設置されている防犯カメラもよく目にするようになった。スマートフォンやドライブレコーダーなど、私達の生活のまわりでは映像を録画して残すことが身近になっていることもあり、監視されているという精神的圧力よりも、見守られているという安心が定着しているのであろうか。
 管理組合の防犯を考えるとき、防犯カメラの設置以外にも選択肢はあり、有効な場面はそれぞれ異なることを念頭におきたい。また、意識したいのは、設備機器は技術革新が進んでいくという点だ。管理組合の中には、防犯カメラ設置だけに留まらず、マンション内の防犯対策を広く検討したいという考えのもと、防犯のプロである防犯設備士による防犯診断を依頼している事例も見られる。
 今回の調査はハード面の対策を取り上げたが、例えば空き巣は侵入しようとする際に誰かに姿を見られることに敏感となることから、マンション内で顔をあわせた者同士が挨拶を交わすだけでもソフト面での防犯対策になると一般的に言われる。
 管理組合ごとに最も効果的な防犯対策を十分に検討し、立案および実行するだけではなく定期的に見直しを重ねることが必要であると考える。

以上

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大野 稚佳子
執筆者大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

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