災害時ばかりでなく、日常生活に関するトラブルや困りごとを受付けるために当社では、コールセンターを設置している(名称「ライフネクスト24」)。東日本エリアを管轄するセンターを東京、西日本エリアを管轄するセンターを大阪に設置し、災害等でどちらか一方が機能しなくなった場合は、もう一方で全国をカバーする体制を取っている。
ライフネクスト24で受信するのは、マンション居住者からの電話でのお問い合わせのほか、マンション内に設置された設備から発信される信号の受信も行っている。受信時にオペレーターが必要であると判断すれば、警備会社や協力会社を手配する。また、問い合わせに回答し、警備会社や協力会社を手配することなく、その場で完了してしまうケースもある。
今回は、ライフネクスト24の受信状況を分析し、マンションにおける日常生活のトラブルについて考察したい。
1.受付件数 月別推移
ライフネクスト24で受信した案件のうち2018年10月から2020年9月までの2年間における月別推移は「図1」の通りである。受信後にオペレーターが警備会社や協力会社を手配した案件を「手配あり」、受信のみで終了した案件を「手配なし」として分類した。
「手配あり」「手配なし」ともに概ね8月から9月頃に増加する。1月から3月の冬季の件数は低い。この「夏場が多い」傾向は、従来から見られた傾向である。その原因は、「夏休みで居住者が家にいる時間が長いため」と考えられてきた。マンションの多くは都市部に建築されており、年末年始やゴールデンウイークの休暇は帰省や旅行などで不在となる住戸が多い。こうしたことから、受信件数は居住者の在宅時間と相関関係があるのではないかと考えられてきた。要するに在宅時間が長くなれば、普段は気が付かないようなところに目が行くようになり、当社にお問い合わせをいただきやすくなるのではないか、と考えていた。
なお、2019年10月に件数が増加しているのは、台風19号の影響によるものである。
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言が発出された2020年4月は、例年通り受付件数が減少している。報道でも「在宅勤務者が増加している」と言われ、マンションに勤務する管理員等からも「ゴミが増加している」との報告もあり、在宅者は明らかに増加していると考えられた。
しかし、受付件数は例年通りの傾向であっことから、在宅時間との相関関係はないとも考えられる。当社の持つデータだけでは、受付件数の増減が何と相関関係があるのかは不明であった。
2.受付件数 時間別推移
ライフネクスト24で受信した案件のうち、0時から23時までのどの時間帯に受信しているのかを示した時間別推移は「図2」の通りである。日中は管理員がマンションに勤務し、当社の各支店の電話もつながることから、夜中や明け方の時間が多いのではないかと予想されるが、多くの方が就寝している時間帯は受付件数が少ない。反対に、「ライフネクスト24」という名称からも24時間体制をとっていることは明白であるにもかかわらず、午前9時台の受信が突出して高くなっている。
ライフネクスト24では、居住者からの受信ばかりでなく、管理員が警備会社や協力会社の手配を要請したり、設備点検等でマンションに派遣された協力会社の点検員からの問い合わせもある。こうした管理員や協力会社からの受信が、勤務開始の9時前後に集中することもその要因である。
しかし、居住者からのお問い合わせも9時前後に多いことも確かである。推論ではあるが、日本人の感覚として「会社は9時に始まる」という意識も影響しており、12時台のみ件数が減少するのも「会社は12時に昼休みを取る」という意識の影響があるようにも考えられる。当社の状況を慮り、問い合わせの時間を意識していただいているのだとすれば、たいへんありがたい話である。
3.共用部分 手配箇所
ライフネクスト24で受信した案件のトラブル発生箇所のうち共用部分に関わるものを発生箇所別に分類した(図3参照)。機械式駐車場23%、エレベーター13%、給排水設備9%の順となっている。こうした機械設備に関しては「動かない」というもののほか、さまざまな内容がある(表1参照)。
例えば、機械設備の点検頻度は管理組合との契約により異なるが、多くとも月1回程度である。「異音がする。」というご連絡により、次回の点検を待たずに異常が発見できる場合もある。また、他の居住者への影響を最小限に抑えることもできる。
4.専有部分 手配箇所
ライフネクスト24で受信した案件のトラブル発生箇所のうち専有部分に関わるものを発生箇所別に分類した(図4参照)。キッチン、トイレが各15%、洗面所、浴室、開錠・施錠依頼・インターホンが各9%の順となっている。
それぞれの箇所における受信内容の例は、「表2」の通りである。
当社では、開錠・施錠依頼については、管理組合または区分所有者、占有者と個別に「鍵預かりサービス」の契約を締結している場合にのみ警備会社と提携して対応している。テレビドラマなどで管理員が部屋の鍵を持ち、来訪者に要望されるがまま開錠するシーンが放映されることがあるが、管理員が開錠することはない。
開錠依頼では、鍵を持たずに外出した、鍵を紛失した、という鍵の所有者自身が原因である案件のほか、洗濯物を干すためにベランダに出た母親が、少し目を離した隙に子がクレッセント錠を施錠してしまい、ベランダに閉め出されるケースもほぼ毎月のように発生している。
キッチン、トイレ、洗面所、浴室など水周りのトラブルでは、排水不良、止水不良のほか、特に「漏水」は下階の住戸に影響を及ぼすケースもあり、トラブルが長期化、深刻化しやすい。受信した案件の内容に「漏水」というキーワードを含むものを抽出したところ、発生箇所別の割合は「図5」の通りとなった。キッチン、トイレ、浴室、洗面所のほか、メーターボックスからの漏水も13%発生している。メーターボックス内は、給水管、給湯管が集合しており、かつ、竪管と横管が結合されている場所でもあることがその要因であろう。
ライフネクスト24は、緊急時のコールセンターという位置づけであり、当社では二次対応以降は各支店にてその後の対応を引き継ぐことになっている。そのため、受信した漏水案件がその後、どのように解決されたのかは、今回のデータでは集計できていない。ただし、支店にて対応した漏水トラブルの事例では解決までに2年以上要したものもある。
20年程前には、マンションの三大問題として「ペット、騒音、漏水」と並び称されたことがある。ペットに関しては、ペットの飼育が可能な管理規約であるマンションが増加し、現在はペットに関するトラブル事例を聞くことはほとんどない。騒音に関しては、床材などの建築資材や施工方法の改良などにより、上下階の騒音トラブルは減った感がある。しかし、専有部分の漏水に関しては、配管の材質や施工方法の改良がされても、配管のリフォーム工事まで行われていない例もあることや、不注意による事故もあることから、漏水は今も昔も変わらない問題であるようだ。
専有部分の受信件数の月別推移は、「図6」の通りである。受信件数は8月に多いという全体傾向と同様の傾向である。推論として、例えば、「4月は、新生活を始める居住者が多いので、鍵の施錠や設備の使用方法になれておらず、特定の項目に増加傾向が見られるのではないか」「冬季は、給湯器の故障があると入浴できないため、給湯設備の緊急対応が増加するのではないか」等の仮説を立てたものの、そうした傾向はみられなかった。
つまり、専有部分のトラブルは、いつでも発生しえるのである。季節や時期の問題ではないようだ。
5.終わりに
データの集計にあたり、個別のライフネクスト24の受信内容を見ていると、居住者の日常生活や人生までも が垣間見えることがある。このデータの向こうにひとりひとりの生活がある。当社だけでも29万世帯、管理会 社合計で500万世帯以上の暮らしを見守っている。
住生活に関わる企業は、日常生活の安心と安全を守る社会的使命がある。
以上