複合用途型マンションとは、単語の持つ意味をそのままとらえれば、「住宅以外に事務所や店舗など他の用途が混在するマンション」となる。
一方で、国土交通省「マンション標準管理規約(複合用途型)」(以下「標準管理規約(複合用途型)」という)では、単棟型の条文に主に下記の条文を加えている。
●第2条(定義)第1項第6号 一部共用部分
●第25条(全体管理費等)
●第26条(一部管理費等)
●第29条(住宅一部管理費及び店舗一部管理費)
●第32条(区分経理)
●第60条(住宅部会及び店舗部会)
※「マンション標準管理規約の単棟型、団地型、複合用途型対照表」
標準管理規約(複合用途型)は、店舗等が混在するというだけに留まらず、店舗等が混在し「かつ」一部共用部分が存在するマンションの管理規約を示していることがわかる。
標準管理規約(複合用途型)コメント全般関係では、複合用途型の対象マンションについて次のように説明している。
「③複合用途型マンションの形態として、「大規模な再開発等による形態のもの」と「低層階に店舗があり、上階に住宅という形態で住宅が主体のもの」とがあるが、本規約の対象としては、複合用途型として多数を占めている後者の形態とした。」
これをイメージすると下図のような形状であろう(図1参照)。ただし、このコメントからは一部共用部分の存在をイメージすることができない。このレポートでは、標準管理規約(複合用途型)に準拠した管理規約をもつマンションとはどのような形状のマンションであるかを具体例を参考に図示し、その課題について考察する。
1.一部共用部分のあるマンションと複合用途型の関係
住宅と店舗等の用途があるマンションに必ずしも一部共用部分があるわけではない。また、一部共用部分があるマンションに必ずしも住宅と店舗等があるわけではない。一部共用部分のあるマンションと複合用途型の関係は下図の通りとなる(図2、表1参照)。
調査対象マンション3,959件のうち、一部共用部分が存在するマンションは55件である。以下、この55件を対象として調査を行った。
2.標準管理規約(複合用途型)の管理規約であるマンションの属性
一部共用部分のあるマンションの戸数帯を調査したところ、100戸以上のマンションが全体の27件(49%)を占める(図3参照)。
また、階数帯を調査したところ、20階以上のマンションが16件(29%)である(図4参照)。
標準管理規約(複合用途型)に準拠した管理規約は、前述のコメント全般関係利用を予定していなかった大規模な再開発等による形態のマンションで多く活用されていることがわかる。これは、他に参考となる管理規約例が存在しないことがその理由であると考えられる。
3.一部共用部分とされている建物部分、附属施設等は何か
一部共用部分は、一部の区分所有者の共有に属していることを前提とし、その箇所に特段の規定はないが、どのような共用部分が一部共用部分となっているのだろうか。管理規約を調査すると、一部共用部分には、エレベーターや機械式駐車場が多い(図5参照)。
エレベーター設備、機械式駐車場設備は、月々のメンテナンス費用、修繕費用ともにマンションの附属設備の中では多額の費用がかかる設備である。「自分は利用していない」等、その費用負担をめぐりトラブルにならないよう、一部共用部分を設定したものと推察される。
ゴミ置場は、店舗等に関しては産業廃棄物に分類され、一般家庭ゴミとは収集方法が異なるため区分せざるを得ないことが多く、一部共用部分設定が多くなっていると考えられる。
以上から一部共用部分のあるマンションの形状を概念図に示す。標準管理規約(複合用途型)の想定するマンションは、図6のようなマンションになるのではないだろうか。
4.標準管理規約(複合用途型)の例外事例
標準管理規約(複合用途型)では、「部会」を設置し、管理組合は「一の組合」としている。この点について次ようにコメントしている。
⑤この規約は、区分所有者全員の共有物である敷地、全体共用部分及び附属施設のほか、一部の区分所有者の共有物である一部共用部分についても全体で一元的に管理するものとし、管理組合は全体のものを規定し、一部管理組合は特に規定していない。
実際の事例では、一部管理組合の考え方を採用している事例もある。
以下、複合用途型のマンションの管理規約の具体例を紹介する。
【事例1】住宅部分のみで管理組合を構成し、店舗部分は管理組合を組織していない例
マンション標準管理規約(複合用途型)が示される以前の比較的築年数が経過したマンションに見られるケースである。住宅のみで管理組合を構成し、店舗部分は管理組合に含まれていない。住宅と店舗で一体として行わなければならない修繕等の場合には、住宅管理組合がそれぞれの店舗所有者と交渉して負担を求めるなどしている。
【事例2】住宅部会、店舗部会、全体組合のそれぞれに管理者を置いている例
再開発の大規模タワーマンションの事例に見られる事例である。部会の独立性が高く、部会ごとにほぼ一の管理組合と同様に決議を行うことができる。管理会社との管理委託契約書も部会ごとに締結できるため、住宅と店舗を別の管理会社に委託することができる。
総会議案書を確認すると、毎年、住宅部会総会、店舗部会総会での議案数より、全体総会での議案数のほうが少ない。日常的な管理運営は各部会で完結していると考えられる。全体総会は決算報告程度で終了している。
5.複合用途型マンションの部会ごとの収支バランス
標準管理規約(複合用途型)の想定外ではあるが、大規模な再開発等による形態のマンションでも標準管理規約(複合用途型)は活用されていることは前述の通りである。
こうした大規模マンションでは、「低層階に店舗があり、上階に住宅という形態で住宅が主体のもの」と比較してどのような差があるのだろうか。住宅が主体とならない事例は存在しているのかを検証するために、部会ごとの管理費会計の収支比率を比較した。
Aマンション 東京都 住宅500戸以上 店舗30戸以上
Bマンション 東京都 住宅100戸以上200戸未満 店舗20戸以上
Cマンション 神奈川県 住宅200戸以上300戸未満 店舗2戸
3組合それぞれに住宅部会、店舗部会、全体組合の管理区分の割合、収支の割合はさまざまであり住宅が主体の管理組合とは言い切れず、個別性が高いことがわかる。
6.複合用途型マンションの課題
複合用途型の場合、日常管理においては一部共用部分の設定において利害関係の調整が図られている。しかし、将来の建替えや敷地売却決議において団地型の建替え決議や建替え承認決議とは異なり、部会ごとに別の将来を選択することができない。部会での承認決議の他、全体総会でも同じ将来を承認する決議をする以外にない。
用途が異なる場合は特に、利害関係が一致せず、合意形成が困難であることも予想される。管理費のほか、修繕積立金も区分して会計されていても、将来の選択肢をひとつにまとめていくことが最も大きな課題となろう。
以上