1 .はじめに
総会は管理組合にとって、最高の意思決定の場である。管理組合は総会で決定したことをもとに運営がなされることから、管理組合運営に興味を持つ人数と総会に出席する人数は比例するものと考えられる。
標準管理規約における総会成立要件は、議決権総数の半数以上を有する組合員の出席が必要であり、総会の議事のうち普通決議と言われる内容であれば、その出席組合員の議決権の過半数で決する。あえてわかりやすい例で示せば、100戸のマンションで1住戸1議決権、複数住戸を所有する者がいない場合は50人が出席すれば総会は成立し、その50人のうちの過半数、つまりは26人が賛成すればその議案は可決となる計算だ。
当社の管理マンションを調査したところ、総会出席率は84%であった。これだけを聞くと、総会成立要件の半数以上を大きく上回りかなりにぎやかな総会会場を連想するかもしれないが、この総会の出席者には、議決権行使書や議長への委任状による出席者も含まれる。
では、総会出席者のうち、総会会場にて議決権を行使している人数はどれくらいであろうか。
2.総会会場の出席率
調査対象は2018年以降に総会が開催された当社管理マンションの200組合。当社が管理を受託する3,800を超える管理組合からエリアを特定せずに無作為抽出にて選んだ。総会議事録に記載された出席者情報をもとに集計した(図1参照)。出席率は前述のとおり、平均で84%だった。ところが、議決権行使書および委任状で出席している組合員が60%、つまり議決権行使書および委任状を除く総会会場出席率は24%であった。ここでは議決権数ではなく、総組合員数に対する総会会場で議決権を行使した人数の割合を示している。また、管理組合ごとの規約に基づき組合員の配偶者や親族を代理人にすることは可能であるが、当社内のヒアリングによると、委任状は議長への委任が大多数であることから、委任状の提出率が高くなったとしても総会会場の人数はほとんど増えないと考えられる。
3.現に居住する組合員の割合は影響を受けるか
管理組合の総会はそのマンション内もしくはその近隣で開催される。そうなると遠方に住む組合員が総会会場に現れることは僅少だ。当社管理の3,827組合(2019年6月時点)のデータをもとに集計したところ、現に居住する組合員の割合の平均値は、約83%だった。現に居住しない組合員の割合は約27%ということになる。
図2は、現に居住する組合員の割合を10段階で分けたものである。90%以上が現に居住しているマンションが4割以上であり、次に80~90%が約3割だ。この両者で7割以上を占め、当社の管理マンションにはご自身の住まいとして所有している方が多いということがわかる。投資用や賃貸用、セカンドハウスとして所有されている住戸は少数派だ。8割超の組合員が総会会場が遠方だという理由が無いのだが実態として、議決権行使書または委任状による出席に代えている組合員が多いといえる。
そうすると、ただでさえ現に居住する組合員が少ない場合の総会会場出席率はどうなっているだろうか。半分以上の組合員が外部に住んでいる90組合の総会(2019年8月時点)をサンプルとして調査したところ、組合員総数のうち総会会場に来て議決権を行使した組合員数割合の平均値は17%と、やはり会場出席率は当社平均よりも約7%低くなる。
中には極端に少人数の事例もある。以下の表1をみてほしい。これらはいずれも、組合員総数(1)と比較すると、会場に出席した人数(2)は非常に少ないことがわかる。
さらにはGマンションやHマンションのように、総会を招集した本人である議長以外は誰も会場に来なかった例もある。議長以外の組合員からは、総会が成立する数だけの議決権行使書または委任状の提出がされていることになる。他方で、Iマンションは現に居住する組合員がゼロの管理組合だが、総会会場出席率が8%の例である。
なお、これらサンプルの管理組合では管理規約に基づいた正しい総会運営がされていることは申し添えておく。
4.管理組合設立後の経過年数とともに会場出席率は下がるのか
新築のマンションで、管理組合が設立されて間もない頃は総会会場への出席率が高いと言われている。これは新しいマンションライフが始まったばかりで、組合員も興味関心が高いからだろう。では高経年のマンションでは出席率は低くなるのだろうか。前述の200組合を対象に、管理組合設立後の経過年数ごとに会場出席率を見てみると、図3のとおりの結果となった。経過年数とともに会場出席率が下がるとは一概に言えないことがわかる。
5.総組合員数が多いと会場出席率は下がるのか
組合員が少ない管理組合の場合、一票の影響力が大きいため、総会会場出席者が増えると聞くことがある。高 頻度で輪番制の役員就任がまわってくることや、お互いの顔が見えるコミュニティであることを考えると納得が いくが、果たして実態はどうだろうか。前述の200組合を対象に、総組合員数ごとに見てみると、図4のとおりの 結果となった。横軸が総組合員数であり、左に行くほど会場出席率は高く、右に行くほど低くなることがわかる。
6.日常生活に直結する議案があると会場出席率は上がるのか
総会の議案内容が総会会場出席率に影響を与えるという見方はどうだろうか。当日審議された主な総会議案(ただし、収支決算および事業報告、収支予算および事業計画、管理委託契約の締結、役員の選任など、毎年上程される議案は除く)のうち、広く組合員の興味関心を集めそうな三つを挙げて調べたところ、以下の結果であった。対象は同じく、前述の200組合である。
①管理規約・細則の一部変更
管理組合内のルール変更ともいえる管理規約および各種細則の制定・変更。それらの議案が上程されている総会の会場出席率は21%。該当組合数は、87組合であった。調査期間内はちょうど、住宅宿泊事業等の規約変更が必然となった時期と重なっていることもあり、平常時と比べ上程の組合数は多くなっている。
②大規模修繕工事をはじめとする建築系・設備系の更新工事
工事期間中、日常生活に影響を与えることもある工事。大規模修繕工事関連のほか、エレベーターリニューアルや給水・排水などの共用配管やポンプ更新など、内容は多岐に渡る。それらの議案が上程されている総会の会場出席率は23%。該当組合数は、55組合であった。
③管理費改定、修繕積立金改定
月々の管理費および修繕積立金の値上げに関する議案こそ、家計に直結する内容である。それらの議案が上程されている総会の会場出席率は24%。該当組合数は、24組合であった。
上記①から③の三つとも、その会場出席率は全体の24%とほぼ変わらない結果であることから、「管理規約・細則の一部変更」、「建築系・設備系の工事」、「管理費改定、修繕積立金改定」の議案が上程されることにより会場出席率が特別に上がるとはいえない。また、会場出席率が40%以上の総会の議案を確認したが、議案タイトルによる出席率の増加に明確な法則性はなかった。
7 .おわりに
現在でも、高齢により身体が不自由であることを理由に管理組合運営に距離を置く組合員は多い。そして、子どもと離れて暮らす夫婦や単身世帯の高齢者が増えることで、管理規約に定められた代理人により議決権行使をする組合員もますます少なくなるだろう。よって、今後さらに組合員の超高齢化が進んでいくと総会会場出席率が低くなるだろうと予測する。また、組合員が相続等を理由に入れ替わったとしても人口減少による空き部屋は増え、それらは現に居住しない組合員となることから、会場出席率の低減に拍車をかけるかもしれない。加えて、昨今では国外に居住する組合員の総会招集も問題視されている。国外への招集通知の発送だけでなく、組合員からの議決権行使書または委任状の返送に、時間も費用もかかる。それ以前に、日本語で書かれた書類を読解できるのか、読解が可能だったとしても議決権を行使する興味関心を持ってもらえるのか、と悩みはつきない。
現在では議決権行使書および委任状の提出により、標準管理規約に基づく総会の成立要件はカバーできているが、いずれそれも困難に陥るかもしれない。そのような管理組合では区分所有法の定めに則り、規約変更を行うことで、現行の標準管理規約の定めよりも総会成立要件自体を緩和するという対応も視野に入ってくるのかもしれない。
以上