マンション管理をドラマにしたら

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マンション管理をドラマにしたら

 韓国の映像作品には、マンションを舞台にしたものが少なくない。「マンションのお仕事」や「84㎡」、「奈落のマイホーム」など(※1)では、人気俳優が主演し、マンションで起こるさまざまな問題を、ミステリアスに、ときにはコミカルに描いている。


 「マンションのお仕事」では、178億ウォン(約20億円、2026年8月現在)のマンションの修繕積立金が横領されたことから物語が始まる。大切な修繕積立金を横領したのは誰なのか。その謎を追いながら作品を見ていると、韓国の分譲マンションを取り巻く事情が少しずつ見えてくる。
 

 例えば、韓国では管理組合の通帳と印鑑は誰が保管しているのか。組合運営はどのように行われているのか。区分所有者と賃借人の間には、どのような軋轢が生じているのか。さらに、伏線としてマンション建設時の手抜き工事をめぐる問題も描かれる。物語を楽しみながら、日本のマンションと共通する課題や、制度・慣習の異なる点を知ることができるのである。日本も韓国もマンションは、多くの人が一つの建物と敷地を共有して暮らす場所である。当然ながら、そこには人間関係があり、お金をめぐる問題があり、ときには事件も起こる。ドラマの舞台としてこれほど題材の豊富な場所もないのではないだろうか。


 しかし、私の知る限り、日本ではマンション管理そのものを正面から取り上げたドラマは見当たらない。マンション管理を担う人々の仕事も、その重要性に比べて、世の中に十分知られているとは言い難い。

 
 少し前の話になるが、不動産仲介業を舞台にした北川景子さんが主演するドラマ「家売るオンナ」(※2)が放送されていたときのことである。不動産仲介業に携わる友人は、ドラマの設定があまりにもリアルで、毎回、テレビに向かって「あるある!」と叫んでいたという。放送期間中には、担当しているお客様から「あれは本当ですか?」「実際の仕事でも、あのようなことがあるのですか?」と尋ねられることもあったそうだ。そして何より、普段はあまり注目されない自分たちの仕事がドラマの題材になったことで、「業界全体がなんとなく誇らしく感じられた」と話していた。


 もっとも、ドラマ化がその業界に与える影響は、必ずしも良い面ばかりではないようだ。ある医師からは、医療ドラマについて、少し異なる意見を聞いたことがある。


 現実の救命救急の現場では、医療関係者がどれほど力を尽くしても、救うことのできない命も少なくない。しかし、テレビドラマでは、医師や看護師たちの懸命な努力によって患者の命が救われる、感動的な場面が繰り返し描かれる。そうした物語を見慣れていると、いざ自分の家族が救命救急を必要とする状況に直面したとき、ドラマのような奇跡的な回復を医療関係者に期待してしまうことがあるという。例外的な回復が、実際の医療現場でも頻繁に起こるかのように受け止められてしまうというのである。


 ドラマは、これまで知られていなかった仕事に光を当て、その意義や魅力を広く伝える力を持つ。一方で、描き方によっては、現実には容易でないことまで「専門家なら実現できるはずだ」という過度な期待を生み出す可能性もある。ドラマ化が業界やそこで働く人々に与える影響は、その仕事の性質によってさまざまなのかもしれない。 


 マンション管理についても、同じことがいえるだろう。管理会社の担当者や管理員、マンション管理士などが、社会課題と言われるあらゆる問題を鮮やかに解決する物語を描けば、現実とは異なる印象を与えてしまう。マンションの問題は、一人の優秀な専門家が登場すれば、たちどころに解決するものではない。異なる立場や考え方を持つ区分所有者が、時間をかけて話し合い、合意を積み重ねていく必要がある。
 

 それでも、マンション管理はドラマの題材には事欠かない。修繕積立金の横領、工事業者との癒着、手抜き工事、騒音をめぐる近隣トラブル、管理費の滞納、理事会内の対立、住民の高齢化、さらには地盤沈下や建物の欠陥まで、社会問題や人間模様を映し出すテーマが数多くある。

 もちろん、マンション管理はトラブルばかりではない。対立していた住民が話し合いを重ね、建物の将来について一つの方向を見いだしていく。孤立していた高齢者を管理員や住民が支える。大規模修繕工事をめぐって意見が分かれながらも、理事たちが悩み、学び、決断していく。その過程には、人と人との関係や、それぞれの人生を描く物語がある。

 人気俳優が、突然理事長に呼ばれて奔走する管理会社の担当者や、難しい問題を抱えながらマンション再生に取り組む専門家、近隣トラブルに巻き込まれる住民を演じたら、きっと面白い作品になるだろう。同時に、特定の人物だけをヒーローにするのではなく、住民同士が悩み、対話し、ときには失敗しながら、自分たちのマンションの未来を選び取っていく姿も描いてほしい。

 このコラムをご覧になっているドラマ制作関係者の方はいらっしゃらないだろうか。マンション管理の世界には、ミステリーも、社会問題も、笑いも、人情も、そして人生の選択もある。ぜひ、日本版「マンション管理ドラマ」をつくっていただきたい。業界を盛り上げるだけでなく、マンションに住む一人ひとりが、自分たちの住まいと、その管理に目を向けるきっかけにもなるはずである。

 その際には、時代劇に時代考証が欠かせないように、マンション管理の制度や実務を確かめる専門家の監修も必要になるだろう。もし監修者をお探しなら、ぜひ私にもお声がけいただきたい。

※1 いずれもNetflixにて配信(2026年8月現在)
※2 日本テレビ、2016年、家売るオンナ、https://www.ntv.co.jp/ieuru/

久保 依子

執筆者

久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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