はじめに
2026年9月19日(土)に、日本マンション学会と韓国集合建物法学会の合同で両国のマンション管理法制に関するシンポジウムが開催されることになり、その司会を担当することになった。その準備のため 韓国のマンション法制について勉強する機会を得たので、そのことにより感じたことをこのコラムにおいて紹介させていただきたい。
勉強をしてみてまず感じたことは、両国の法制度の形は非常によく似ているにもかかわらず、実際に行われている管理制度はまったくと言ってよいほど異なるものであるという点である。そこで、本コラムでは、日本と韓国にどの部分において類似点があるのか、それにもかかわらず大きく異なる管理制度が形成されることになったのはなぜか、韓国のマンション管理制度にどのような特徴があるのかについて考えてみることにしたい。
日本と韓国の類似点
両国の法制度を単純に比較してみると、韓国には、日本の区分所有法に相当するものとして「集合建物法」、日本のマンション管理適正化法に相当するものとして「共同住宅管理法」、そして日本のマンション再生円滑化法に相当するものとして「都市及び住居環境整備法」がそれぞれ存在していることが確認できる。しかも、韓国の集合建物法は、日本の区分所有法を「翻訳継受」して制定されたため、(韓国固有の規定も多く存するものの)基本的な仕組みは日本の区分所有法と変わることなく現行でも維持されている。
このように、両国の法制度は、その形式面に関する限り、非常によく似た仕組みとなっているということができる。しかし、両国の管理制度の実態を見るならば、それぞれの具体的なあり様は大きく異なっている。その相違を生じさせた主な原因は、区分所有法や集合建物法が制定された時期とマンション管理制度が確立した時期の順番によるのではないかと考えられる。
区分所有法の制定が与える影響
日本の区分所有法は1962年に制定され、その後数度の改正を経て、今日に至っている。この時期に区分所有法が制定されたのは、第二次大戦後の住宅不足を背景に、マンションと称する集合住宅が開発されるようになり、この事態に対処する必要があったからである。区分所有法において、区分所有権の内容、区分所有者の権利義務、集会決議・規約・管理者による建物管理の仕組みなどが規定されることによって、これに対応する形でマンション管理制度も確立されていくこととなった。
このような展開は、多くの諸外国でも同様であり、大陸法系の諸国では、例えば、ドイツでは1951年に住居所有権法が制定され、フランスでは1965年に区分所有法が制定されている。また、英米法系の諸国では、例えば、アメリカでは、1958年にプエルトリコ(米国領)で最初のコンドミニアム法が制定され、その後に州ごとに法律が制定されていき、1980年に統一コンドミニアム法が制定されている。また、オーストラリアでは、1961年にニューサウスウェールズ州で区分所有権法が制定されている。各国の区分所有法の内容は、大陸法系と英米法系とでは異なる特徴があるし、またそもそも各国の事情に応じて設けられた多様な規定が存在しているが、いずれの国も、まず区分所有法が制定され、その後にその内容を踏まえた具体的な管理制度が形成されていったという点では共通している。
これとは逆に、まず具体的な管理制度が形成され、その後に区分所有法が制定されたという国もある。筆者が知るそのような国として、イギリス(イングランドとウェールズ)と韓国とがある。イギリスの区分所有法にあたる共同保有法は、他の諸国よりもかなり遅れて2002年に制定されている。もちろん、それまでの間に集合住宅が存在していなかったわけではなく(むしろ普及していった)、それに対処するための法制度は、区分所有法とは別のものによって、すなわち不動産賃貸借法をベースとする特別法を制定することによって形成されてきた。こうしてイギリスでは、世界でも極めてユニークな区分所有法制が形成されたのであるが、それはそれで(多くの課題を生じさせつつも)制度として確立したものとなった。その後、イギリスは、一定の制度が確立した後に、新たに(オーストラリア法に類似する)法制度を導入したのであるが、その結果は、新たな法制度はほとんど利用されないというものであった(現在、これを普及させるための法改正が進行中であるが)。このことは、制度が確立した後に、新たな制度を導入することの難しさを示すものであるといえよう。
韓国のマンション管理制度の特徴
さて、韓国の場合はどうであろうか。韓国のマンション管理法制を時系列にたどれば、1973年の住宅建設促進法と1979年の共同住宅管理令において共同住宅管理制度の基盤が形成され、2003年の住宅建設促進法を全面改正した住宅法を経て、2015年の共同住宅管理法に受け継がれてきた。このように、韓国のマンション管理法制は、行政的規制に基づく管理制度が先行して確立したのであり、その後の1984年において集合建物法が制定されることになったのである。その結果として、集合建物法は、商業用建物や小規模共同住宅、さらには一部の複合用途型建物においては機能したものの、大規模な共同住宅については、実質的に行政的規律である共同住宅管理法による管理制度が維持され続けることになったのであった。こうして、共同住宅管理法が適用される共同住宅(義務管理対象共同住宅)においては、今日においても、集合建物法の規律に基づく管理制度ではなく、共同住宅管理法の規律に基づく管理制度が実務において定着しているとのことである。
この管理制度の特徴は、管理に関する決定権限は「入居者代表会議」に帰属し、その実行と責任は「管理主体」に帰属するという仕組みが採られている点にある。
まず、入居者代表者会議は、共同住宅の「入居者等」による選挙によって選出された棟別代表者から構成される団体である。ここでの入居者等は、共同住宅の所有者および賃借人をいうとされており、賃借人も入居者代表会議の棟別代表者を選出する選挙権(被選挙権を除く)が与えられている(この点は、区分所有者の権利義務を定める集合建物法ではあり得ないが、共同住宅の管理を目的とする共同住宅管理法に基づくものであるため、許容されるものと考えられる)。入居者代表会議は、管理規約の制定・改正や管理方法の決定のような重要な事項については入居者等の書面同意を集計する方式で処理をし(この処理によって集合建物法が規定する議決要件が充足される)、管理費の執行、事業者の選定、施設の運営のような日常的な事項については随時決議することによって、管理に関する主要事項を決定するとされている。
そして、入居者代表者会議 は、共同住宅の管理方式として、「自治管理」または「委託管理」を選択しなければならないとされている。自治管理が選択された場合は「管理事務所長」が、委託管理が選択された場合は「住宅管理業者」が「管理主体」として位置づけられ、この管理主体が法律の定める管理事項を実行し、その結果について責任を負うものとされる。このような、入居者代表会議と管理主体との関係については、委託管理の場合では、入居者代表会議と住宅管理業者との管理委託契約によって生ずるが、具体的な管理業務の内容は入居者代表会議が決定し、また現場の管理事務所長の給与も入居者代表会議が管理費から直接に支給するものとされている。
韓国のマンション管理制度についての感想
以上の仕組みは、日本の管理組合による管理制度と比較すると、管理の迅速性と管理費の透明性という点において非常に優れた制度であるということができる。管理に関する意思決定は、(集合建物法に抵触せず、かつ、区分所有者の基本的権利を害さない範囲において)入居者代表者会議の棟別代表者によって決定され、入居者等の総会を開催する必要がないため、管理に関する意思決定を迅速に行うことができるというメリットがある。また、入居者代表会議が管理業務の内容を決定し、管理事務所長の給与を直接支給するという方式が採られているため、管理費の支出に関して透明性を確保することもできるというメリットがある。
翻って、日本の管理組合の状況はといえば、管理組合の意思決定の機能不全や団体自治の限界(区分所有者の無関心、役員のなり手不足、総会出席率の低さ、管理費の滞納、建物の高経年化と区分所有者の高齢化による管理不全、区分所有者の所在等不明など)が指摘されている、このため、区分所有者による集会決議による合意形成や管理業務の執行をいかに円滑に行えるようにするかが課題となっている。そして、このような課題は、区分所有者の選択により管理者としての役割を第三者(管理業者)に委ねることによって対処しようとする場面や、地方公共団体が適切に管理されていない建物に対して支援や介入を行うことによって対処しようとする場面において現れてもいる。
このような日本の現状を踏まえると、韓国のマンション管理制度のメリットは非常に魅力的なものに思えてくる。しかし、そのメリットは、別の観点から見ると、デメリットにもなり得るということができる。管理の迅速性は、一部の代表者のみで管理に関するほとんどのことが決めることができ、総会等を通じて入居者等の意思が反映される仕組みがないため、団体自治の不全という問題が生ずることが懸念される。また、管理費の透明性は、管理主体にその権限と対価に見合わない責任を負わせることになりかねないことが懸念される。
以上の韓国の制度を見てみて感じたことは、完全なマンション管理制度は容易に見つかるものではないということである。韓国の管理制度における管理の迅速性と管理費の透明性というメリットは、日本の管理制度を改善していく上でも大いに参照されるべき点であるといえる。しかし、単純にそのまま制度の導入を図ればよいということではなく、そのデメリットをも踏まえながら、いかに日本の実情に合った仕組みを考えるかが重要であると感じた次第である。
<参照文献>
鎌野邦樹編著『マンション区分所有法制の国際比較』(2022年 、大成出版社)
岡田康夫「オーストラリア区分所有法をみる―ニューサウスウェールズ州を中心に―」マンション学51号(2015年)154頁以下、同「オーストラリア(ニューサウスウェールズ州)の区分所有管理の現状」マンション学(2018年)88頁以下
大野武『住宅と借地制度―契約終了時の利益調整』(2019年、敬文堂)187頁以下
鎌野邦樹「区分所有法・集合建物法の日韓比較―韓国法の日本法継受とその後の発展」マンション学55号(2016年)82頁以下
周藤利一「韓国のアパート法制の展開」マンション学53号(2015年)54頁以下、同「韓国のマンション管理法制」マンション学72号(2022年)76頁以下
姜爀臣「韓国集合建物法の現状と展望」マンション学83号(2026年)14頁以下
盧炳龍「韓国におけるマンション管理の現状」マンション学83号(2026年)28頁以下