管理不全専有部分管理人と意思決定支援(「管理人」制度③)

  • マンションの法制度
  • マンションを取り巻くリスク
  • 高齢化社会
管理不全専有部分管理人と意思決定支援(「管理人」制度③)

管理不全専有部分管理人はゴミ屋敷問題の救世主か?

 2026年4月1日から区分所有法が改正され、「管理不全専有部分管理命令」(裁判所から選任された「管理不全専有部分管理人」を含む)制度が創設された。
 簡単に言うと、利害関係人の申し立てによって、裁判所から選任された「管理不全専有部分管理人」が、管理不全となった専有部分、例えば「(いわゆる)ゴミ屋敷化(注1)」した住戸内の不要物(ゴミ等)に対して、管理(処分)を行うことができる制度である。
 マンションではゴミ屋敷の問題が顕在化して久しい(参考1)。ゴミ屋敷と呼ばれる住戸では、住戸内だけにとどまらず、バルコニーなどの共用部分にまでゴミが溜まり、悪臭や害虫、害獣の発生により周辺住民に影響を及ぼすことがある。
 今までは、一般的に不要物とみなされる場合であっても、それが当該区分所有者の私有財産である限りは、第三者が管理や処分を行うことは難しく、そもそも専有部分内には本人の同意なく立ち入ることができないため、環境の悪化などによる周囲への影響が深刻化することもあった。今回の制度創設により、今後は、裁判所の命令があれば、管理(処分)できるようになるのである。関係者の間では、本制度をまるでゴミ屋敷問題の救世主のように考える人もいる。しかし、こうした「ゴミを処分してくれる制度」という捉えられ方は非常に危うい。

(注1)
「ゴミ屋敷」という言葉は、居住者が部屋を整理・清潔に保てなくなる背景を十分に反映しておらず、問題点が指摘されています。
(例:井藤佳恵『いわゆる“ゴミ屋敷”―介入困難事例としてのディオゲネス症候群』東京都健康長寿医療センター、2011年)
ただし、本コラムでは一般に理解されやすい表現として「ゴミ屋敷」を用いることとします。

意思決定支援という考え方

 「意思決定支援」という考え方をご存じだろうか。医療、介護、福祉の分野ではすでに広く知られている。しかし、その他の分野では認知度は低いと感じている。
 意思決定支援の具体例を簡単に紹介しよう。意思決定支援の具体例について解説した『事例で学ぶ 福祉専門職のための意思決定支援ガイドブック』(参考2) では、支援を必要とする人が住居の選択に直面する事例が紹介されている。住宅の選択は、人生の大きな選択肢のひとつであることがテーマの選択からしても見て取れる。住宅をテーマとして紹介されたケースの概要は次のとおりである。
(本書では、複数の事例が紹介されている。以下は、その一部である。)

【CASE2】 
一人で暮らすことになった認知症のある桃子さんとともに今後の住まいについて考える
(概要)
夫婦で生活していたが、夫の病状が急変し、妻の桃子さんはひとり暮らしせざるを得なくなった。意思疎通は困難で、衣服は乱れ、医師からは独り暮らしは困難であるとの助言があった。そのような中で、地域包括支援センターをはじめ、自治会などが協力し、これからの住宅をどのようにしていくのか、本人の意思を確認しながらその選択を支援していく。
【CASE5】
認知症のある佐藤さんとともに人生の最終段階における自分らしい過ごし方について考える
(概要)
入院をきっかけとして、本人の性格や態度が変わってしまう。重度の認知症であるとの診断も受ける。ソーシャルワーカーや親族などのチームと本人を交えた話し合いの中で、退院後に本人が自宅で生活したいことが分かる。その後、本人意思を実現するためにチームで今後の生活をどう支援していくかの検討が始まる。

意思決定に関する各種ガイドライン

 このような意思決定支援の考え方を広めるために、厚生労働省はガイドラインを複数作成している。具体的には、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン (参考3)」「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(参考4)」「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(参考5)」「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン(参考6) 」「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン(参考7)」の5本が示されている。
 個人的には「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」が、マンション管理に最も身近であるように思う。しかし、どこから手を付けたらよいのかが分からない、と感じる人も少なくないだろう。
 これらのガイドラインには、コミュニケーションが困難な状態にある人や、症状が進行している人であっても、本人の意思は尊重されるべきであるという「本人意思の尊重」が、共通の理念として貫かれている。

管理不全専有部分管理人は意思決定支援者のひとり

 「管理不全専有部分管理人」は、「本人意思の尊重」を前提とした意思決定支援者として位置づけることも可能ではないかと考えている。現に、管理不全専有部分については、管理不全専有部分管理人に総会の議決権はない。一方、区分所有法に新設された他の制度である「国内管理人」「所有不明財産管理人」は議決権を行使できる。たとえゴミ屋敷となっていても、本人は意思決定ができる人であるという前提があるためだ。

管理不全専有部分管理人の活用にむけて

 「管理不全専有部分管理人」の制度が活用されていくためには、本人のほか、福祉や介護、医療の専門家、そして管理組合がチームとなって生活改善のための意思決定の支援をすることが求められる。
 「そんな話は、ただの綺麗ごとに過ぎない」という人もいるかもしれない。しかし、ゴミを一時的に処分するだけでは根本的な解決にはならず、また同じ状況を繰り返してしまうことが指摘されている(前述の「注1」や「参考1」を参照願いたい)。それでは、何の解決にもならない。医療、介護、福祉の方々からも、意思決定支援の担い手として「地域住民」が重要に位置づけを担うという熱い視線が向けられている。「地域住民」のひとりとして、管理組合はその担い手になるべきではないだろうか。

【参考条文】
(管理不全専有部分管理命令)
第四十六条の八 裁判所は、区分所有者による専有部分の管理が不適当であることによつて他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該専有部分を対象として、第三項に規定する管理不全専有部分管理人による管理を命ずる処分(以下「管理不全専有部分管理命令」という。)をすることができる。
2 管理不全専有部分管理命令の効力は、当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分又は共用部分、附属施設若しくは建物の敷地にある動産(当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権(いずれも当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
3 裁判所は、管理不全専有部分管理命令をする場合には、当該管理不全専有部分管理命令において、管理不全専有部分管理人を選任しなければならない。


(管理不全専有部分管理人の権限)
第四十六条の九 管理不全専有部分管理人は、管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分並びに管理不全専有部分管理命令の効力が及ぶ動産並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権並びにこれらの管理、処分その他の事由により管理不全専有部分管理人が得た財産(以下「管理不全専有部分等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
2 前項の規定にかかわらず、管理不全専有部分管理人は、集会において議決権を行使することができない。
3 管理不全専有部分管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもつて善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 管理不全専有部分等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
4 管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の処分についての前項の許可をするには、その区分所有者の同意がなければならない。

【参考文献】
(参考1)いわゆる「ごみ屋敷」の実態とその背景に潜むもの 東邦大学大学院看護学研究科教授 岸恵美子、2019年 
https://www.toshi.or.jp/app-def/wp/wp-content/uploads/2019/04/report181-1.pdf
令和6年度 「ごみ屋敷」に関する調査報告書、環境省環境再生・資源循環局 廃棄物適正処理推進課、2025年
https://www.env.go.jp/content/000303867.pdf
(参考2)  名川勝、水島俊彦、菊本圭一、日本相談支援専門員協会、「福祉専門職のための意思決定支援ガイドブック」、中央法規、2021年
(参考3)  障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000159854.pdf
(参考4)認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf  
(参考5)人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf
(参考6)身寄りがない人・医療に係る意思決定が困難な人への支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/miyorinonaihitohenotaiou.html
(参考7)意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf

【関連記事】
所有者不明専有部分管理人~いなくなった人に思いを馳せる~(「管理人」制度①)
管理不全共用部分管理人(「管理人」制度②)


42ndseminarbanner3.png

久保 依子

執筆者

久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

関連記事

おすすめ記事