分譲賃貸とは何か、見えてきた課題と今後

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分譲賃貸とは何か、見えてきた課題と今後

 「分譲賃貸」という言葉をご存じだろうか。
 一般的に「分譲賃貸」とは、分譲マンションの一室を購入した区分所有者が、自ら居住することなく、賃料を受領して第三者に貸し出している場合を指す。1棟の建物が単独で所有され、建物所有者が各住戸を貸し出している賃貸マンションと区別して、「分譲賃貸」と呼ばれ ている(注1)(参考1)
 分譲賃貸は、一般的にマンションの仕様や居住性などの面において高い評価を受けることが多く、賃料も賃貸マンションと比較して高いと聞く(参考2)。
一方、管理組合では、分譲賃貸の住戸をどのように認識しているだろうか。多くの管理組合では、「外部区分所有者は理事にならない」「管理組合活動に積極的に参加しない」などの理由から、必ずしも好意的に受け止められていない。さらに、外部区分所有者協力金を設けている管理組合もある(参考3)。つまり、管理組合において分譲賃貸は歓迎されにくい状況があると言っても過言ではないだろう。
 ここで、分譲賃貸に住む、賃借人の立場から考えてみよう。賃借人は、周囲の賃貸マンション相場より高い賃料を支払うことのできる人々である。分譲賃貸に住むということに一定の価値を感じているはずだ。 所有者と賃借人の間に生まれる距離感は、果たしてどこまで意識され、共有されているのか。
 分譲賃貸をめぐっては、市場の評価と管理組合の評価の間にギャップが存在している気がしてならない。

(注1)厳密に言えば、賃貸マンションにおいても、一棟の建物を複数人が民法上の共有をしている場合もあるので、単独所有とは言い切れないが、ここでは分かりやすくするために、より簡便に説明している。
(参考1)本当は何戸あるのか分からないマンションストック戸数 ~あとから分譲マンションになった建物の存在~マンションみらい価値研究所
(参考2)
①長谷工の住まい「分譲賃貸」とはどんな意味?賃貸マンションとの違いを知って理想の住まいを選ぼう!https://www.haseko-sumai.com/kurashi/archive/detail_447.html
②三井の賃貸「分譲賃貸物件」 https://www.mitsui-chintai.co.jp/mansion/merit/
(参考3)理事にならないと罰金?! 〜役員のなり手不足はここまできたマンションの「管理組合役員辞退協力金」の実態〜 マンションみらい価値研究所

リースバック方式と管理組合への届け出制

 管理組合は、区分所有者の把握について「届け出制」を原則としている。マンション標準管理規約では、区分所有者が変更になれば、新区分所有者は氏名などを管理組合に届け出る必要があると規定している。しかし、管理組合には、例えば登記簿を確認するなど、「所有者は誰か」を確認する義務はないと解される。届け出のあった人を区分所有者として扱う運用が一般的だ。

 近年の高齢化を背景に、リースバック方式を選択する区分所有者が増えている。そのしくみを簡単に言うなら、区分所有者がリースバック方式を提供する不動産会社等に住戸を売却したうえで、賃料を支払いながらそのまま同じ住戸に住み続ける方式である。
 つまり、リースバック方式を採用した住戸は「分譲賃貸」に該当する。しかし、外形的には同じ人物が居住しているため、届け出がされなければ区分所有者が変更になったことに気が付きにくい。
 
 不動産仲介会社の間では、昔からよく知られていることであるが、賃借人がそのまま分譲賃貸を購入するケースもある。賃貸借契約は、賃借人が居住している限り、区分所有者が住戸を売却したとしてもその効力はそのまま次の区分所有者に引き継がれる。また、賃借人が居住している場合は、売買の際に購入予定者は内覧をすることができないことが多い。不動産仲介会社にとっては一般的なマンションに比較して売りにくいのは否めないだろう。
 こうした事情から、不動産仲介会社は、分譲賃貸の売却依頼を受けると、まず賃借人に連絡し、「今お住まいの住戸を購入しませんか」と案内するのが定石だ。すでに住み慣れた住戸であり、引っ越し費用も不要となるため、賃借人にとって検討しやすい選択肢の一つであると考えられる。
 この例はリースバック方式とは逆で、今まで賃借人だと思っていた人が区分所有者になるのである。一方で、マンション価格が高騰している中、高価格で売り抜けようとするなら、賃借人が住んでいる状態で売却する例も増えてくるだろう。 
従来からある信託方式なども、高齢化や建物の高経年化を背景として今後さらに活用されていく可能性もある。分譲と賃貸の境界線は、ますます曖昧になっていくだろう。
 以上のような背景から、「届け出制」だけで区分所有者の把握を続けることには限界が来るのではないだろうか。管理組合としても、定期的に区分所有者を確認する仕組みが必要になるかもしれない。

 なお、リースバック方式に関しては、強引な手法で買い取りを行う業者が存在するとの指摘もある。国土交通省でも「住宅のリースバックに関するガイドブック」などを公表し、注意を呼び掛けている(参考4) 。

(参考4)住宅のリースバックに関するガイドブック 
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001489269.pdf

居住者名簿と分譲賃貸

 ある賃貸不動産仲介会社の会合に参加したときのことである。私は、マンション管理計画認定制度では、災害などに備えて「居住者名簿」を集めることが認定基準のひとつであることを説明し、「賃貸不動産会社からも、賃借人に居住者名簿  の提出に協力していただくよう呼び掛けてほしい」とお願いした。すると彼らからは意外な反応が返ってきた。
「いままで、マンション管理計画認定制度は分譲マンションの制度であり、賃貸不動産業界には関係ないと思っていた。これまで特段の協力依頼も受けてない。ただ、分譲賃貸の場合は、例えば管理組合に届け出が必要であることを重要事項説明書に記載するなど、対応の方法はいろいろあるはずではないか」といった意見である。
 不動産仲介会社は、売買と賃貸それぞれが独立した「業界」として成り立っている。さらにマンション管理業界とも異なる領域だ。
 確かに、提案通り、分譲賃貸を仲介する賃貸不動産会社から居住者名簿の提出を重要事項として説明するなどすれば、管理組合としても居住者名簿が集めやすくなるのではないか。今回のやり取りは、分譲賃貸が従来の「業界」の縦割り構造では扱いきれない領域であることを示す出来事でもあった。

改正区分所有法と分譲賃貸

 

 2026年4月1日施行の改正区分所有法では、建替え決議における分譲賃貸の賃借人に関する新しい条文がある(参考5)。私は法律家ではないため、詳細は改正区分所有法の解説本などを参照していただきたい。簡単に言うなら、建替え決議があった場合は、賃借権の終了請求をすることができ、請求が行われると6か月後に賃借権が終了するという仕組みだ。この請求がされた場合、賃借人が「いやだ」と言っても賃貸借契約は終了することになる。
 この法改正について、分譲賃貸の賃借人にはどのように説明されていくのだろうか。建替え決議の有無は説明されていても、その決議の結果として賃借権を失う可能性を認識していない人が多いのではないだろうか。賃貸借契約締結時に建て替え決議の予定がなかったとしても、長期に賃貸借契約が更新され続ければ、途中で決議が行われる可能性もある。
 もちろん、法律で定められた制度である以上、賃借人は「知らなかった」では済まされないことも確かである。しかし、分譲賃貸を借りる前に、区分所有法の条文を確認する人は多くないだろう。「建替え決議の結果」についても、将来のトラブル防止の観点から、説明しておく必要があるだろう。

(参考5) 改正区分所有法
(賃貸借の終了請求)
第六十四条の二 建替え決議があったときは、建替え決議に賛成した各区分所有者若しくは建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継人を含む。)若しくはこれらの者の全員の合意により賃貸借の終了を請求することができる者として指定された者又は賃貸されている専有部分の区分所有者は、当該専有部分の賃借人に対し、賃貸借の終了を請求することができる。
2 前項の規定による請求があったときは、当該専有部分の賃貸借は、その請求があった日から六月を経過することによって終了する。
3 第一項の規定による請求があったときは、当該専有部分の区分所有者は、当該専有部分の賃借人(転借人を含む。第五項において同じ。)に対し、賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければならない。
4 第一項の規定による請求をした者(当該専有部分の区分所有者を除く。)は、当該専有部分の区分所有者と連帯して前項の債務を弁済する責任を負う。
5 専有部分の賃借人は、第二項の規定により当該専有部分の賃貸借が終了したときであっても、前二項の規定による補償金の提供を受けるまでは、当該専有部分の明渡しを拒むことができる。

分譲賃貸のこれから

 分譲賃貸は今後も増えていくと思われる。新築マンションが価格高騰している理由のひとつに「投資目的での購入」があると報道されている(参考6)。投資目的で購入された住戸は、賃貸に出されることで、分譲賃貸となる。
 管理組合も「賃借人は管理組合には関係のない人」と考えるのではなく、同じ屋根の下に暮らす人として、マンションの将来ついて一緒に考える仲間として捉えてみてはどうか。分譲と賃貸の境界が薄れつつある今、あらためて分譲賃貸について考えてみたい。

(参考6)三井不動産リアリティ 2025年分譲マンションの価格高騰とその要因
https://sol-biz.mf-realty.jp/realtyPressTop/topics/detail/1742/

久保 依子

執筆者

久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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