他の国の管理会社はどのような仕事をし、何に悩んでいるのだろうか。他国との法制度の比較を扱った書籍はあるが(※1)、管理会社の実務を比較した書籍は私の知る限り見当たらない。
2026年2月にオーストラリア・ヴィクトリア州の管理会社(※2)を訪問する機会を得た。なお、オーストラリアは州制度を採用しているため、州ごとに法律が異なる。シドニーのあるサウスウェールズ州とメルボルンのあるヴィクトリア州では、マンション管理の実態も異なるようだ。今回紹介するのは、メルボルンのあるヴィクトリア州である。
管理会社は大きく3種類
メルボルンを中心とする住宅街は、Cityと呼ばれる中心街から東西に広がっている。東側には著名な高級住宅街があり、瀟洒(しょうしゃ)な外観のマンションも多い。反対に西側はCityに行くために川を渡る必要があり、通勤時には川にかかる橋が混雑することもあるようだ。また、西側ではマンションよりも戸建て住宅が多く見られた。
ヴィクトリア州における管理会社は、おおよそ次の3種類に分類される。
① 戸建て住宅団地の管理会社
② City中心にあるタワーマンションの管理会社
③ 郊外型小規模マンションの管理会社
日本では、管理会社と言えば②と③の混合型であることが多く、戸建て住宅団地の管理は一部の住宅地でしか行われていない。
しかし、オーストラリアでは、郊外に向かうとすぐに手つかずの広大な土地が広がる。そこには、映画の中に出てくるような広々とした敷地に、ピックアップトラックが何台も駐車できるような車庫がある戸建て住宅が立ち並ぶ。こうした住宅地を管理する管理会社が存在するのもうなずける。
管理会社の仕事のひとつはコミュニティ形成
ヴィクトリア州では、コミュニティ形成が管理組合の大きな役割のひとつになっている。そして、管理会社も管理組合のコミュニティ形成を支援することが重要な業務のひとつである。コミュニティ形成の比重が大きい点が、日本とは大きく異なる。
管理会社のマネージャー(日本のフロント担当者と同様の存在)は、戸建て団地内のニュースレターの作成やイベントの企画などに業務時間の多くを割いているようだ。訪問した管理会社の責任者も、管理組合でのイベントの重要性について力説していた。
オーストラリアでは、パーティ文化が根付いていると言われる。話を伺った担当者の表情からも、大いに盛り上がっているコミュニティイベントの様子が想像される。
管理会社は中小企業が多い
オーストラリアの管理会社は、日本と比べて中小企業が多い。自己紹介の際に私が「約29万戸を管理する日本の管理会社の社員」と述べると、目を丸くして驚いていた。それでも当社は、マンション管理新聞による管理戸数ランキングでは業界6位である。さらに多くの戸数を管理する会社も存在する。
一方、オーストラリアでは、大企業に対して必ずしも高い信頼が寄せられるわけではないという。日本の管理会社はディベロッパーや建設会社の巨大グループ企業の中の1社であることが多いことを説明すると、「利益相反取引が起きるのではないか?日本ではそれをどのように防止しているのか?」などの質問が飛んできた。
今、日本では管理業者管理者方式が話題になっている。まさに、この管理業者管理者方式のときに議論される内容が再現されたような質問である。ヴィクトリア州では、そもそも、ディベロッパーや建設会社の子会社が管理会社になることはできないらしい。
日豪管理会社の共通の悩み
「おそらく一番多いお問い合わせは、管理費に関するものです。管理費が値上がりすると、総会に参加していない人は理由を知らないので、突然私たちに電話してきて怒る、というケースが多いです。『なぜ値上がりしたのか』と責められるのは日常的ですね。」
日本の管理会社の社員なら、誰もが経験したことのあるような話だろう。しかし、これはヴィクトリア州の管理会社社員の話である。こうしたクレーム対応は日豪共通の悩みである。
日本とは異なる特徴もいくつかある。例えば、日本の管理会社もヴィクトリア州の管理会社も、損害保険を取り扱っている。日本では代理店制度が採用されており、販売した損害保険に対する手数料率が決められている。しかし、ヴィクトリア州では保険の手数料率は定められていないという。そのため、管理会社の収益のうち、損害保険取り扱いに関する手数料収入が20%に及ぶこともあるそうだ。同じ仕事をしていても、どこで利益を得るのかという点においては、法制度の違いもあり、随分と異なっている。
大きな転換期となった事件
2005年に発生した「構造計算書偽造事件」は、日本の管理会社にとって忘れられない事件であろう。一級建築士が構造計算書を偽造し、耐震性の不足するマンションが建築されたという事件である。事件の発覚当時、私も「うちのマンションは大丈夫か!?」という管理組合からのお問い合わせで、てんてこ舞いの日々を送っていた。
ヴィクトリア州の管理会社にとって、忘れられない事件、そして今なおその影響を受け続けている事件がある。それが2014年11月に発生した「ラクロス・ビル火災(Lacrosse building fire)」(※3)である。この火災は、バルコニーでの煙草の火の不始末が原因となり、外装材の不燃基準を満たしていないアルミ複合パネル(可燃性クラッディング)を伝って、火が燃え広がった。この事件を受けて、ヴィクトリア州の管理会社には、管理組合から「うちのマンションは大丈夫か!?」という問い合わせが相次いだ。さらに、この外装材は、実はヴィクトリア州では一般的に使用されており、ディベロッパーや建設会社に対する訴訟は今でも継続している。どの管理会社を訪問しても、この外装材にまつわる対応の苦労話が語られた。
この事件を契機に、マンションの建物品質に関心を持つ区分所有者も増加したようだ。負の事件ではあるものの、管理業がクローズアップされるきっかけとなった事件であることに違いない。
これからのマンション管理会社
日本のマンション管理会社にとって人手不足は深刻だ。フロント担当者は法律や建築の知識が必要であり、さらにファシリテーション能力が要求される。法律と建築は、言うなれば文系と理系の領域だ。両方が得意だという人材は多くないだろう。さらに、大卒新入社員の人気ランキングには入ったことがなく、社名の認知度も低い。つまり、希望者が少ない中で、要求水準の高い人材を確保しなければならないということだ。
ヴィクトリア州の管理会社でも、同様に人手不足であるそうだ。中途入社社員のほとんどは、会社訪問をするまでこの業種を知らなかった人が多く、前職も多種多様であるという。業界の認知度を上げることが大命題であり、業界団体でも人材育成のために研修プログラムを提供しているそうだ。
話を伺う中で印象的だったのは、「認知度が低い」、そう言いながらも、彼らは管理業の仕事に強い誇りを持っている点である。トラブルが解決したとき、管理組合運営がうまく回りだしたとき、そうした成功体験の話をするときの表情は明るく、身振りも大きくなる。仕事が楽しいという気持ちが伝わってくる。
日本の管理会社も負けてはいられない!
(※1)マンション区分所有法制の国際比較、2022、鎌野邦樹、大成出版社
(※2)Quantum United、MOCS、Grace Lawyers
(※3)ラクロス・ビル火災インシデントレポート
https://pdfs.semanticscholar.org/6a13/9912815a3a7cff2585625c93e40657a620fb.pdf
https://www.thewfsf.org/assets/lacrossebuildingdocklandsreportmunicipalbuildiingsurveyorapril2015.pdf
