管理不全共用部分管理人(「管理人」制度②)

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管理不全共用部分管理人(「管理人」制度②)

 改正区分所有法には4種類の「管理人」制度が創設された。以前から民法に規定されていた「管理人(清算人)」を入れると、マンション管理に登場する「管理人」は全部で6種類になる。
 今回は、この「管理人」の中から、管理不全共用部分管理人について考えてみたい。
 なお、私は法律家ではなく実務家である。以下は、法律用語の解説ではなく、実務の観点から、この制度の運用について考えようとするものである。法律用語の使用方法について不適切な点があればご容赦いただきたい。

管理不全共用部分管理命令が出されるマンションとは

 

 共用部分が管理不全に陥っているマンションとはどのようなマンションであろうか。マンション管理に関わる方なら、2020年に滋賀県野洲市で起きた行政代執行のニュースが思い浮かぶだろう。他にも国土交通省の資料にある、共用廊下や外階段が崩れ落ちたマンションなど、いわゆる「ボロボロ」の光景が頭をよぎるのではないだろうか。
 しかし、こうしたマンションを思い描くとき、管理不全に陥っているのは果たして共用部分だけなのだろうか。

【参考イラスト】
 あなたの中の「管理不全共用部分」があるマンションのイメージはどちらか?
 左 共用部分は管理不全状態であるが、区分所有者は平穏に生活している
 右 共用部分は管理不全状態であり、中には誰が住んでいるのかもわからない

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 ここから先は私の経験に基づく推測である。
 管理不全に陥る場合、たいていは専有部分が先だ。居住者がいてもいわゆるゴミ屋敷となっていたり、空室になって放置されたまま給水管を含む設備などが老朽化し、水漏れが発生したりするなど、専有部分が傷みだす。1件、また1件と管理不全の専有部分が増加していく。そうなると、管理組合も徐々に機能しなくなる。管理費などの滞納に対してはなんら対応がされなくなり、資金不足が深刻化する。理事のなり手不足はおろか、総会すら成立しなくなっていく。
 こうして共用部分も管理不全に陥る。専有部分がきちんと管理されているなら、共用部分にも目がいくだろうし、個人の資産である専有部分の価値を守ろうとする区分所有者がいれば、共用部分も維持・管理しようとする心理が働くはずだ。共用部分の管理不全は、専有部分の管理不全の蓄積であるといってもよいだろう。

マンション標準管理規約には規定がない?

 

 2026年4月1日の区分所有法の改正にあわせて、マンション標準管理規約が改正されている。しかしそこには、管理不全共用部分管理命令(命令に基づき選任される「管理不全共用部分管理人」の規定を含む)に関する条文がない。管理規約はあくまで管理組合内部の規定であり、外部の利害関係人から申立てをされる管理不全共用部分管理命令は、内部の話ではない。したがって、管理規約に規定する必要はない、そういうことであろうか。
 区分所有法の改正やマンション標準管理規約の改正に関する行政や関係団体の勉強会などでも、管理不全共用部分管理命令に関しては概要の説明にとどまることが多い。そんなこともあってか、管理不全共用部分管理命令への関心は、他の条文に比較して低いように感じている。
 では、共用部分が管理不全に陥り、例えば外壁が落下して周囲の人々に危害を加える恐れがあるなどして、裁判所から管理不全共用部分管理命令が出たとしよう。
 その段階でこのマンションには人々が良好な環境で居住しているとは考えにくい。前述のとおり、空室か、居住者がいたとしても専有部分もまた管理不全になっているケースが想定される。そんな状態で管理不全共用部分管理人に何ができるのだろうか。区分所有者の協力は得られないと考えたほうがいい。
 さらに、管理不全共用部分管理人は、自ら総会を開催したり、ましてや区分所有者の代わりに議決権の行使をしたりすることもできない。つまり、建物を解体したり、敷地を売却したりすることは不可能だ。
 できることと言えば、財産の状態を調査し、財産があれば、近隣住民に及ぼしている悪影響に対して該当箇所に応急処置を施すことくらいだろう。管理不全共用部分管理人が、区分所有者に呼びかけ、マンションの維持管理について啓発活動を行い、正常な管理運営に戻す根本的な解決を図ることはないだろう。

 

法律にしばられがちなマンション 

 

 管理不全共用部分管理人について知人と話をしていたところ、次のような提案があった。「管理不全となった専有部分のすべてに管理不全専有部分管理命令の申立てをし、管理不全専有部分管理人を選任する。さらに、共用部分には管理不全共用部分管理命令の申し立てをし、管理不全共用部分管理人を選任する。そうすれば、専有部分も共用部分も、裁判所から選任された管理人、つまり法律の専門家によって運営されるようになる。マンションは法律家によって健全化されるのではないか」とのことだった。
 しかし、果たしてそんなことができるのだろうか。
 管理不全専有部分管理命令の申立てをするにしてもタダではない。最終的に区分所有者にその費用を請求できるにしても、いったんは利害関係人が予納金を支払う必要がある。管理不全専有部分が多いマンションは一体いくらになるのか。1棟のマンションの再生のために、多くのお金と時間を費やしてくれる、そんな奇特な人はいないだろう。
 万が一、そのようなことができたとしても、法律家がそのマンションに住んでくれるわけでもなく、管理組合の理事に就任してくれるわけでもない。そこは、いわば「法律だらけのマンション」とも言える状態であろう。具体的な活動をする管理組合の状況とは程遠い。


最終的な責任の所在は変わらない

 

 マンション管理関係者の中には、管理不全共用部分管理人が、あたかも救世主のように現れ、管理不全に陥った「ボロボロのマンション」の住民を啓発し、新しいスタートを切らせてくれる、そんな風に誤解をしている人はいないだろうか。
 地域住民の方々は、管理不全に陥ったマンションがあっても、管理不全共用部分管理人が選任されさえすれば問題が解消される、そう思っていないだろうか。
 しかし、管理不全共用部分管理命令の条文から、その情景を想像するにつれ、そんな都合の良いことは起きないことが分かる。
 区分所有法が改正されたとしても、管理不全に陥ったマンションを処分、または再生するには区分所有者の力によるしかない。新設された「管理人」制度は、あくまで補助的な役割を果たすものであり、万能ではない。

【参考条文】
(管理不全共用部分管理命令)
第四十六条の十三 裁判所は、区分所有者による共用部分の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該共用部分を対象として、第三項に規定する管理不全共用部分管理人による管理を命ずる処分(以下「管理不全共用部分管理命令」という。)をすることができる。
2 管理不全共用部分管理命令の効力は、当該管理不全共用部分管理命令の対象とされた共用部分にある動産(当該管理不全共用部分管理命令の対象とされた共用部分の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
3 裁判所は、管理不全共用部分管理命令をする場合には、当該管理不全共用部分管理命令において、管理不全共用部分管理人を選任しなければならない。

(管理不全共用部分管理人の権限等)
第四十六条の十四 第四十六条の九から第四十六条の十二までの規定は、管理不全共用部分管理命令及び管理不全共用部分管理人について準用する。この場合において、これらの規定中「管理不全専有部分等」とあるのは「管理不全共用部分等」と、第四十六条の九第一項中「専有部分並びに」とあるのは「共用部分及び」と、「動産並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権」とあるのは「動産」と、同条第四項中「専有部分の」とあるのは「共用部分の」と、「区分所有者」とあるのは「所有者」と、第四十六条の十二第二項中「の所有者の負担とする」とあるのは「を共有する者が連帯して負担する」と読み替えるものとする。

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久保 依子

執筆者

久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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