「職務代行者」と「代理人」はどう違うのか。架空のケースを使ってみてみよう。
1. 築20年、あるマンションのできごと
201号室に住む鈴木さんは、今年度、管理組合の理事に就任した。輪番制であるから仕方がないと思いつつも、「理事長だけはいやだな」と感じていたところ、501号室の久保さんが理事長を引き受けてくれた。鈴木さんは会計担当理事となり、少しほっとしている。理事も2巡目で、前回の経験もあり、理事会の様子はなんとなくわかっているつもりだ。
ある日、理事の間の連絡手段として使われているSNSを通じて、理事長の久保さんから連絡が入る。
「再来週10日土曜日、10時から臨時理事会を開催したいのですが、みなさんのご都合はいかがでしょうか」
次々と返信が入る。「了解しました」「OKです」「私もOKです」・・。
鈴木さんも乗り遅れないようあわてて返信する。「私もOKです」
10日土曜日。理事会のことをすっかり忘れ、趣味の釣りをするために早朝から遠出をしていた鈴木さんの携帯電話が鳴る。理事長の久保さんからだ。
「鈴木さん、本日理事会です。皆で鈴木さんをお待ちしていますが、どうされましたか?」
「しまった!」鈴木さんは自身のスケジュールに入力するのを忘れていた。
「すみません、急用ができまして。私の代わりに妻を集会室に向かわせますので、少々お待ちください」
すぐに電話を切る。電話が切れる間際、「鈴木さん、それは・・」と言いかける久保さんの声が聞こえたような気がしたが、かけなおすことはしなかった。とにかく急がなければならない。
鈴木さんは、妻に電話をかけ、しぶしぶ了解をもらう。「お土産お願いね」という不機嫌な声が耳に残る。
夕刻、魚をお土産に自宅に戻ると、さらに機嫌の悪くなった妻からたたみかけられる。
「私じゃダメだそうよ!職務代行者じゃないからって!なにそれ!失礼しちゃう!!」
職務代行者?聞いたことがない。
以前に理事をやったときも、理事会の日に仕事が入ったときは妻が代わりに参加していた。それでも何ら問題になっていなかった。いつから変更になったのだろう?
2. マンション標準管理規約改正により「職務代行者」が追加
2025年10月に改正された「マンション標準管理規約」に職務代行者の規定が追加された。今までの標準管理規約では、理事に事故があり理事本人が理事会に参加できない場合には、規約に定めた範囲(配偶者、一親等以内の親族など)の「代理人」が参加できるとされていた。
この「事故」の考え方は厳しくとらえられており、仕事が忙しいなどの理由は事故には該当せず、入院している等、本当の意味での「事故」であることが必要であった。
ただし、一部の管理組合では、この厳しい解釈では理事会の運用がままならず、本人に急な仕事の予定が入った場合であっても、いわゆる「事故扱い」として代理人出席を認めていたり、規約に代理人の範囲を明確に定めていなくても、出席してきた者を「代理人扱い」として認めていたりしてきたのも事実である。
今回の改正では、この「代理人」に関する規定が削除され、マンション標準管理規約コメントに「職務代行者」の規定が加わった。この「職務代行者」について考えてみよう。
① 誰が職務代行者になれるのか
規約で定めた範囲で選任が可能。マンション標準管理規約コメントでは、配偶者、一親等以内の親族のほか、「同居する親族」が追加されている。
② どんな時に理事会に参加できるのか
理事本人が理事会に参加できない場合に、職務代行者が理事会に参加可能。理由は問わない。つまり「事故」でなくともよい。
ここまでは、一見すると、今までの厳しい規定が緩くなったように感じられる。しかし、実はそうでもない。
3. 職務代行者選任の注意点
職務代行者の規定には、今までの代理人規定よりも厳しくなっている部分もある。
① いつ選任できるのか
職務代行者を決めるにあたっては、総会で管理組合役員を選任するときに同時に選任するか、理事の役職を互選で決める初回理事会などで承認を得る必要がある。
「事前に職務代行者を選任しなかったが、急に予定が入ったので、次回の理事会だけ配偶者を参加させたい」というのは認められないことになる。
② どうやって選任するのか
あらかじめ職務代行者を選任する場合は、個人を特定する必要がある。例えば夫が理事に就任し、妻が職務代行者となる場合は、総会議案書、理事会議案書に次のように記載する必要がある。
「101号室 会計担当理事 山田太郎、職務代行者 山田花子」
日本では、投票所入場券の送付も世帯単位、国勢調査も世帯単位で実施されるなど「世帯」の考え方が強い。こうした影響からか、理事の選任を部屋単位や世帯単位でとらえている管理組合がある。例えば、総会議案書などに次のように記載する方法だ。
「101号室 会計担当理事 山田」
名前がないから、太郎さんなのか花子さんなのかわからない。理事長にお話を聞くと「101号室で誰か出てもらえればいい」とのこと。
さらに同様の例として個人情報保護を厳格にとらえている管理組合がある。もちろん、部屋番号と氏名を記載した総会議案書は個人情報を含む書面となる。これを嫌ってか、総会議案書に次のように記載していた。
「101号室 会計担当理事」
氏名は書いてない。理事長にお話を聞くと「個人情報保護の観点から、当組合では以前から部屋番号しか書かない運用としている。その部屋から誰か出てきてもらえればいい」とのこと。
上記は極端な例であるが、こうした部屋や世帯を単位とした考え方は不適切である。理事も職務代行者も「個人」を単位として考える必要があり、職務代行者を決定する場合は両者の「氏名」を特定する必要がある。
以上から、改正前のマンション標準管理規約の「規約に定められた配偶者、一親等以内の親族などの範囲で、事故があるときに理事会に参加することができる」とする規定と比較しても、改正マンション標準管理規約が緩くなったわけではないことがおわかりいただけるだろう。
これから多くの管理組合で、マンション標準管理規約の改正にあわせて管理規約の見直しが始まるだろう。職務代行者の規定はマンション標準管理規約コメントに記載された内容であり、本文だけを読むと見落としてしまう可能性がある。理事の選任という大切な条文であるから、コメントの記載もあわせて検討したほうがよいだろう。
【参考】
| マンション標準管理規約 【新】 |
マンション標準管理規約【旧】 |
| 変更なし |
(理事会の会議及び議事) |
| コメント第53条関係 |
コメント第53条関係 |
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