今までの代理人とは違う!?「職務代行者」の選任規定とは(改正区分所有法・改正マンション標準管理規約特集③)

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今までの代理人とは違う!?「職務代行者」の選任規定とは(改正区分所有法・改正マンション標準管理規約特集③)

 「職務代行者」と「代理人」はどう違うのか。架空のケースを使ってみてみよう。

1. 20年、あるマンションのできごと

 

201号室に住む鈴木さんは、今年度、管理組合の理事に就任した。輪番制であるから仕方がないと思いつつも、「理事長だけはいやだな」と感じていたところ、501号室の久保さんが理事長を引き受けてくれた。鈴木さんは会計担当理事となり、少しほっとしている。理事も2巡目で、前回の経験もあり、理事会の様子はなんとなくわかっているつもりだ。
 ある日、理事の間の連絡手段として使われているSNSを通じて、理事長の久保さんから連絡が入る。
「再来週10日土曜日、10時から臨時理事会を開催したいのですが、みなさんのご都合はいかがでしょうか」
次々と返信が入る。「了解しました」「OKです」「私もOKです」・・。
 鈴木さんも乗り遅れないようあわてて返信する。「私もOKです」

 10日土曜日。理事会のことをすっかり忘れ、趣味の釣りをするために早朝から遠出をしていた鈴木さんの携帯電話が鳴る。理事長の久保さんからだ。
「鈴木さん、本日理事会です。皆で鈴木さんをお待ちしていますが、どうされましたか?」
「しまった!」鈴木さんは自身のスケジュールに入力するのを忘れていた。
「すみません、急用ができまして。私の代わりに妻を集会室に向かわせますので、少々お待ちください」
 すぐに電話を切る。電話が切れる間際、「鈴木さん、それは・・」と言いかける久保さんの声が聞こえたような気がしたが、かけなおすことはしなかった。とにかく急がなければならない。
 鈴木さんは、妻に電話をかけ、しぶしぶ了解をもらう。「お土産お願いね」という不機嫌な声が耳に残る。
 夕刻、魚をお土産に自宅に戻ると、さらに機嫌の悪くなった妻からたたみかけられる。
「私じゃダメだそうよ!職務代行者じゃないからって!なにそれ!失礼しちゃう!!」
職務代行者?聞いたことがない。
以前に理事をやったときも、理事会の日に仕事が入ったときは妻が代わりに参加していた。それでも何ら問題になっていなかった。いつから変更になったのだろう?

2. マンション標準管理規約改正により「職務代行者」が追加

 2025年10月に改正された「マンション標準管理規約」に職務代行者の規定が追加された。今までの標準管理規約では、理事に事故があり理事本人が理事会に参加できない場合には、規約に定めた範囲(配偶者、一親等以内の親族など)の「代理人」が参加できるとされていた。
 この「事故」の考え方は厳しくとらえられており、仕事が忙しいなどの理由は事故には該当せず、入院している等、本当の意味での「事故」であることが必要であった。
 ただし、一部の管理組合では、この厳しい解釈では理事会の運用がままならず、本人に急な仕事の予定が入った場合であっても、いわゆる「事故扱い」として代理人出席を認めていたり、規約に代理人の範囲を明確に定めていなくても、出席してきた者を「代理人扱い」として認めていたりしてきたのも事実である。
 今回の改正では、この「代理人」に関する規定が削除され、マンション標準管理規約コメントに「職務代行者」の規定が加わった。この「職務代行者」について考えてみよう。

①    誰が職務代行者になれるのか
 規約で定めた範囲で選任が可能。マンション標準管理規約コメントでは、配偶者、一親等以内の親族のほか、「同居する親族」が追加されている。
②    どんな時に理事会に参加できるのか
 理事本人が理事会に参加できない場合に、職務代行者が理事会に参加可能。理由は問わない。つまり「事故」でなくともよい。
 ここまでは、一見すると、今までの厳しい規定が緩くなったように感じられる。しかし、実はそうでもない。

3. 職務代行者選任の注意点

 職務代行者の規定には、今までの代理人規定よりも厳しくなっている部分もある。
①    いつ選任できるのか
 職務代行者を決めるにあたっては、総会で管理組合役員を選任するときに同時に選任するか、理事の役職を互選で決める初回理事会などで承認を得る必要がある。
「事前に職務代行者を選任しなかったが、急に予定が入ったので、次回の理事会だけ配偶者を参加させたい」というのは認められないことになる。
②    どうやって選任するのか
 あらかじめ職務代行者を選任する場合は、個人を特定する必要がある。例えば夫が理事に就任し、妻が職務代行者となる場合は、総会議案書、理事会議案書に次のように記載する必要がある。
「101号室 会計担当理事 山田太郎、職務代行者 山田花子」
日本では、投票所入場券の送付も世帯単位、国勢調査も世帯単位で実施されるなど「世帯」の考え方が強い。こうした影響からか、理事の選任を部屋単位や世帯単位でとらえている管理組合がある。例えば、総会議案書などに次のように記載する方法だ。
「101号室 会計担当理事 山田」
名前がないから、太郎さんなのか花子さんなのかわからない。理事長にお話を聞くと「101号室で誰か出てもらえればいい」とのこと。
さらに同様の例として個人情報保護を厳格にとらえている管理組合がある。もちろん、部屋番号と氏名を記載した総会議案書は個人情報を含む書面となる。これを嫌ってか、総会議案書に次のように記載していた。
「101号室 会計担当理事」
氏名は書いてない。理事長にお話を聞くと「個人情報保護の観点から、当組合では以前から部屋番号しか書かない運用としている。その部屋から誰か出てきてもらえればいい」とのこと。
上記は極端な例であるが、こうした部屋や世帯を単位とした考え方は不適切である。理事も職務代行者も「個人」を単位として考える必要があり、職務代行者を決定する場合は両者の「氏名」を特定する必要がある。
以上から、改正前のマンション標準管理規約の「規約に定められた配偶者、一親等以内の親族などの範囲で、事故があるときに理事会に参加することができる」とする規定と比較しても、改正マンション標準管理規約が緩くなったわけではないことがおわかりいただけるだろう。

 これから多くの管理組合で、マンション標準管理規約の改正にあわせて管理規約の見直しが始まるだろう。職務代行者の規定はマンション標準管理規約コメントに記載された内容であり、本文だけを読むと見落としてしまう可能性がある。理事の選任という大切な条文であるから、コメントの記載もあわせて検討したほうがよいだろう。

【参考】

マンション標準管理規約 【新】 マンション標準管理規約【旧】
変更なし (理事会の会議及び議事)53 条 理事会の会議( WEB会議システム等を用いて開催する会議を含む。)は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。2 次条第1項第五号に掲げる事項については、理事の過半数の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議によることができる。3 前2項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。  議事録については、第49条(第6項を除く。)の規定を準用する。ただし、第49条第3項及び第4項中「総会に出席した組合員」とあるのは「理事会に出席した理事」と読み替えるものとする。
コメント第53条関係① 理事は、総会で選任され、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとされている。このため、原則として理事会には本人が出席して、議論に参加し、議決権を行使することが求められる。② 一方で、理事の負担感を軽減する観点から、理事が職務代行者を定め、理事本人が理事会に出席できない場合において、その職務代行者に理事会への出席(議決権の行使を含む。以下同じ。)を委ねることを認めることも考えられる。この場合、職務代行者の出席を認める旨及び職務代行者として選任可能な者の範囲を規約の明文の規定で定めることが必要である。また、あらかじめ、職務代行者に定める者を理事に選任される総会又は理事に選任された後の最初の理事会で承認を得ることで、職務代行者も含めた形で信任を得ることが望ましい。職務代行者の出席を認める場合の規約の例は次のとおり。なお、総会等において事前の承認を得ることを前提として、職務代行者に選任可能な者の範囲を「同居する親族」等を含むよう広げることも考えられる。 6 理事は、職務代行者(理事の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)又は一親等の親族(理事が、組合員である法人の職務命令により理事となった者である場合は、法人が推挙する者)に限る。)を定め、理事会に出席させることができる。7 理事(総会において選任されることが予定されている者も含む。以下本条において同じ。)は、職務代行者を理事会に出席させることが見込まれる場合は、総会における選任の時(理事に選任された後の最初の理事会とする場合は、そのように置き換える。)に、職務代行者を定める旨及び職務代行者の氏名を表明し、承認を得なければならない。8 前項の場合において、理事又は職務代行者は、理事が職務代行者を定める旨及び職務代行者と理事の関係を証する書面(電磁的方法によるものを含む。)を理事長に提出しなければならない。 の規約規定例第8項中の「職務代行者と理事の関係を証する書面」については、理事が理事長に提出する「職務代行者を定めた旨」を通知する書面の中で、職務代行者の氏名及び理事との続柄を記載することで、その関係を証明することが考えられる。なお、職務代行者と理事の関係を証する書面として、戸籍謄本や住民票等の公的な証明書を用いることも考えられるが、その場合は、管理組合に提出させるのではなく、提示を求めるにとどめることが望ましい。また、職務代行者についても、理事本人と同様に、本人確認を適切に実施することが有効と考えられる。本人確認の方法等は、コメント第 35 条関係を参照のこと。 コメント第53条関係① 理事は、総会で選任され、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとされている。このため、理事会には本人が出席して、議論に参加し、議決権を行使することが求められる。② したがって、理事の代理出席(議決権の代理行使を含む。以下同じ。)を、規約において認める旨の明文の規定がない場合に認めることは適当でない。  「理事に事故があり、理事会に出席できない場合は、その配偶者又は一 親等の親族(理事が、組合員である法人の職務命令により理事となった者である場合は、法人が推挙する者)に限り、代理出席を認める」旨を定める規約の規定は有効であると解されるが、あくまで、やむを得ない場合の代理出席を認めるものであることに留意が必要である。この場合においても、あらかじめ、理事の職務を代理するにふさわしい資質・能力を有するか否かを考慮して、その職務を代理する者を定めておくことが望ましい。なお、外部専門家など当人の個人的資質や能力等に着目して選任されている理事については、代理出席を認めることは適当でない。④ 理事がやむを得ず欠席する場合には、代理出席によるのではなく、事前に議決権行使書又は意見を記載した書面を出せるようにすることが考えられる。これを認める場合には、理事会に出席できない理事が、あらかじめ通知された事項について、書面をもって表決することを認める旨を、規約の明文の規定で定めることが必要である。⑤ 理事会に出席できない理事に対しては、理事会の議事についての質問機会の確保、書面等による意見の提出や議決権行使を認めるなどの配慮をする必要がある。また、WEB会議システム等を用いて開催する理事会を開催する場合は、当該理事会における議決権行使の方法等を、規約や第70条に基づく細則において定めることも考えられ、この場合においても、規約や使用細則等に則り理事会議事録を作成することが必要となる点などについて留意する必要がある。なお、第1項の定足数について、理事がWEB会議システム等を用いて出席した場合については、定足数の算出において出席理事に含まれると考えられる。⑥ 第2項は、本来、のとおり、理事会には理事本人が出席して相互に議論することが望ましいところ、例外的に、第54条第1項第五号に掲げる事項については、申請数が多いことが想定され、かつ、迅速な審査を要するものであることから、書面又は電磁的方法による決議を可能とするものである。  第3項については、第37条の2関係を参照のこと。


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執筆者

久保 依子 マンションみらい価値研究所 所長

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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