実は危険?!マンションのバルコニーに潜むリスク~トラブル事例から学ぶ~

マンションのバルコニーとは?その役割
マンションのバルコニーは、日当たりや眺望の確保のためにマンションライフに欠かせない存在だ。リバービューやオーシャンビューなど、バルコニーがマンションの特別な魅力となるケースも多くある。
「バルコニー」と似た言葉に「ベランダ」がある。一般的には建物から張り出した屋外空間をベランダ、屋根がないものをバルコニーと言うらしい。
マンションだと上階のバルコニーが屋根となる場合も多く、「ベランダ」に該当する気もするが、改めて調べてみると、建築基準法では「バルコニーその他これらに類する部分」、標準管理規約のコメントでは「バルコニー等」と表記されていることもあり、マンションにおいては「バルコニー」と言われることがほとんどのようだ。
バルコニーは専有部分ではなく、専用使用権が認められた「共用部分」である。共用部分としての役割は主に、火災などの非常時の避難経路(上下階や同じ階の住民が避難のために利用する)としての機能と、景観を統一し、美観を維持することである。なお、バルコニーは各戸で使用できるが、自由に使ってよいというわけではない。
バルコニーのトラブル事例
屋外で隣戸と接しているため、トラブルも多い。私自身もフロント担当をしていた時に居住者から問い合わせを受けたことがあるが、いくつか事例を紹介したいと思う。
① 音・におい
携帯電話での通話、プール遊びの声、煙草や柔軟剤のにおいなどが原因でトラブルになることがある。においに関しては「隣のバルコニーでどうやら家庭菜園をしており、たい肥のにおいが強烈だ」という相談や、「近隣住戸から強い柔軟剤の香りがして生活に支障が出ている」という話もあった。
②排水・漏水
観葉植物への水やりで1階の専用庭に水が流れ落ち、下階の洗濯物が汚れてしまったケースや、子ども用プールの排水を一度に行ったために隣戸のバルコニーまで水浸しになってしまったケースなど、水に関するトラブルも多い。また、バルコニーの排水口を掃除していなかったために、豪雨でバルコニーに溜まった雨水が室内に浸水してしまったという事例もあった。
③落下物
「洗濯ばさみや洗濯物が1階の専用庭に落ちてくる」という相談もあった。私が直接聞いた中で一番大きな落とし物は敷布団である。10階以上の部屋から落としてしまった、という事例だったが、幸いけが人はいなかった。
④転落
子どもが転落するという痛ましい死傷事故も全国で起きている。東京都こどもセーフティプロジェクトによると、子どもが転倒するまでの時間は0.5秒程度、ベランダの柵によじ登る時間は4~5歳児で7~11秒。まさに「ちょっと目を離した隙」に事故が起きてしまう。
東京都こどもセーフティプロジェクト:0.5秒先のケガや事故から子供を守る、東京都こどもセーフティプロジェクトが始動!〜「目を離さない」の前にできること〜
政府広報オンライン:ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故
⑤避難経路の妨害
大きな観葉植物や荷物などが置かれていると、避難経路を塞いでしまい、火災時に問題となることもある。
いずれのトラブルも、近隣住戸に連絡をとってバルコニーの状況確認を促すほか、理事会に報告したうえで注意喚起書面を掲示・配付し、マンション全体に呼びかけるなどの対応をとることが多い。バルコニーをどのように利用しているかは外部からはわからないため、原因住戸の特定や置かれている物の撤去を徹底するのは非常に難しい。自身に直接の被害が及ばない限り「言われて初めて気がついた」という居住者も多いのではないだろうか。
居住者が気を付けなければならないこと
バルコニーは、専有部分の延長として自由に使えると誤解されがちだが、先に述べたように、各戸での利用は可能でも、自由に使ってよいわけではない。管理規約の遵守はもちろん、近隣住戸に配慮する必要がある。
①マンションのルールの確認
まず第一に管理規約の確認が必須だ。使用細則で火気使用や工作物の設置などを禁止している場合が多い。安全性と美観のために手すりへの布団干しが禁止されていることもある。
②避難経路の確保
植物を育てたり、ガーデンテーブル・チェアを置いたりといったバルコニーの活用イメージはよく見かけるが、バルコニーは非常時の避難経路となるため、通路や隣戸とのパーテーション付近や、避難はしごの昇降を妨げるような場所への配置は決してしてはならない。
③排水ドレン・排水口の清掃
排水口が詰まってしまうと全体の排水機能に影響を及ぼし、排水管の故障や漏水事故につながる可能性があるため、こまめな清掃が必要である。排水口がない場合でも、自身のバルコニーから近隣住戸の排水口に流れていくことを踏まえて、排水ドレンを綺麗に保つことが重要だ。

④家具の常時設置や原状回復が困難な装飾は避ける
撤去が簡単にできないタイル敷きや、壁面装飾、家具などを常時設置することは使用細則で禁止されていることが多く、防水機能への影響や転落事故のリスク、大規模修繕工事の際の撤去の必要性などを考慮しても避けたほうがよい。エアコンの室外機に関しては、マンションによっては設置場所を指定している場合もあるが、設置状況・配置に危険がないか、改めて確認することが必要だろう。
関連レポート:緊急調査 バルコニーからの幼児転落事故をうけて ~室外機置場が事故の原因となる可能性を探る~

管理組合としてできること
バルコニーの問題は、近隣住戸のトラブルだけでなく、マンション全体の安全性や美観に影響を与えるため、使用細則に禁止事項や容認事項を明文化することが重要である。
以下は使用細則に定めがあるものの一例である。
- 火気使用(バーベキュー・喫煙など)の禁止
- 大型物品(物置・家具など)の設置制限
- 安全性や美観を損なう利用(手すりへの布団干し・大量の排水など)の制限
- 使用時のみ設置する家具(椅子・テーブルなど)の容認
- 排水口清掃の義務
使用細則として定めるだけではなく、定期的にトラブル事例を交えて注意喚起文を掲示・配付することで、居住者の意識向上につながる。
マンションのバルコニーは、暮らしを豊かにしてくれる空間であるからこそ、トラブルを未然に防ぎ、安心して暮らすためのルールを定め、それを守る必要がある。バルコニーの使い方について、今一度見直してみてはどうだろうか。
【12月セミナー】
これで解決!標準管理規約改正の解説と実務のポイント
※メルマガ会員の方は、メルマガでご案内のフォームよりお申し込みください

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務や、コンプライアンス・事業広報などを統括する業務を経験。現在は、事業の推進を担う部門に従事する傍ら、マンションみらい価値研究所の研究員として活動中。







