複合災害を考える~能登半島地震、豪雨災害からの復興にむけて~

マンションを取り巻くリスクコミュニティ高齢化社会
複合災害を考える~能登半島地震、豪雨災害からの復興にむけて~

 2025年9月、能登半島。地震と豪雨の被災地を訪問する機会があった。2024年1月1日の能登半島地震から約1年9ヵ月、同年9月21日の奥能登豪雨から約1年。時間は確実に経過している。私がそれ以前に能登半島を訪れたのは、もう20年以上前のことだろうか。にぎやかな輪島の朝市、活気のある温泉街。しかし、今の能登半島には、まだ当時のイメージとは程遠い現状があった。
 日本の災害の歴史を紐解くと、短期間の間に複数回の災害に見舞われた例がある。例えば、1964年6月の新潟地震、それに続く同年7月の山陰北陸豪雨。2016年4月の熊本地震、それに続く同年6月の熊本県南部での水害と土砂災害。2018年9月の北海道胆振東部地震、その後の台風21号による豪雨。地震の影響が残り、避難生活を余儀なくされている中での豪雨や台風被害。こうした「複合災害」は、復興に向かおうとする人々の心を再び打ちのめしてしまう。地震と豪雨という二度の災害が重なり、能登半島にはその爪痕が深く刻まれていた。

 初めに訪問したのは、輪島市内のある仮設住宅団地。住宅の立ち並ぶ土地と道路面にはわずかに高低差があり、前面道路の方が高い。つまり、豪雨災害があれば、道路から住宅に水が流れ込む可能性のある土地である。震災後に仮設住宅を建設する際、その問題を認識していたものの、限られた時間や予算の中で十分な対策を講じることは難しく、防ぐことはできなかったという。「土地をかさ上げする予算も、工事の時間もなかったのでしょう」関係者のひとりが悔しがる。二度の被災、恐れていたことが現実になる。この仮設住宅団地にも水が流れ込んだと言う。
 能登半島では私の知る限りマンションは分譲されていない。石川県で最もマンションが多いのは金沢市だが、震源地から距離があったため、能登半島地震では東日本大震災や熊本地震のようにマンションの解体を伴うような大きな被害は発生していない。こうしたことから、当初、私にとって能登半島地震は実感しづらい災害であった。しかし、地震と水害という「複合災害」の現状を目の当たりにして、いざ同様の事態が都市部で起きれば、その被害がマンションにとって甚大なものになるであろうことが容易に想像されたのである。

能登 仮説住宅

 災害が異なれば被害も異なる。当たり前と言えばその通りだが、マンションにおける防災計画などでも複合被害の想定はほとんどされていないのが現状だろう。ここでは、能登半島地震と同様に、地震と水害の両方が重なるケースを想定してみたい。
 地震災害でまず問題となるのは、建物の倒壊である。倒壊すれば、居住者は住み続けることができなくなる。倒壊までは至らずとも、外壁の剥落などが生じれば、道路を通行する人にも被害を及ぼしかねない。地震災害の議論では、とかく「マンションは堅固な建物であり、在宅避難が可能」と言われがちである。しかし、国土交通省から公表されている令和5年度マンション総合調査によれば、耐震性がないと判定されたマンションのうち、50%以上のマンションでは、耐震改修が未実施のままである(図1参照)。「マンションは堅固な建物である」という情報だけがひとり歩きし、耐震性能がないマンションや外壁が崩落する危険のあるマンションに避難者が逃げ込んできた場合、どうなるか。居住者ばかりでなく、近隣からの避難者もまた被害に遭いかねない。津波被害想定区域であれば、その危険性はなおさらである。

令和5年度マンション総合調査

 次に、水害を想定する。震災後に、同じ地域に豪雨被害が発生したとしよう。近年の豪雨では、都市部において内水氾濫が起きることが知られるようになった。たとえ、震災で倒壊を免れたとしても、内水氾濫が起きれば、地下に電源設備が設置されている建物では断水や停電のリスクが高くなる(図2参照)。タワー型マンションにおける豪雨被害が報道されているが、地下電源設備があるマンションはタワー型に限られない。

地下に電気設備があるマンション
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 震災後は、度重なる余震の恐怖に悩まされる。特に、高層階では長周期地震動により、揺れを大きく感じることもある。余震の恐怖におびえながら、どれほどの期間、停電したマンションで生活することができるだろうか。さらにその後、豪雨災害が発生し、電源設備が被害を受ければ、復旧までの期間はさらに長引くことになる。たとえ電力会社による電力の供給が再開したとしても、マンションは電源設備が復旧しない限り、停電したままとなる。電力が供給されなければ、ポンプなどの給水設備も動かない。つまり、行政により水の供給が再開したとしても、マンションは断水したままとなる。その結果、周囲と歩調をあわせて生活を復旧することができず、地域社会の復興から置きざりにされかねない。
 縦に住戸の積み重なるマンションを、横に並び替えることができるほどの土地はない。マンション居住者を収容しきれるような仮設住宅は建てることは極めて困難だと思った方がよいだろう。そういった意味では、どこにも逃げ場のないマンションこそが「複合災害」に最も弱い存在なのかもしれない。
 「防災訓練をやっています」というマンションは、一度「複合災害」についても検討してみてはどうだろうか。地震からの水害、水害からの地震、水害の連続、地震の連続、そして火山噴火など組み合わせは数多くある。まずは想像することから始めてみよう。

 能登半島地震の被災地でも、力強く生きる人々がいる。仮設店舗で営業を開始した和菓子店のご主人、輪島塗の漆器店のご夫婦。暖かく私を迎えていただいた。読者のみなさんにも能登半島を訪れてみてほしい。被災地は私たちに必ず何かを教えてくれる。

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久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。

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