「住宅」とは何か。 シェアハウスとグループホームから考える

1. はじめに
分譲マンションの管理組合において、専有部分の利用方法がマンション標準管理規約に定められた「専ら住宅として使用する」とする規定に抵触しているとして、訴訟が提起され、それに対する裁判所の判断がニュースになることがある。古くは、専有部分内でのピアノ教室や英会話教室などの使用が、この「専ら住宅」との関係で紛争となった。その後、ウィークリーマンションや事務所との兼用といった形態などでも、同様の紛争が生じた。この時点までは、裁判所の判断が事例によって割れるということは少なく、裁判例を紹介する書籍にあたっても、あまり議論の余地はないものであったように思う。
日本のさまざまな制度は、従来の家族や社会のあり方を前提として設計されており、超高齢社会の急速な進行や障碍者の当事者運動などによるノーマライゼーションの思想の広がりには追い付いていないように感じられる。
こうした社会の要請と法のひずみは、マンションにも生じているのではないだろうか。私は法律の専門家ではないため、当事者間の係争や裁判所の判断に踏み込んだ解説は控えるが、こうした課題を取り巻く社会情勢に注目しながら、標準管理規約に規定される「専ら住宅」について、「住宅とは何か」という観点から考察したい。
2. 問題の所在
日本の分譲マンションには約60年の歴史がある。高度経済成長期においてマンションはサラリーマンの憧れの居住形態であった。間取りは夫婦と子ども2人の家族構成を前提とした2DKから3LDKが主流であり、家族以外の者同士が共同生活を送ることは考えられていない。こうした核家族中心の間取りプランは、分譲マンションの黎明期から現在に至るまでほとんど姿を変えずにいる(※参考)。
(1)外国人就労者のシェアハウス利用問題
2010年代の半ばから外国人労働者の雇用が増加した(※1)。これに伴い、外国人不法就労者なども増加し、政府も対策に乗り出すようになる(※2)。この当時、不法就労者を斡旋する法人などがマンションの一室を借り受け、不法就労者の宿舎として利用するという行為が社会問題化した。こうした中、2014年(平成26年)、ある管理組合がシェアハウスとしての使用差し止めをその部屋の区分所有者に求めて提訴する(※3)。
この裁判では、マンションの一室をシェアハウスとして使用することを禁止する判決が下され、「住宅」を次のように定義している。
「本件マンションの分譲時には、快適な住環境やオートドアロックシステムによる安全性の確保が本件マンションの特徴として強調されており、各専有部分の間取りも、全戸南向きのワンルーム、1DK又は2DKとして設定されていて、その構造からすれば、各戸をそれぞれ単身者又は一つの生活共同体として継続的に同居生活を営む者らが生活の本拠として使用することが想定されていることが明らかであり、本件管理規約12条にいう『住宅』とはそのような使用態様を意味するものであると解される。」
マンション管理の世界でも、この判決は、従来型の「住宅」の概念を堅持したものとして歓迎されたように記憶している。なお、外国人との共生に関する意識調査(令和5年度 出入国在留管理庁委託事業)(※4)によれば、日本人の多くは、外国人に対する偏見および差別があると感じており(P45)、その偏見や差別の場面としては、「近所の人との付き合いのとき」が二番目に多い。本判決は、このような日本人の感覚にも合致しているように思われる。
(2)外国人観光客の民泊利用問題
時を同じくして、2012年(平成24年)頃から、外国人観光客の増加に伴い、マンションの一室をホテルの代わりに貸し出す「民泊」が徐々に問題になり始める。昼夜を問わず外国人がマンションに出入りし、エントランスを占拠したり、ごみを散乱させたり、レンタカーを好き勝手な場所に駐車したりする行為への対応に苦慮する管理組合の話題があった。
こうした背景を受け内閣府は、2013年(平成25年)から、外国人を含めた観光客の増加に対応するために、国家戦略特区において、旅館業法の特例として住宅による民泊を認めることとした(※5)。そして、国家戦略特区以外の地域においても、住宅を民泊として利用することを認める住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)が2018年6月に施行されることとなった。当時の管理組合の混乱ぶりはよく記憶している。内閣府は住宅宿泊事業法に基づく事業(いわゆる民泊)は、法律名のとおり「住宅」であるから、管理規約を改正して住宅宿泊事業を禁止しない限り、民泊は可能である、という見解であった。つまり、法の施行前に個々のマンションの管理規約で禁止しなければ、民泊は可能となる。法の成立から施行までのおよそ1年間、全国の管理組合では住宅宿泊事業を禁止する管理規約の改正を決議することになり、当社が受託する管理組合では当時100%の管理組合が民泊を禁止することとなった。
この際に、同時に問題となっていたシェアハウスも併せて禁止するため、「専有部分は専ら住宅としてのみ使用し、シェアハウスや住宅宿泊事業等の用に供してはならない」とした管理組合も多い。正確な調査はしていないが、私の感覚値では30%以上の管理組合はシェアハウスも民泊と同様に禁止事項として規定したように思われる。
(3)障碍者のグループホーム問題
ある社会福祉法人が、マンションの専有部分をグループホームとして使用していた。2018年(平成30年)、管理組合が社会福祉法人に対し、グループホームとしての使用を中止するように提訴した。第一審の大阪地方裁判所は、管理規約および区分所有法に違反とすると判断した(※6)。
この判決では、「住宅」を次のように定義している。
「マンションの専有部分が住宅以外の用途に供された場合、良好な住環境が確保されなくなるおそれがあるだけでなく、本件マンションの維持管理の在り方に変動が生じ、建物又は敷地若しくは附属施設の管理に要する負担及び費用が増加するなどして、区分所有者の共同の利益が損なわれるおそれがある。その客観的な使用の態様が、本件管理規約で予定されている建物又は敷地若しくは附属施設の管理の範囲内であることを要する。」
住宅の定義にグループホームは適合しないという判断である。判決では、グループホームは他の居住者の利益を損なう可能性があるとされ、この点が世論やマスコミから大きな非難を浴びることとなった。マンションから障碍者を追い出す判決として、障碍者の生きる権利を侵害しているのではないかといった声も大きく報道された。その後の控訴審で、大阪高裁は一審判決を覆し「管理規約に違反しない」との判断を示した。その上で管理組合と社会福祉法人側で和解が成立し、グループホームとしての利用が継続できることとなった。当時の報道では、この和解を歓迎する論調が多く見られた。
高裁は、和解時の補足として、異例なことではあるが、以下のような補足を行った。
「本件管理規約12条1項にいう『住宅として使用する』に該当するか否かは、その文言及び趣旨に照らし、居住者の生活の本拠として使用」されているか否かによって判断すべきであり、本件管理規約で予定されている管理の範囲内にあることも要件であるとする根拠はないと解する。したがって、本件各住戸は、グループホームの利用者の生活の本拠として使用されているから、本件各住戸をグループホームとして使用することは、本件管理規約12条1項に違反せず、同項違反があることを前提に上記『区分所有者の共同の利益に反する行為』に該当するとはいえない。」
「地域共生社会の実現により、障害者の有無にかかわらず多様性を認め合いながら地域で共に生活することを目指すとする障害者基本法の基本理念と、消防法令の順守による防火、防災が相反するものであってはならず」
こうして障碍者グループホームは、外国人就労者のシェアハウスと同様に、家族ではない者が共同で生活するという形式をとりながら、「住宅」としての判断は異なる結論が導かれることとなった。外国人の共同生活は住宅として認められなかった一方で、障碍者の共同生活は住宅として認められたことになる。
注意したいのは、障碍者がグループホームとして住宅を利用することは可能であると認められたものの、個々のマンションの管理規約でグループホーム自体の利用を禁止できるという点である。つまり、住宅宿泊事業法施行時と同様、住宅として認められたとしても、管理規約による禁止は可能なままと思われる。管理規約は区分所有者全員で定めるルールであり、その内容が区分所有者間の公平性を損なうものであったり、社会的に容認しがたい内容でない限り、原則的には、裁判所がその妥当性について判断を下すことはない。
さらに、グループホームとシェアハウスの違いも曖昧なままである。判決は「住宅」であるか否かを判示し、グループホームやシェアハウスとは何かを定義したものではない。
つまり、住宅宿泊事業法施行当時、管理規約にて住宅宿泊事業と同時にシェアハウスとしての利用を禁じたマンションでは、障碍者のグループホームとしての利用も認められないままになっているのではないだろうか。
3. 今後の展望
空き家、空き地の問題が顕在化して久しい。戸建て住宅の空き家問題ばかりが取り上げられている感もあるが、マンションでも全戸が空室となり、廃墟と化したマンションが行政代執行により除却されるという事例が発生している(※7)。マンションは夫婦と子ども2人が居住するものという固定観念から脱却し、柔軟な住まい方を認めていかなければ、マンションの空室問題もいずれ深刻化するだろう。
多様な住宅を提供できるようにするためには、本来、法改正によって「住宅」という定義の中に多様な住まいの形態を含めるべきである。法改正が追い付かないのであれば、管理規約において利用が認められていくべきである。しかし、期せずして管理規約の多くがこうした利用を禁止しているという現状は、ほとんど知られていない。
マンションの管理組合という、法の介入が限定される区分所有者組織の中で、外国人や障碍者がいかに住みやすい環境を作っていくか、多様な住まい方をどのように認めていくかは、今や社会全体で取り組むべき課題となっている。
注
(参考)「マンション60年史 : 同潤会アパートから超高層へ」
(※1)内閣府 年次経済財政報告https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je24/index.html
(※2)不法就労等外国人対策の推進(改訂)令和6年5月16日警察法務庁省 出入国在留管理庁 厚生労働省https://www.moj.go.jp/isa/deportation/resources/09_00009.html
(※3)平成27年9月18日 東京地裁 判決 事件番号 平26(ワ)5667号
シェアハウス使用差止請求事件
本件マンションの管理組合の管理者である原告が、本件マンションの区分所有者である被告に対し、被告が専有部分に多くの間仕切りを設置して多数の者を居住させていることが管理規約に違反し、また、区分所有者の共同の利益に反する行為に当たると主張して、管理規約及び建物の区分所有等に関する法律57条1項に基づき、上記行為の禁止、間仕切りの撤去等を求めた事案において、寝室その他の個室として用いることができる区画部分の数が3を超えることとなる間仕切りを設置して、これを複数の使用契約の契約者らに使用させる行為の差止め、設置された間仕切りの撤去を求める限度で、請求を認容した事例
(※4)外国人との共生に関する意識調査(令和5年度 出入国在留管理庁委託事業)https://www.moj.go.jp/isa/content/001416010.pdf
(※5)内閣府 国家戦略特区https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/tocminpaku.html
(※6)令和4年1月20日 大阪地裁 判決 事件番号 平30(ワ)5280号
共同利益背反行為の停止等請求事件
マンション管理組合の管理者である原告が、マンションの住戸を賃借している被告に対して、被告が当該住戸を障害者グループホームとして利用していることが、マンションの専有部分を住宅以外の用途に利用することを禁止しているマンション管理規約の規定に違反しており、これにより区分所有者の共同の利益を侵害していると主張して、区分所有法57条4項、1項に基づき、当該住戸をグループホームとして利用することを禁止するよう求めた。裁判所は、マンション管理規約の趣旨及び目的等に照らして、被告による障害者グループホームとしての利用は、マンションの専有部分を住宅以外の用途に利用することを禁止しているマンション管理規約の規定に違反し、区分所有法6条3項、1項の区分所有者の共同の利益を侵害する行為に該当すると判断、原告の請求を全部認容した事案
(※7)岐阜県野洲市における行政代執行事案
1972年築 総戸数9戸のマンションが管理不全となる。地域の防犯上の観点から野洲市により2020年1月に解体。市はおおよそ1億2000万円をかけている。

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。







