シニアライフを支える高齢者向けサービス~施設紹介からエンディングノートまで~

今日のゲストは、高齢者向け施設の紹介を中心に事業を展開しているプレシャスライフデザイン部 南 幸成さんだ。
プレシャスライフデザイン部では、他にも高齢者向けセミナーの開催や物販など、高齢者向けのサービスを幅広く提供している。
◆ゲスト:南 幸成さん
大和ライフネクスト株式会社
暮らすプラス事業部 プレシャスライフデザイン部
※所属先・肩書きは取材当時のもの
1. 高齢者向け施設の紹介事業とは何か
高齢者向け施設の紹介事業とは何か、イメージしやすいように、ショートストーリーで紹介する。
Aさんは60歳。共働きの妻と85歳になる母と3人でマンションの一室に同居している。子供はすでに独立していて家を出ている。日中は高齢の母が一人きりになる。
ある日、Aさんが家に帰ると母が寝室で転倒し、うつぶせになっていた。あわてて救急車を呼び搬送、大事には至らなかったが、足を骨折していたため入院することになった。
入院からしばらくして医師から説明を受ける。「退院は可能ですが、できるだけご家族の方と一緒に過ごすようにしてあげてください。また転倒するおそれがあります」とのこと。
帰宅して妻と話をする。二人とも仕事を辞めるわけにはいかない。退院と同時にどこかの高齢者向け施設に入居してもらうしかないという結論になった。
「どこかよい施設はないだろうか?そもそもどうやって施設を探したらいいのか?」
ここで登場するのが、高齢者向け施設の紹介事業である。それほど大きな業界とは思っていなかったが、中規模から大手と呼ばれる会社だけでも数十社はあるという。一大産業である。
2. なぜ管理会社が高齢者向け施設の紹介をするのか?
プレシャスライフデザイン部は一見するとマンション管理業とはあまり関係がないようにも思える。このあたりを南さんに聞いてみる。
マンションみらい価値研究所・久保(以下、久保):なぜ管理会社が高齢者向け施設の紹介事業をしているのですか?マンションから高齢者向け施設に転居する方が多いということでしょうか?その移住ニーズを狙っているのでしょうか。
南:もともとは、社内の事業企画コンテストで入賞し、事業化したものです。その当時、当社は高齢者向け施設を運営していました(2022年事業譲渡、現在は運営していない)。こうした事業とコラボレーションできるかもしれないという期待値と、今はマンションに住むお客様もいつかは住めなくなる時が来る、その時にお役に立てるのではないかという将来像もありました。それでも今はまだ、95%のお客様は当社が管理するマンション以外にお住まいの方ですね。
当初の期待値の実現がわずかに5%に留まっているのは驚きだ。確かに、国土交通省のマンション総合調査で公表された調査結果でも、6割の区分所有者は「永住するつもりである」と回答している。マンションを終の棲家と考える居住者は多いといえる。つまり、マンションを終の棲家と考える居住者が多いことを示している。しかし、身体機能が低下した場合にいつまで住み続けられるのだろうか。高齢者向け施設に転居したほうが、住みやすい人もいるのではないだろうか。居住者の高齢化に伴うさまざまな問題が顕在化している今、「住まい」の選択肢を提案することは今後必要とされてくるだろう。高齢者向け施設の紹介事業とマンション管理のコラボレーションはまだまだこれからのようである。
3. 高齢者向け施設を選ぶポイント
高齢者向け施設の紹介事業は、賃貸マンションの仲介に近いようである。まず、利用者の希望をヒアリングし、希望に近い施設を紹介する。一般的には、電話などで利用希望者の相談に応じる形式と、実際に施設まで案内する形式の2種類があるそうだ。プレシャスライフデザイン部は後者である。高齢者向け施設とはいえ、住宅である。利用者が現地を見ないまま決めるのは難しいだろう。そこで南さんに質問してみる。
久保:施設に訪問したときに、良い施設とそうでない施設を見分ける方法はありますか。
南 :やはり、対応してくれたスタッフさんの印象、施設を訪問した時の雰囲気が一番ですね。
高齢者向け施設も住居の形態のひとつである。部屋が住まいなら、施設全体がひとつのコミュニティである。介護体制や食事の質などももちろん確認すべきことではあるが、「施設で働く方の印象」「全体の雰囲気」も大切だと語る。
中古マンションを選ぶときも、マンションのエントランスですれ違う居住者に挨拶をしてみるなど、雰囲気を確認するとよいと聞く。「全体の雰囲気」は住まい選びに共通するポイントなのだろう。
4. 高齢者向け施設の紹介事業のこれから
高齢者向け施設の紹介ビジネスは将来的にどうなるのか。高齢者が増加し続けている今の局面では、ニーズは増加し続けることだろう。しかし、施設の数が不足するようになると、どこも満室ということになる。つまり、退去者が出ない限り入居できず、その段階で仲介の成約率は頭打ちになってしまう。さらに、団塊の世代と呼ばれる高齢者が平均寿命を超え、この世代の人口が減少に転じたときにもニーズは減少することになる。いずれにしても業界のニーズは先細りするのではないか、と南さんの将来予測は厳しい。高齢者向け施設の紹介ビジネスから得られた知見やノウハウをどのように他のビジネスに活かしていくかについて、現在考えているそうだ。
5. 高齢者向け商品の販売あれこれ
①家具の販売
南さんは社内ではアイデアマンで知られている。ここだけの話であるが、彼の部下と話をすると「南さんが風呂敷を広げすぎるので、後からたたむのが大変」であるそうだ。
彼にはそのことは伏せて聞いてみる。
久保:高齢者向け施設の紹介事業から派生した新しいアイデアはありますか。
南 :もちろん!今、家具の販売が好評なんです。
高齢者向け施設の部屋の多くは18㎡程度であるという。私が学生であった数十年前に住んでいたアパートの一室と同程度の広さである。今となっては、増え続けた私物を18㎡の部屋に持って入るのは不可能だろう。施設に入居するには学生時代程度まで断捨離しなければならないようだ。大型のタンスや食器棚は不要。とうてい部屋には入りきれない。そこで、施設に入居する際に、コンパクトな家具に買い替えることになる。
入居が決まったお客様からこうしたお困りの声を聞いた南さんは、ニーズに応えるべく家具販売サービスを新たに考案したそうだ。さすがアイデアマンである。
②見守りロボット
「ボッコ!ボッコ!」
取材の最中に、ときどき机の上で叫ぶ雪だるま型のロボットがいる。南さんが連れてきていた。その存在は最初から少し気になってはいた。

久保:さっきからおしゃべりしているこの子は誰ですか?
南 :これが見守りロボットのemo(エモ)ちゃんです。会話ができるのだけれど、分からないことがあると「ボッコ!」と叫ぶんですよね。
どうやら、私と南さんの「高齢者向け施設の紹介事業」の話はemo(エモ)ちゃんには少し難しすぎたらしい。それでも、AIを搭載した立派なロボットである。日常会話は不自由ない。言葉を発している人の方に首を傾けたりする仕草はまるで生きているかのようだ。
こうしたemo(エモ)ちゃんとの会話が遠隔地に住む親族などにスマホアプリを通じて報告されるという。
emo(エモ)ちゃんは高性能ロボットであるから、ランニングコストも数千円の費用がかかる。安価に導入できるものとして、冷蔵庫に貼り付けて開閉を検知する機器(まもりこ)が人気であるという。この機器の場合は月額500円程度だそうだ。
emo(エモ)ちゃんにしても、生活反応を検知する機器にしても、見守り機器はどこか遠隔地で高齢者を心配する親族などがいる場合に活用されている。機器が検知した生活の状況が親族に転送され、直接的な会話がなくてもつながりを感じることができる。一方で、こうした親族などがいない高齢者には、見守り機器が検知するデータの転送先がないのだ。
身寄りがない高齢者の見守りサービスなども、今後ますます需要が増えることが想定される。
参考:(プレシャスライフ相談室)遠距離介護を考える 離れて暮らす親のみまもり③
③エンディングノート
プレシャスライフデザイン部では、孤立死の対応や遺品の整理なども行っている。孤立死の発生したマンションからの相談に応じることもある。こうした対応を通じて「生前に準備することの大切さ」を感じているという。さまざまな団体がエンディングノートを発行しているが、プレシャスライフデザイン部でも、今までのノウハウを反映したものを作成している。
この冊子は、一般の方だけでなく、当社の管理員にも多く購入されているという。確かに管理員は60~70歳代が中心である。親や自分自身の将来が気になる世代でもある。
ノートをめくるとさまざまな記入欄がある。預貯金や保険などは想像がつくが、「デジタル」に関する記載には「いまどき」を感じた。エンディングノートは自分で白紙のノートを購入してきて作成することもできるが、「デジタル」は忘れがちだろう。私の個人情報もあらゆる記録がスマホを通してクラウドに保存されている。スマホがロックされてしまえば、誰もそれを取り出すことはできない。私がスマホを通して契約しているあらゆるサービスは解約することも難しいだろう。
ひとつ気になったのが「葬儀に来てもらいたくない人」の記入欄だ。来てもらいたい人ではない。確かに長いこと生きていれば二度と会いたくない人もいるかもしれない。しかし、人間関係が破綻しているのであれば、葬儀に呼ばれたとしても来ないのではないのか。また遺族も「あなたは来ないでください」と言えるのだろうか。この欄に誰かの氏名が記載されていたら、遺族も対応に困るだろうな、そんなことを考えて自分自身の人間関係を振り返ってみる。
今のところ「葬儀に来てもらいたくない人」は思い浮かばない。
6. 多様化、複雑化する高齢者ニーズ
プレシャスライフデザイン部では年8回ほどセミナーを実施している。参加者は500名になることもあるそうだ。マンションみらい価値研究所でも毎月セミナーを実施しているが、500名に到達したことはまだない。高齢者特化型のセミナーの注目度は相当に高いようである。
その要因のひとつに、高齢者ニーズの多様化、複雑化があげられる。冒頭の高齢者向け施設の紹介事業も、利用者のニーズと施設の多様性があるからこそ成立する。セミナーで取り扱う保険商品や年金制度などの説明も、制度が複雑化しすぎているからこそ、知りたいというニーズが生まれ、多数の申し込みがあるのだろう。
プレシャスライフデザイン部には、ニーズを拾うチャネルはある。あとは南さんのこれからのアイデアに期待したい。
プレシャスライフ相談室 https://preciouslife.class-plus.jp/
6月セミナー
築30年を経過したタワマン理事経験者が語る タワーマンションでこれから起きること
6月12日(木)16:00~17:00

マンション管理士、防災士。不動産会社での新築マンション販売、仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンションフロント担当、賃貸管理担当などを経験したのち、新築管理設計や事業統括部門の責任者を歴任。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。著書『マンションの未来は住む人で決まる』が第15回不動産協会賞を受賞。