マンションを住みつなぐ“次世代”を深掘りする
『高経年マンション、未来をつなぐ次世代とは!?(前編)』では、今の日本では、区分所有者の7割超が50代後半から70代半までの “ベビーブーマー世代”であると申し上げた。また、この世代の価値観や行動特徴について整理した。
そして、マンションの高齢化問題は単に経年だけの問題ではなく、人と建物の“生きる時間の差”が問題を増幅させてしまっているのではないか、と指摘した。この差を補うことこそが、マンションを次世代につなぐことであり、マンションの高齢化問題の解決策を考える上での重要なひとつになるのではないだろうか。
後編にあたる本コラムでは、“住みつなぐ次世代”とはどんな年代で、どんな価値観や行動特性を持っているのかを整理するところからスタートする。彼らが気に入るマンションにするためにはどうしたらよいかを考えながら読んでくれれば幸いだ。
住みつなぐ次世代「ミレニアル世代」を考察
国土交通省の『令和3年住宅市場報告書』によれば、新築分譲マンションの一次取得者(世帯主)の購入時の平均年齢は39.5歳。中古マンションでは43.6歳だ。
着目すべきはこの平均年齢もさることながら、新築マンションの場合、全体の約60%のボリュームゾーンが30歳代以下(20代7%・30代50.5%)であるという点。40歳代も含めると、新築も中古も、なんと約80%がこの年代になり、まさにここが住みつなぐ次世代のボリュームゾーンということになる。
このボリュームゾーンのほとんどが、ミレニアル世代。1980年から1990年代に生まれた20代後半から40歳前半のことを指し「Y世代」、日本では「ゆとり・さとり世代」ともいわれている。
ちなみに「ミレニアル」とは、1000年代から2000年代の境目に社会人になった新世紀(new millennium)の世代から取った命名だ。
ミレニアル世代の生い立ちや価値観は?
さて、この世代の生い立ちや特性とはどんなものだろう。
ベビーブーマー世代は、私もそうであったが、社会人になりたての頃、まずはワープロで人差し指1本からスタートし、苦労しながら両手の指でキーボードが打てるようになり、そのうちなんとかWindowsで表計算やパワーポイントを習得していった世代だ。
一方、10代から20代前半にあたるZ世代は、身の回りにITが当たり前にあり、それらを生活インフラとして認識しながら育ってきた「デジタルネイティブ」世代。これら2つの世代の中間にあたるミレニアル世代は、ITの進化を肌で感じて育ってきた「デジタルパイオニア」であり、ITにおける技術進化と共に歩んできた世代といえる。
標準管理規約第49条の電磁的方法が可能な場合のコメントに「磁気ディスク」「磁気テープ」と古めかしい単語が記されている。1950年代の磁気テープや1970年代のフロッピーディスクが広く使われていた時には、ミレニアル世代はまだ生まれていない。つまり、これらは彼らにとってはあまり馴染みのない単語なのである。ミレニアル世代は、クラウドにアップして保管するのが自然な世代ということだ。
そんな彼らの親世代は、ベビーブーマー世代である。彼らは、親世代が憧れた車や時計、ブランド品など、高価なものへの所有欲が低く、これは若者の車離れ現象と一致する。
一方で、自分自身の経験に価値を見出す特徴がある。自分の時間や家族との時間を大切にする。モノよりもコトが大切であり、他者との共感を大切にする。そして、親世代のように「努力は必ず報われる」などとは思っておらず、「最低限の生活が送れれば良い」と考えている(さとり世代)。だから「モーレツ」に働くのではなく、ゆとりを求める。
(ベビーブーマー世代の行動特性等は、『高経年マンション 未来をつなぐ次世代とは!?(前編)』を参照のこと)
また、ミレニアル世代は、本質的な価値を判断する合理性を持っているともいわれている。質素倹約ではない「本当に必要なこと」に金を使う。モノではなくコトに本質を見出す彼らにとっては、モノの所有価値ではなく、コトの利用価値を優先するということになる。
彼らの育ってきた経済環境は、ベビーブーマー世代とは真逆だ。日本の平均年収が470万円程度(1991年)から430万円程度(2018年)へと低下する環境下で育ってきた。だから、利用価値についてのシビアな目を持ち、また温暖化問題などさまざまな社会問題への関心も強いといわれている。
低年収時代とはいっても、高額なマンションを購入できる者の世帯年収は、新築が912万円、中古が745万円と高い(国土交通省_平成3年住宅市場報告書より)。教育レベルが高く、また厳しい経済環境下でも、ダブルインカムなどで高い世帯年収を確保した若き成功者たちといえる。
ミレニアル世代の行動特徴を探る
興味深い、こんなデータがある。新規分譲マンションではあるが、ミレニアル世代がマンションを購入する際に参考にした媒体はなにかと調査した結果だ。
【ミレニアル世代がマンションの購入の際に参考にした媒体】
1位 Twitter 70.3%
2位 YouTube 56.4%
3位 TikTok 50.5%
4位以下もInstagram・ブログ・クチコミサイトとSNS系が並ぶ。(複数回答)
株式会社スタイルポートの「マンション購入者の行動変容」の調査結果より
ベビーブーマー世代は、新聞広告やチラシ、または情報誌から売主が発信した情報を集め比較検討していた。一方、ミレニアル世代は体験者の生の声も含めネット上からの情報を集め、参考にしている。また、購入の最終決定時には、ほとんどがマンションギャラリーに足を運び確かめているという。デジタルと現実とを的確に使い分けし、第三者の声も参考にしながら購入を決定するという行動特徴がある。つくづく、この世代のクールな賢さには感心してしまう。
マンション管理に関わる問題、例えば人と建物の2つの老い、管理不全、管理組合運営の大変さなどの情報は、ネット上にたくさんあふれている。デジタルパイオニアであり、また社会問題にも敏感な彼らは、それらを十分に調べ、理解した上で、購入を検討することになる。
新築マンションなら、問題が生じないような配慮がなされているか、中古マンションなら、健全な管理状態に置かれているのかなどといった点が、彼らにとっては重要なポイントとなるだろう。
ミレニアル世代のマンション管理はどうなる!?
さて、マンションの次世代を担うミレニアル世代のマンション管理に関わる行動特徴なのだが、私が調べた範囲では残念ながらまだ情報は見つからない。まだあまり手を付けられていない分野ということなのだろう。ここからは、私の仮説を展開してみよう。
そもそもマンションは高額な買い物だ。しかし、彼らの親世代であるベビーブーマーのように所有価値は追求しない。彼らは、自分の大切な財産として、例えば自分の老後資金も想定し、将来、金銭に換えられる流動性も大切にするだろう。所有し続ける価値よりも換金利用という利用価値に注目する。
家族との時間を大切にする彼らは、家族と過ごす家の住み心地という“モノ”ではない“コト”を追及する。だからこそ、住み心地に直結する「マンション管理」へのこだわりや関心は強いのではないだろうか。
また、彼らは、習慣や現状にこだわらず合理的で的確な解決策を探る力や総合的に理解する力がある。マンションにおけるさまざまな問題をネットを通じて知り尽くしている彼らからすれば、マンション管理には専門性が必要で、自分たちだけでできることには限界があると悟っているとも考えられる。マンション管理士など専門家の活用に関しても前向きな傾向があるだろう。
さらに、自分の時間や家族との時間を確保したいという欲求が強い彼らは、管理組合活動にプライベートな時間を割くことに抵抗がある。そこで、外部の専門家に管理者を依頼する、いわゆる「第三者管理者方式」を選択していくこともあり得るだろう。
一方、利用価値にこだわる彼らは、なんでもかんでも管理者任せにはせず、管理者とは別に外部専門家の監査機能を活用するなどしてしっかりと物事をチェックし、自分自身の損得のためのにらみを利かせることになるのだろう。そう考えると、彼らが、第三者管理者方式の成功のパターンを築いていくのかもしれない。
この数年、大手デベロッパーが第三者管理者方式で新築マンションの分譲を始めた。プロに任せられる・自分の時間を確保できる・そしてミレニアル世代にはチェックする自信がある の3つがそろって、売れゆきは上々と聞く。もちろん、信頼できる大手ブランドが売主で、その子会社の管理会社が管理者を行う構図に彼らは納得し評価もしているのだろうと思う。
大手デベロッパーが、ミレニアル世代の行動特性をマーケティング分析し、この思い切った戦略を実現したのだということなのだろうか。もしそうなのであれば、驚きだ。
ミレニアル世代は、中古マンションのどこを見て購入を決めるのか
マンションの高齢化問題について、次世代につなぐこと以外に解決方法はない。その次世代とは、ここまで説明してきたミレニアル世代だ。利用価値を重視し、自分の時間や家族との時間を大切にする。ネット上からさまざまな情報を得て、現実的な判断をする彼らだ。
新しく入居してきたこの世代にマンションの未来を託すにしても、今のボリュームゾーンであるベビーブーマー世代とはまったく違ったやり方、考え方で管理運営を進めていくことにはなるだろう。例えば、理事会に長時間を費やすのではなく、あらかじめ議案をメールで送り、ネット上のアンケートシステムで意見を集め、その確認のためにオンライン会議システムを活用し、短時間で効率的に理事会を行う。また、マンションへ求める価値として利用価値を重視し、その価値の維持向上のための議論も活発化するだろう。
そもそも、このミレニアル世代がマンションに住みついでくれなければ、将来の管理運営を担うこともない。彼らが中古マンションのどこを見て選ぶのかということを一番最初に考えなくてはならない。
情報化社会で育った彼らは、新築も中古もしっかり調べて購入を決定していく。立地が気に入り、価格が予算内であれば、新築が選ばれるのは仕方ないだろう。しかし中古マンションでも、管理が徹底されていれば十分購入対象になるだろう。
今、新築マンションは管理計画認定の予備認定を受けているものも少なくはない。購入時のローンなどの金利が有利になるからだ。当然ミレニアル世代も、自分に合ったマンションを探していくうちに管理計画認定制度のなんたるかを理解していくことになる。この制度は、ひとことでいえば、健全な管理状態を行政が認定する制度だ。
繰り返しになるが、彼らの購入目的は所有価値ではない、利用価値だ。健全な管理状態で豊かな日々を送ることが彼らにとっての利用価値なのだから、この制度の認定を取得したマンションかどうかは、大きな判断ポイントになることは間違いないだろう。
もちろん、清掃状況や自転車置き場の整理状態など、判断基準は他にもたくさんあると思う。マンションのイベントなどをYouTubeなどにアップして、コミュニティ活動を紹介しているマンションもあると聞く。とはいえ、未来につなぐ次世代を呼び込むための最初の一歩としてまず取り組むべきは、管理計画認定制度の取得だろう。
マンションの高齢化問題を解決する唯一の方法は、次世代に選ばれるマンションにすること。そのために何をするべきかを引き続き考えていきたい。