避難生活期を脱出、生活の“復興”へ

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避難生活期を脱出、生活の“復興”へ

災害関連死とは?

震災で瓦礫の下敷きになる、洪水に飲み込まれるなど、災害直後の物理的な被害で亡くなることを直接死という。一方、災害関連死(震災の場合は、震災関連死という)は、避難途中や避難生活期間中など、災害直後の物理的な被害ではないが、災害との因果関係が認められる要因で亡くなることをいう。

熊本地震での直接死は50名であったが、震災関連死は200名以上と、その差は4倍以上であることに注目してもらいたい。

発災期の次にやってくる避難生活期、そして復興期に向けてどんな心構えであるべきかを考えてみよう。

なぜ災害関連死は生じるのか?

災害発生後、住民の自治による避難所の開設・運営を目指し、行政も加わり避難所運営委員会などが立ち上げられる。現在は避難所運営マニュアルなどの作成も進めてられており、安心・安全な避難所の確保を目指す努力がされている。避難所での生活はストレスが多く、身体や心にさまざまな不調をきたすこともあり、それらを少しでも和らげるための努力は必要だ。

とはいえ異常事態の中での避難所は、満員で入れない、入れたとしても人が密集し、狭い、プライバシーがないなど、ストレス負荷が大きく、下記のような身体へのリスクがある。


① エコノミークラス症候群(長時間同じ姿勢でいることで足が圧迫され、血流が悪くなることで血栓が生じ、肺の静脈を詰まらせる病気)
② 栄養不足や食欲不振による衰弱死
③ 疲労による心不全
④ インフルエンザや肺炎、昨今では新型コロナの感染 など


エコノミークラス症候群は、避難所だけでなく車中泊でもなりやすい。

避難所で配給されるものは、おにぎりやパンなどの炭水化物が中心だ。ミネラルやビタミンの摂取のために野菜ジュースなどを水と同じように備えておくのも良いともいわれている。

食欲不振や脱水症状は、避難所のトイレ事情とも連動するようだ。避難所に水洗トイレがあったとしても、混み合っていたり、汚れているなどの状態から、なるべくトイレに行かないようにと食事や水をあまり口にしなくなるケースも多いという。

こういった避難生活が長引くほど、経済的な不安や孤独感のほか、家族の安否に気を揉むなど心労は絶えず、精神的にも追い込まれていく。

 

避難所のコミュニティとは?

防災マニュアルは、発災時に安全を確保する方法についてまとめている。避難所に行くか、自宅での避難生活をスタートするところまでをゴールに定めているケースも多い。もちろん、発災期には命を守る行動を取り怪我をしないことが “自助”の一番大切な部分である。

一方で、避難生活期は“共助”のあり方へと領域が広がる。



災害時には、行政の防災担当者も被災者となる。彼らは自分の家族の安否を気遣いながら、避難所の運営にも携わることになる。つまり、避難所は、行政が手取り足取りすべてをやってくれる場所ではない。基本的には、避難されて来たみなさんが地域の避難所運営委員会(多くは自治会など)やボランティアの方の手を借り、自主運営を行うことになると考えてほしい。

最低限の内容が定められた避難所の運営マニュアルをベースに、避難所コミュニティの中で分配のルールを定め、助け合うことになる。また、先に上げた避難所でのリスクから、誰かが守ってくれるのではなく、自らがリスクを回避し、また要支援者の手助けをすることが必要だ。

しかし、状況はどんどん変化し、そこにいる人も次々と入れ替わるのが避難所だ。そのとき、そこに居合わせた人々が協力し、助け合う必要があるため、あらかじめすべての状況を想像しておくことが難しい。だからこそ、避難所でまとめ役として苦労された方々の体験談が貴重なのはいうまでもない。

 

マンションで在宅避難するとは?

避難所に行かずマンション内で避難生活を送るメリットは大きい。もちろん旧耐震や大きく損壊していないということが大前提だが、木造の戸建てと比べれば有利なことも多い。

しかし、マンションにもウイークポイントはある。それは“高さ”だ。

停電ではエレベーターは動かない、ポンプが作動しなければ水を送り出すこともできない。東日本大震災では、長期間停電が続いただけでなく、受水槽が破壊され復旧まで数ヶ月かかったマンションもあった。

避難所に行くべきか、マンションで避難生活を送るべきか、迷うところだが、東日本大震災の際は、避難所は満員で入れず、車の中で寝泊まりするよりはよいだろうということで、揺れで散乱した家具を少しずつ片づけながら、停電・断水の中で、家族で身を寄せ合ってマンションで避難生活期を送った人も多かった。

避難所では、避難されて来たみなさんが、地域の避難所運営委員会(多くは自治会など)やボランティアの方の手を借り、自主運営を行うことになるが、マンションコミュニティでは、どんな運営になるのだろう。マンションの在宅避難では、住民同士での知恵の出し合いと共助が求められることになる。

災害時の助け合いは、“炊き出し”をイメージする人も多いかもしれないが、在宅避難の場合は買い置きの食糧で少なくとも2・3日は何とかなるだろう。一方で、高さというマンションの弱みを考えれば、上り下りが大変な高齢者や要支援者への配慮が必要となる。特に、トイレや水の確保は重要だ。排水管が破断しているのにトイレを使ってしまうと下階に汚水が漏れ出すこともある。避難生活期では、最低限のルールを守ることだけでなく、簡易トイレの支給や水を上階へ運ぶ手伝いなど、マンション全体で助け合うことになる。

そういう意味では、避難所のコミュニティと同じように共助を発揮する必要があるのだ。

 

防災の目的は、“生活復興”にある

防災の目的は、なんだろう。もちろん、災害死や被災関連死に至らないことが一番大切であることはいうまでもない。

発災から数週間が経過すると、社会インフラの復旧と共に生活復興を始めなくてはならない。自宅が損壊した、家具がすべて廃棄せざるを得ない状態になった、勤め先が被害を受け収入の目途が立たなくなったなどで、生活復興を進めることが困難なケースは、決して珍しくない。

発災期に怪我をせず、身体も心も元気に避難生活期を乗り越え、元の生活を取り戻すための生活復興に全力で歩みだす。それが、“防災の目的”ということではないだろうか?

洪水でも、震災でも、大きな被害に至れば、家や家財また職場などの生活基盤を失うことになりかねない。生活復興のためには、極めて大きな経済的な負担が付いて回ることになる。国からの支援金といった各種補助金制度を確認するのはもちろんだが、家財保険に地震保険などを付帯させておくだけで、生活を復興させる原資にもなりうる。

管理組合が地震保険に入っておくだけで、マンションの改修や復興は極めて進めやすくなる。改修資金がなければ、管理組合でスムーズに方針を定めることができないからだ。実際に熊本地震では、地震保険に入っていたかどうかで大きな差があった。

また、仮にマンションを解体せざるを得ない状態になったとしても、保険金は資金使途を問われないので、持ち分で按分し区分所有者に分配することも可能になる。

ローンが残っているならなおのこと、災害発生時に経済的に途方にくれてしまうことのないように策を備えておくのも、立派な生活復興につながる防災ということになる。

管理組合では、区分所有者の名簿はもちろん緊急連絡先を確実に入手しておくべきだろう。復興の工事のための決議だけではなく、解体せざるを得なくなったような場合、被災マンション法では4/5以上の特別決議で解体決議を行うことになる。また、公費解体(行政が無償で解体を行う制度で発災から1年の期限がある)を利用する場合は、建物や家財の放棄を区分所有者の全員が同意しなければならない。

区分所有者に連絡が取れず、また探し当てるまでに時間切れとなり、結局、自主解体となり高額な解体費用を管理組合が負担するはめになってしまっては、泣きっ面に蜂ということになりかねないのだ。

災害を期間分けすると、発災期・避難生活期・復興期の3つの期になる。復興期とは、生活の復興を進める期間ということだが、ここをどうしたらうまく乗り切れるのかが、防災の大切なところではなかろうか。

また、防災には、自助・共助・公助の3つの助がある。自ら命を守るための自助はもちろん大切だが、マンションは共同生活の場である以上、“共助”というよりは※、正確には顔見知りの隣人関係ないしは共同の所有者の関係であり、マンションのコミュニティ力は、防災には欠かせないということがいえるだろう。

※“共助”というよりはの解説
共助とは、知らない人同士も含め助け合うという意味。
一方、マンションコミュニティの中では、顔見知りのお隣さん、または区分所有している共同の所有者同士であるため、一般的に使われる“共助”の関係とは正確には異なるものと筆者は考える。

丸山 肇
執筆者丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

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