マンションのゴミ問題を考える

コミュニティサステナビリティ
マンションのゴミ問題を考える

ラウンジは夢の空間、ゴミ置き場は現実の空間

左は新築マンションのラウンジ、右は新築マンションでの引っ越し時のごみ置き場の様子である。

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新築マンションを購入し、新居に引っ越す。夢の広がる時間である。

きれいな外観、美しいエントランス、落ち着いたラウンジ・・・
「部屋のカーテンは何色にしようか」「家具は木目調がいいか、モノトーンか」
こんな心が躍る出来事など一生のうちにそう何度もある話ではない。

そこに水を差すつもりはないのだが──夢の反対側には現実がある。どんなにきれいな部屋からも生活している限りゴミは出る。

入居後は、「ゴミの分別はきちんとしましょう」「生活音に注意してください」等の注意を促すマンション内の掲示などにより、すぐに現実と向き合うことになる。

また、入居してしばらくすると「管理組合設立総会のご案内」が届くだろう。そこで誰かが何でもやってくれるホテルライクな生活などはなく、管理組合活動により区分所有者自らが意思決定していかなければならないことを思い知る。

マンションの管理とは現実と向き合うことなのかもしれない。
 

年度末(3月)のゴミ置き場の惨状

マンションに入居してまず初めに現実と向き合うことになるのが、ゴミ置き場だろう。ゴミ置き場は、年末年始、年度末(3月)、ゴールデンウイーク、お盆シーズンにあふれかえる。それぞれにあふれる要因はある。
・年末年始、ゴールデンウイーク・・ゴミの回収が減る、不在者による指定日以外のゴミ出し
・お盆シーズン・・上記に加えて夏季の高温多湿による腐敗臭の発生
・年度末(3月)・・引っ越しゴミと家庭ゴミの混在

今回は、年度末(3月)の引っ越しゴミに注目してみよう。
 

新築マンションの引っ越しゴミ

引っ越しの荷物はエントランスから搬入する。エントランスは1カ所か2カ所だ。トラックの駐車スペースなどを考慮すると1日4件、最大でも5件の引っ越しが限界である。毎日最大数の引っ越しをしたとしても100戸のマンションの引っ越しが完了するまでに20日間かかる計算となる。実際は1カ月以上、毎日数件の引っ越しが続くことになる。

引っ越しに伴い、段ボール箱がゴミとして排出される。引っ越しに使用したものだけでなく、新しい家具や家電製品の荷造り、購入した日用品の荷造りなどに使われるものも多い。これが1カ月以上にわたり、ゴミ置き場に搬出されるのだ。

マンションのゴミ置き場の広さは、住戸数に応じて決まる。この計算は家庭ゴミの量を想定している。つまり引っ越しゴミの量は算入されていない。あふれかえりの原因はまさにこの引っ越しゴミである。

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写真 段ボールゴミ

筆者が写真のマンションを訪問した日は資源ゴミの回収日であった。

段ボール箱が回収されるはずであったが、収集車の運転手はこの段ボールの量を見るなり、そのまま通過してしまった。この量を運ぶとトラックの最大積載量を超えてしまうのだろう。再度収集車が回収に来たが、収集車の作業員、搬出に立ち会う管理員ともに予定外の業務となった。

どこでも起きる年度末の迷惑ゴミ

新築マンションに限らず、年度末にはこの引っ越しゴミによるあふれかえりが起きる。

さらに、新しい居住者が他の市区町村から入居してきた場合、分別がされていない「迷惑ゴミ」が増加することがある。ゴミの分別方法は行政により異なるため、分別方法が違うことに気が付かずに前に住んでいた地域の分別方法のまま出されてしまうことがその原因と考えられる。

各地方自治体は正しく分別されていないゴミは回収しない。そのまま放置され「迷惑ゴミ」と化す。本人はルールにのっとり、きちんと分別したつもりでいるのだから、迷惑ゴミになっているとは気が付かない。新しい居住者が新しい分別に慣れるまでの間、ゴミ置き場は混乱した状態が続く。

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写真 天井まで届くゴミ

あふれないゴミ置き場をつくる

例えば、行政のゴミの分別が「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」「資源ゴミ」であったとしよう。ゴミ置き場には、これよりさらに細分化して場所を指定するとよい。

「資源ゴミ」の置き場として指定するのではなく、「段ボール」「古紙」「布類」に分けて指定する。
「燃えないゴミ」の置き場として指定するのではなく、「乾電池」「陶器類」に分けて指定する。同じ形状のゴミを同じ場所に置くことにより、全体の収容力が大きくなるほか、分別の間違いやゴミの混在を防止することができる。

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写真 ゴミ置き場レイアウト

写真にある指定場所の表示は、A4のコピー用紙をラミネート加工したものを使用している。裏面に養生テープなどで壁に貼り付けることにより、容易に指定場所を変更することができる。

特定のゴミが多くなるようであれば、比較的少量と指定場所を狭くすることによって置き場を確保することが可能となる。

ゴミを置く場所を指定する表示は「視認性」が高いと効果が上がる。白地に黒文字の表示は目に入りにくい。例えば、燃えるゴミは火を連想される赤、資源ゴミは森を連想させる緑を使用し、大きな文字で書くことが必要だ。写真のゴミ置き場もこうした色と文字の大きさにこだわった表示にしている。

こうしたノウハウは管理会社がもっている場合が多い。ただし、細分化するほど分別に手間がかかるという不満を述べる居住者もいるだろう。管理組合でよく協議して居住者の理解を得ながら実施する必要がある。

駅のトイレなどに「いつもきれいに利用していただきありがとうございます」という表示がある。これは、「きれいに利用してください」というより効果的だと聞く。また、きれいな場所は汚さないようにしようとする心理が働くそうだ。マンションのゴミ置き場も同様のことが言えるのではないか。
 

ゴミを出すとき、出してから

環境の観点ばかりでなく、ゴミは他の居住者やマンションで働く人にも影響を及ぼしている。

共用廊下やエレベーターの床にある「しみ」は、生ゴミを出すときにゴミ袋から滴り落ちた汁(水分)であることが多い。床が石材であったりすると、このしみは落ちなくなることもある。ゴミ袋の下部に新聞紙や吸水性の高い紙を1枚敷くだけで、汁が垂れることを防止することができる。

マンションの管理員の労災はゴミ置き場で多く発生している。捨てられた焼き鳥の串で手のひらを突き刺したなどの報告もある。こうした突起物は、ゴミ袋の口を縛っていても突き出てくる。さらにコロナ禍においては使用済みのマスクが入ったゴミ袋を触るのが怖いといった声もある。例えば突起物の先端は折ってからゴミ袋に入れる、マスクなどの衛生用品は別の紙でくるむ、等のちょっとした工夫がされるだけで、こうした問題は解決できる。

ゴミの3R、SDGsなど、地球環境に関する報道がさかんにされるようになっている。もはや環境問題に取り組まない企業は生き残れない。マンションの居住者も多くが企業人だ。仕事などを通じてその重要性を認識してはいても、家庭における取り組みには個人差が大きいように感じる。

社会全体、企業、個人と単位が小さくなるにつれて、その影響は小さくなると感じ「自分がこの程度やったとしても変わらない」という意識が働くからだろう。

マンションのゴミは地球環境という大きな単位ばかりではなく、そこで生活する住民、そこで働く管理員やゴミの回収業者など、身の回りの人々に真っ先に影響すると考えれば、地球環境よりもう少し身近な視点で、自分でできる取り組みを見つけることができるかもしれない。

久保 依子
執筆者久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

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