マンション管理には、次々とさまざまな問題が浮上し、そして、多くが解決できないまま積み上がっていく。最近は、どんな問題が浮上して来たのだろう。高経年マンションの管理不全化や理事のなり手不足、また少し時間をおいて、修繕工事で暗躍する悪質なコンサルタントの存在が取り上げられた。その少し前には、標準管理規約からコミュニティ条項が削除され、改めてマンションのコミュニティとはどうあるべきかを考える必要性も生まれた。10人に1人が認知症という時代に、マンションコミュニティとしてどう関わるべきかの議論も巻き起こった。管理組合の資金にスポットを当てれば、度重なる火災保険料の値上げや消費税の引き上げが、管理組合収支に大きな影響を与え、単年度赤字に至ってしまった管理組合も増えてきている。この10年程度で浮上してきた問題は、挙げればきりがない。
今度はこちら、次はあちらと、さまざまな相談事を受ける機会は多い。理屈では、問題の原因やその影響を除去することで大概のことは解決できるはずだが、それができないから、いろいろな人の話を聞き、相談したいということになる。住民の高齢化が進み、理事のなり手がいないならば、“第三者管理”を検討すればよい。支出を限界まで絞り込んでも管理費収支が赤字になってしまうようなら、管理費等を値上げすればよい。これらは“影響”を除去する策だ。耐震診断ができていないことが問題なら、診断を行うという行動に移せばよい。こちらは、“原因の除去”ということだろう。そしてこれから出てきそうな相談事は、管理計画認定制度※に関する相談かもしれない。単純な例を挙げれば、「制度ができたのを知ったが、認定のためには長期修繕計画の作成などが必要で、費用もかかる、さてどうすればよいか」などだ。もちろん、管理組合員への制度の説明や長期修繕計画の作成に関しては専門家のフォローが必要となってくるが、まずは“必要な予算”を捻出し“認定を受ける”と総会で意志を固めることが最初の一歩になる。そのまま「総会で決めればよい」などと答えていては、わかっていても行動に移せずに困っている人からすれば、なんの足しにもならない。“なぜ行動に移せないのか”というところに触れていかなければ意味はない。※管理計画認定制度 「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」が改正され、「マンション管理計画認定制度」が創設された(令和4年4月より)。マンションの管理計画が一定の基準を満たす場合に適切な管理計画を持つマンションとして認定を受けることができる制度。関連コラム: >マンション救済の制度になるか?―管理計画認定制度>管理組合よ、覚醒せよ!認定制度が社会を変える
国土交通省が「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」 (令和3年9月28日)を発表した。その中に、以下の一文がある。「マンションの管理の主体は、マンションの区分所有者等で構成される管理組合であり、管理組合は、区分所有者等の意見が十分に反映されるよう、また、長期的な見通しを持って、適正な運営を行うことが必要である。」平たく言えば、「管理の主体は管理組合自身。みんなの意見を反映させ、また長期的な視点を共有して運営していこう」ということだ。“誰が”という主格は、揺るぎなく管理組合だ。「みんなの意見を反映させる」とは、“どのように”運営すべきかというやり方・進め方に対しての真摯な態度を指すのだろう。総会の場で「なにか質問や意見はありませんか?」と尋ねても反映したことにはならない。情報を開示し透明性ある運営を行い、総会に向けては、みんなが適切な判断ができるように事前に十分な資料を整備するなど、説明責任を果たすという真摯さだ。「みんなが意見を言いやすく、また反映できる環境を作る」それが、理事長等の役割ということだ。そして、「長期的な視点を共有する」とは、マンションとしての将来ビジョンを管理組合全体で共有することである。ビジョンという“目指すべき状態”(=目標)がはっきりすれば、判断基準も管理組合全体で共有できるという意味なのだろう。“なぜ行動に移せないのか”に触れるとは、誰が・どのように、そして“目標”はなにかを一緒に考えるということなのではないだろうか。
マンションはすでに社会資産そのもの。社会全体とのつながりの中で、マンションの持続可能性を考えていく必要がある。それが、“目指すべき状態”(=目標)ではないだろうか。修繕をし続けるだけでは、マンションの持続可能性は確保はできない。時代や環境の変化にあわせ、住みつなぐ新しい世代のニーズにも応えながら、建物自体のリノベーションを行う必要がある。将来にも通用する住生活環境を創り上げることが、マンションの持続可能性であり、マンション管理の“目指すべき状態”なのだと思う。例えば、近い将来、電気自動車が新たなスタンダードとなっていく。マンションの駐車場にEV(電気自動車充電)スタンドがあるかないかは、住みつなぐ新しい世代にとっては大きな選択基準にもなりそうだ。将来にも通用する住生活環境を創り上げることができなければ、住宅が余りまた人口減が進む日本の社会においては、やがて人が住まない建物になって放置されることになるのだ。しかし、住生活環境を創り出すための費用の捻出が、管理組合や区分所有者にとって経済的に困難な場合も多いだろう。また、修繕やリノベーションを行い続けるコストと、そのコストをかけて得られる建物価値を比較した場合、かけるコストの方がはるかに上回ってしまう場合もありえるだろう。マンションの立地や建物自体のポテンシャルによっては、そんな残念なシミュレーションになってしまうことも珍しくない。見極めはものすごく難しいが、そのような場合は、今の建物を取り壊して敷地を別の形で再利用するという考え方もありえるだろう。マンションが社会全体の資産と考えるなら、再利用という選択肢も立派な持続可能性の実現ということになりえる。具体的には、マンションを建替える、敷地をマンションメーカーに売却して新築マンションを分譲してもらう、またはマンション以外のより活用性の高い建造物に生まれ変わらせるということだ。修繕がなされないままに、また取壊しもぜず、敷地を別の形で再利用する手当てもせずに“放置される”とどうなるのだろうか?そもそも、意図的に放置したのではなく、高齢化や経済的な事情により、結果そうなってしまったという言い方が正しいのだろうが、地域社会にとっては、防犯・防災・安全などの負の要素にしかならないだろう。それが持続可能性が終えるということなのだ。あなたのマンションでも、10年後20年後に直面するかもしれない問題なのだ。“誰が”という主格、“どのように”運営していくべきか、そして持続可能性という“目指すべき状態”、この3つを押さえておけば、解決のための行動を起こせるのではないだろうか。
マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。
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