適正化法は消費者保護の法律?
自己名義の通帳で管理組合の修繕積立金を管理していた管理会社が倒産し、組合員の大切なお金が消えてしまう事件があった。「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(以下、適正化法という)が、平成12年に制定された背景にはこんなこともあったようだ。
適正化法では、管理組合の会計業務等を行う管理会社に対して、さまざまな規制やルールが定められている。しかし、それだけでは「マンション管理」ではなく、「管理委託業務の適正化」の法律となってしまう。
ご存じの通り、マンション管理は奥が深い。マンション管理の専門性を補完し支援する制度も重要だ。委託・受託の関係にある管理会社とは別に、管理組合を専門家の立場から支援する制度、いわゆる「マンション管理士」もこの適正化法によって定められた。
しかし、マンション管理の主役は、まぎれもなく管理組合や区分所有者に違いない。その主役が意志を持って物事を決め行動に移さない限り、「適正なマンション管理」が実現するわけはない。「自主性」を法律で定めることができないことも確かだ。適正化法第4条※で「管理組合は、マンション管理適正化指針(以下、適正化指針という)の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するように努めよう」と努力義務として規定するのが精一杯なのかもしれない。
※2020年改正前の適正化法の第4条となります
管理会社は契約に基づいたことしかしない。いや、できない。ましてや、主役が意志を持たないのなら、せっかくのマンション管理士制度があっても支援を求めることもしないだろう。適正化法が、マンション管理士制度や管理会社への規制やルールを設けただけの単に管理組合という消費者を保護するための法律と認識され、主役の意志の不存在を意識しないまま約20年が経過してしまったことも事実だといえるのだろう。
管理組合よ、覚醒せよ!
2020年、適正化法が遂に改正された。その改正の目玉は「管理計画認定制度」である。「認定」といっても、一言で言えば管理組合の運営状態を結果において評価することになる制度だ。評価とは、「価値の認定」に他ならない。一消費者として保護されてきた管理組合に対し、所有者としての“責任”を持てと突きつけた制度と言っても過言ではない。
主役である管理組合が自主性を持って事にあたらなければ、“適正な管理”への道は開かない。それは、当然のこととして、適正に管理がなされないことによる、さまざまな社会的影響もある。住まう人と建物の老いは着実に進行している。少子化により住まいをつぐべき人が減る。空き家や管理不全マンションが増加し建物が放置されていけば、防犯・防災・衛生、建物の崩落などによる危険など、環境面で地域社会に暗い影を落とすことになる。ひいては地域の経済にも影響を与えることにもなる。適正な管理が行われないことは、社会や地域の持続可能性が途絶える序章といえるのだ。
持続可能性を生み出すための方策のひとつとして、中古流通市場を活性化させることが必要である。個々のマンションの情報が正しく提供され公正な取引がなされるなら、若い世代が、その情報を信頼し、安心して中古マンションを購入することができる。持続可能性とは、次世代につなげられるマンションかどうかということになる。
「マンションは管理を買え」とはよく言われる話だが、今までマンションの管理状態はブラックボックスに近く、流通価格と正しく連動されてきたとは言い難い。管理状態のブラックボックスの“見える化”が、改正適正化法に盛り込まれた「管理計画認定制度」といえる。次世代につなげられるマンションと、そうでないマンションの選別の踏み絵のような制度なのだ。こんな踏み絵を嫌う人もいるかもしれないが、私は、努力が報われない方が問題だと考えているし、ブラックボックスの中古市場のままでは、これから日本の住まいそのものがどうなっていくのか不安でしかたがない。
米国と新築・中古の購入比率を比較してみよう。米国は82%が中古。日本では、86%が新築で中古購入は14%に過ぎない。(2018年国土交通省資料より)つなぐべき若い世代が新築に憧れて購入するが、中古購入者はほんの一握りに留まっている。都心部の希少な立地にある中古マンションは別にしても、中古マンションの多くは、新築購入時の価格の1/2やそれ以下ということもざらにある。需要と供給の関係で言えば、中古マンションの需要が過分に低下してしまっているのが日本の市場といえるのかもしれないのだ。次世代につなげるために、日本中のすべてのマンションが健全さの獲得のために自主性を発揮し、またその「見える化」がなされたなら、日本の中古マンションの購入比率は、米国のように高まるかもしれない。それが、持続可能性をもたらす社会環境といえるのだろう。
この管理計画認定制度をきっかけにして、「管理組合よ覚醒せよ!」と声を大にして言っているのは、そんな理由があるからだ。
認定基準とは
評価基準は国土交通省が検討会を設置し策定中だ(2021年3月17日現在)。公式発表後にあらためて目を通し整理していこうと思うが、実はすでに認定基準でいう認定項目に類するものは存在している。それが、適正化法第4条にある、「管理組合は、マンション管理適正化指針の定めるところに留意して~」とある“適正化指針”だ。マンション管理のあるべき姿を示すバイブルと言ってもいいのが、この「指針」というわけだ。
※適正化指針も合わせて改正される予定で検討会で話し合われています。国や地方自治体の役割がさらに追記され、住生活基本法との連動も謳われます。また、別表として「行政などが管理組合等に対し勧告等を行う基準」・「管理計画認定の基準」が追加される予定です。
さて、この認定が、恣意的に変えることができる、あるいは意図せずとも認定者によって結果が異なるようでは、たまったものではない。認定とは、認定項目とそれを測る正確な物差しで、正しく公正に行わなければならない。具体的な物差しや誰がどんな手続きで測定するかは、今後の検討会の結果を待つことにして、今後の正しい理解のためにも現時点の適正化指針に埋め込まれた認定項目をあらかじめ確認をしておくべきと考える。
もちろん、この指針も検討会にて追加修正が加えられるが、ある日突然、これまで考えられていたマンション管理のあるべき姿が180度見直されるようなことはないだろう。
マンション管理の評価基準はこれだけではない
他にもマンション管理の評価基準は存在する。
日新火災海上保険のマンションドクター保険の際に行う「マンション管理適正化診断サービス」もそうだろう。メンテナンス状態の診断結果に基づき火災保険料が安くなるというインセンティブがある保険だ。
また、マンション管理業社の団体であるマンション管理業協会も、「マンション管理適正評価制度」の2022年立ち上げを目指している。
建物や設備の維持管理と管理組合運営などハードとソフトの両面から評価し、ランク化し、誰の目にもわかりやすくしたものとするらしい。リセールバリューや保険料、融資時の評価などに有利となるように期待値を込めてとのことだ。
いずれにしろ、これらは「指針」にあるマンション管理のあるべき姿をトレースし、物差しを添えて数値化するなど、「見える化」を試みたものといっても良いだろう。
適正化指針はマンション管理のバイブルになりえる
指針は、適正化法という法律の考え方のコンセプトではあるが、法律ではない。とはいえ、言い回しが法律の条文のようで一般にはなじみにくく、あまり読まれてこなかったというのも実情だろう。そういう私も、セミナーなどでもあまり取り上げてはこなかった。
しかし、「管理計画認定制度」を考えていくうちに、それは大変もったいない話でもあり、本来であれば、指針が管理組合の運営上のバイブルになっていてもおかしくないと、思うようになった。
主体である管理組合や区分所有者にとって、わかりやすく、そして少しでもスポットライトが当たるように適正化指針が改正された後に、「わかりやすい版」を作成し、みなさんにお届けしようと思う。